☆拍手御礼小話*16☆
〜byヒロイン〜


「またフッたの〜!?!?」

素っ頓狂な友人の声に、わたしは顔をしかめた。

「だって、好きな人いるんだもん」

わたしの言葉に、今度は友人がため息をついた。

「あのねぇ……あんたが好きなのは、架空の人物!!! いい加減目ぇ覚ましなって」

「わかってるんだけどさ、好きなものは好きなんだい!」



あの人を見ると、すごく胸がドキドキするんだよ。 締め付けられるように苦しくて、切なくなるんだよ。こんな気持ちにさせてくれる人、現実の世界にいないじゃないの。



「はぁ。勿体ないなぁ。せっかくモテんのにさ」

「でも、わかんないんだよねぇ。こんなわたしのどこがそんなにいいんだか」



夢見がちだし、ボケてるし。 わがままだしけっこう自己中だし感情的だし。 しかも―――――――――現実逃避してるし。



「なんであんたみたいな美人系の子が、そっちのマニア系にはまるんだろうね? あたしはそれが不可思議で仕方ないよ」

「はぁ? どこ見て美人とか言ってるの〜? わたしからしたら貴女のほうが充分可愛く見えるけどね……てゆうか、マニアとかってひどくない? わたしは純粋に」

「あ〜わかったわかった。純粋に『悟空』が好きなわけね。もう何回も聞いたって!……でもさ」


友達は呆れたようにそう言ってから、心底心配そうな顔をして。


「わかってるとは思うけど……あんたはいつか、絶対諦めなきゃならない人…って言うのかどうかはわからないけど、そういうのを好きになってるんだよ? 同じ諦めるんだったら、早いうちのほうがいいって!」



その言葉に、しゅんとしてしまった。
正当。 彼女の言ってることは、紛れもない真実だ。
こんなに好きなのに、想いは伝わることもなく。伝える手段さえありはしない。



「なんで好きになっちゃったんだろうな〜……切ないよ」

「ちょ、ちょっと、泣くなよ〜。まぁ、恋愛は理屈じゃないからさ。そのうちきっと、そんな架空の人物よりもときめかせてくれる男が見つかるかもしれないじゃん」

「賭けてもいいよ、絶対悟空よりイイ男なんて現れない。……もう!!! だいたいアニメの主人公に本気で惚れちゃうなんて、わたしのアタマってどうなってんの!?!?」



混乱した挙句逆ギレしたとき、教室の扉がガラッと開いて、朝のHRをすべく先生が入ってきた。


「さっさと現実に目覚めなさい。あんたを思って言ってんのよ」

「わかってるよ。ご心配おかけします〜」



そう言い合って、それぞれの席につく。










窓から入ってくる柔らかい風が、カーテンを揺らして。
暖かい陽射しの注ぐ窓際の自分の席。





この席が、好きだった。
友人のことも、好きだった。





今でも時々胸がチクッとするけれど。 





でもね、わたしの恋は成就しました。
諦める努力をすることもなくなりました。








いつか、伝えられたらいいな。
突然消えてしまったわたしを心配しているだろう家族にも。
わたしを気遣ってくれていた友達にも。










――――――わたしは今、幸せです。………って。










「ね? 悟空」
「そうだな」