「悟飯、寝たか?」
「うん、今やっとね〜」
「じゃ、オラを独り占めできるな♪」
「………悟飯ちゃん、ひとりで大丈夫かな、泣かないかな……」
「――――――話、逸らしたな?」
「えへ、バレた? だって、悟空ってストレートすぎて、照れちゃうんだもん///」
トテテテ、と恥ずかしそうに悟飯の眠る部屋のほうに小走りに消えていくの、赤く染まる滑らかな頬。
今も昔も変わらない、柔らかな空気を纏う彼女の、はにかんだような笑顔。
好きだな〜、と、そう思う。
フワン、と漆黒の瞳を優しく和ませる彼。
そんな顔で、「独り占めできる」なんてセリフ、反則以外の何物でもないだろう。
これ以上ないほど惚れ込んでるのに、輪をかけて好きになってしまうあたり、どうしようもない。
そんな二人が一緒に暮らし始めて約二年が経とうとしている。
新しい家族も増えて、まあ、大変なこともそりゃもちろんあるけれど、毎日がとってもシアワセで。
そんなシアワセ気分満載な、ある夜のお話。
ラブラブ夫婦のノロケな夜
すうすうくうくうと、可愛い息子の寝息が聞こえる。
こんなに小っちゃい体のどこからそんなでっかい声が出るのか疑問に思うほど、大声で泣き喚いて自己主張するわが子だが、寝顔は本当に、天使のよう。
この寝顔と、機嫌がよろしいときの無邪気な笑顔が、育児の疲れなんかふっ飛ばしてくれちゃう威力を持っているから不思議なもんだ。
「可愛いなぁ……」
ホワンと、柔らかそうなほっぺた。ふわふわのちっちゃな手が、ニギニギと枕のそばにおいてある小さなぬいぐるみを握っていて、ふんわりした唇が、夢を見ているのか、時々笑みを形作って緩む。
親の欲目ってやつかもしれないけれど、本当に可愛くて。
こんな可愛い子を授かってしまって、自分はなんて幸せなんだろう。
(………産むときは、死ぬんじゃないかってくらい痛かったけどね………)
そんなことを思いながら、ニコニコと悟飯の寝顔を眺めているの姿を、悟空は気配を殺してその背後から見ていた。
確かに、悟飯は可愛い。
わがままでどうしようもない暴君ぶりも発揮するが、悟飯が笑うと嬉しくなるし、寝顔なんかはもう、その日悟飯がどんなに泣いてたって怒ってたって、すべてを許せるくらい愛らしい。
父親の自分でさえ、そう思うのだ。
おなかを痛めて悟飯を産んだが、わが子を可愛いと思うのは至極当然だと、そう理解はできるのだ。
理解はできるのだが………如何せん、愛しすぎるくらいを愛している悟空は、彼女の大好きな笑顔が自分以外に向いていることに対して、大人気ないとは思いながらも、妬かずにはいられなかったりするわけで。
「、捕まえた」
「ふぎゃ! ご、悟空……?」
気配を消して後ろから抱きすくめてみたら、まったく気づかなかったのだろう、はびくりと肩を震わせマヌケな悲鳴を上げて自分の名前を呼んだ。
悟飯から気を逸らすために不意をついてみたわけだが、思いのほか驚いてくれたに、笑いがこみ上げてくる。
「も〜〜〜、悟空さんっ、気配殺して背後とるの、禁止!心臓が口から飛び出しちゃうよっ」
「へへへ、油断してるが悪ぃ」
ビックリさせられたことが悔しかったのか、文句を声にのせるをぎゅうっと抱きしめながら言葉を返す。
柔らかい感触と温かい体温。それに、甘くて優しい良い匂い。
すごく心地よくて。抱きしめるたび、もっともっとを好きになる。
文句を言いながらも、悟空に背中を預け、後ろから回った腕に自分の腕を重ねる。
いつも突然で、不意打ちされっぱなしなのは悔しいけれど、悟空の温もりはやっぱり一番安心する。
そんなふうにくっついて、自分たちの共同合作であるお子様の可愛い寝顔を眺めているのは、ものすごく幸せな気分だ。
『あの日』がなかったら、こんな満たされた、穏やかな空間はなかったかもしれない。
「なぁ。オラたちが初めて会ったときのこと、覚えてっか?」
「………ふふ。わたしも今、あの日のこと思い出してた」
『あの日』。
悟空とが初めて出逢った、あの時のこと。
朝寝坊して、大慌てで自転車をかっ飛ばしていた自分の前に、ずっとずっとずぅーっと好きだった悟空が現れて。
「―――――――――おめえ、突っ込んできたよな」
「―――――――――悟空が、いきなり出てきたんだよ」
ふっ、と、笑い含みに悟空が耳元で囁いたのをくすぐったく思いながら、もクスリと笑って言い返す。
悟空の夢を見て、そのせいでめったにしない朝寝坊をした。時を同じくして、ミスをめったにしない、というか、してはいけない地位にある神が目算を誤り、悟空を異世界に飛ばして、そして。
絶対に出逢うはずのない二人が、時空を、そして常識を超えて、出逢った。
思い返せば、なんてでき過ぎた『偶然』。
偶然が偶然を呼び重なって、それによって引き起こされた奇跡。
きっとその奇跡を、世間では『運命』って呼ぶのだろう。
昔は『運命』なんて信じてなかったし、どっかで聞いた『運命は自分で変えるもの』なんて言葉がかっこよくて、生まれた時点で決まっている運命のまま生きるなんて、つまらないって思ったこともあったけれど。
本当に生まれた時点で決まっていたのかどうかはわからないけれども、今このときの幸せの第一歩である悟空との出逢いが運命だったっていうんなら、運命に流されるまま生きるのも、悪くない。
そんなふうに考えてから、はふと思いついたように悟空に話しかけた。
「ね、悟空、運命の赤い糸って、知ってる?」
「赤い糸?」
くすくすと笑いながらのの言葉に、悟空はちょっと首をかしげる。
その気配を感じたのか、くるりと首だけ回転させて振り返り、ふわんと目元を和ませたの表情に、悟空の鼓動が早くなる。
「うん、赤い糸。人はね、生まれたときにもう運命が決まってて、将来結婚する運命の人と、小指と小指が見えない赤い糸で結ばれてるんだって」
「見えない? 見えないのに、なんで赤いってわかるんだ?」
「………なんでだろうね? まあ、とにかく、世間一般ではそう言うの」
悟空の突っ込みに、そういえばなんでなんだろう?なんてまた脱線しかけた脳内回路を軌道修正して、は悟空をちょっと恥ずかしそうに見上げた。
「それで、その赤い糸で結ばれた人と出逢うと、『ああ、この人だ』って一目で解るんだって」
「ふ〜ん。・・・・・・で、は解ったんか?」
なんの気なしにそう問えば、の瞳に甘い光が宿る。
染まる頬と、やわらかい気配。
自然に浮かぶ少しはにかんだような穏やかな笑みのまま、こっくりとうなずくは、たぶん今だけだろうけれども。悟飯が起きたら、きっと母親の顔に戻ってしまうんだろうけれども。
――――――間違いなく、自分だけを想ってくれている、大切な愛しい恋人。
「………そっか。だから、だったんだ」
「え?」
の甘やかな表情に、騒ぎ出す鼓動を感じ。
やっぱり、どうしようもなく彼女が大好きだ、と再認識してから、ふと気づいた『そのこと』に、悟空の口から言葉がこぼれる。
きょとん、と自分を見つめるを見返して、悟空は初めてを見たときの事を思い出した。
なんだが、不思議な感じがした。
今までいろんな奴に会って、その中には女も何人もいたけれど。
の瞳に自分が映ったとき、今までになく胸がドキンとしたんだ。
急に抱きついてきたは、現在と同じくやわっこくて、いい匂いがした。
あんなふうにくっつかれたのは初めてで、どうしていいか最初はわからなかったけれど。
気づいたら、勝手にのその華奢な背中に手を回していて、自然と抱きしめるかたちになっていた。
「悟空?」
ことりと首をかしげて、自分の名を呼ぶ澄んだ声。
初めて会ったときも、はそのきれいな声に、自分の名をのせていた。
なんで自分の名を知っていたのかも不思議だったけれど、それよりなにより、から流れている優しい気配に、不思議な甘い疼きと安堵を感じたのを、覚えている。
「うん。初めてを見たときの、あのときの不思議な感じは、『ああ、コイツだ』っていう感じだったんだなぁ」
「はぁ?」
「だから、さっきおめえが言ったじゃねえか。赤い糸で結ばれてん奴と出逢うと、一目でわかるってよ」
「あ………うん///」
いつも悟空は直球で、駆け引きとかはまったくしない。そんな彼に毎回ストライクを取られてしまう。
今回も例に漏れず、思いっきりやられてしまったらしい。肩越しに見えるの顔は耳まで真っ赤になっていて、自分で「赤い糸」の話を持ちかけたくせに思いっきり照れている彼女の様子に、悟空は軽く笑ってから。
「」
「ん?………って、うわっ!」
後ろから抱きしめていたをひょいっと抱き上げ、自分のほうを向かせてから、こつん、と自分のひたいをのひたいにくっつける。
「な、ななななんでしょうか、悟空さん」
自然、上目遣いで目を合わせる形になったの、戸惑ったように揺れる瞳を捕らえて、悟空は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「あのな、オラとの小指は『運命の赤い糸』で繋がってたんだなって思ってさ」
ドキン、との鼓動が高く跳ね上がる。
いまさらだとは思うけれど、やっぱり悟空の端正なお顔が近くなると、照れくさくて恥ずかしい。
いまだに、悟空の澄んだ漆黒の瞳でまっすぐ見つめられると、胸がドキドキして甘酸っぱい気持ちが溢れてしまう。
こんなにたまらなく大好きな悟空が、赤い糸で結ばれていた相手が自分だと言ってくれた、それが嬉しくて。すごく、すごぉく嬉しくて。
何千、何万分の一の奇跡。
元の世界には帰れなくなってしまったけれど、心の底から思う。
「――――――悟空と出逢えて、よかったなぁ」
その笑顔に、悟空は目を奪われた。
頬を染めたまま、ふんわり笑うの顔は、毎日見ているにもかかわらず見惚れてしまうくらい可愛くて。
結婚しても子供を産んでも変わらない、柔らかい空気に包まれると、ひどく安らいで。
そばにいてくれるだけで満たされるのに、運命の相手が自分だと思っていてくれた、そのことにものすごく幸せを感じてしまう。
「赤い糸で結ばれてたんだから、出逢える『運命』だったんだろ?」
ぎゅう、と抱きしめながらそう言えば、も自分の背中に腕を回して抱きしめ返してくれた。
「悟空の腕、好き」
「の声、好きだ」
「悟空の胸も、好き」
「のやわっこい感じも、好きだぞ」
「悟空のぬくもりが、好き」
「だって、あったけぇぞ」
悟空の胸に顔を埋めたまま、はその背に回した腕に少し力をこめる。
こんなにも、人を好きになれるなんて。
悟空と出逢わなかったら、ちょっと切なくて、ちょっと胸を締めつけられて、思わず涙がこぼれそうになっちゃうような『愛してる』っていう気持ち、きっと一生わからなかったんじゃないか。
「悟空が、好き。だいすき」
「―――――――――………」
怖いくらいに溢れてきてしまう想いに促されるまま、少し震える声で伝えたの言葉。
その言葉に、悟空は悟空で震えるほどに幸せを感じてしまう。
が、愛しくて。
行き過ぎるほど、愛しているのに。
………それ以上にこみ上がってくるこの気持ち、止まってくれないこの想いは、いったいどこから来るのだろう。
「愛してる。もう、どうしょうもねえくらい、おめえを愛してる」
不安になるほどに溢れてくる『愛してる』は、とどまることを知らなくて。
言葉にしなくても絶対伝わってると、そうは思っても、言わずにはいられない。
「うん。悟飯にヤキモチ妬いちゃうくらいに、ね」
いたずらっぽく笑いながら、が悟空を見上げて言った。
実際のところ、その『ヤキモチ』に困っちゃう事だって多々あるけれど、重量オーバーしてるくらい愛している悟空が、我が子にヤキモチを妬いてしまうくらい自分を愛してくれている、その事実。
自然、ふっ、と和ませた瞳に、甘い光が宿る。
「嬉しいよ。すごく、嬉しい」
やわらかい笑みを湛えつつ言ってくれたその言葉に、悟空は、ああ、だからなんだ、と。
行き過ぎても、重過ぎても、は自分の『愛してる』をすべて受け止めてくれるって、わかってるから。
だから、とどまることなく溢れてくるんだ。
そっとその頬に触れてみる。
指先に感じる、滑らかでやわらかい感触。
そこから全身に広がっていく、甘くて熱い想い。
は自分をまっすぐ見つめる悟空の瞳を、逸らすことなく見返して、頬に触れている悟空の手に、自分の手を重ねた。
「、愛してっぞ」
「わたしも、悟空を愛してるよ」
もう一度伝えあってから、クスクスと笑い。
「はオラを愛してんだな〜」
「悟空もわたしを愛してるんだね〜」
言葉にしてみた相手からの自分への気持ちに、ヘラリ、と二人して頬っぺたを緩ませる。
照れくさい、恥ずかしい、でも。
緩む頬っぺたが一番意味するのは………「うれしい」
ふわっと、悟空がの額に唇を寄せる。
急に感じたやわらかい感触にちょっと身を引くの身体を抱きしめて、それから柔らかい頬へ。
「あ、あの、悟空、さん?」
「ん?」
の呼びかけに唇を離し、覗きこんだその顔は、夜目にも鮮やかに赤く染まっていて。「いや、ん?じゃなくて、ね」なんて、しどろもどろに言葉を返すを目の当たりにした悟空は。
本当に、この娘は、今も昔も。
「可愛いよなぁ、おめえ」
「ぇ。え///あ、えと……」
一線越えたにもかかわらず、越えたどころかお子様までおできあそばしているにもかかわらず、いまだになにをそんなに照れることがあるのか甚だ疑問ではあるけれど。
真っ赤になってワタワタしているもまた、可愛らしくて。
そんな顔を見ていると、ついつい―――――――――悪戯したくなってしまう。
「なあ、抱いていいか?」
「は!?」
「……言っとくけど、抱っこじゃねえぞ?」
一番最初に一線越えを果たしたときのお伺いを思い出し、悟空はクスリと笑って言ってみる。
対するはといえば、勘違いして「いいよ」と言ってしまったあの時のことを思い出して、さらにうろたえて。
思ったとおりの反応をしてくれた彼女が、うるうると潤んだ瞳で視線を彷徨わせているのを見ていたら、ただの冗談のつもりだったのに、、、どうにも火がついてしまったらしい。
「で、でもほら! 悟飯ちゃん起きちゃうかもしれないしっ!」
「よく寝てっし、少しくらいでぇじょうぶだろ?」
「ちょっと待って、悟……ん」
焦って待ったをかけようとしたの言葉は、悟空の口内に消えていく。
少しの間もがいていた彼女だったが、深い口付けに次第に力が抜けていくのが手に取るようにわかる。
がっくりと身体をゆだねてきたに小さく笑いかけて。
「ちょっとだけ、な?」
ちょっとだけって、どんだけよ?と、そうは思うのだが、悟空がそんなふうに可愛らしく笑うもんだから、悔しいけどやっぱり愛ゆえにその笑顔には勝てなくて。
結局コクリとうなずいてしまったを、悟空は抱きしめて、抱き上げる。
部屋を出る前にちょっと立ち止まり、いまだ寝息を立てている悟飯を振り返って、「もうしばらく…できれば朝まで寝ててくれよ」と、悟空は心の中でつぶやいた。
悟空の腕の中のはといえば、「ごめんね悟飯ちゃん。今はパパだけを愛してるママになっちゃうけど、目が覚めたらちゃんとママに戻るからね」なんて、こっちはこっちで心の中でわが子に語りかけていた。
ホゲーーー!!!(?)
遅れた上に、なにこれ!?なんなのコレは!?!?
これのどこに、いったいどこに、ほのぼのした会話があるっていうんでしょうね管理人!
……ごめんなさい、翠世様m(__)m力不足なワタシを許してください;
そんでもって様、つたない妄想にお付き合いくださってありがとうございました☆

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