ほんわか新婚バカップル






「いやぁ、あんた、別嬪さんだねぇ。どこの嬢ちゃんだい?」
「やだぁ、おじさん別嬪だなんて/// あそこの竹薮を抜けたとこの家に住んでるんですよ〜」


悟空とが結婚式を挙げて…というか、仲間たちによって半ば強制的に挙げさせられてから、約一週間。

ポカポカと暖かい陽気に誘われてお散歩に出かけてみれば、農作業の手を休めたちょっと太めの中年の男がに話しかけてきた。


別嬪なんて言われて、テヘへと照れ笑いをしながら答えるの柔らかな空気。
彼女のその雰囲気は良くも悪くも、老若男女を問わず、人を魅了する力を持っていて。



「どうだい? 俺んとこの息子の嫁に来ねえかい? なかなかいい男だぞ」


例に漏れず、やっぱりその農夫もに好感を持った。
にっかり笑った農夫のその言葉に、は一瞬驚いたようにパチクリとその澄んだ瞳を瞬かせてから、次いでふんわりと笑顔を浮かべた。


「ダメで〜す。だってわたし………」

〜。 はやく来いよ〜」

「あ、ごめん悟空! ……というわけなの、おじさん。ごめんね」



が誰かに捕まって引っかかってることに気付いた悟空が、ちょっと先に行ったところからくるりと振り返って彼女を呼んでいる。
それに手を振り、それから農夫に向き直って謝罪の言葉を述べたに、諦めきれなかったのか。



「ボーイフレンドは多いほうがいろいろ勉強になるんだぞ〜」


悪戯っぽい笑みとともに発されたその言葉に、そういう考え方もあるのか、と。
なにぶん世間知らずで素直な性分のため、少々納得しかけるものの、考えてみれば悟空はすでにただのボーイフレンド、いわゆる「男友達」とは違うわけで。

はちょっと困ったような笑みを農夫に返した。


「え、と。悟空はボーイフレンドじゃなくて、、、」
「おいおっちゃん。オラのに何言ってんだ?さっきから」





『オラの』!?!?!?

その悟空の声に、ボンッ、と顔を沸騰させる


オ、オラのって、オラのって――――――――


キャ〜〜〜/// どうしようどうしましょう!!! 

ああうん、確かにわたしの心も身体も悟空のものだけど………って、うわー!!! まずいっ、やばいって!!! 
心はともかく、身体って………まだっ!!! まだ乙女だもん! それなのにそれなのにっ!! わたしってば、何考えてんだかっ!!!




………だけど。
一週間もおんなじベッドで寝起きを共にしているにもかかわらず、いまだに『乙女』な自分って、どうなんだろう………。


だって、結婚したのだ。
結婚=夫婦生活=夜の営み=恋の『いろは』とか『ABC』とか―――――――――って、、、イヤ〜〜〜!!!///





自分はこんな変態チックなえっちいヤツだったのかっ、と慌てふためき、熱くなった頬っぺたを両手で押さえてブンブン頭を振り回して、いっぱいいっぱい必死なはとりあえず置いておいて。





悟空は、にニヤニヤといやらしい目を向けている(←相手にそんな気はないが、自分の知らない男がに近づくとそう見えてしまう悟空)中年男を、面白くなさそうに軽くにらむ。



「きゃ〜」だの「いや〜」だのと赤くなって、嬉しいんだか恥ずかしいんだか、ひとり悶えているの不審な行動を、大丈夫かこの娘、とか思いながら心配そうに見守っていた農夫が、自分のそばにやってきた悟空に視線を移した。
自分をにらむその若者は、ブスッとしていながらも優しげな面持ちで、端正なお顔からは見るからに「良い人」オーラがにじみ出ていて。





「………いやいやいや〜。俺の息子もいい男だが、おまえさんもいい男だねぇ」
「そうなんですよおじさんっ! おじさんの息子さんがどんなのだって、わたしの悟空は世界一なんですよっ!!!」


思わずこぼれ出た農夫の本音が耳に届いたのだろう、自分の世界に入っていた別嬪さんのほうがパァッ、と。それはもう、まるで自分が褒められているかのように明るく笑って。
自慢の息子をそんなふうに言われるのは不快に思うはずなのに、なぜか彼女の気取らない物言いと可愛らしい笑顔につられて笑ってしまう農夫。





『世界一』!?!?

今度は悟空の頬に朱が奔った。


そりゃあもちろん、オラの心は思いっきりに奪われてっぞ。の一挙手一投足にいつも振り回されてっし。
そんな大事な大事なに、『世界一』なんて言われっちまうと、、、オラもう……今すぐギュウ〜ってしてえ!!!


い、いや、落ちつかねえとっ
人前であんまりいちゃつくなってブルマとかクリリンとかにも言われてっし。ああでもっ!!!



すらっと細いのに、抱きしめるとひどく柔らかいその身体。抱っこして眠ると、伝わってくるその体温はあまりに心地よくて。
一度その感触を覚えてしまったら、いつだってを腕の中に閉じ込めておきたくて仕方がない。
――――――てゆうか。

最近、自分の腕の中で眠るを見ていると、なんだか身体の奥底が熱くなって、どうも落ち着かなくなっている自分に悟空は気付いていた。
眠っているの頬に額に唇にキスを贈れば、くすぐったそうに、幸せそうに、口元を緩ませる彼女が本当に可愛くて。
大切にしたいと思う反面―――――――――なぜか、めちゃくちゃにしてやりたいような衝動に駆られたり。



……て、ダメだダメだ!!! 
信頼されているのだろう、はこの上なく無防備にそりゃもう、ピトッとその身を預けて寝てくれちゃうのだ。幸せはしあわせなのだが…今の悟空にとっては、それは拷問に近く。けれどもここで理性を保てなかったら、彼女の信頼を裏切ることになってしまう。
だから! とちゃんと話し合って、「合意の上」ってヤツで事を起こさないとっ!!!



と、わかってはいても、『そういう』話題にもっていくのは至難の業だ。
何せ結婚しているとはいえ、自分の嫁は極度の恥ずかしがりやで、風呂も一緒に入ってくれないし、幾度となく交わしているちゅーの時だって、真っ赤になってウルウルと瞳を潤ませる。
もちろんそんなところも可愛くて大好きでむしろ愛しちゃっているけれど、このまま悶々としていたら近い将来、まちがいなく襲ってしまうような気がする。いや、自信をもって言える。確実に襲う!!!





つうか、こんな爽やかな風と穏やかなお日様の陽光の中で、何でこんな疚しいことを考えてんだ!?





飛躍する煩悩に悶える悟空に、農夫は先ほどに向けていた『可哀想な人を見る目』的な視線を流し、それからわははは、と笑い出した。



「なんだい、あんたら。初々しいねぇ。もしかして、付き合い始めってやつかい?」



笑いながらそう問いかける農夫の言葉に、悟空とは顔を見合わせ、お互いの真っ赤な顔にきょとんとし。



、おめぇ真っ赤だぞ? なんで??」

「だ、だって……」



先手必勝、とばかりにまず悟空がに問いかけ、問われたはますます頬を染めて恥ずかしそうにうつむく。
耳まで鮮やかに朱に染まるの、「う〜〜〜///」という困ったような呻き声。ひどく言いにくそうに、口を開きかけてはまたすぐ閉じて。それを何度か繰り返してから。
意を決したような顔を上げ、けれど弱気になったのかまたうつむいて。
それから、そうっと上目使いに見上げてくるその瞳と表情に、悟空の胸がドキドキ騒ぎ出す。



「悟、空が……『オラのなんて、言うからさ、テレちゃって、ね。---------てゆうか、悟空こそっ! なんでそんなにまっかっかなんですか?」


言いにくかった言葉に声は囁くように小さくなり、そこからぶっ飛んだ自分の思考(乙女云々)は死んでも言えないっ!と拳を握りしめたは、反撃、というか、話を逸らすために、今度は悟空に聞き返す。




の潤んだ上目遣いにやられそうになっていた悟空は、突然反撃に出た彼女の質問にボッと顔から火を噴いた。



「そ、そそそれはっ、そのっ!!!」


油断していた心にスパッと切り込まれ、どもり上ずる悟空の声。
こんな心理状態じゃうまいことなんか考え付かないし、そうじゃなくても考えるのが苦手な悟空は。



ええいっ!!! 仕方ねぇ言っちまうか!!!
と、男らしくもがっつりと覚悟を決めたが。





――――――――――時間帯、真昼間。
――――――――――現在、ほのぼの散歩中。
――――――――――きわめつけ、知らない男が目の前にいたりする。





…………こんな状態で『そんなこと』を言っていいかどうかなんて、わかりきっているだろう。
いっくら鈍い悟空だって場をわきまえる分別は持っている。というか、最近学んだことのひとつだ。




「だから……ああそうか! が『世界一』なんて言うから、嬉しくなっちまってあんなこと……い、いや何でもねぇ!」


あんなこと?? と聞き返される前に、悟空はあわてて「世界一ってのが嬉しかったんだ!!!」と強く断言した。





少々怪訝な顔をしただったが、思わず言ってしまった「悟空は世界一」という自分の発言を思い出して、わたしってばなんて恥ずかしいことをっっっ!!!とさらに赤面し。

悟空は悟空で、ムキになったことによってついつい零れ出てしまっていた「オラの」発言に、独占欲丸出しじゃねぇか!!! とやっぱり顔どころか身体中が熱くなり。



普段折に触れて思っているそれぞれの心の内。
思うのと口に出して伝えるのは、精神的にこうも違うものなのか。
………伝えたというか、いつも思っていることだけに、気持ちが高ぶって口をついて出てきてしまったというのが本当のところだが。







けれど。


言ってしまったその言葉を、伝えた相手が「嬉しい」と感じてくれた。
遅ればせながらそのことに気付き、朱に染まった頬っぺたのまま、悟空とは視線を絡ませて。
ふんわりと、幸せそうに笑みを交わす。










「………う〜ん。こりゃ、俺の息子が入り込む余地はねぇみてえだなあ」


二人の世界に割って入った声に、そちらに目を向ければ。
腕組みをした農夫が、にかっと笑っていて。



完全無視状態だったその農夫の存在をようやく思い出した二人は、顔を見合わせてクスリと笑い合い。



「わりいな、おっちゃん。はやらねぇぞ」
「てゆうか、もう悟空に貰われちゃってるしね」















――――――――――――は?


もらわれてる…て、、、もらわれてる!? 










「…………もしかしてあんたら、夫婦かい?」





恐る恐るといったようにそっと聞いてくるその農夫に、それはもう満面の笑顔を返し。



「そうだよな〜」「そうだよね〜」


声をそろえてにっこり笑い合う二人の、なんと可愛らしいことか。
どう見てもお付き合いを始めたばかりのカップルにしか見えない。










農夫に手を振って散歩を再開した二人の背中を見送りながら、世の中にはあんな初々しい夫婦もいるんだなぁ、と感心する農夫。
二人を見ていたらなんだか急に自分の女房に会いたくなって、彼はさっさと帰り支度を始めた。















「いい天気だね〜」
「そうだな〜」


柔らかい陽光に照らされた、の柔らかい笑顔。
に触れていたくて、となりで揺れていたその手を握れば、ビクッと小さく肩が跳ねて。



「………いやか?」



うつむき真っ赤になったに問いかけてみれば、ふるふると首を横に振ってきゅっと握り返してくれる柔らかい手。



「へへ。すっごい幸せ〜w わたしね、悟空が大好き」


悟空の手を握りながら、その温かさにヘラリと緩む頬。
ほんとにだいすき。マジで死ぬほど好き。





いきなりにそんなことを言われて、今度は悟空が真っ赤になって。
それから同じように頬を緩ませて。

「オラも、がでぇ好きだ」

に負けねぇくらい、やべぇくらい好きなんだぞ。








ぽかぽかのお日様と真っ青な空の下。
手を繋ぎ、ほのぼのとした雰囲気をあたりに撒き散らし、はたから見てもこの上なく幸せそうな二人の胸の内はというと。




今夜は、ちょっとは進むかなぁ…///
今日の夜はちょっと頑張って話して、「合意」してもらいてえなぁ…///





疚しい思考をそれぞれ抱えながら。
は「やっぱわたしってえっちいヤツ!」と真っ赤になり、けれどまだ始まったばかりの結婚生活。早々焦ることもないだろう、とひとり頷き結論を出し、悟空の大きな掌を握る。
対する悟空は「ああもう、すっげぇ抱きしめてえ!」と悶え、このままじゃ本当に襲ってしまうかもしれないと焦り。けれどそんな焦りも、繋いだ掌の温かさに宥められてしまう。










だいすきな人がそばにいて、「だいすき」と言ってくれる。
それだけで充分だ。
――――――――――――とりあえず、今のところは。















そんな二人の間を、ホンワカした空気が包み、爽やかな風が吹き抜けていった。





















新婚さんです。幸せです。ほのぼのバカップルです。
………そんなふうに感じていただければ、幸いなんですが…。
リクしていただいた成流様、ありがとうございましたwちゃんとLoveになってますでしょうか…?
様、お付き合いくださって多謝ですっ!!