暑すぎず、寒すぎない、そんな穏やかな秋の昼下がり。
太い幹に背中を預け空を仰げば、そよ風になびく色づいた葉の間から、高い青空が覗いている。
「いい天気だな〜」
ふふふ、と惜しげもなく笑顔をこぼしながら小さく呟いたが、気持ちよさそうに目を閉じたとき。
「ああ、そうだな」
「!?!?」
まさか独り言に返事があるとは思いもよらず、ビックリして振り向いたその視線の先。
見知ったその顔は、秋なのにやっぱり新緑だった。
Feel Feel Feeling
驚いたように目を真ん丸にして自分を見ている瞳は、陽の光を受けて明るくきらめく鳶色。
穏やかな風にさらさらと流れる茶色がかった黒髪。
纏う気配は今日も今日とて穏やかで柔らかく、不思議と心を和ませる。
「……あー、びっくりした。こんにちは、ピッコロさん」
胸を撫で下ろし、次いで向けられたその笑顔に、胸がざわつくのはいつからだろう。
そんなことを思いながら、ピッコロはその柔らかい表情から目を逸らして空へと視線を戻した。
「何を驚くことがある。オレ様がいつからここにいたと思ってるんだ」
「――――――いつからいたの?」
「…………気づいてなかったのか?」
帰ってきた返答に、逆に驚き彼女を見れば、きょとんと見上げてくるそのお惚け顔。
こんなどうにも間の抜けた女だが、気配も消していない自分に気づかないほど未熟ではない。
それどころか、今この瞬間の彼女を見ていればまったくもって信じられないが、実力からしたら自分と同等、あるいはそれ以上の力を持っているのだ。
「油断しすぎだろう……」
思わずため息混じりに呟けば、はまたもやフフフ、と笑う。
「油断してるわけじゃないですよー。てゆうか……ピコさんだから、油断しちゃった、っていうのかなぁ」
「なんだそれは」
「だから、ピこさんだったら別に油断したって、攻撃してくることなんかないでしょ?」
絶対的信頼、とでもいうのだろうか。
かつては大魔王として名を馳せた自分に対するこの言葉に、微妙な気分になると同時に、なにか、暖かい感情が湧いてくる。
「フン………」
照れ隠しに顔を背けても、特に気にした様子もなく、ほんわり笑いながら空を仰ぎ、それからふと気づいたようにピッコロに顔を向けた。
「ごめんねピコさん、今悟飯いなんです」
「そんなことはわかっている。近くに悟飯の気配がないからな。……孫のやつも、まだ帰っていないようだな」
「………うん。まあ、ね」
ナメック星でのフリーザとの戦いの後、勝利を収めた悟空はいまだ地球に帰ってこない。そのうち自分で帰るって言ってるらしいけれど、「そのうち」がいつなのかもわからない。
目を伏せて寂しそうに笑うの様子に、ピッコロは何故だか自分もやるせない気分に襲われる。
「そんなに心配せんでも、そのうち帰ってくる。孫がそう言ってるんだ」
思わず口をついて出てきたのは、彼女に対する慰めの言葉。
本当、らしくない、と思うものの、彼女の寂しげな顔はなぜか見たくない。認めたくはないが、彼女の柔らかい笑顔がいつも脳裏にちらついて、いつでも笑っていてもらいたい、なんて思ってしまう。
いったいなんなんだ、この得体の知れない感情は。
孫一家にかかわるとどうにも調子が狂うが、その中でもは特に自分をおかしくさせる。
小さくため息をついてからを見れば、信じられません、みたいな顔をしていて。
「………なんだ、その顔は」
「や、ちょっとびっくりしちゃいまして。いつも人を小バカにしてフフンとか笑ってるピコさんが慰めてくれるなんて、思ってもみなかったから」
「っ! そ、それは……だからその………っ、別に慰めてやるつもりは………」
思いっきりストレートに切り返されたピッコロは、性格上まさかの寂しそうな顔が堪えるなどと言えるはずもなく。
しかしてうまく切り抜けられる答えも見つからず、視線をうろうろと彷徨わせ口ごもる。
そんな自分の様子がおかしかったのか、立ち上がったがピッコロの定まらない視線を捕らえて、クスリ、と笑う。
「ありがとう、ピッコロさん。悟飯があなたを好きなわけ、改めて理解しました。悪ぶってるけど、ホントはすごく優しくていい人なんですよねー。わたしも好きですよ、ピコさん」
「す、す、す、好きっておまえ! おまえは孫の――――――」
「やだなピコさん、なに慌ててるんですか。変な意味の好きじゃないですよー」
「好き」の一言に異常な反応を示すピッコロの様子に声を上げて笑ってから、は悪戯っぽくそのワタワタと慌てている顔を覗き込み。
「ピコさんってば、純情なのね。悪い女の子に騙されないように気をつけてね」
「だまっ!!! そんなことあるわけがなかろうっ!!! オレ様はピッコロ大魔王様だぞ!!!」
「うんうん。そだねー。きっと、ピコさんのこと特別に好きになってくれる人が現れるよ」
「話にならんっ!!!」
真っ赤になって怒るピッコロと、クスクスと笑う。
呆れるほどまっすぐに、自分の思いを声に乗せることのできるが、うらやましい。
そのホンワカ笑顔に捉えられ、素直すぎるその心根に引きずられ。
「風が強くなってきたから、家の中に入りませんか? そろそろ悟飯も帰ってくると思うし、美味しいお水、入れますよ」
くるり、ときびすを返すの背中に。
「オレ様もきっと、おまえが好きなんだろうな………」
「え? なにか言いました?」
「いや、なんでもない」
その小さな呟きはには届かず、風に舞う木の葉とともに、空高く運ばれていった。
その後、家の中にて。
「あ〜あ、悟空、冬になる前に帰ってきてくれないかなぁ…」
「何故だ?」
「だって、冬のひとり寝は寒いでしょ? ギュ〜ってして寝たいの、ギュ〜ってして!」
…………その一言に撃沈したピッコロを見て、程なく帰ってきた悟飯がたいへん心配しておりましたとさ。
お誕生日プレゼント、ということで書いてみたのですが…
す、すすすすみませんっ!こんなので;;;
お気に召されなければポイしてゼンゼンかまいませんのでっ!
そんなこんなで、お誕生日おめでとうございます、カテキンさん☆

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