「はさ、あんまり自分からちゅーとかしないよな」
「………は!? い、いきなりなに言い出すかな悟空?」
なにがどうしてそんな話になったのか。
なんとなく不満そうな顔で言った悟空の言葉に、は頬っぺたを高潮させた。
「だってさ〜、いっつもオラばっかりのこと愛してるみてえでさ。たまにはからぎゅ〜ってされたりしてえんだぞ」
「だって…………恥ずかしいんだもん///」
真っ赤になってうつむく。
本当にごく稀に、からくっついてきてくれるあの感じがたまらなく幸せで、ちょっとそんなふうに言ってみた悟空だが、結婚してもう三ヶ月になろうというのにいまだに極度の恥じらいが健在な彼女も、実際のところとても可愛いと感じてしまうのも事実だ。
「ま、いっか。寝ようぜ」
「う、うん///」
どっちがいっぱい愛してる?
で、ふとんに入ったはいいが。
は寝る前に言われた悟空の言葉が気になって、なかなか寝付けないでいた。
そっと自分を抱きかかえるようにして眠っている悟空の顔を窺い見る。
温かい腕の中で感じる悟空の体温は、いつも同様、すごく心地よくて。くっついているが故に耳に入ってくるその柔らかい鼓動に、ひどく安堵する。
触れているすべてのところから、悟空の「愛してる」が伝わってくる。
それが、ものすごく幸せなのに。
『オラばっかりのこと愛してるみてえでさ』
――――――――――――そんなこと、あり得ないでしょ。
だって、悟空のことをすご〜く、悟空に負けないくらい愛してる。
それなのに、こんなに想ってるのに、悟空にはそれがうまく伝わってないみたい。
悟空が自分の愛のほうがの愛よりも強いんだと思っていることに軽い敗北感を感じてしまい、こんなところで負けず嫌いを発揮することもないのに、それがなんだかおもしろくない。
言葉だけじゃ、ダメなんだ。
………いや、だめってほど自分の気持ちを口に出したこともなく、数えるくらいしか言ってないけれど。
でも、自分が感じている『愛されている』という最高に幸福な気分を、誰よりも愛している悟空が感じてくれていないらしいその事実が、なんだか悔しい。
ここはもう、悟空に負けてなんかいられないっ。恥ずかしいなんていっていたら、悟空はずっと「オラのほうがのことを愛してんだぞ、フフン」と思い続けるに違いない!
「悟空に負けっぱなしなんてやだ。ぜ〜ったい、わたしのほうが悟空のことを愛してるって思わせてみせるからね」
子供みたいにあどけない悟空の寝顔に、聞こえてないとは思いつつもそう話しかけ、はひとりググッとこぶしを握りしめ―――――――――ぶっ飛んだ思考で決死の覚悟を固めた。
それからかれこれ数時間後。
カーテンの隙間から差し込む朝日と小鳥のさえずりの声に目を覚ましたは、いまだ夢の中の悟空の腕をするりと抜け出して身支度を整えると、寝室を後にした。
いつものようにキッチンでお湯を沸かしながら、はす〜、は〜、と大きく深呼吸をする。
自分がいなくなると、すぐに起きてくる悟空のことだ。多分、もうすぐここに顔を見せる。
そう思うと同時に案の定、悟空の気配が動いた。
「………よし。では戦闘開始」
小さく呟いて、は悟空が姿を現すのを待ち構えた。
の気配が離れると、悟空は必ず目が覚める。何か安心できなくて、不安定な気分になるからだ。
でもそれはも同じで、悟空が先に起きたときはやっぱり彼女もすぐに起きてくる。
そんな時悟空は、「愛されてんな///」と感じて幸せをかみしめるわけだが。
今朝もがいなくなったのを察知した悟空は、それから程なく目を覚まし、ひとつ大きなあくびをしながら身体を起こしてベッドから降りた。
自然足が向かうのは、柔らかくて穏やかな優しい気のある方向。つまり、のいるところ。
自分の気配を敏感に感じ取り、くるりと振り返って「おはよう悟空」とほんわか微笑んでその澄んだ声で言ってもらえるのが一日の始まりなんて、本当にと結婚してよかったと思える。
その笑顔を思い浮かべながら、自然緩む頬のまま悟空がキッチンの扉を開けると同時に。
「おはよう悟空さん///」
ぎゅ〜〜〜!
――――――――― 一瞬、悟空が固まった。
いつものように声をかけてくれるまでは予想がついたが、ぎゅ〜っ…て。
今自分にくっついて背中に手を回して抱きしめてくれているのは、紛れもなく、あの恥ずかしがりやではにかみやな世界一愛しい存在だったりするわけで。
「あ、あ、あ、ああああれ? どうしたんだ?」
あまりに予想外なの行動に、一気に顔が熱くなる悟空。
挨拶を返す余裕もなくなり、上ずった声で頭ひとつ下で自分に抱きついているに視線を落とせば、も頬を鮮やかに染めていて。
「別に、どうもしないんだけど…ね。それより、これから朝の基礎トレやるんだよね。わたし、お湯が沸いてからにするから、先にやっててね」
潤んだ瞳で見上げてきたと思ったら。
ちゅ。
「!!!///」
ちょっと背伸びをしたが、頬っぺたにキスをしてきたもんだから、悟空のアタマは完全にのぼせ上がってしまった。
普段そういうことをしないだけに、かなりズッキュ〜ン!ときたらしい。
「あ、ああ、じゃ、外でやってくる」
真っ赤な顔でカチコ〜ン、と固まりながら回れ右をして外に出て行く悟空の歩き方といったら、もう。手と足がピーンと伸びていて、まるで緊張して行進している隊列を組んだ兵士さんのようだ。
そんな様子で出て行く悟空をそっと窺い見ながら、はドキドキする胸を押さえてひとり小さくガッツポーズを決めていた。
一方、悟空はといえば。
急に積極的にくっついてきたに、思わず緊張してしまっていた。
そりゃ、結婚してるわけだから、抱きあったりキスしたりいちゃいちゃしたりなんて日常茶飯事で、何度となくやっていることなのだが、仕掛けるのはいつも自分だったのだ。
それが、が自分からぎゅ〜ってしたりちゅーしてくれたりするだけで、こんなにも感じ方が違うものなのか。
細っこいのに、抱きしめると柔らかい躰が、いつも以上に心地よくて。
頬に触れたその唇の感触は、甘さも熱さも倍増だ。
「やべぇ………集中できねぇや///」
ボ〜、っと熱を持ったような頭に今浮かぶのは、・・。のことばかりである。
今にもはじけそうになる理性を必死に保ちながら、悟空は自分に「落ち着け、落ち着くんだ!」と何度も言い聞かせ、修行そっちのけでなんとか平静を取り戻したが、それでも顔の熱はなかなか引かなかった。
その日はそれからも、のラブラブ攻撃が続き。
散歩に出かけてみれば、自分から指を絡めて手を繋いでくる。
木陰で日向ぼっこをしようと木の根元に並んで座れば、悟空の肩に頭をもたせ掛けてくる。
それを当たり前のように普通にやってくれればまだいいのだが、頬を染めて恥ずかしそうにはにかみ笑いながらやるもんだから、悟空はもう完全にやられてしまっていて。
どういった意図で本日のがこうも積極的にスキンシップを図ってくれるのかはわからないけれど、悟空にとってそれは可愛くて愛しくてひっじょーに嬉しいと同時に、かなりの凶悪犯罪であったりもする。
まあ、そんなわけで。
もかなり必死に頑張っていたが、悟空も必死にそんな彼女の攻撃に耐えていた。
そして、夜。
夕飯も食べ終わり、風呂にも入って。
がかちゃかちゃと食器を洗っているのをボ〜と見ながらリビングのソファーに座っている悟空。
悟空の視線に気づいたがその瞳を見返すと、悟空は真っ赤になって視線を逸らす。
それが、なんとも可愛らしくて。
本日の総仕上げ。
は気配を殺して悟空の背後を取ると、後ろから悟空を抱きしめた。
「うわっ! !?」
「ん?」
「いや、『ん?』じゃなくて! 今日おめぇ、なんかいつもと違うぞ!?」
「へへへ/// そうだね」
たじたじとうろたえる悟空を開放して、ソファーのとなりに座り、それからうろうろと視線をさまよわせている悟空の顔を覗きこんだ。
「ね、悟空。こっち向いてよ」
なかなか視線を合わせようとしない悟空の手を握ってそう言えば、観念したように顔を向けた悟空のその頬に、いつも悟空が自分にしてくれるように、空いているほうの手で触れてみる。
こんな風に悟空に触れたのは初めてで。
悟空の頬っぺたって、こんなに柔らかかったんだ、なんて、指先から感じるその感触に少し驚いた。
困ったように見返す悟空の顔は、鮮やかに朱に染まっていて。
騒ぎ出す鼓動から察するに、多分自分もそれに負けないくらいに真っ赤なんだろうなと思いながら。
いまだに固まっている悟空にちょっと笑いかけてから、そっと――――――――――その唇に、自分の唇を重ねた。
一瞬、更に固まった悟空だったが、次の瞬間、の華奢な背中に腕を回して強く、強く抱きしめた。
「悟、空…、ちょっ、、、痛いよ」
「が悪ぃ。オラを、こんな気持ちにさせるがいけねぇんだ」
少しかすれた、悟空の声。
痛いけれど、じんわり熱くなる胸に、の瞳が潤む。
きつく抱きしめてから、腕を緩めた悟空を、はひとつ息をついてその潤んだ瞳で上目遣いに見上げた。
「ねぇ悟空、伝わった?」
突然のお伺いに、悟空はきょとんとを見返す。
本気でわかっていないような悟空の様子を見て、は唇を尖らせる。
「悟空、昨日言ったよね?『オラばっかりのこと愛してる』って。そんなの、あり得ないじゃん。わたしだって、悟空のことすごく愛してるのに、それに気づいてくれてないんだもん。だから今日は、わたしのほうがずう〜っと悟空のことを愛してるんだよって伝えたくて、こんなことをしてみたんだよね」
かなり恥ずかしかったけど、と照れ笑いを浮かべるを見て、悟空の顔が綻んでいく。
そう言えばそんなことを言ったっけな、くらいの比重だったのに、それを気にして自分の気持ちを伝えようとしてくれたが、誰よりも愛しくて、何よりも大切だと、自信をもって言える。
「ちゃんと、伝わった??」
ことりと首を傾げるそのしぐさ。
まっすぐに自分を見つめているの、甘くて柔らかい視線に。
溢れる。
溢れ出る。
そして、溢れないようにどんどん深くなる。
底知れず深くなる、愛する気持ち。
「………ああ。思いっきり、伝わってきたぞ。はオラのことを愛してくれてるんだな。すげぇ、嬉しいぞ」
その言葉を聞いたが、嬉しそうに、恥ずかしそうに笑うのを見て、悟空はふわっと彼女を抱きしめて。
「でも……………やっぱりオラのほうがのこと愛してる」
「―――――――――もうっ! 絶対わたしのほうが悟空のこと愛してるよ!」
不服そうに見上げてくるその瞳。
そんな表情も、可愛くて仕方がない。
「どっちでもいいや。とにかくオラは、が愛しくてたまらねぇ///」
「いや、照れるから、そんな顔して言わないでよ///」
「は? オラのこと好きか?」
「………だから、わたしも悟空に負けないくらい、悟空が愛しくて仕方ないよ///」
絶対負けたくなかったけれど、悟空のどこまでも優しい瞳を見ていたら、とりあえずおあいこかな。
そんなふうに思っているに、この日初めて。
――――――――――悟空からのラブラブ攻撃が始まった。
ってな感じで、積極的にベタベタするサンでした。
好きな子にこんなことされた悟空さん、あえなくノックアウト。
………こんな妄想の産物で申し訳なかとです、アカネ様(汗)
読んでくださってありがとうございました、様ww

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