暴君悟飯。
ハイハイができるようになってからというもの、とにかく飽くなき好奇心のまま思いのまま突進していろんなところにぶつかって大泣きしてみたり、おもちゃ箱をひっくり返してそのおもちゃの中に埋もれて身動き取れなくなってみたりと、とにかくいろんなことを毎日毎日やらかしてくれる。
この間なんか、なんだかやけに静かだなと不思議に思って何をしてるのか窺い見てみたところ、どこから見つけ出したのか、ハサミを手に持ち自分の髪の毛をざっくばらんに切り落としていた………。

修行から帰ってきた悟空がみょうちきりんな髪型になった悟飯を見て大笑いして、そんな父親につられるように悟飯がきゃこきゃこ笑ったりしてるのなんかは、まあ、微妙ながらも胸が温かくなったりするのだが。



ほんっと、毎日予想もしないことしてくれちゃって、ハラハラドキドキの連続だなぁ……。



夜半過ぎ、やっと眠ってくださった我が家の王様のしでかしたあれこれを振り返り、ちょっと笑ってそんなことを思ってから、本日の所業の痕跡を片付けるべくは立ち上がった。

とっ散らかったおもちゃを整理したり、出しっぱなしの絵本をかき集めたり、くるくると動き回っているの姿を目で追っていると、自然に笑顔になってしまう悟空。



「手伝うぞ?」

「ん? いいよいいよ、もう終わりだし」



小さな背中に言葉をかければ、おもちゃ箱のふたを閉めて絵本をトントンと揃えながらにっこり笑って「ありがとう」と振り返るの笑顔。
それはもう、何回見たって見慣れてたって。



「…………おめえ、可愛いよなぁ」

「………は? ぇ? え///」



ニヘラ、と笑って思ったままを言葉にすれば、一瞬キョトンとしてから、真っ赤になる
こっちはこっちで直球ストレートの悟空に毎回ストライクを取られてしまう。耳まで鮮やかに染め上げながらあたふたと絵本を本棚に戻しているの様子から察するに、今回もまた、悟空にやられてしまったらしい。



「急になに言い出すかな、もう」



照れ隠しに小さく呟きながら、「お皿、洗わなきゃ」と逃げるようにキッチンに移動するの後ろから、悟空の無邪気な声が追ってきた。



「急じゃねえぞ。オラ、いつもそう思ってんだから」





May I touch you ?







悟空と暮らすようになって、早二年。

その間、起き抜けのボケた顔とかブスッくれた顔とか泣き顔とか怒った顔とか……とにかく、これでもかってほど感情のままの顔を悟空の前でさらしちゃって。
あまつさえ、子供まで出産して一児の母となり、家事に育児にてんてこまいで可愛く見せようとする時間が殆どなくなった自分に対しての、悟空の『可愛いな』発言。



気恥ずかしくて照れくさいけれど……。
最愛のダンナ様からのその褒め言葉に、意図せず頬っぺたがふにゃんと緩む。




「可愛い………かぁ。うふふふふ〜♪」




にまにま笑いながら最後の一枚のお皿を洗い終わったとき。





「嬉しそうだな、

「ふぎゃ! ご、悟空!?」




突然、後ろからするりと腕が回ってきたと思ったら、その腕がきゅっとウエストの前で組み合わされて、はまぬけな悲鳴をあげた。
悟空はといえば、そんな彼女の思ったとおりの反応が楽しいらしく、クスクス笑っていたりして。





「も〜〜〜、悟空さん! 気配殺して背後取るの、反則だって! 毎度毎度、心臓に悪いったらないよ」

「へへへ、毎度毎度、油断してるが悪ぃんだ」




してやられたのがなんだかちょっと悔しくて文句を言えば、悟空はさらりとこともなげに言葉を返し、さらに一言。



「オラはいつだって、おめえの隙を狙ってんだぞ」



まあ、別に狙わなくったって、はいつでも無防備で隙だらけで油断しまくっていて、背後を取ればいつでもそうやって驚いてくれるけれども。
夫を警戒する嫁なんて、そうそういないんだろうけれども。
妙に色気のある低い声で、そんな意味深なセリフを耳元で囁く悟空に、は反射的にその腕から抜け出した。



「なっなっなに!? なに言ってんの悟空さん!?」

「てゆうか、なんで逃げんだよ?」

「だってなんか今………空気の色が微妙に濃くなったような気が………」



うろうろと視線を彷徨わせながら染まった頬を隠すように両手で包むを見て、悟空はちょっと唇を尖らせた。



はオラに触られんの、いやか?」
「―――――――――はい?」



どこからそんな疑問が生まれたのかわけがわからず、きょとんと聞き返す
触れられるのが、いや・………って、なにを今更。
いやだったら結婚なんかしてないし、一緒に住んでないし、第一、悟飯が誕生していないだろう。



なぜか不服そうな悟空の瞳を見返して、ことりと首をかしげながら、は純粋に、そう、なんの警戒もなしに、思ったまま。



「いやじゃ、ないよ? 悟空あったかいし、ぎゅうってされると安心するし。だから、いやなんて思ったことないし、むしろ………って、いやいやいや! なんでもございませんです、はい!!!!」



全部言う前に、はたりと今この場を彩っている怪しく色濃い空気を思い出し、言葉を濁しまくる

本当は、悟空に触れてもらえたりぎゅうされたりするのは、嬉しかったりする、というかものすごく嬉しいのだ。
けれども、ここで「悟空に触れてもらえるのは嬉しいわv」などと言ってしまったら………どうぞ襲ってくださいって言ってるようなもんじゃあないだろうか。いわゆる「据え膳」というものに値するのではなかろうか。つまるところ………ものっすごくエッチいヤツみたいに思われるかも!
だからここは、幾度となくやっちゃっている行為によりすでにバレていようとも、これ以上言っちゃいけない!



しばし心の内で葛藤し、そう答えを導き出したは、グッと唇を引き結ぶ。
しかして悟空はといえば、手に取るようにわかる彼女の表情の変化にクスリ、とひとつ笑みを溢し、いまだ視線を彷徨わせているをそれこそ疾風のごときすばやさで捕まえて抱きしめた。



「ひぇ…っ! ごごご悟空さん!?」

「むしろ……なんだ?」



抱きしめたまま先を促す悟空の甘い声が、頭の上から降ってくる。
いや、夫婦だしそういう営みを繰り返してたりする事実だってあるし子供だって授かってるし今更そんなに照れることもないだろうと思っても、でもやっぱり。
どうしよう、かなり恥ずかしい。



「むしろなんだよ、?」

「う〜〜〜〜〜〜、えと、ええとそのっ!」



すでに思考はいっぱいいっぱい。
うろたえすぎたのか、頭に酸素が回らずにくらくらする。
熱が出たように身体が熱いが、これは極度に恥ずかしいと思っているからであって。






うー、とか、あー、とかうなって悶えている自分の腕の中の存在の、なんと可愛らしいことか。
極度の恥ずかしがり屋っぷりも、すぐに赤くなるところも、いまだに健在で。
けれど、昔と違って今現在、が自分に触れられることをいやだと思ってないことなんて、聞かなくたってよぉくわかっているのだ。




これ以上困らせるのは可哀想かな、とも思うのだが、どうしても言わせたくなってしまう自分は、ちょっと意地悪なのだろうか。



でも、聞きたい。



の可愛い声で、言ってもらいたい。








「な、。聞かせてくれよ」

「………悟空の、いじめっ子」



ぎゅう、と自分の胸に額を押し付けているの顔を上げさせるため、片手でその顎を掬い上げる。
抵抗なく見上げてきたその瞳はウルウルと潤み、顔は発熱したかのように耳まで染まる鮮やかな紅。
軽く睨んだその表情さえ、とにかく可愛くてたまらない。



「はは、うん。オラ、意地悪だな。でも………聞きてえんだ。、オラに触られんの、いやじゃねえんだろ?」

「うん、いやじゃない、んだけど………んと、その………」



言いにくそうにもごもごと口ごもり、それから意を決したようにギュッと強く目をつぶった後、そうっと、窺い見るように潤んだ上目遣いで見上げてくるの瞳に、仕掛けた悟空の顔も赤くなる。



「あ、あのね! いやじゃないんだけどね! そ、その……悟空に触れられると、ちょっと緊張するっていうか……」

「緊張?」

「うん。どきどきが止まらなくなっちゃって、自分でも知らなかった自分が引っ張り出されちゃって、なんだか少し不安になって。あんなハシタナイわたしを悟空に見せたくない……みたいな」



ぼん、と噴火したかのごとくさらに真っ赤になり、「いやほんと、今更だって思うんだけどねlっ」と呟きながら、恥ずかしそうに目を逸らし。
それから慌てたように必死な瞳で悟空をひたと見つめる。



「でででも! 悟空がすきだから、だいすきだから。触れられるのはイヤじゃなくてむしろ……嬉しかったりするんです///」



ふわり、と。
言ってるうちに落ち着いたのか、はにかみ笑いながら零れた本音。



それからハタ、と我に返たように、バッと顔を両手で覆いブンブン頭を振り回しながら、「うわっ!言っちゃった言っちゃったよわたし! はははは恥ずかしいっ! 恥ずかしすぎる……っ!」なんて露出しているところを夕焼けに染まったように赤色に染めるだけれども。





悟空としてみれば、大変嬉しいことを聞かされたわけで。





だいすきだから触れられるのが嬉しい、なんて。
言ってもらいたくて追い詰めたのは自分であるにもかかわらず、これはが煽ってると取ってもいいんじゃないか、なんて都合よく解釈してから、悟空はいまだ頭を振っているをぎゅう、とひとつ力をこめて抱きしめる。





「悟、く……ちょっと、苦、し……・」

「―――――――――わかるか?」

「わかる?って、なにが??」





悟空の胸に押し付けられたままちょっと怪訝そうに問うの耳元に唇を寄せ、悟空はクスリ、と笑った。



「オラの、どきどき。聞こえっだろ?」

「っ///」



言葉を乗せた吐息が耳にかかり、ぴくり、と勝手に震えてしまう自分の躰を気恥ずかしく思っているに届く、少し早めな悟空の鼓動。
押し付けられている胸も、抱き寄せてくれる腕も、温かくて。
いっぱいいっぱいだった気持ちが、規則正しい心音とその温もりに、解けていくのがわかる。





「………うん。悟空、どきどきしてる」





安心したようにホンワカと笑い、自然に悟空の背中に腕を回す。
ぎゅう、と抱きついてみれば、悟空の鼓動がさっきよりも早くなったのを感じた。





「な? オラだって、おめえに触るのはちょっと緊張すんだ。すんげえドキドキするし、なんかいつものオラじゃなくなる気がして、余裕なんてまったくねえし」



いっつも暇さえあればベタベタくっついてくる悟空から出たその言葉に、は思わず「信じられません」というように目を真ん丸くして、悟空の顔を見上げてしまった。
その視線の先にあったのは、なんだか情けなさそうな悟空の表情で、ふう、とひとつ息なんか吐いて苦笑していて。



それから、自分を見ているの瞳を見つめ返してから、悟空はフッと、小さく笑った。



「でも……我慢できなくなる。触れたくて触れたくて、どうしようもなくなっちまう。がすきで、誰にも、悟飯にだって渡したくなくて、いつでも腕に閉じ込めておきたくなっちまう」






いつだって大切にしたいのに、ついついいじめたくなる。
優しい自分でいたいのに、時折むちゃくちゃにしてしまいたくなる。
彼女の笑顔を守りたいのに、彼女曰く「ハシタナイ」顔をたまらなく見たくなる。





すきだから、愛してるから。
は自分のものだって、の全部を知ってるのは自分だけだって、そんな独占欲に支配されて、狂わされてしまう。









甘い視線と、苦い笑み。
口元だけで一生懸命笑おうとしているときの悟空は、なんというか………色っぽくて。
周りに広がる危険な空気にいつだってなぜか、流されてしまうのは、きっと。






―――――――――だいすきな悟空が、わたしを求めていることがわかるから。
―――――――――だいすきな悟空になら、どんなわたしでも見せることができるから。






精一杯背伸びをして、ちょこっと、自分の唇で悟空の唇に触れてみた。
あまりに予想外だったのか、驚いたように漆黒の瞳を見開いて自分を見る悟空は、なんだかとても可愛くて。
は悟空の背中に回した腕で、その背中をあやすようにポンポンと叩いた。



「悟空、好きだよ。だいすきだよ。閉じ込めておかなくたって大丈夫。だってわたしは……もう、悟空に囚われちゃってるから。心も、躰も。ね/// だから、安心していいよ」






自分の気持ちをそのまま伝えるのその言葉は、飾りっ気もなにもないけれども、その素直すぎる声が、その柔らかい笑顔が、悟空の胸に広がっていく。
だいすきだって、囚われちゃってるって、それなら―――――――――オラだっておんなじだ。










、わかってっと思うけど………言っていいか?」

「ん?」



ことり、と首を傾げて不思議そうに自分を見るに、ニッと悪戯っぽい笑みを向けてから。



「おめえがだいすきだ。おめえ、可愛すぎ。そんでもって―――――――――オラを煽りすぎ」

「ぇ…え………///ええぇぇええ!?!?」



一拍遅れて、素っ頓狂な声を上げて。
それから必死な顔で悟空の腕から逃げ出そうとするを、逃がすもんかとグイッと抱き寄せる悟空。



「ち、ち、ちちちがうの悟空さんっ! あおっ、煽ったんじゃなくって!」

「今更だ、。逃がさねえぞ」

「や…やーーー! ううう、やめてその色気のある笑顔! ゾクッてなっちゃ……ってなななんんでもないっ!」

「………やっぱ煽ってんじゃねか」

「ち、ちがうちがいますっ! 口がちょっと滑って………ん!?」



潤みきった瞳で一生懸命イイワケをするを引き寄せて、その唇を自分の唇で塞いだ。
フワン、と、彼女の笑顔のように柔らかいその感触。
そのまま深く口付ければ、強く抵抗していた身体からいつものように力が抜けていく。







「………煽っててもそうじゃなくても、今日はオラ、おめえを襲う気満々だったからな。さ、行くか」



力の抜けたを抱き上げ、に、と笑った悟空の瞳にやどる、妙に色気のある煌き。
ああもう、この顔は、絶対絶対ぜ〜ったい。



「その顔、反則です、悟空さん///」



ホケ〜と、その笑顔に持っていかれてしまう自分は、なんだかとっても不甲斐ない、けど。
だけど、抵抗できない、逆らえない。
だってわたしは。



「でもさ……、オラのこの顔、イヤじゃないだろ?」



クスリ、自信たっぷりなその様子は、明らかに確信犯。
ちょっと悔しいけれど、実際問題、確かにこんな悟空も。



「大好き、で――――――――――――」
「ふえーーーーーーん!!! ふぎゃああぁあぁぁあ!!! うわあぁあああん!!!」








色のついた雰囲気を一瞬にして吹き飛ばす、豪快な泣き声。







「あっ、悟飯が起きちゃった! ごめん悟空、わたしちょっと行ってくる」

「ああ。……オラも行くよ」

「ふふふ、うん。ありがとう、パパv」











パパ、か。

思いっきり邪魔されて、ちょっと……いや、かなり、ガックリきたけれど。



「いい子ね〜、悟飯ちゃん。ほら、パパも来てくれたよ」

「あ〜、ばぶぅ」



に抱っこされてご機嫌になった悟飯が、自分のほうに小さな小さな手を精一杯伸ばして、まるで抱っこをせがんでいるような様子を見ると、ホワッと胸があったかくなる。



とふたりっきりの時間もほしいけれど、パパもそれほど悪くない。
そう思いながら、の腕から悟飯を抱き上げた。



「悟飯、もう夜だから寝なきゃだめだぞ〜? 朝んなったら、抱っこでも高い高いでもなんでもやってやっからな」



悟飯をあやしながら穏やかに声をかけると、わかってるんだかないんだか、悟飯はニコッとそれはもう可愛らしく笑って、それからうつらうつらとし始める。





「「可愛いな」」





いつの間にか笑顔になって、意図せず出た悟空の声に、その腕の中を覗き込んでいたの声が重なって。





「わたしたちって、親バカかな?」

「そうかもな。でもま、いいじゃねえか」





ふたりして顔を見合わせて、クスクス笑いあった、そんな穏やかに更けていく夜のお話。





















二周年記念アンケで一番だった、イチャコラ作品です。
い、いちゃこら…でしょうかねぇ、コレ;;;
とりあえず、、、こんなもんでごめんなさいっ!
そして祝☆二周年!ってことで…(^^;