別に、期待してたわけじゃあ、ないんですよ………いや、期待してなかったっていったら、大嘘なんですけれどもね?
それでも此処は異世界だってわかってるし、わたしの知ってるイベントがこっちの世界に存在してるとは限らないことだってちゃんと理解してたつもり。
………でもね?
一生涯逢えないはずだった大好きな人が、奇跡的にも目と鼻の先にいるこの状況。
『二人きりのロマンティックなクリスマス』に淡い(いや、かなり濃ゆかったかも;)憧れを抱いてしまったのは、致し方のないことじゃ、ありませんか?
なんだかんだでお付き合いの過程もなく、結婚しちゃったわけですが、それでもわたしは一応恋する乙女。
すなわち―――――――――夢見る夢子さん、なんです。







Happy Merry Christmas!







ここのところ、の様子がちょっとおかしい。
フンフンと楽しそうに鼻歌を歌っていたり、妙にウキウキソワソワと落ち着かなかったり。
………まあ、彼女がおかしいのは今に始まったことじゃないし、別に落ち込んでるとか寂しそうとか、そういうふうに変なわけでもないから、心配ってワケではないのだけれども。



「な、?」

「は〜い♪ なに、悟空さん?」



ホラ。
ニコニコニコ〜v となんともまあ、愛くるしい笑顔を向けてくる。
―――――――――可愛い。
その笑顔にあえなくクラリ、と堕ちそうになりながらも、悟空はポリポリと染まった頬っぺたを掻いた。



「あ〜……なんか、最近うれしそうだな。なんで?」

「だって………もうすぐクリスマスなんだも〜んvvv」

「くりすます???」



悟空の問いに、はそれはもう満面の笑みをその顔いっぱいに広げる。
奥様にぞっこん惚れてる悟空としてみれば、その可愛すぎる表情をいつも以上に見せてくれていることはタイヘン萌えであったりするわけなんだけれども。
聞きなれない単語をオウム返しに返してみれば、はコクン、と笑顔のままうなずいて。



「うん、クリスマス。街とかはきっと、イルミネーションでキラキラしてるよねー、この時期。見に行くってのもいいけど、悟空と初めて過ごすクリスマスだから、やっぱ家でマッタリがいいかなぁ……。こんだけ木がいっぱいあるんだから、モミの木とかもきっとあるよね!? ツリーの飾りつけして、ごちそう作って、ケーキ作って………ああもう、すごく楽しみ♪」



指を組んで、キラッキラと瞳を煌めかせながらひとり盛り上がるに対し、悟空はきょとんとそんな彼女を見ながら首をかしげた。





「なあ、くりすますって、なんだ?」

「――――――――――――――― へ?」





悟空の言葉を聴いたは、目をまん丸にして、そんなマヌケな声を漏らした。





なんだ………って。
悟空の「○○○ってなんだ?」ってセリフは、呆れるほどたくさん聞いてきたけれど。
そりゃもう、一般常識的にわかるようなことでさえ「○○○ってなんだ?」って聞いていたけれど。
その○○○に当てはまる言葉が、よもや今回自分の胸を躍らせている『クリスマス』であろうとは。





「………悟空、クリスマス、知らないの………?」





とても信じがたいその事実に、恐る恐るといった感じで聞き返してみれば。



「うん、ゼンゼン知らねえ」



大マジメの真顔で答える悟空の言葉は、にとっては大きな衝撃波をモロに受けたと同じくらいのダメージで、その表情は明らかに固まった。。。






物心ついたときにはもう、イブの夜にパーティーを開いて、寝静まったあとにサンタクロースがプレゼントをそっと置いていってくれる、という、「クリスマス」という日があって、それを知らない人なんていなかった。
的には家族としか過ごしたことがなかったけれど、彼氏持ちの友達は、「恋人同士のクリスマス」をロマンティックに過ごしていて、そんな素敵に過ごすクリスマスを、ちょっと羨ましく思ったりしてた。






だから。
今年はもう、すごく楽しみで。
大好きな悟空と、二人っきりで過ごせるクリスマスの日が、待ち遠しくて。
ちまちまとクリスマスツリーの飾りを作ったり、プレゼントはなにがいいかな〜、と考えるだけで嬉しくて嬉しくて。



それが、悟空の「くりすますってなんだ?」の一言で、一瞬にして夢破れたり、みたいな気分になってしまった。







いや、悟空は悪くない。
どっちかっつうと、先入観で物事を見てしまい悟空も知ってるはずだと勝手に思い込んだわたしのほうに否があると思う。

それに、、、悟空がどんなに一般常識に疎いったってかの有名な年末の一大イベントである『クリスマス』があれば、その言葉くらい聞いたことがあるんではなかろうか。
それなのに「くりすますってなんだっけ?」じゃなく、「くりすますってなんだ?」ときたもんだ。

それはすなわち。





「……………………この世界って、クリスマス、ないのかな…………………」





行き着いてしまったその疑問に、先ほどまでとは打って変わって、シューン、と情けなく眉を下げてしまった

クリスマスがナイなんて……そりゃ、ここは自分のいた世界とはまったく異なる世界だし、一年前は神殿にいたからこっちの行事イベントなんかチェックしてなかったけど、でも――――――。





の世界じゃ、その、クリなんとかってのがあったんだな」

「クリスマス、だよ………」





はひとりで張り切ってた自分が、なんだかバカみたく思えてしまった。
わかってたはずなのに、ここは異世界なんだって。
自分の常識が通用しないことだってあるんだって、今まで幾度となく思い知らされてきたのに。

ワクワクドキドキ盛り上がる前に、一言、たった一言、何故悟空に「もうすぐクリスマスだね♪」って、言えなかったんだろう。確認しときゃ、ここまで哀しい気持ちにならなかったんじゃなかろうか。



夢いっぱいに膨らんでいた胸がプシュー!っと音を立てて萎んでいくやるせなさに思わず泣き出しそうになってしまったの頭に、唐突に大きくて温かい手がのった。





「そんなにガッカリすんなよ。やればいいじゃねえか、そのくりすますってヤツ」

「え?」



はじかれたように顔を上げれば、屈託なく笑う悟空の顔。



「オラはよくわかんねえけどよ、、すっげえ楽しそうだったしさ」

「でも、クリスマス知らないんでしょ?」



のウルウル上目遣い。
もちろん、的には別に意識してやってるわけじゃなく、「わたしだけ楽しくたって、悟空が楽しくないんじゃやる意味ないし」とでも思ってこんな顔をしてるんだろうけれども。
この表情は、悟空にとってはかなりの凶悪反則ワザだ。



「……ん〜と/// お、教えてくれればいいだろ?がさ」



思わずドギマギしてしまって、赤くなった顔で慌てて言うと、なにをそんなに照れてるんだろう、と少し考え込むような風情をみせる。
それをみて、悟空はなんとがごまかそうと。



「そ、それに、おめえが楽しそうだとオラも嬉しいし、おめえが楽しいって思ってること、オラも知りてえしやってみてえぞ」



微妙な表情を見せるにそう続ければ、今度はその悟空のセリフにふわっと笑って。



「ありがとう、悟空。前々からわかってはいたけど、改めて、再認識………悟空は、とっても優しいvvv」



嬉しそうに頬を染めて伝えられたその言葉に、悟空は至福を感じてから、ふと。
――――――でも、オラがその『くりすます』ってのを知ってれば、問題なかったんだよな。
自分の一言で、天にも舞い上がりそうな顔から一瞬にしてどん底まで落とされたみたいな表情になったのに、一言も責めないのほうが優しいんじゃないかな、と思いながら、悟空はそのニコフワ笑顔に笑みを返した。














それからは、トントン拍子に事は進み。
悟空が運んできてくれた大きなモミの木もどきの木に飾り付けしたり、俗に言う『クリスマス』についてが悟空に教えたり、クリスマスの日に食べたいものリストを作ったりと、二人して胸躍らせながらその日に備えたりしていたのだが。







「できた! みてみて悟空、初めて作ったケーキ!」

「どれどれ?………なんか、崩れてねえか?」

「手作りって感じでいいじゃん。あるだけで雰囲気出るし、食べちゃえば同じだし♪」



そんな前向きな答えを明るく返しながらいびつなケーキを満足そうに眺める
それに笑って、悟空は夕日のオレンジ色が射しこむその部屋の隅に二人で飾った、大きなクリスマスツリーを見上げた。



「いよいよ今日が、いぶってやつだなぁ」

「うん。ご飯も後は火にかけて終わりだし、なんとか間に合ったね。悟空もイロイロとお疲れ様」



にこ、と笑うに笑顔を返した、そのとき。



いつもは静かなパオズ山の日没間際のこの時間帯に、機械的なエンジン音が非常に近い上空から響いてきた。





「? 誰か、来たのかな?」
「サンタクロースってヤツじゃねえのか?」
「まさか」





顔を見合わせて首をかしげ、それから窓から顔を出して音源である空を見上げてみれば。








――――――なんだか、見覚えのある飛行機が、下降を始めたところで。







「ブルマさんたちだね」「ブルマたちだな」








感じたことのある気配を察した悟空とが、同時に呟いた。















「ハァイ孫くんちゃん! クリスマスパーティーしに来たわよー!」
「よぉ、お二人さん。ちょっと邪魔するぜ」
「久しぶりだな悟空! ちゃんも元気だった?」






地面に降り立ったブルマとクリリンとヤムチャが、いろいろと荷物を抱えて家に入ってきた。



キッチンのほうから香ってくる美味しそうな匂いや、テーブルの上のケーキ、そして部屋の隅においてあるツリーに目をとめたブルマが、突然の訪問にただただ唖然としているご夫婦に意外そうな視線を送る。



「へぇ、ちゃんとクリスマス準備してるじゃない。孫くんのことだからきっとクリスマスやらないんじゃないかと思って、驚かせようと思ったのにね〜」



多分悟空はクリスマスなんて知らないだろうし、もけっこうポケ〜っとしてるから、パーティーでも開いてやろうとやってきたのだが、意外にもちゃんとクリスマスらしくなっている。



「あ、ああ。オラは知らなかったけど、いろいろとに教えてもらってよ」

「てゆうか、こっちの世界にもあったんですか?クリスマス」



ことりと首をかしげて聞いてくるに、やっぱりね、とブルマは軽くため息をつく。



「そりゃあるわよ。年末の一大イベントですもの」



当たり前とでもいうかのようなブルマの顔を見て、は思わず悟空に咎めるような視線を送ってしまった。



「悟空〜〜〜」

「い、いや、わりぃわりぃ。ホントに知らなかったんだって!」



慌てて笑ってごまかす悟空の様に、はぅ、と一息ついてから、は苦笑した。



「やっぱ悟空は、それでこそ悟空だよね」



くすくす笑うの言葉に、まったくだと同意する皆々様。
ひとしきり、悟空の無知さ加減を笑ってから、ブルマがパチン、と手を打った。



「じゃあ、まずは着替えるわよっ!」

「「着替える???」」



きょとんと聞き返す悟空とを見て、ブルマはにっこりと笑い、それからヤムチャとクリリンに目配せした。
すると二人は、大きな荷物の中身をバサバサバサーーーっとその場にぶちまける。出てきたのは、サンタやら天使やらトナカイやらの衣装で。





これはもしかして。否、もしかしなくても。





「こ………コスプレするの?ブルマさん」

「や〜ね〜、コスプレなんて。雰囲気出すためのパーティー衣装よ。ちなみに、誰がどれを着るかはあたしが勝手に決めてきたわ」



にんまり笑うブルマの笑顔に、なんだか焦りを感じる



い、いや、ブルマさんはわたしのことよくわかってるだろうから、わたしの嫌がりそうな服なんか選ばないはず……多分。
ああでも、うろたえるわたしを面白がってるブルマさんのことも知ってるから………たまらなく不安なんですけど。



思ってることがそのまま顔に出たを面白そうに眺めてから、ブルマはふふふ、と笑った。



「孫くんはクリスマスツリーね。それからヤムチャとクリリンはトナカイよ。で、ミニスカサンタはちゃ………」
「わたしイヤ」



最後まで言わせず、キッパリ言い切る
ただのサンタのカッコならまだしも、ミニスカだなんて。そりゃ、芸能人とか小さい女の子とかが着れば可愛いけれど、一般人の主婦がそんなの着るなんて……恥ずかしすぎる。



思いっきり拒否反応を示したに、ブルマはふ〜ん、と黒い笑みを向ける。



「じゃ、ちゃんは天使にする?」

「天使……?は、ミニじゃない?」

「ええ、天使はロングよ」

「…………じゃ、そっちがイイ」



こくりと頷いたを見て、「じゃ、決定ね」となにやら嬉しそうなブルマの弾む声。
その様子になんだか不安が増したのだが、とりあえず、ミニスカサンタよりはいいはずだ、は自分に言い聞かせた。







の作った数々の料理とちょっと形の崩れてるケーキ、それからお客様方が持ってきてくれたお菓子やシャンパンをテーブルの上に並べたあと、男性陣と女性陣に分かれ、着替えに入り。







しばし後。







「動きづれえな、このカッコ」

「ああ、おまえは足がわかれてねーもんな、木だしさ」

「しっかし……この年になってまさかこんなカッコさせられるとは思ってなかったぜ。今まで何回もクリスマスやってきたけどさ、コスプレなんて言い出したの初めてだぜ?」

「え? そうなんか?」

「多分ブルマさん、ちゃんにサンタか天使のカッコさせたかっただけじゃねえ?」

「そうだと思う。ホラ、ちゃんはあたしの専属着せ替え人形』って前に言ってたしな。で、ちゃんだけ着替えさせようとしたって断固拒否されるだろうから、オレたちを巻き込んだ、ってトコだな」





先に着替え終わった悟空、クリリン、ヤムチャの三人。
トナカイのカッコのクリリンとヤムチャは、ご丁寧にも鼻を赤く塗っていて、悟空に至っては顔全体を緑にされていた。





「ピッコロだったらわざわざ塗らなくたって緑だからよ、来年はあいつも呼ぼうかな」
「「悟空、おまえなぁ……」」

宿敵の大魔王を捕まえて、そんな発言をぶちかますお惚け悟空に、呆れたような顔を向ける赤鼻のトナカイたち。



と、そこへ。



「どう?準備できた?………あはははは!ヤダ、気が進まないとか言っときながら、鼻まで赤くしてんじゃないのヤムチャ!」

「やっぱ、やるからには完璧に、だな」

「孫くんなんか、真緑になっちゃって。うんうん、みんなイイわ。よく似合ってるわよ〜」



入ってきたとたん大笑いをするのは、今回の主犯格・ブルマ。
しかしてその格好は。
頭にはサンタ帽、フワフワ襟に白いボンボンをボタンにあしらえた真っ赤なミニのワンピース、そこから伸びたすらりとした足、そして、膝丈のやっぱり白いフワフワのついた赤いロングブーツ。



いつものお色気お姉系とは違い、可愛らしい系のその服もまた似合ってしまうのは、やっぱり美人の特権なのだろう。



「カワイいっすね、ブルマさん」

「ああ、たまには可愛らしい系も新鮮でいいな。似合ってるぜ、ブルマ」



クリリンとヤムチャのお褒めの言葉に、ブルマはふふん、と鼻で笑い。



「当然よ。あたしに着こなせない服なんてないわ」



胸を張って高笑いをするブルマを唖然と見やってから、悟空がことりと首をかしげた。



「それよりよう、ブルマ。は?」

「ああ、ちゃんならそこに……・・・あら?」



振り返ると、後ろからついてきたはずのの姿が見当たらず、ブルマが部屋の扉に戻ってみれば、そこで突っ立ってるがいて。



「なにやってんのよちゃん。早く入ってきなさいよ」
「だって………///」
「ほらっ!」
「うわっ!」



サンタちゃんにグイッと引っ張られて、よろめきながら姿を現した天使さまに、全員が全員。







「「「………………………………………………………///」」」







目を、奪われた。







どんな特殊な仕掛けを使ったのか、頭の上には白く光る天使のワッカ。
ぴったりと身体にフィットしたビスチェタイプのロングワンピースは、もちろん白。
細い首、細い肩、細い腕………なのに、滑らかでやわらかそうな白い肌。
そして、こちらもどんなふうにくっつけたのか、大きく開いた背中から生える、真っ白な翼。










「………本、物……?」

「そんなわけ、ないだろ?………ちゃん、だよな………?」





そんなクリリンとヤムチャの視線の先、は恥ずかしそうにうつむいた。





「……どっちにしても、露出度高めだった(汗)。まだ、サンタのほうがよかったかも」

「あら、そんなことないわ。あたしがそれ着ちゃうと、色っぽくなっちゃうのよね〜。でもちゃんが着ると清楚な感じになるし、本物の天使みたいになるんじゃないかって思ったの。どう?」





いや、「どう?」って。
そんなの、聞かなくても答えなんかわかり切ってるだろう的な問いかけを、あえて聞いてくるブルマ。
その顔はもう、大満足の得意顔。





「はいそこで一番固まってるクリスマスツリーくん。いいでしょ、この天使さま」



ぼ〜、っと天使に見入っていたクリスマスツリーは、話を振られてハッと我に返った。



「あ、ああ。てんしってなんだか知らねえけど……すげえ、似合ってるぞ、



微妙なお褒めの言葉であるが、それでもボン、と顔を真っ赤にしてはにかみ笑う奥様。





ヤベえ…………本気で、可愛すぎっぞ。





「さて、っと。それじゃ、着替えも済んだところで、今夜のメイン、クリスマスパーティーを始めるわよー!」





ブルマの仕切り声に、皆様シャンパンの注がれたグラスを手にして。





「「「「「かんぱーい!」」」」」





合わせたグラスの立てる澄んだ音が、今宵のパーティーの始まり始まり。
















二人きりのクリスマスに憧れてたけれど。
楽しい仲間たちと過ごす前夜祭も、こんなに楽しいものだったんだ。





たくさん笑って、たくさん騒いで、午前零時を過ぎたら、みんなで言おうね。










『Happy Merry Christmas!』










――――――――キリスト様、お誕生日おめでとうございます☆





















二人っきりよりも、みんなでわいわいが好きなんです;
てゆうか…ちょっと待て。いったい今って何月よ?
いくらなんでも遅れすぎだろ管理人!
――――――ゴメンナサイ、紅蓮様っ!(≧人≦;)