ここは、どこ?
わたしは、
………なんて、アホなことやってる場合じゃないっ!どうしてわたしはこうなんだ!!!
いや、バカやってないと、泣きそうなんですよ、ほんと。
なにが泣きそうって、、、またやっちゃったんですよ、迷子。こんな大勢の人ごみの中で、どうしてわたしは悟空の手を振り払ってまで、あんなテディベアに駆け寄りたかったんだろうね?(いや、可愛かったけど)
今更言っても始まらないけど、自分のお間抜けさにいい加減、ウンザリです………。






迷走暴走珍騒動





「はぐれねぇように、しっかりオラにつかまってんだぞ」
「大丈夫だよ〜」
「大丈夫じゃねぇよ、おめぇ迷子になったら一人で家帰れねぇだろ?」
「うっ。………じゃあ、失礼いたします」


ちょっと悟空が過保護なのは、のお腹にお子様がいらっしゃるからで。(現在妊娠三ヶ月w)
それと、そのお子様のためにいろいろと準備をしようと久しぶりに出てきた都会のごった返す人ごみの中、迷子になる可能性が大である、興味津々できょろきょろしている注意力散漫なのため。


その悟空の申し出に妙に丁寧な言葉を返し、照れたようにはにかみ笑いながら、そっと腕をからめる
今更なにが恥ずかしいんだろうとも思いながらも、そんな彼女のしぐさにグッときてしまうあたり、悟空も悟空である。





で、幾分も歩かないうちに。
は、少し先の店先に飾ってあるでっかいテディに目を奪われ。
するりと悟空の腕を解いて―――――――――走ってしまった。
ショウウインドウにはりついて、「可愛いねっ!」とにっこり振り返ったら、頷いて答えてくれたのは悟空ではなく見知らぬ都会的な男の人だった。



「その熊のぬいぐるみも可愛いけど、キミのほうがずっと可愛いよw」
「――――――――――――――――…………あれ? あれれ???」


歯の浮くような台詞を言ってくる男なんか思いっきり無視して周りをきょろきょろと見回すが、彼女のだんな様の姿は見当たらず、じわじわと冷や汗と焦りが胸に広がってくる。



どうしようっ!!!!!
言ってるそばから迷子になっちゃったよわたしっ!!!!!



…………いやでも、まあダッシュしたことはしたけど、ほんの少しだったし、落ち着いて悟空の気を探せばすぐに見つかるはず。
すぐにそう思いつき、大きく深呼吸しようと思ったのに。



「ねえ、キミひとり? よかったらお茶しない?」



どうも勘違いさせてしまったらしい先ほど間違って微笑みかけてしまった男の人が、馴れ馴れしくもの肩に手を回してきたもんだから、落ち着いてるどころではなくなった。



「あ、あのっ!あの!!!」

「ふふ。真っ赤になっちゃって、ほんと可愛いね。この先にさ、お洒落な喫茶店あるんだ。行ってみようよ」


半ば強引に連れて行かされそうになったは、急いでその手を振りほどき。


「わ、わたし!ひとりじゃありません!!人妻です!!!妊娠だってしてるんです〜〜〜!!!」


男慣れしていないため、極度の緊張にパニックを起こし、さらには余計なことまで口走りながらなりふりかまわずその場から逃げ出した。





――――――――――――そして、更に迷子の深みにハマり、今に至るというわけだ。





バカだバカだと自覚はしていたけれど。
ここまでバカだったとは。
目先のことしか考えられない単純な自分を、何度反省したら気が済むのか。どう行動したらどうなるかなんて、少し考えればすぐにわかることだったのに。
こんなんで、ちゃんとお母さんになれるのかな…なんて、思わず自分のお腹に手を当ててみる。



………ハッ!!!
ダメだ、こんなところでいつまでも自己嫌悪なんかしてたら、それこそ弱虫さんだ。しっかりしなくては!



そう自分に言い聞かせ、は潤みかけた目をグッとこすって顔を上げた。
そのとき。



ドンッ!!!



誰かが後ろからぶつかってきて、よろけたをそのまま羽交い絞めにした。


「!?!?」

なになになに!? なにが起こったの!?!?


状況を把握できずにまたまた混乱しかけるの顔に、なんだか冷たいものが当たって。


「動くな。動いたら殺す」


羽交い絞めにされたまま、低い男の声で耳元で囁かれ。
わけがわからなかったけれど、「殺す」の一言にビビッてとりあえずもがくのをやめてみた。


そんなの目が次に捕らえたのは、多分自分を押さえつけている男を追ってきたと思われる、複数の男たち。制服からして警察の方々だろう。
がつかまってるのを見た警察官たちは、いっせいに足を止めた。



「それ以上近づいてみろ!こいつを殺すぞ!!!」


頬っぺたに当っていた冷たいものを今度は喉元に突きつけられて、一瞬瞳に映ったきらりと光る刃物。ちょっと落ち着いてきたが自分を羽交い絞めにしている男に視線を流せば、サングラスとマスクで顔を隠し、右手には今自分に突きつけているナイフ、左手には大きなボストンバッグ。そのバッグの口から、紙幣が乱雑にのぞいている。

強盗さんと、それを追ってきたおまわりさん…ってところかな。ということは、わたしは人質ってヤツ???
と、頭の中で自分の置かれた状況を冷静に確認。


「そ、そんなことをしても、ムダだ!この先は行き止まりだ!」
「罪が重くなる前に、人質を放しておとなしくこっちにくるんだ!」


警察がそう言いながらじりじりと近づこうとすると、男はに突きつけた刃物を軽く滑らせた。


「近づくなと言っただろう!!!本当に殺すぞ!!!」


警察がぴたっと立ちすくんだ様子と、チリッと痛みが走ったことからいって、多分少し切れたんだろうな、とのんきに思う
妊娠初期は安静にしろってお医者さんにも言われているが、この状況下でそうも言っていられない。
タダの人間相手なら、たとえ武器を持っていたとしたって簡単に逃げ出せる自信はあるし、羽交い絞めにしてるこの腕だって簡単に外せるくらいの力はある―――――――――体調が万全ならば。


運悪く、急にの目の前が暗くなり、吐き気が襲ってきたのだ。

こんなときに、つわりですか………。


意気揚々と暴れようとしていた身体から、力が抜ける。
同時に、首筋に重たい衝撃が走って、の意識はすこんとなくなった。















そんでもってこちらは、奥様においていかれただんな様、孫悟空。
自分の腕にからんできたの細い腕と、上目遣いのはにかみ笑いにやられてしまったのが、そんなに悪いことだったのか。
とにかく、その幸せをかみしめて油断していた隙を狙ったかのように(別に狙ってなどいない)、するりと解けたその腕。
気付いたときにはどこかに走っていくの後姿だった……。

大方、また何かに目を奪われたのだろう、ダッシュで消えていくその華奢な後姿を呆然と見送ってしまった。
いくら速いといったって、人ごみのすごいこの街中だ。呆然となんかしないでさっさと追いかけていれば、すぐに捕まえることができたのに。後悔先に立たず、である。



「ふえ〜ん、ママ〜!」


我に返って追いかけようとしたところで、泣きながら走っている小さな男の子を視野におさめてしまった。
焦ってはいるものの、そこは人のいい悟空。泣いてる子供を無視するなんてできるはずもなく。


「どうした?はぐれちゃったのか?」

自分のとなりを走り抜けようとしたその子を捕まえて、目を合わせるようにしゃがみこむと、男の子はしゃくりあげながらこっくりと頷いた。

「うん、ちゃんと手を繋いでなくちゃいけなかったのに、ひっく、ぼ、ボクおもちゃが見たくって、一人で走っちゃったら、ひっく、ママ、いなくなっちゃったんだ!」

さっきのとおんなじだな…、なんて軽くため息をつきながら、泣きながら必死で訴えてくる男の子の頭に悟空はポン、と手を乗せてから、ひょいっと担ぎ上げて肩車をして。

「男の子が簡単に泣くな。一緒に探してやっからさ。でもな、オラの連れも迷子んなっちゃってるから、そいつも一緒に探してくれっか?」

そう言って笑いかけると、男の子も笑顔を返して。

「ありがとう、おにいちゃん! おにいちゃんのお友達って、大人の人?」
「ん〜、そうだな。おめぇに比べたらおねえちゃんだなぁ」
「大人の人も迷子になるんだねっ!」


涙を腕でごしごし拭ってすっかり元気になった男の子の言葉に、悟空は軽く苦笑する。

「ああ、しょっちゅう迷子んなってるぞ」

泣いてなきゃいいけどな、なんてちょっと心配そうに言いながら、その子のお母さんとを探すべく、肩車をしたまま悟空は歩き出した。





程なく男の子の母親は見つかり、お礼を言われ、「おにいちゃんのお友達も、早く見つかるといいね!」と手を振る男の子にとりあえず笑顔を返す。
母親と手を繋いで歩いていくその子を見送りながら、自分も父親になるんだよな、と思うと自然に頬が緩んでしまう。

やっぱり、元気な男がいいな。鍛えて、一緒に修行して、組手なんかしたら楽しそうだ。
ああでも――――――に似た可愛い女の子も捨てがたい。
どっちにしても、自分との子だから、強いことは間違いないよな…………って。



今はそれどころじゃねぇ!!!
さっさとを探さねぇと!!!!!



あわてて思考を切り替え、の気を探す。
人がとにかく多いからすぐに見つからないかもしれないと思いながら集中すれば、さほど遠くない位置にその気配を見つけてホッとする。
けれど、気配を感じるこの距離なら、だって自分の気を感じているはずなのに、なんで戻ってこないのか。
もしや、体調でも悪くなったんじゃ………っ!



妊娠してからのは、普段はいつもと変わらないのだが、急に吐き気を催したりなんだかダルそうにボーっとしていたりいきなり貧血起こしてふらふらと床に座り込んだりと、どうにも体調が思わしくないときがけっこうあるのだ。
本人曰く「別に病気じゃないんだよ?ちょっと休めばすぐ良くなるし。なんかねぇ、『安定期』ってのに入れば治るんだって」と笑ってはいるけれど、悟空としてみればやっぱり心配は心配なわけで。



けっこう近くにいる=自分の気を感じている=すぐに戻ってくるはず! なのに、一向に動かないの気配に悟空はものっすごく心配になり。
この人ごみを気にせずに自分が思いっきり走ったら、多分…いや、ゼッタイ怪我人が出ると判断した悟空は。

周りの人々の唖然とした視線をものともせず、ふわっと武空術で空に浮き上がると、超スピードで彼女の気配に向かった。















「どうです親分。上玉でしょう」
「ふむ。コレなら高く売れそうだな」

気付けば後ろ手に縛られていて、なんだか倉庫みたいなところの一室に閉じ込められていた。
軽く切られた喉元と、多分意識を失くさせるために殴られた首筋が、いまだにズキズキ痛みを訴えてるけれど、とりあえず生きていることと下っ腹が痛くないことにホッとする。


さて逃げますか、が立ち上がったとき、さっきの強盗さんが太ったでっかくて目つきの悪いおっさんを連れてその部屋に入ってきて―――――――――で、なぜか売る売らないの話になっている。

品定めするかのようにじろじろと見られて、どうも不快な気分になり。
さらには「高く売れる」なんて、まるで人を物みたいに………ってゆうか。


「あの、なんか勘違いしているようですけど」

ことりと首をかしげて、は強盗さんと太っちょさんとを交互に見てから。

「わたし、コレでも一応人妻で、しかもお腹にお子様がいらっしゃるんです。なので、高くは売れないかと思いますよ」


フワフワ笑うを見て、悪人二人が面食らう。
さらわれてきて、さらには売り飛ばされそうなこの状況下で、なんでこんなに落ち着いているどころか笑っていられるんだろうか、この女は。


そんな悪党にはおかまいなしではきょろきょろと部屋の中を見回し、手近にあった窓枠に寄ると、ぽかんと自分を見ているその二人を振り返った。


「そういうわけなんで、さよならです」


切られて殴られて売られそうになったんだから、自分でやっつけちゃおうかとも思ったのだが。
きっかけを作ったのは、まぁ、自分の不注意で迷子になってしまったからってのも一理あるし。
それに、両手を縛られているこの状態で、果たしてうまく手加減できるかどうか微妙だし、なによりも『安定期』までは自粛しようと思い直し。



「それと、人のお金を強盗したり人をさらって売ったりするのはいけないと思うんで、おまわりさんにこの場所と貴方たちのこと、話しちゃいますね」

それでもやっぱりアタマにきてることには変わりないので、「まったく胎教に悪いんだから」なんて不機嫌になりながらそう言い放ち、窓を破って外に出ようと思ったとき。



がっしゃーーーん!!!!!



ーーー!!!」
「は、はいぃい!!!」




まさに今、が破ろうとしていた窓が、派手に外側から割られ。
同時に外から飛び込んできた人物が、大声で自分の名前を呼びながら窓からその部屋に突っ込むように入ってきて。
並々ならぬ反射神経が作動して、飛び込んできたその人物の攻撃(?)をかわしながら、は律儀に返事をした。

飛び込んできたのは、言わずもがな、悟空。
必死な面持ちでその部屋をぐるりと見回し、驚いたように自分を見るに視線をとめた。

………はぁ。無事でよか―――――――――じゃねぇ!!!」


悟空は一瞬緩めかけた表情を、再びお怒りモード全開にする。それもそのはず。
悟空の瞳に映ったその姿は、後ろ手に縛り上げられ、あまつさえ、その白い首に滲む、赤いもの。



「誰に………やられた?」


悟空が静かにのそばに歩み寄り、細い手首に食い込んだロープを解きながら低〜い声を出した。



これは、怒ってる。かな〜り、怒ってる。
確かに、確かに頭にきてるのはだって同じだし、正直ぶっ飛ばしてやりたいと思ったのも事実だけど。
今の悟空に「あいつらがやりました」って言ったら、瞬殺しちゃうんじゃないだろうかって懸念するほどに、悟空は怒っていた。



「あいつらだな?」


思わず心配そうに悪党二人に流してしまったの視線に気づき、悟空がその視線の先の人物にギラリと鋭い目を向け、部屋の隅で呆気に取られていた二人は、その怒視線にビクリ、と大きく肩を震わせた。


「あ、あのね悟空! えと、確かにこの人たちがわたしのことここに連れてきたし、わたしだってけっこう怒ってるんだけどね!こ、殺しちゃ拙いと思うわけよ。ここは警察に任せて……」
「殺したりしねぇよ。ただ―――――――――ぶっ飛ばして警察に連れてくってんならいいだろ?」


あたふたと焦ったように必死なに、悟空はにっこりと、それはもうにぃ〜っこりと爽やかな笑みをその端正なお顔に浮かべる。



ああ、悟空。
とっても素敵なその笑顔。でも今は――――――――――――恐怖しか感じません……(汗)


ちょっともう、庇いきれない、と諦めたは、夜叉の表情で縮み上がる二人にゆっくり向かっていく悟空の背中に、本当に殺さないでよ、と小さく祈りをこめた。















そして数分後。
ボッコボコにした強盗さんたちを警察に引き渡し、めでたしめでたし、となるはずが。


「ったく、あんまり心配かけんなよ。オラにつかまってろって言ったのに」
「ご、ごめん。今度から気をつけます。。。」


暴走したことを軽く窘めれば、眉を情けなく下げて素直に謝罪する
もうちょっとお小言を言ってやろうと思っていたのに、そんな顔をされてしまってはどうにもそれ以上言いづらくて。

小さくなっているを引き寄せれば、何の抵抗もなく腕におさまる柔らかさ。
自分の胸に顔を埋めながら、小さく「ごめんね」と囁く彼女が、なんとも言えず可愛くて。


くいっとあごを持ち上げて、喉元についた傷口に唇を寄せれば、ピクン、と小さく反応する躰。



「痛かったか?」
「ん……今は大丈夫」


頬を染め、上目遣いに見上げてくる潤んだ瞳に疼いてしまう本能。
父ちゃんになるんだから多少は我慢しなきゃならないとは思うものの、愛しい存在がすぐそばにいて、こんな表情を見せられては、そんな理性の壁などもろいものだ。



「さて、帰ぇるぞ」
「え?でもまだなんにも買ってないよ?」


誤魔化すように立ち上がった悟空がに手を差し伸べ、その手を取ってそれに倣うが怪訝そうに聞いてくる。
どうにも鈍いやつだと苦笑してから、不思議そうに自分のほうに顔を向けるの唇に軽く自分の唇を重ねた。



「な?帰ろうぜ?」
「――――――――――――うん///」



無邪気ににっこり笑う悟空に、真っ赤になって視線を泳がせながら答える


















お子様ができても、二人の甘い生活は、さほど変わりはないらしい。。。




















う〜〜〜、び、微妙ですねぇ…(汗)
タダの強盗と悟空が対決したら、一瞬で強盗抹消ですのでっ!
リクくださったアキ様、ありがとうございました♪こんな微妙ですいませんm(__)m
読んでくださった様、感謝です!