結婚して、一番最初に二人っきりで行く旅行を、『新婚旅行』と世の人たちは言う。

さて、どこに行きましょう?

どこと言われても、こっちの世界のことなんて、いままで神殿の箱入り娘(?)だったには、いまだにどこに何があるのかまったくもって無知もいいところ。
だんな様の悟空は、世界中を飛び回っていたにもかかわらず、目的が目的なだけに(強い相手と戦うこと)どこにどんな名所があるのかなんて覚えてもいない。

そんなわけで、「そのうち行こう」と思っているうちに、月日はどんどん流れていってしまいました。







☆はねむーん☆






朝目を開けたら、視野に広がる一面の青空。
東から顔を出して間もない太陽に照らされて、目が覚めたのはわかるけれど。


―――――――――何故にわたし、お外で寝てるんだろ?


寝起きのボケッとする頭のなかに、ボワンと浮かんだその疑問。
昨日の夜は、ちゃんと我が家のベッドに入って寝た、はず。
うん、自覚するほどボケボケな自分ではあるけれど、つい数時間前の記憶がすっ飛んでしまうほどボケちゃあいない。
先に寝ていた悟空のとなりにもぐりこんで、やっぱり人肌って温いなぁ、なんて、いつも同様に幸せな気持ちで眠りについたのは、そう、つい数時間前。





で今、目を開けて最初に飛び込んできたのが青空とは、、、何ゆえか。





もしや、夜中に気づかぬうちに徘徊する夢遊病者にでもなったのだろうか。
だとすると、拙い。今どこにいるかもわからないし、どこから来たのかもわからないんじゃ、どう帰ればいいのかも当然わからない。とかく方向感覚の欠けている自分のことだ。情けないけれど、どこから来たのかわかっていたって帰り道はわからない。



アタマがハッキリしてくるとともに、焦りと混乱が同時にドドッと押し寄せてきた。


どうしよう。
太陽の位置から察するに、悟空と悟飯がそろそろ起きてくる時間だ。
さっさと朝御飯のしたくを始めないと、精神年齢の幼い親から生まれたとは到底思えないほどしっかりした、というか、両親が幼いからこそしっかりしてしまったのかもしれない悟飯はまあ、おとなしく我慢してるだろうけど、悟空が「腹減った!」大合唱を開始しかねない。



とにかくまず、今現在の現状を把握しよう。
大きく深呼吸して、焦る気持ちを落ち着かせるように自分にそう言い聞かせて軽く身じろいだの上から、妙に聞き覚えのある柔らかい声が降ってきた。





「目、覚めたんか、





この声は、聞きまちがうはずもない大好きな人のもので。
けれど、なにがどうしてその声が自分の上から降ってきたのか、皆目見当もつかなかったのだけれど。



ふと気づいてみれば、背中には心地のよいぬくもり。
自分の前に回された逞しい腕。
――――――どう考えたって今、自分は悟空に背中を預けていて、悟空が後ろから自分を抱きかかえるようにしてくれているような状態で眠っていたんだ、と、その事実を理解し。



「え?え?え? な、なななんで??? あれ? あれ?」



ベッドで寝ていて、目が覚めたら屋外で、 現状は悟空の腕の中。
今のこの体勢は、それはそれでオイシイけれど……じゃなくてっ!



なにがどうしてそんなことになっているのだろうか???
プチパニックを起こしてショートしそうになる頭で必死に答えを出そうとしてはみるものの、やっぱりなにがなにやらサッパリだ。

とりあえず、立ち上がろう。
そう思ってバッと身体を起こそうとしたを、悟空がギュウッと後ろから抱きしめた。



「危ねえから座ってろよ。落ちちゃうぞ」



落ちる???



「あ、あの悟空さん。わたしには最初からまったくコトの成り行きがわからんのですが…。いったいなにが起こってるんでしょうか」



何年経ってもやっぱり幸せを感じてしまう大好きな人の腕の中、自然染まる頬っぺたが緩んでしまう…けれど!
ほのぼのするのは今の状況を把握してからだ、と、それこそ堕ちかける自分をググッと踏みとどまらせて、後ろから抱っこしてくれている悟空をくるん、と振り返った。



「うん、そうだな。まず、今オラとは、筋斗雲に乗ってるだろ?」

「――――――そういえば……」



座り心地抜群なポヨン、とした感触は、紛れもなく空飛ぶ雲に乗ったときの感覚で。
いっぱいいっぱいで狭まっていた視野を広げれば、景色が流れるように変化していく。

昔はコワくて仕方がなかった空を飛ぶという行為が、慣れてしまったためか今はとても気持ちいい。
風に髪を遊ばせながらフワンと笑うを見て、悟空も柔らかい笑みを零したが、それから思い出したように微妙な顔をして。



「この前さ、オラ、昔の夢を見たんだよな」

「夢?」

「うん。結婚式が終わってさ、ブルマに『新婚旅行に行け』って言われたの、覚えてっか?」



唐突に話し出す悟空に、はことりと首をかしげ、それから思いついたようにポン、と手を打った。


「ああ、帰ろうとした時にコソって言われたね!…でも、どこ行っていいかわからなくって、そのうち行こうって思ってて……結局、行かなかったね〜」


ふふふ、と懐かしそうに笑いながら話すの気配は、今も昔も変わらず柔らかい。

もう、何年前になるんだろう?
まずお山の食生活に慣れるのに悪戦苦闘して、やっとこさ慣れてきたところで赤さんができて。
妊娠出産後は育児にてんてこまいで、落ち着いてきたら今度は迷惑千万なことに強敵たちが次から次へと湯水のごとくわいて出て。

その間、悟空は死んじゃったり生き返ったりどっか行っちゃって修行したりしてて、はなぜか強敵さんたちに気に入られて人妻なんだ子持ちなんだと必死に訴えていたりと、とにかくめまぐるしい日々が続き、すれ違いの離れ離れにお互い泣きたくなるような時期を経ていたりして。



そんなわけで、行く機会を逃したまま、昨今に至ってしまっている。



「だけど…。それと今と、どう関係があるの?」


今なお強敵存在中で、修行修行の毎日だけど、一緒にいられるだけでもものすごく嬉しいし、お日様が顔を出しているうちから悟空にギュウしてもらえるなんて久しぶりなので、それこそ舞い上がってしまいそうなんだけれど。

やっぱり気になるこの現実に、は不思議そうに悟空に問う。
すると悟空は、なんだか困ったように頬っぺたをかいて。



「その夢でさぁ、ブルマが出てきて、すげぇ怒ってんだよ。『早く旅行に行け』って蹴っ飛ばされてよ。んで、昨日の夜にそれ思い出して悟飯になんとなく話したらさ―――――――――」










『それじゃお父さんとお母さんは、新婚旅行にも行ってないんですか?』
『うん。まあいろいろあってなぁ』
『………お母さん、かわいそうですよ。何かの本で読んだけど、女の人って、やっぱりそういうのに憧れるものですよ?』
『そうなんか?』
『そうですよ。それに、そのことブルマさんにばれたら、蹴りだけですむかなぁ』
『だけどオラ、どこ行けばいいかわかんねえしよ』
『わかりました。じゃ、僕が一般的な新婚旅行プランを考えてあげますから、とにかく二、三日くらいで二人で行ってきてください』
『二人で? でも悟飯、おめえはどうすんだ?』
『僕は留守番してます。大丈夫、もう小さい子供じゃないし、自分のことくらい自分でできますから』
『でも、がおめえを置いて旅行に行くって言うと思うか? ぜってぇおめえも連れて行かれると思うぞ』
『そうですね……お母さんの性格上、僕が強制連行される可能性はすごく高いなぁ。………じゃ、
お母さんが寝てる間に出発しちゃえばいいんじゃないですか?』
『――――――――――――なに二人で楽しそうに話してるの〜?』
『『わあ、(お母さん)!!!』』










「なるほど、ね。だから昨日私が話しかけたとき、二人してあんなに焦ったわけね」

お風呂から出てきて、なにやら賑やかに話している愛しの夫と可愛い息子の会話に入ろうとしたら、ビックリしたように振り返られて怪訝に思ったのは、昨夜のことで。



そういうことだったのか、と納得する反面。



悟飯ちゃん。
あなた、なんてママ想いのしっかりした子に育ってくれちゃったんだろう…。(感涙!)
わたしと悟空のために旅行の日程までお膳立てしてくれて。さらには『小さい子供じゃないから大丈夫』だなんて、そりゃ、赤ちゃんじゃあないけれど、それでもわたしが元いた世界での小学生の年齢なのに。





けれどもでもだけど!!!
寝ている間に連れ出しちゃえ、なんて。
ずいぶんとまあ、思い切った発想をぶちかますわが子の思考回路と強引さ。




「悟飯ちゃんはやさしくてしっかりものに育ってくれたけど…。時々、普通考えられないようなすごい大胆なこと思いつくよね〜。誰に似たんだか」

だろ?」



間髪入れずに返されて、はきょとんと悟空を見上げる。



その、本気でわかっていない顔を見て、悟空は軽く苦笑した。
普通思いつかないようなことを言い出すのは、の得意技だ。彼女の思考回路は、きっと一生理解できないだろう。
思いつくだけならいいが、それを行動に移してしまうところがまた彼女のすごいところで、悟空はもちろん、まわりを振り回しっぱなし。しかも…無意識だからタチが悪い。
けれどもそんな彼女の行動は、常人が不可能だと決め付けることを、いったい何度可能にしてきたことか。

柔軟で自由な発想、といえば聞こえはいいが、手に負えないことも多々あったりして。
まあ、悟空としてはそんなも愛しちゃってるので、確かに驚かされることはあるけれど、見ていて飽きない彼女の行動を楽しんでいたりもする。





だって、どっから出てきたんだっていう答え、よく出すじゃねぇか」
「よく、出してる??? そうかなぁ…。わたしの中ではちゃんと一本につながってるよ?」


首をかしげるに笑顔を向けて、悟空はもうひとつを抱きしめる。
変な発想も、不思議そうな表情も、くるんと見上げてくる瞳も、とにかく可愛らしくて。


「ま、いっか。とにかく、新婚旅行だ。悟飯が教えてくれたとおりに回ってくぞ」
「あ、でも……。やっぱり心配だなぁ、悟飯ちゃんのこと」


結婚してから約八年目にして、やっとのことで新婚旅行(というのだろうか)に行けることになったのはとても、とっても嬉しいのだが。
そこはやっぱりは母親。子供を一人残すのは、やっぱり気がかりで。





「ったく、おめぇはよう」

「ん?って、うわっ!!!」





ちょっと不機嫌そうな悟空の声を怪訝に思い振り返ろうとしたら、一瞬抱き上げられて、次に気づけば向かい合わせにさせられていた。




「―――――ちょ、っと………あの、悟空、さん?」



こつん、とおでこをくっつけられて、急に近くなった悟空の端正なお顔に、鼓動が早くなる。
顔が近くなるなんてしょっちゅうだし、その澄んだ漆黒の眼差しでまっすぐに見つめられることだって数え切れないほど経験している、けど。何をいまさら、とは思っていても、顔に血液が集まってきてしまうのは、まぎれもない事実だ。



戸惑ったようにゆらゆら揺れているの瞳を捕らえながら、悟空はいたずらっぽく笑った。
昔っからちっとも変わっていないその反応が嬉しくて、反射的に真っ赤に染まる滑らかな頬っぺたに掠めるように唇を寄せれば、ぴくん、と小さく肩が跳ねる。



「悟飯のこと気になんのはわかるけどさぁ、今一緒にいるのはオラなんだ。たまにはさ、前みたいにオラだけ見てくれよ。それに、悟飯がオラとのために一生懸命考えてくれたんだぞ?」


ご機嫌ナナメの原因は、息子に対する嫉妬心。
いまだにやきもちを妬いてくれる悟空のことが、すごく、すご〜く好きな自分に、改めて気づいてしまって。



「そうだよね……。ラジャ! 久々の二人っきり〜/// なんか新鮮な感じだね」





せっかくの新婚旅行。
お互いがすべてだった昔に戻って、たくさん思い出を作りますか。






そんなことを思いながら悟空の背中に腕を回して、ぎゅうっとひとつ、抱きしめた。

















「新婚旅行!?!?」
「は、はい。昨日出て行ったから、今日か明日には戻ってくると思うんですが……」
「そういうことを言ってるんじゃないわよ。だいたいあの二人、結婚して何年たってんのよ。何でいまさら、新婚旅行なのよ!」
「い、いえあのブルマさん、いろいろ忙しかったらしくて…。やっとお互いに時間取れたから」



両親の留守中でも、昼間はピッコロと修行して、夜はまじめに勉学に勤しんでいた悟飯の自宅に訪れたのは、今回のきっかけを作ったブルマだった。
開口一番、「ちゃん、いる〜?」と家に入ってきたブルマに、不在の事実と理由を告げれば、見る見るうちに眉を吊り上げ声を荒げるその様子に、悟飯はたじたじとしながらもとりあえずお茶を淹れた。





「まったく…。で、なに? 悟飯くんは留守番??」



悟飯の入れたお茶をすすりながらブルマが問えは、悟飯はにこっと笑ってうなずく。

「はい。僕が一緒じゃ、新婚旅行って感じじゃなくなっちゃいますから。それに、お父さんがやきもち妬くんですよ、僕に。お母さん、僕のことも大事に思ってくれてるから、僕にお母さんを取られちゃったみたいに感じてるらしくて。あ、お父さんだってもちろん僕のこと大切にしてくれてるんですよ? でも、やっぱり一番はお母さんみたいです」

ため息交じりに苦笑する目の前の子供を見て、ブルマも軽く息をついた。
確かに悟空は、と出会ってからは超がつくほど彼女に対して過保護になっていたが、まさか息子にまで嫉妬するとは。しかも、まだ子供である息子にそれを気取られて、気を使わせるなんて。


「これじゃ、どっちが子供かわかんないわね…。ま、孫くんらしいっていえばそうだけど」

「でも、そんなお父さんとお母さんが、僕は大好きですから」


ふわっと笑う心からの笑顔は、小さいころの悟空の顔そのままで、纏う雰囲気はのもの。
カップをテーブルに戻しながら、ブルマはまじまじとそんな悟飯を見て、ふむ、とひとつうなずいた。



「――――――なるほどね。子供っぽいけど大好きオーラ出しまくりな母親と、そんな母親のことを大好きな父親という環境だと、悟飯くんみたいなしっかりした子供に成長するわけか……」

独り言のようなブルマの呟きに、悟飯は不思議そうに首を傾げてから。



「そういえば、ブルマさん。お母さんに何か用事があったんですか?」


そう聞くと、ブルマは珍しくも一瞬ひるんだ。

「あ、ああ、ええ。ことこれに関してだけは、ちゃんのほうが先輩だから……って、う、ううん、なんでもないわっ。そんな、たいしたことでもないし!」
「???」
「とにかくっ! 今頃新婚旅行なんて、気分的にも『新婚』って感じじゃないわよ!!! 孫くんのヤツ、帰ってきたら蹴っ飛ばしてやるから!!!」


一人あわてて、それから話を逸らすようにもとの話題に戻すブルマの発言に、ああ、お父さんの夢は正夢だったんだ、と思わず失笑してしまった悟飯だったのだが。



「でも、今でもあの二人、新婚さんとさほど変わらないですよ?」



子供の目から見ても、想いすぎるくらい互いを想っているのがわかってしまう。
そんな仲良しさんな両親を見ているのは、気恥ずかしいけれども嬉しくて、けっこう楽しかったりもするわけで。

クスリ、と笑う悟飯を見て、ブルマも軽く苦笑して。



「そうねぇ。ちょっと、羨ましいわ」



小さく笑うブルマは、視線を落として自分の下っ腹に手を当てていた。

「ブルマさん? おなか、痛いんですか?」

悟飯に聞かれて、ハッと我に返り、取り繕った笑みを顔に貼り付ける。


「ううん、別になんでもないのよ。さて、ちゃんいないんじゃ話しにならないから、あたしもう帰るわね。勉強の邪魔して悪かったわね」

「あ、はい。気をつけて」



そそくさと立ち上がったブルマに、腑に落ちないながらも悟飯は手を振った。




















それからかれこれ数時間後。



「「たっだいま〜〜〜!!!」」



満面の笑みで戻ってきた両親に、同じく満面の笑みで。

「お帰りなさ〜い、お父さん、お母さん! 楽しかった?」


迎えた悟飯に破顔して、「サンキューな」とウインクつきで大きな手でその頭をクシャッと撫でる悟空のあと、むぎゅ〜っと抱きしめるのは、言わずもがな、である。


「あ〜もう、すっごく楽しかった! ありがと悟飯ちゃんw 大好きよ〜!」
「よ、よかったですね、お母さん」
、オラは? オラにもむぎゅ〜ってしてくれよ」
「悟空とはいっぱいしてきたでしょ〜?」



嬉しそうに「新婚さんはいいですねって何回も言われちゃったよねw」と笑顔を振りまくに、笑ってうなずく幸せそうな悟空の様子を見て。

ブルマさんがお父さんを蹴っ飛ばそう云々は、言わないほうがいいかな。

そう結論を出して、ブルマが来たことはとりあえず後で言おう、と心の中で一人うなずき。母親の腕の中、そんなイチャラブな話を聞きながら、悟飯はクスクス笑ってしまっていた。














愛があるこの雰囲気。
悟空と二人っきりもいいけれど、やっぱり悟飯がいると一味違った幸福感。

夫婦愛も最高だけど、家族愛もまた然り。



「悟空。悟飯。二人ともだいすき。愛してるよ」
「オラだってと悟飯をすげえ愛してるぞ」
「僕も、お父さんとお母さんが大好きです」



てらいもなく想いを伝い合えるこの空気が、ひどく心地いい。
これからも幸せに笑っていられればいいなと、いつだってそう思っているから。




















―――――――――これから先も、願いはそれだけ。

























というわけで、やっと新婚旅行に行きました。
――――って、旅行がテーマなくせに、何処行ったかを書かないなんて信じられませんね。(おい)
い、いえ、、、旅行ってどう書いていいかわからなくって。。。
水乃様ごめんなさい、散々待たせた挙句にこんな微妙なもんで;
読んでくださってありがとうございました様ww
ちなみに……ブルマさんご懐妊ですね(*≧v≦*)
そのくらいの時期設定でございます☆