そろそろ来るかなー、と国を救った王子を待つ、美しい王女さま。
人の良い王女を一番に考えてくれない人との結婚など断じて許さないと身構え、王子の人となりを見極めなければと鼻息を荒くする家臣たち。
そして、あらぬ疑いをかけられながらも、のほほんとその国を目指して旅する、当の王子様。

呪いが解かれてから、もうすぐ一年。







命の水 act.7






このところ、ベジータとラディッツはくさっていた。
まんまと『命の水』を末の王子・カカロットから奪い、バーダック王の命を救ったのは自分たちだと思い込ませ、挙句その弟が王の殺害を企てたとして国外追放させたまでは良かったが。


カカロットが出て行ってからしばらくたって後、自国に帰ってくる途中で彼が救った三つの国の国王から彼宛に金銀財宝が届いてしまい。



「あん時はカッとしちまって『出てけ』なんて言っちまったが、考えてみればあんなクソ正直で人が良くてまっすぐすぎるカカロットのやつが、オレを殺そうとするわけねえよな」


と、その御礼の品々を前にして、バーダックが遅ればせながらそのことに気づき、家来たちに命令して『第三王子の国外追放の件は白紙に戻す、帰って来いカカロット』というおふれを出したのだ。



それも勿論面白くない第一、第二王子だが。



王様が元気=自分たちは王にはなれない。



というわけで。
今更ながら、手っ取り早く王になるんだったら、バーダックをあのまま放っておくべきだったと、そんな親不孝極まりないことまで思っていた。





「せっかくカカロットを追い出したのに、結局ムダ骨だ。これでは意味がない」
「そうだな。それにたとえ親父のお気に入りのカカロットがいなくなったとしたって、親父が王位についてるうちは、この国は親父のもんだからな」



はぁ、と二人してため息をついたあと、ラディッツがふと顔を上げた。


「そういやよ、カカロットのやつ、追放になってからすんなりいなくなっちまったが、どこに行ったんだろうな」


ラディッツの呟きに、ベジータはバカにしたような表情を彼に向けた。


「命の水をくれた王女のところに行ったんだろうぜ。あのやろう、その王女と結婚の約束を――――――ちょっと待て」



自分の発言に自分で待ったをかけてから顎に手をやり、なにやら考える風情を見せるベジータ。
ラディッツがそんな兄の様子を不思議そうに見守るなか、ベジータは何かを思いついたようにニヤリ、と笑った。



「カカロットは、その王女と結婚の約束をした、と言っていたな」
「ああ、確かに言ってたぜ。それがどうした、ベジータ」
「……王女と結婚するってことは、王女の国を継ぐってことになる。つまり、その国の王になれるってことだ」



ベジータの言っていることは理解したが、それと自分たちが王になることと何が関係するのかわからず、しかしそうなればカカロットがその国の王座につくことになるだろうことを認識したラディッツは、微妙な表情を浮かべる。



「それじゃ、カカロットはその国の王になるってことだよな? ちくしょう、うまくやりやがって」
「――――頭の悪いやつだ」



ため息交じりのベジータの悪態に戸惑ったように視線を泳がせるラディッツ。
その瞳を射抜くように捕らえ、ベジータは再度、意味ありげな笑みをその顔に貼り付ける。



「その王女と結婚するのが、カカロットではなければ………どうなる?」



第一王子のうわべだけの笑みにたじたじとしつつ、ラディッツは彼のいった言葉の意味を必死に考え、そして、彼と同じ答えを導き出した。





「………王女と結婚したやつが、その国の王になる………?」
「そういうことだ」





カカロットよりも先に王女の城へ出向き、王女を救ったのは自分だと名乗りを上げる。たった一度、しかも一年も前に会った男の顔なんか、覚えているまい。たとえ覚えているにしても、カカロットが落とせた女を、自分が落とせないはずはない。
なにせ王族の姫というものは、気位が高くていかに自分を美しく見せるかぐらいしか考えていない女がほとんどだ。甘やかされて贅沢に育った女が男を品定めするときに重要視するのは、地位と財産、そして顔くらいだろう。



「カカロットはオレたちと血の繋がった兄弟。地位も財産も顔も、当然合格だろう。だがオレは第一王子。第三王子のカカロットよりも地位は上なんだ。彼女がカカロットより俺を選ぶ確率は、かなり高いと見た」



つらつらと自信たっぷりに述べるベジータを、感心したように眺めるラディッツ。



「親父はまだまだ死にそうにないからな。だったらその王女とやらと結婚して、その国ごといただいたほうが手っ取り早い」
「なるほど………」



頷き、ラディッツがベジータを見る。
確かに顔は申し分ないが………第二王子である自分のほうが身長は勝っている、などと思っていることは、口が裂けても言えない。



そんなふうにラディッツが思考をめぐらせているなか、思い立ったら即実行といわんばかりに、ベジータはさっさと旅の支度を整える。



「今度会うときは、オレ様は他国の王だ」



そう言い捨てて、ベジータは命の水の泉のある王国へと旅立った。















寄り道などせず、まっすぐにその国を目指す。
カカロット曰く『綺麗な王女』だということだが、彼の目は当てにならないので、大して期待などしていなかったが、それでも興味はあったのは認めよう。

城の前まで来ると、キラキラと光る金の道が見えた。
黄金の道を作るとはなんて贅沢なんだ、と思いながらも、その上を歩いて汚してしまってはもったいないと考え、ベジータはそこを通らずに脇を歩いて城内に入ろうとしたのだが。



城の門の前まで来たところで、兵士たちがその門に硬い錠を刺す。



「なにをする。オレ様はこの国の王女に用があってきたのだ」
「金の道の上を通ってこないやからは城には入れるな、との命令を受けております」
「なんだと? それが呪いから救ってやったオレ様に対するこの国の礼儀か?」



凄んで見せれば、たじたじとたじろぐ兵士たち。
その門の向こうで、高く澄んだ声が響いた。



「ねえブルマさん、誰か来たみたい。悟空かな!?」
「さあ、どうですか。でも兵士たちが門を開けないところを見ると、黄金に目がくらんだ者ですね。そんな者と結婚するのは、許しかねますよ、さま」


城門の僅かの隙間から見えた、王女らしきものの姿。



華奢な身体、流れる長い髪、全身から滲み出る気品。
穏やかで澄んだ瞳が切れ長の目に収まり、柔らかい表情を作る唇はつややかで。
白い肌、桜色の頬。





一瞬にして、目も心も奪われた。





「王女!この国を救ったオレをお忘れか!?」



張り上げた声に驚いたように振り返った王女は、不用意にも城門にタタタ、と走ってくる。
侍女がさま、無用心ですよ!」と慌てて追ってくるが、捕まるよりもはやく門の前にたどり着くと、その外にいるベジータをまじまじと眺めた後に、ことり、と首を傾げて。



「あなた、誰? この国を救ってくれたのは、悟空っていう名前の素敵な王子様ですよ?」



悟空、とは、カカロットのことだな……。
瞬時に悟ったベジータは、カカロットの言っていた『綺麗な王女』っていうのは本気で当たっていた、と思いながらその澄んだ瞳を見返して口元を歪ませて。


「悟空とは、オレの弟だ。あいつは地位も財産も充分でなおかつ顔もいいが、オレは第一王子。あいつよりも地位は上だ」
「………悟空のお兄様、なんだ。はじめまして、わたし、です」



ふんわり広がる柔らかい笑みに、どうしようもなく高鳴る胸。
不覚にも赤くなる顔に焦りを覚え、しかしそこはプライドの高い彼。女なんかに揺らいでるなどと認めたくないらしい。



「カカロットよりもオレのほうが地位が高いから……王女にはオレのほうがふさわしいと思ってはるばるやってきたのだ」



王族の優雅な礼を交えてのその言葉に、はそんなベジータを困ったように見つめて。



「え、と。地位なんかいいの、財産なんかも関係ないの。悟空の優しい笑顔が好きだから、悟空じゃなきゃイヤなんです」



エヘへ、と照れたように笑う王女。
これは本当に王族に生まれた姫なんだろうか、と思わせるほど、気取らず飾らないその様子に流されかけたが、よくよく考えてみれば。






オレは、フラれた、のか???






そんなふうに撃沈するベジータに、「ごめんなさい」とさらに追い討ちをかける
申し訳なさそうなその顔に、なんと返していいのかもわからず口をパクパクしているベジータの様子に、が何かを言いかけたとき。





さま! 何度言ったらわかるんですか! もっと王女としての自覚を持ってくださらないと!!!」
「うわっ! ごめんなさいブルマさ〜〜〜ん!」



侍女に捕獲されて、城門から引っぺがされ、ずるずると城内に連行される王女の様子をあっけにとられたように見てしまい。
それでもそんな状態のままその高い声でベジータに話しかけてくる



「お兄様、悟空に早く来てって伝えてくださいね〜!」



しっかり念を押し手を振るの姿が見えなくなると、ベジータはショックでズルズルとその場に崩折れた。















戻ってきた第一王子は、今までの居丈高な態度がなくなり、すっかりおとなしくなってしまった。
たぶん、振られたんだろうな、と察した第二王子は、「やっぱ身長だよな」と勘違いをして、意気揚々と王女の元へと出かけていったのだが。



やはり金の道の上はもったいなく感じてしまって歩けず、結局門を開けてもらえなかった。
開けてはもらえなかったのだが、ベジータ同様、門の隙間から見えたの美麗な姿に目も心も奪われてしまった。



「オレは第二王子。カカロットよりも地位は高いし、兄よりも身長も高い」



と、アピールするも、こちらもベジータ同様、大撃沈であった。。。














そして、一年が過ぎた頃。

「一年ぐれえだけど………懐かしいな、この国」

城の前に立ち、一年前と変わらないその立派ないでたちを目におさめる。
この城の中に、あの愛しい王女がいると思うと、どうにも高鳴ってしまう胸。
早く会いたい一心で、悟空は金の道にも気づくことなく道の真ん中を足早に歩き、城門までやってくると、門番がそこを大きく開け放った。

中庭で侍女と話をしていたが、城門の空く音を聞いてそちらに眼を向ける。
そこに立っているのは、夢にまで見た、愛しい―――――――――





「たでぇま、





にこりとほころぶその柔らかい笑顔も、漆黒の澄んだ瞳も、穏やかなその雰囲気も―――――変わっていない。





「………悟空。悟空!悟空!!!





走り出すを見て、悟空が両手を広げた。
ためらわずにその胸に飛び込んできた彼女を、しっかりと受け止めて、抱きしめる。



「待たせて、すまなかったな」



悟空の謝罪の言葉に、とにかくがむしゃらに首を振る
そんなに首を振ったら、綺麗な髪が乱れてしまう、と思いながら、悟空がその髪をそっと撫でると、自分の胸に押し付けていた顔をがそっと上げて。



「お帰り、悟空」



ふわっと。
甘い光を宿す澄んだ瞳が和み、赤みの増した頬がやわらかく緩む。
―――――――――すごく、綺麗だ、と。
たまらず、の背中に回した腕に、少し力をこめて抱きしめた。







その様子を呆然と傍観する家臣、兵士、侍女たち。
けれども、王女を抱きしめているその男は、金の道が目に入らないくらい、王女のことを想っていて。
その優しげな雰囲気は、周りのものすべてに好感を抱かせる。



「………お戻りなさいませ、悟空さま」



一の侍女であるブルマが、丁寧に悟空に頭を下げたのをきっかけに、家臣たちがいっせいに礼をする。
この時点で、悟空はの夫になり、同時にこの国の主になるにふさわしい方だ、と認められた。










次の日には、二人の結婚式が盛大に、幸せに執り行われ、国を挙げてのお祭り騒ぎが三日三晩続いた。
見詰め合うだけで、こんなに幸せな気分になれるなんて。
お互いの瞳にお互いの姿が映っていることに、二人して無上の幸せを感じて柔らかく微笑み合う二人を、国中の人々が祝福していた。





結婚騒動が治まった日の夜。
バーダック王が『第三王子の国外追放の件は白紙に戻す』というおふれが、二人の国にも伝わってきた。



「………悟空、国外追放されてたの?」
「ああ、なんだか知んねえけど、オラがからもらった命の水、腐っちゃったみたいでさ、それ飲んだら父ちゃん、余計病気がひどくなっちゃったんだ。それで、オラが父ちゃんに毒飲ませたって勘違いされてな」
「腐った? そんなはずないと思うけど…。じゃ、お父様の病気、治らなかったの?」
「いや、兄貴たちが『命の水』持っててよ、それで治ったぞ」



にっこり笑う悟空に、きょとんとした顔を返す
あのとき、悟空以外の人が命の水をもらいになんてこなかった。
ということは………なんらかの方法で、悟空の命の水を兄たちがすり替えたに違いない。
しかして、だまされたことなんか気づきもせず、隣で笑ってるお人よし過ぎる悟空に、思わず惚れ直してしまうである。



「そっか、帰って来いって言ってんだ、父ちゃん」
「うん。元気な顔くらい、一度見せに行ったほうがいいよ」
「そうだな。それと、こんな可愛いやつと結婚したんだぞって報告しにな」
「あ……うん///」










程なく二人は悟空の故郷に挨拶に行った。



「カカロットも、なかなかやるじゃねえか。こんな綺麗な嫁をもらうなんてよ。ベジータ、ラディッツ、てめえらも早く結婚して、身を固めろよ」
「うるせーよ、クソ親父……」
「ほっといてくれ」



悟空とが幸せそうに笑っているのを目の当たりにし、ニヤニヤする王とは裏腹に、意気消沈の兄二人。
その様子に、バーダックは意を得たり、とほくそ笑む。



「なんだてめえら、まさかカカロットの女に惚れてたのか?」
「「っ!!!」」
「図星かよ」



真っ赤になってそっぽを向く二人を見て、クックックと笑う王様は、ちょっと意地悪だ。
まあでも。
悟空は気づいていないけれども、悟空を陥れようとした二人の兄たちは的にはちょっと許せないものがあったので、助け舟も出さずに素知らぬふりで笑っていた。




















その後、元の国へ戻った悟空とは、末永く幸せに、仲良く暮らしました。
すべてを見てきた『命の水』は、その後も留まることなく滾々と湧き出ていました。

















THE END


管理人「お、終わったーーー!!!」
バーダック「てか、強制終了だな、これは」
管理人「突っ込まないで、バダさん…」
「それにしても……長かったですねー」
ブルマ「脱線脱線で、一生終わらないかと思ってたわよ」
「しかも……恥ずかしいシーンいっぱいあったし///もうわたし、主役はやらないよ」
管理人「そう言わないで、ちゃん。みんな普段から君を想っているんだけど、君が悟空しか見てない上に悟空ががっつりガードしちゃってるから手ぇ出せ………」
ピッコロ「それ以上言ってみろ」
ラディッツ「オレたちの手で」
ベジータ「てめえの存在を消してやるぜ」
管理人「なによ、ほんとは嬉しいくせに」
ピコ・ラディ・ベジ「「「なんか言ったか?」」」
管理人「い、いえ、別に……」
悟空「なあ、管理人。こん中で一番怒ってんの、誰だかわかるか?(黒笑)」
管理人「え、え、えと〜;;; 黒い笑顔も素敵です、悟空さん///」
悟空「今度をこんな目にあわせたら、オラ我慢できないで超過しちまうかもな」
管理人「あい;肝に銘じておきます」
バーダック「つうわけで、強制終了だな」
管理人「そうですスイマセンごめんなさい申し訳ありましぇ〜ん!」
・ブル・悟・ピコ・ラディ・ベジ・バダ「「「「「「あ、逃げた」」」」」」」


というわけで、やっとこさ終わりました。。。
ごめんなさい未央様!ムダにもほどがあるだろうほど長くなってしまって!(土下座)
でも楽しかったんです…妄想するのは(爆) 
こんな長い脱線話にお付き合いくださった様!心からの謝罪と感謝を捧げます☆