彼女は一見、こっちが守ってあげたくなっちゃうような、華奢で可愛らしい女の子。
線も細いし、雰囲気だってふんわりしていて。
にっこりと微笑むその様は、清純な正統派美少女そのものだ。

でも、その柔らかい光を宿す瞳に炎が灯るとき。
彼女は超一流の武道家に大変身。
きりりと表情を引き締め、ふんわりとした雰囲気を完全に消し去った彼女に勝てる者は、地球上に存在する生命体のすべてを考慮しても、多分数えるくらいだろう。

強い武道家だってだけで世間が放っておかないのに。
しかもそれが女の子で、コレだけ顔がよかったらもう。

―――――――――スター性は、申し分ないと思われる。



「お土産屋さん、見てみたい!」

ついさっき天下一武道会準決勝進出を決めた彼女・が、試合までだいぶ時間があいていることを知ってそう言った。
は諸事情により異世界からやってきた女の子で、これまた諸事情により約一年間ほとんど天界で武道の修行をしていたため、こちらの世界の下界に降りたのは昨日が初めてだった。

本日、予選会場に行くときもキョロキョロと物珍しそうに好奇心いっぱいでメインストリートに軒を連ねるお店を眺めていたが、そのときは時間もあまりなかったのでじっくり見られなかったらしい。

「見てみたい」と目を輝かせているを見て。
こっちもこっちでついさっき自分の気持ちを打ち明けて、受け入れてもらえた悟空が。

「よし、行ってみっか!」



そんなわけで、二人して連れ立って天下一武道会のメインストリートに向かった。



そんな二人の後ろから、クリリン、ヤムチャ、そしてブルマがニヤニヤしながらこっそり尾行していることを、幸せいっぱい夢いっぱいな二人はまったく気づいていなかった。





              可愛い彼女






三年に一度の天下一武道会。
やっぱりお土産も、武道会に因んだものが多い。
たとえば、『武』の字の入ったTシャツとか、キーホルダーとか。

で、それには関係のない、子供をターゲットにしたおもちゃ屋さんもけっこう出ていて。


世界は違えども、お土産屋さんにおいてあるものはだいたい同じだな〜、と思いながら、は店頭に飾ってある土産物を楽しそうに眺めながら歩いていく。
ニコニコフワフワ嬉しそうに笑っているのとなりで、悟空はそんな彼女を「可愛いよな〜」と色ぼけ全開で見ながら頬を緩ませる。



「あ、ねぇ見て見て悟空!」


クイっと腕を引っぱられて。
そんな小さなしぐさにも、鼓動がひときわ高くなる。

衝動のままにその柔らかい手を握ってしまったら、はびっくりしたように振り返り、それまでの嬉しそうな顔を一転、戸惑うように視線をさまよわせ、真っ赤になってうつむいてしまって。



「あ……っと、悪ぃ」



イヤだったか、と少し淋しく思いながら離そうとした手を、逆にギュウ〜ッと握り返された。
予想外のことに驚いて、となりにいる頭ひとつ小さいを見下ろせば、そこには未だ鮮やかに頬を染め上げ、そうっと上目遣いに自分を見上げてくる澄んだ瞳。
視線が交わった瞬間、は照れたようにホワっと顔をほころばせた。



「えへへ/// わたしね、こうやって悟空と手を繋いで歩くの、夢だったんだ〜///」


恥ずかしそうにはにかみ笑うその笑顔はもう、悟空にとってはカメハメ波よりも数倍威力がある。
一瞬見惚れて、ボ〜っとその笑顔に見入ってしまう。可愛くて可愛くて、頬っぺたはもうゆるゆる緩みっぱなしだ。



繋いだ手から伝わってくる、「だいすき」
ただ手を繋いで歩くことが、こんなに素晴らしいことだったなんて。





幸せだな〜。





真っ赤な顔でニコニコ笑い合いながら歩く二人の胸の内は、まったく同じだった。





嬉しくて、楽しくて。
これから世紀の大バトルが始まることなんて、一時忘れていた時間。







「ほんと、見てるこっちが恥ずかしくなるようなデートしてくれちゃうわね、あの二人」
「ほんとですよ。オレだって、オレだって! あんなバカップルなデートしてみてえよ!」
「確かにバカップルだけどさ、初々しいなぁ。見ろよ、手ぇ繋いだだけで真っ赤だぜ?」



様子を窺っていたブルマたちが、幸せそうな二人を遠巻きに見て、思わず失笑なんかしていたのだが。






「あの、すいません」

そんな二人の世界に割り込んできた、遠慮がちな声。

「「え?」」

振り返った悟空との視界に、5、6人の男の子のグループが入ってきた。
彼らは揃って、お土産屋さんに売っていた『武』の字の入ったTシャツを着ていて、いかにも『天下一武道会を楽しみにしていました』的オーラが伝わってくる。――――――いや、楽しみってよりはむしろ、、、マニアック??


見るからに格闘マニアっぽいその人たちに、は、ああ、悟空のファンの方々かな、と思った。なにせ悟空はこの大会に三回連続出場してるし、前回も前々回も準優勝していて、武道会ファンにとっては有名も有名。
でもって、ファンだと名乗る女の子にきゃーきゃー騒がれてるところも多数目撃したけれど(当然おもしろくはないが)、男の方々にもモテモテなのか、と、どこにかちょっと尊敬して悟空を見ただったが。


声をかけてきた男の人は常連の悟空ではなく、そんなふうに思っているを見て。



さん、ですよね?」



そう、聞いてきた。





見覚えのない人から声をかけられ、一瞬、目を点にしてその人を見てから、一拍遅れて。
――――――そういやわたしの名前は「」でした…なんてすっとぼけた思考を走らせる。
なんで、自分の名前を知ってるんだろ??? とひたすら疑問符を浮かべながら、聞いてきた男の人を見返して。


「そう……ですけど」

コクン、と頷くや否や。





「「「「「「っおおーーーーー!!!!!」」」」」」
「「!?!?!?」」



なになに、ナニゴト!?



いきなり耳を劈くような大絶叫をかますそのグループに、はもちろん、悟空まで飛び上がった。



「やっぱり! オレたち、さっきの試合見てさんのファンになりました!!!」
「―――――――――………はぁ?」



さっきの試合………って、ああ、あのサイボーグの殺し屋さんとの試合のことか。
でも、、、は? ファン??
なんで???



「常連の悟空さんが強いことは知ってますけど」

ちらり、と自分たちのアイドルと思いっきり堂々と手を繋いでくれちゃっている悟空を挑戦的な目で見てから、またに視線を戻し。



「驚きです! 強いんですねっ。こんな華奢なのに!」
「そのうえすごい美人だし!」
「格闘技ファンの俺たちとしては、待ってたんだよな〜、さんみたいな人を!」
「というわけで、オレたち」
「「「「「「さん親衛隊結成ですっ!!!」」」」」」



矢継ぎ早にどどっと押し寄せてきたそのファンだとか名乗るグループは、悟空との間にさりげなく割り込んで、ぐるりとを取り囲む。
取り囲まれてしまったはといえば、わけもわからずきょとんとし、でっかいマークを背中に背負い込んだような、なんともまぬけな表情だ。





し、親衛隊……って。
確かに第一試合は突破したけど、そんなカッコいい戦闘シーンなんかなかったどころかはっきり言って相手が勢い余って場外に落っこっちゃったような地味〜な勝ち方だった上に逆上したその相手に顔を切りつけられて流血なんておまぬけ極まりない試合だったのに、、、なんで???





素敵でカッコいい悟空にファンがつくのはわかるが、何故にそんな自分にファンがつくのかが意味不明理解不能の
今まで人の注目を集めるような人生を歩んでいるはずもなく、というか、知らず注目を集めていることなどまったく気づかない鈍感極まりない彼女は、直接的には初めての大興奮の視線に晒されて困惑を深めるばかり。

挙句に、もとより飛びまくる思考が導き出した答えはといえば。
ちょっと格闘技ができるだけで、こんなに騒がれるものなのか。
女の子で格闘技やってる子って少ないから、異端視されてるのかな………。

と、そんなわけであり。
しかし、少し哀しくなりだしたの気持ちなど露知らず、そのグループは次々と質問を続ける。

すなわち。
「どこで修行したんですか?」「どこに住んでるんですか?」「生年月日は? 血液型は?」「趣味とか特技とかありますか?」などなど。


それに「あ〜」とか「う〜」とかあいまいに返事をすれば、またもやぎゃーぎゃー騒ぎ出す始末。





困りきって途方にくれているを遠目に見て。
せっかくの二人っきりの世界を壊されて腹立たしいとか、おろおろしている彼女を助けようとか、そんなこと以前にその大騒ぎに唖然とする悟空。

そして。
悟空とのバカップル振りを覗き見ていたブルマ、クリリン、ヤムチャも、ひたすら唖然としてその光景を眺めるほかない。





だが、考えてみれば―――――――――にファンがつくのは至極当然のようにも思えてしまう。
本人にはまったく自覚がないどころか「普通じゃないと思われている」とぶっ飛んで、軽くヘコんでいたりしているが、実際のところ、はとにかく目立つ。
まずはその可愛らしく華奢な容姿と柔らかな雰囲気で人目を引き。
見た目とはまったく正反対の強さ。
そのギャップたるや、、、まさに天下一武道会を心待ちにしているファンたちの心を鷲掴みにするのには充分すぎる素材だろう。

さらにはそこまでの実力を持っていながら、控え目で困ったように首を傾けるしぐさが、彼らのミーハー魂を刺激するには充分すぎるくらい充分で。




「あーもーさんっ! サイコーですっ!」
「次の試合も、頑張ってくださいねっ!」
「俺たち、もうがっつり応援しちゃいますのでっ!!!」

なんだか知らないが大興奮で自分を取り巻く軍団に、たじたじとしながらも「あ、どうも……」なんて返事をしただったが、ハッとしたように顔を上げ。



「次の試合って、、、ああそうだ。相手、悟空さんだったんだ………」



棄権しようと思ったのに、悟空の素敵笑顔に悩殺されて、結局は試合をする方向に持っていかれてしまった自分の腑抜けさ加減に呆れてしまう。
けれど、不甲斐ないとわかってはいても……どうしても、逆らえない。
これが、あれだ。
いわゆる、「惚れた弱み」ってヤツ。


軽くため息を落とし、顔を上げたの視線が自然に向かうのは、もちろん自分を虜にしているだいすきだけれどもバトルマニアの次の試合のお相手。



それに気づいた親衛隊(?)のひとりが、おずおずと。



「あの、さん。さんは孫悟空と、その、付き合ってるんですか?」
「え!?」


聞かれたとたんにぼんっ、と沸騰するの顔。
そりゃもう、わかりやすいほどに、「そうです付き合ってますというか付き合いたてです大好きなんです」と、言わなくたってわかってしまうその態度。


それを見て明らかに落胆する親衛隊だが、ラブモードの入ったはそれに気づくことなく。



「えと、あの、そのっ!!!………はい///」


恥じ入りマックスで小さく頷き、彼らにトドメを刺した。





「あらあら、ちゃんてばあんなに真っ赤になっちゃって」
「悟空が突っ走ってたからわかんなかったけど………やっぱちゃんも悟空のことが好きなんだなぁ」
「くっそ、悟空のやろう…。あとで覚えてろよ………」



尾行組みの三人、すなわちブルマ、ヤムチャ、クリリンが、赤面するの様子を見て口々にそう言った。
しかし悟空もそうだが、も大人気のこの状況。
この調子じゃ、多分デートが終わるのも時間の問題だし、これ以上見ていても中てられるだけだ、さっさと戻ろう。
そう頷きあい、三人は尾行を終わらせた。










「あの、それじゃ、すいません」

するりと親衛隊の皆様方の間をすり抜け、悟空の元に走っていく
自分の元に戻ってきたが真っ赤に染まる顔でにっこり笑いかけ、悟空は悟空で顔に血液が集中するのがわかる。

「い、行こっ! 悟空」
「あ、ああ!」


妙に力を入れてそう笑い合い、歩き出した二人の背中を追ってくるその声は。



「でも、俺たち絶対諦めませんっ!」
「俺たち、彼氏がいたってさんが一番ですからっ!」
「一生ついていく覚悟ですっ!!!」



そんな、意を決したような切羽詰った声で。



は困ったように眉を下げてちょっと振り返り、小さく「ごめんなさい」と言葉をかけた。















そんなわけで、やっともとの二人の世界に戻ったわけだが。



ちゃん、ファンなんですっ!」
さんですよねっ? 握手してください!!」
「かっわいい! サイン、お願いしますっ!!!」










その後もことごとく、老若男女を問わずそんな類の方々からひっきりなしに声をかけられ、結局は大して店ものぞけずに悟空は背中に隠れるように歩くをかばいながら早急に武道会場に戻ると、先に戻っていたヤムチャとクリリンが出迎えた。


「よ、お帰りお二人さん。ずいぶん早かったじゃないか」

軽く手を挙げて声をかけてきたヤムチャに、呆けたようにぺたりと座り込むと、苦笑の滲む悟空。


「いや、がすげぇ人気でさぁ」
「あ〜、ま、そうだろうな。あんだけ強くてこんだけ可愛けりゃな〜。悟空もうかうかしてっとすぐ盗られちゃうぜ」


ボ〜、っとなんとなくそれを耳に入れるを見ながら、悔し紛れにちょっと脅かしてやろう的な発言をしたクリリンに、悟空はニッ、と不敵に笑った。



「へへ、でぇじょうぶ。はオラんこと好きだからよ。なぁ?」
「…………え? なに悟空??」



話しかけられて、はきょとんと悟空を見返す。
下界の人付き合いって大変なんだな〜、などどまた少々ずれたことを思いつつ人疲れしてボケッとしていたので、まわりの会話なんかまったく聞いていなかったの様子に、悟空はかくっと肩を落とした。



爆笑しだしたヤムチャとクリリンに驚いたような顔を向けてから悟空に視線を戻すと、なんだか落胆したようにがっくりしていて。



「え、え、え? ちょ、悟空、どしたの? わたし、またなんかやっちゃった???……ぅわ!」


おろおろとうろたえだすの瞳をとらえた悟空は、今度は絶対に聞き逃されないようにの肩に手を置いてグッと自分のほうに引き寄せて、耳元で呟く。



は、オラのこと好きだよな? …って聞いたんだよ」
「………///」


悟空の息が耳にかかったのと、その言葉の意味を理解したのとで一気に頬を染め上げたは、一瞬視線をさまよわせてから精一杯背伸びをして、ナイショ話をするように悟空の耳元に手を添えた。





「だ・い・す・き」





その言葉とそのしぐさ、さらにはクスクスとはにかみ笑うその笑顔。
完全にやられてしまった悟空は、に負けないくらい顔を真っ赤に噴火させた。















オラの大好きなは、誰から見ても可愛い女。
でもその可愛い彼女の心は、オラのもの。





「そうだよな、
「? うん。………??」


怪訝な顔をしながらうなずくの頭を撫でてやると、その顔にフワンと笑顔が広がった。















ヤ「なぁ、あいつら次の試合、対戦すんだよな?」
ク「………あんなにぞっこんに惚れ込んだ女の子と、ふつう真剣にバトれるか?」
天「いや、そこはあの孫だ。できるだろうさ」










――――――――――最後の天津飯の言葉のとおり、このあとこのホワフワバカップルが本気の真剣勝負に出て。
――――――――――勝負には敗北したが、の株が一段と上がってしまったことは、言うまでもない。




















やっぱりスター性は充分な、可愛い彼女。

そんな彼女の夢は、「大好きな悟空のお嫁さん」





















ご、ごごごごめんなさいっ!
今のわたしでは、これが限界でございました↓↓↓
今後頑張って精進しますので…(汗)
では、リクありがとうございました、えりか様(*≧v≦*)
様、読んでくださってありがとうございました!