「ックシュン!」
夜、横になったがくしゃみをした。
「、風邪か?」
「う〜ん、そうかな?でもなんともないし、誰かがうわさしてるんだよ、きっと」
そう言ってほわっと笑うをいつものように抱き枕代わりにして。
「オラののうわさをするのは、どこのどいつだろうなぁ」
ぎゅう、といつもより力をこめて抱きしめる。
「………冗談だよ。悟空さん、ブラック出てますよ〜?」
クスクス笑い出すの額に軽く唇を寄せ、悟空はその柔らかくて温かい感触に幸せを感じながら目を閉じた。
「おやすみ、」
「ん、おやすみ、悟空」
熱を出した日
いつものように朝の基礎トレの後に食材を取って帰った悟空に、は笑いながら「お帰り〜」と言ってくれた。
そしていつものように悪戦苦闘しながらそれを違う形に変えて、料理してくれた。
「うん、今日もうめぇ!は料理が上手だな!」
「ありがと悟空。褒めてもらえると毎日頑張ってる甲斐があるよ」
がつがつ勢いよく食べてた悟空の手が、の笑顔を見て一瞬止まった。
「、食わねぇのか?」
さっきから箸で料理を突っついてはいるが、一向に口に運ばないのに気づいて悟空が尋ねると、はギクリ、と肩を震わせてから慌てて取り繕った笑いを浮かべる。
「そ、そんなことないよ、食べてるよ」
そう言って突っついていたそれを口に入れ、ゴクンと一口食べたけれど、それ以降はまた突っついている。
「食欲、ねぇみたいだな。具合でも悪いんじゃねぇか?」
「全っ然!!!今日もニコニコ現金払いよ!!!」
悟空の問いに力いっぱい答え、びっと親指を立てて意味不明なことを言うに、悟空は思いっきり疑惑の目を向けた。
は神殿にいるときも、どんなにひどい怪我をしても絶対修行を休まなかった。
見てるこっちが痛々しくなることもしばしばで、頑張り屋で我慢強いヤツなんだなって認識していた。
そんな彼女に「大丈夫か?」と問いかけた際、痛ければ痛いほど「大丈夫!!!」の答えが力強かったことを鮮明に覚えている悟空は、今の不自然に力強いの答えに食べていた手を止めて。
「」
「なに?…っわ!やー、触っちゃダメッ!」
その額に触れようとすれば、急いで席を立って逃げるの行動に、悟空は更に疑惑を強める。
「コラ逃げるなよ。なんで触っちゃダメなんだ?おめぇ、熱あるんじゃねぇのか?」
「ないよないない!ゼンゼン大丈夫だからっ!だからそんな追い詰めないで〜〜〜!」
背中に壁を感じたににじり寄り、両手を壁について逃げられないように閉じ込め、の瞳をとらえる。
「ほら、もう逃げらんねぇぞ。観念して触らせろ」
「う〜〜〜〜」
変に唸るの返事を待たず、悟空はこつん、と自分のおでこをのおでこにくっつけて。
次の瞬間を抱き上げ、有無を言わさず寝室に運び込み、ベッドに寝かせてふとんをかけた。
「大丈夫だよ悟空。すぐ治るから」
「大丈夫じゃねぇよ、すげぇ熱いじゃねえか! いいか、絶対起きるんじゃねぇぞ!!」
「だって……タダの風邪だし、病人扱いされるとほんとに病気のような気がしちゃうんだよ〜」
「病人扱いも何も、そんだけ熱ありゃ風邪だってなんだって立派な病気だ!いいからおとなしく寝てるんだぞ!!!」
「―――――――――はぁい」
悟空の剣幕に、はしぶしぶ起き上がるのを断念した。
朝起きたときから、な〜んか、身体が重くてだるいな、と思ってて。
さらには背筋に悪寒を感じて頭がボ〜っとしてることから、熱でも出たかな、と自覚はしてたけれど。
――――――こんな、寝込むほどじゃないのに。
ベッドに横になりながら密かにため息なんかついて、悟空の過剰反応に抵抗してもムダだと諦めたは、おとなしく目を閉じた。
目を閉じたを確認して、悟空は寝室から出るとあわててタオルを取りに行った。
とりあえず冷やさなければと、氷をがりがり細かく砕いて袋につめて、それを持ってきたタオルに包むと、急いで寝室に戻る。
ほんの五分くらいだったはずなのに、はもう眠ってしまっていて。
熱のせいだろう、小さく開いた口から漏れる息が少し上がっていて、汗の浮いた真っ赤な顔。
閉じられた瞼の先、長い睫毛が小刻みに震えている。
汗で額に張り付いている髪をかき上げると、「ん…」と小さく身じろいだ。
「ったく。オラの前でまで頑張んなくたっていいのによ……」
きっと自分では頑張ってるなんて思ってないんだろうし、多分それがの性分といえばそうなのだろうけど。
少しくらい、もう少しくらい、甘えてくれてもいいのにと思ってしまう悟空である。
額に軽く唇を寄せれば、やっぱりいつもよりもずっと熱い。
昨日抱いて眠ったときは熱があるなんて感じなかったのに………。
手に持っていたタオルを乗せると、綺麗に整った柳眉がぴくり、と動き、うっすらとが目を開けた。
「あ、ごめんな。起こしちゃったか?」
悟空の声に、軽く瞬きしてからゆっくりと、視線を動かす。
熱に潤んだ瞳が悟空を映すと、フワン、と笑う。
「ううん。あ〜、気持ちいい」
切れ長の目が、細められる。
赤いかお、潤んだ目、速い息。
そして――――――――――――気だるそうなその雰囲気。
それはもちろん、すべては熱に浮かされているためなのに、妙に色気のあるその様子に、思わずドキドキしだす胸。
病人つかまえて何を考えてるんだ、とあわてて頭を振る悟空に気づくことなく、は自嘲的な笑みを浮かべた。
「なんで熱なんか出たんだろ?情けないなぁ……。ごめんね悟空、心配かけて」
この期に及んでまだ遠慮がちなに、悟空は軽く苦笑する。
悟空にしてみれば、たとえ病気じゃなくたって、のことは常に気にかけてるんだから、謝ることなんか何にもないのに。謝るくらいならむしろ、もっと甘えて欲しいのに。
「なぁ、おめぇさ、オラにもうちょっと甘えてみねえか?」
「………は?」
わからなかったのだろう、がきょとんと見返してきて。
悟空はその澄んだ瞳を覗き込んで、柔らかく笑って熱い頬に触れる。
「うん。はちょっとムリしすぎだぞ。それがおめぇの性格なのはわかるけどさ、具合が悪いときは我慢することなんかねえし、休みたいときは休みたいって言っていいんだぞ。オラの前でくらい、な?」
悟空の優しい目に、胸がいっぱいになってしまった。
自分でも気づいてなかった、無理をしていたなんて。だって、こっちの世界に来てひとりになっちゃったんだから、強くならなくちゃって、自立しなくちゃって、知らずに自分に言い聞かせてたから。
心配させちゃいけない、もっとしっかりしなきゃって、いつも肩に力が入っていた、その事実。
それが普通になっていたから―――――――――無理してるなんて、気づかなかった。
「そんな熱出して、隠して笑ってたって、オラそっちのほうが余計心配だぞ。心配させたくねぇんだったら、ムリすんな」
そう言って頭を撫でてくれる悟空の手が、あったかくて。
朦朧としている意識の中にふってくる悟空の声が、すごく、すっごく優しくて。
ああそうか、わたし、無理する必要なんかなかったんだ。
悟空は、弱いわたしだってちゃんと包んでくれるんだから。
今頃、そんなことに気づくなんて。
でも、甘やかされて頑張れなくなるのも実際のところ悔しいから、体調の悪いときとか、挫けそうなときだけ、甘えさせてもらおう。この、優しい瞳に。
「………うん。じゃあ、今日は甘えても、いい?」
ボーっとする頭がそのまま出たようなボケボケな声でそう聞いてくるに、悟空は優しい笑顔を返す。
「もちろんだ」
悟空の答えを聞いて、はふとんから手を出した。
「手、繋いでてくれる?」
上目遣いののお伺い。
ことりと傾げられた首と、ウルウルと潤んだ瞳が、ものすごく可愛くて。
その様子に緩々になる頬のまま、悟空が差し出された手を握れば、安堵したように目を閉じる。
「ずっと、ここに、いてね。どこにも、いかないで」
「わかった。ずっとここにいる。が、早く良くなりますように」
そう言って熱を持つ頬に軽く唇を落とすと、は目を閉じたまま緩やかに微笑んだ。
それから、どれくらい時間が経ったのだろう。
気がつけば、寝室には西日が射していて、その光に照らされて悟空は目を開けた。
いつの間にか自分も眠っていたのか、と目をこすりながらの様子を窺おうとベッドに視線を流せば、横になっているはずの彼女の姿がそこにない。
「!?」
驚いて立ち上がると、肩から毛布が落ちた。
がかけてくれたのだろうけれど、今はそれどころじゃない。
あんなすごい熱でどこに行ったんだ!?と焦りながら部屋を飛び出せば、風呂場のほうから鼻歌が。
当然のことながら、悟空はダッシュで風呂場に向かうと、勢いよくそのドアを開けた。
「!おめぇなにやって………」
悟空の声が途中で途絶える。
そこで悟空が目にしたのは、シャワーに打たれるの白い背中。
ビックリしたように振り向いたが、次の瞬間、カァッ、とその顔を朱に染めて。
「っっっぎゃーーー!!!やだやだやだエロ悟空!!!早く出てってーーー!!!」
「ご、ごめん!!!」
バッシャン!と浴槽に飛び込むに思わず力いっぱい謝って、悟空はあわてて扉を閉めた。
――――――――――――って。
腕を組みながらリビングまで戻ってきた悟空は、心配して見に行ったにもかかわらず、なんで「エロ悟空」なんて言われなければならないのか、としきりに首をひねる。
そりゃ、一線を越えたとはいえ、極度に恥ずかしがり屋のとはまだ一緒に風呂に入ったことは一度もないが――――――じゃなくて!
今心配すべきはそんなところではなく、「病気のが何故バスルームにいたのか」というところだろう。
あんな身体で風呂になんか入って大丈夫だったのだろうか、と今更ながらきちんとした疑問が脳裏をかすめると同時に、
軽い足音と共にが姿を現して、目が合った瞬間ガバッと頭を下げた。
「怒鳴ったりしてごめんね悟空!急に出てきたからビックリしちゃって」
「あ、ああ、それはいいけどさ。それより、大丈夫なんか?そんな身体で風呂なんか入って」
悟空が心配そうにの顔を覗きこむと、は何も言わずにくすっと笑って、こつん、と。
悟空の額に自分の額をくっつけた。
その近い距離に、何よりもまず騒ぎ出す、心臓。
「………悟空のお祈り、効いたみたい」
「は?」
「『が、早く良くなりますように』って、言ってくれたでしょ?」
ああ、確かに言ったけど―――――――――ってゆうか、熱。
「下がったな、熱」
「うん。汗いっぱいかいちゃって、気持ち悪かったからとりあえず流そうと思って。とにかくそんなわけで、ご心配おかけしましたっ!」
にっこり笑うの顔に、ようやく感じる、心の底からの安堵感。
たまらずギュウッと抱きしめれば、ふわりと香る、石鹸の香り。
「あ、あの……悟空さん?」
「はぁ…。元気になってよかった。あのまま死んじゃったらどうしようかと思ってたんだ。オラ、おめぇがいなくなるのが一番怖い」
悟空の長い吐息が熱くて震えていて、も胸が熱くなる。
「大丈夫だよ。わたしはずっと悟空のそばにいる。どこにもいかない」
子供をあやすようにポンポン、と背中をたたいてくれるの手が温かくて。
悟空は腕の中のぬくもりに安心したように笑顔を浮かべた。
「今日は、甘えさせてくれてありがとう。悟空も辛いときとか具合が悪いときとかは、わたしに甘えていいからね」
がそう言って、背伸びをして悟空の頭を撫でた。
そのしぐさも、その笑顔も、その温もりも、何もかも。
すべてが、愛しくて。
「ああ。そうさせてもらうぞ。――――――今からな」
「……って、はいぃ!?!?」
「オラ、いっぺえのこと心配して、気疲れしてんだよなぁ。だから、さ」
抱きしめていた身体を軽々抱き上げて。
真っ赤になってさまよう瞳をとらえていたずらっぽく笑う。
熱に浮かされていたの色気に既にやられていたということは、黙っておこう、と。
そんなふうに思いながら、悟空はにそっと口付けた。
もっと一生懸命看病してもらおうと思ったのですが…。
あんまりいじめるのも可哀想なので、この辺で;
…すいませんっ!こんな妄想の産物で(汗)
リクくださった舞華様、どうもありがとうございました&こんなので申し訳ありませんっ!
読んでくださった様、Thanksでしたw

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