「悟空」
「なんだ?」
「ふふふ……ご〜くうv」
「何だよ、」
「えへへ。 悟空さ〜ん♪」
「…………でぇじょうぶか?おめえ」
「でぇじょうぶですよ〜」
呼べば答えてくれる、それだけで。
こんなに幸せな気持ちに、なる。
当たり前のことが一番の幸せなんだって気づかせてくれたのは、貴方と離れていた長い時間。
今、隣で笑ってる貴方が、これから先もずっとそばにいてくれますように。
―――――――――と、幸せいっぱいなとは対照的に。
『邪魔なヤツが戻ってきやがったぜ』と不穏な空気をかもし出す輩も、ちらりほらりと居りました。
ヒロインちゃんは罪作り☆
「あ、ピコさんだ! 今日も素敵な新緑さんね。爽やかマイナスイオンな感じ♪」
にこにこにこ〜、と花開いたの笑顔。
何度言っても「ピコさん」はやめないわ、毎度意味不明な褒め言葉(だと彼女はいつも言う)で微妙な気分にさせるわと、まったく持って不愉快極まりない………はずなのだが、そんな満開な笑顔で言われると、どうにも、こう……胸があったかくなるのは何故なのか。
その笑顔に思わず頬が緩みそうになり、ピッコロは慌てて口元を引き締めて、平然を装った。
たった一人の女なんかに心が揺れている自分を見せるなんて、まずプライドが許さない。ましてや、ゼッタイに自分に振り向いてくれない女なら、なおさらだ。
だ・け・ど。
「悟飯に御用だった? ごめんね、悟飯と悟天、悟空が修行するぞー!って連れてっちゃったんだ。世の中平和になったのに、やっぱり悟空は悟空だよね〜」
そのセリフに、ピッコロはピクリ、と過剰に反応。
クスクスと笑うは、自分を幸せな気分にしてくれるいつもの笑顔とまったく同じなのに。
今は――――――イラつくことこの上ない。
幸せそうなその笑顔とご機嫌なその様子は、ほかでもない、夫たる孫悟空が久方ぶりに生き返り、再び一緒に暮らせるようになったことからくるものなのだと、わかり安すぎるほどのその言葉。
素直に嬉しい嬉しいと全身で示している彼女を見れば、プライドよりも上回る嫉妬心。
火のついたその感情に、付け焼刃な『平然』は一瞬にして引っ剥がされた。
「…………ピコさん? 眉間にシワが寄ってますよ? 悟空に悟飯とられちゃったからご機嫌斜め?」
不機嫌な思いがそのまま顔に出てしまっていたのだろう、気づけば頭ひとつ背の低いが、自分の顔をいたずらっぽく覗きこんでいて。すなわち、それは必然的な上目遣い。
なんで自分が、この表情にこんなにドキドキしなければならないのか―――――オレ様らしくもない。
そして、どうしてこの女は、この反則的なしぐさが男を惑わすものだと気づかないのか―――――無防備にもほどがある。
確かに、悟飯は愛弟子であり、人生を左右した重要かつ大切な存在であるが、今現在はハッキリいってただの口実。
本当に用があるのは、そして、不機嫌な本当の理由は。
「フン。オレ様が不機嫌なのは、孫が帰ってきて、おまえが幸せそうに笑ってるからだ」
ホロリ、と意図せずこぼれ出た言葉に、ピッコロはしまった!と口元を手で押さえた。
これじゃあ、孫のやつに妬いてるって告白しているようなものだ。かつては大魔王として世界に名をとどろかせたこのオレ様が、人間の女なんかを相手に………みっともない!!!
けれども、口から出てきたのは紛れもなく本音も本音、が心の底からのホンワカ笑顔を見せてくれるのは、悟空がかかわったときだけだということが、一番面白くないのだ。
一度気まずそうに視線をはずし、改めての表情を窺い見れば。
鳩が豆鉄砲でも食らったかのように目を真ん丸にして、それから頭の上にでっかいクエスチョンマークが見えるような顔でことり、と首をかしげた。
「悟空が? 帰ってきて? 不機嫌? わたしが幸せそうに笑ってるから? …………って、わたし?」
なんだかぶつぶつとピッコロの言ったことを復唱し、行き着いた彼女なりの答えに、ムス〜っとむくれて。
「ピコさんってば、ひどい! そんなにわたしのシアワセが気に入りませんか。悟空がいないときはあんなに励ましてくれたのに! ピコさん超いい人〜、って思ってたのに! 愛する悟空さんとずうっと離れ離れだったんだもん! ちょっとくらい浮かれたっていいじゃんかバカーーー!!!」
びえ〜ん、と泣きだしてまくしたてるのセリフが、ピッコロの胸にグサグサグサーっと突き刺さる。
ひどいのはオレ様かおまえの幸せが気に入らんのではなくてお前を幸せにしているのが孫だというのが問題なのだ励ましたのは愛しいおまえがあまりにも痛々しくて放っておけなかったからなんだ所詮オレ様はいい人どまりかやはりおまえが愛しているのは孫なのかそんなにオレ様はバカなのか。
疾風のごとく吹き抜けるそんな思考。
どうしてそんなふうに勘違いしてしまうんだろう。
ただが好きなだけなのに、ヤキモチを妬いてしまっただけなのに。
つうか、そんなふうに勘違いしてしまうってことは、自分の気持ちなんか彼女はまったくもって気づいてないってことで。
そんなの、鈍すぎる彼女が気づいてるはずないなんて事わかってる。
グシグシ、と悔し泣きしているに困ったような視線を向けてから、ピッコロはひとつため息を落とし。
「すまん……。そう意味ではなくて…………」
「じゃ、どういう意味?」
うるり、と潤んだ瞳でスパッと突っ込んでくる。
不服そうな、苛立ったような、そんな顔を見ていたら、もう―――――――――言ってしまったっていいんじゃなかろうか。
彼女に孫がいることなど、最初に出会ったときからわかっていたけれど……『好きだ』って想いは、相手に好きな人がいようがいまいが関係なく膨らんでしまうものなのだ。
「だ……だから、その………。オレが言った意味は。お、まえのことが、その…………」
「???」
言いにくそうに言葉をにごらせるピッコロを、まっすぐに見上げる怪訝そうなの瞳。
その澄んだ瞳に促され、ピッコロは男らしくもがっつりと覚悟を決めた。
「オレ様は! おまえのことが、す、すすす好 ――――――――― ぐはあ!!!」
なんだかモゴモゴと、いつもの居丈高な彼らしくない様子を不思議に思って見つめていたの視界から、突然その姿が消えた。
――――――否。
消えたのではなく、超高速ではるか彼方に吹っ飛ばされたらしい。
「あ、あれ? うわっ、ピッコロさーーーん!?!?!?」
いったいなにが起こったのかは把握できないが、とにかくピッコロの消えていった方向に呼びかけるの背後から、聞き慣れた声が。
「………ふん。あのやろうめ、何をトチ狂ってオレ様のになに言おうとしてやがるんだ………」
「げ。ベジさん」
恐る恐るというように振り返ったが、そこに腕組みしてえらっそうに佇んでいるベジータの姿を捉え、ゲンナリした声を上げた。なにせ彼は、いつもいつも「好きだ」とか「愛してる」とかって人をからかいに来るのだ。家庭があるのに。
とうのベジータはといえば、そんなの様子など気にも留めず、唇の端を吊り上げて笑う。
「よう、。今日も威勢がいいな」
「つうか……ベジさんっ! なんてことすんですか! ピコさんが死んじゃうじゃん! いつもなんでそう暴力的なんでしょうねもうもうもう!」
「はっ。おまえに手を出そうとするやつは、万死に値するぜ」
キィ! と喰い付くに、さらりと受け流すベジータ。
それに反抗的な視線を向けて、は唇を尖らせて。
「手なんか出されてません。お話してただけですっ。それに…ベジさんにはそんなこと関係ない。いつまでも『オレ様の』なんて言ってないで、さっさとブルマさんとトラちゃんのとこに帰ってあげなよ」
所帯持ちのクセにまったくもう、と頬っぺたを膨らますを見て、ベジータはフッと余裕そうな笑みを浮かべた。
自分はブルマと結婚して、トランクスという息子がいるとわかってはいるのだが、どうにもこうにもを構いたくなってしまう衝動を抑えられない。からかうとすぐムキになるところも、コロコロとよく笑うところも、とにかく可愛い。
それが恋愛感情かと聞かれると、はっきりそうともいえないのだが、近くにいれば弄りたくなってしまうし、ついつい足を伸ばして会いにきてしまうのは確かだ。
ブルマもに対して似たような感情があるため、そんなベジータの気持ちがわかるらしく、そしてが悟空だけを見ていることも重々把握しているので、「まったくしょうがないんだから」と言いながらも、容認している。
「関係ないなんて、つれないことを言うな。ブルマは仕事が忙しくてな…。トランクスは悟天のところに遊びに行った。てわけで、オレ様はいま暇なんだ」
「悟天のところ? じゃ、そこに悟空もいるよ。暇なら行ってみたら?」
ふふふ、と先ほどまでとは打って変わって、柔らかい笑みをこぼすに、ベジータの胸がざわつく。
ほんとにコイツは、初めて見たときからまったく変わらない――――――自分の感情に正直なところも、一途にカカロットを想っているところも。
そして、この感じ。
その笑顔を見ているだけで何故か心が解けていくような、そんな感じも、今も昔も変わらない。
最初に目にしたときからすでに、外見はもとより、内面からくるその不思議な魅力に囚われ続けているのかもしれない……家庭を持った今に至っても。
し・か・し。
隠すつもりもないんだろうが、『悟空』と名前を口にしただけで「わたしシアワセですv」みたいな顔をする。確かにその笑顔は心和むが、笑顔の源が気に入らない。
そりゃ、ずいぶん長い間顔も合わせずに過ごした時間は、にとっては苦しかったに違いないし、事実、ひどく哀しげな彼女を放って置けなくて、ちょくちょくからかいに……もとい、慰めに来たりしていたが。
だから、シアワセそうに笑う彼女を見るのは喜ばしいことこの上ないのだが、それが悟空が戻ったことから来るものだと思うと―――――――――わかっちゃいるが、面白くない。
「なんで、カカロットなんだ…………」
「………はい?」
呟くように漏れた自分の一言に、見上げてくる表情豊かな澄んだ瞳。
ことり、と首をかしげるしぐさも、その動きに合わせて流れるサラリとした髪も、つややかな唇も。
「どうしておまえは、オレのものではなく、カカロットのものなんだ?」
「いや、どうしてって言われても………悟空がわたしを好きでいてくれて、わたしが悟空を好きだから、じゃないかな」
至極まじめに聞いてみたら、もかなり真剣な顔で返してくる。
その答えもまた、ベジータ的には面白くもなんともなく、むしろ腹立たしい。
「オレもおまえが好きだぞ?いや、むしろ愛しているな…。だってオレが好きだろう。だったら―――――」
「ちょっと待て。わたし、お友達としてはベジさんのこと好きだけど、恋愛的には好きじゃないよ……?」
なんだかじりじりと迫ってくるベジータに、迫られた分だけ後退りながら反論するも、そんなの聞いてもいないようにさらに追い詰めてくる。
ぐいっと腕をつかまれ引き寄せられて、その上顎をつかまれ仰向かせられたは、背中に冷たい汗を感じた。
「嫌い嫌いも好きのうちって言うからな。だから、おまえがオレ様のものになっても問題はない」
「大問題だ!!! って、ちょ、っと放せケダモノ!!! ブルマさんに言ってやる〜〜〜!!!」
いつだってこうしてからかってるのに、一向に慣れることなくうろたえる。
捕まれたままジタバタもがく華奢な躰は細く柔らかく、プチパニックを起こし潤む瞳はひどく、扇情的で。
いつもながら………いっそ、ここで理性が飛んでしまえばいいのに、と、そう思う。
―――――――――いや、今日こそはこのまま後先考えず、自分のものにしてしまおうか。
認めてやろう。
オレは、おまえを愛してる。
毎回からかってしまうのは、その気持ちを誤魔化すため。
ブルマもトランクスも愛しているが、手に入らなかったもののほうが拠り愛が深くなる。
ましてやは………はじめて「愛しい」という感情をオレに植え付けた女。
「抵抗するな。嫌がられると余計に燃える」
「っこの!!! 変態ドS!!!!!」
フギャーーーっ!!! と大暴れするも、そんな抵抗はベジータにはまったく持って通じるわけもない。
気ばっかり焦っても、身体はがっちり捕まれたまま。
いつも以上にやりすぎだ!!! とが心のうちで悪態ついたそのとき。
「ベジータあああああぁあああ!!!!!」
どげしっ!!!!!
はるか彼方から戻ってきたピッコロが、ベジータに強烈飛び蹴りを食らわせ、今度はベジータが大きく吹っ飛んだ。
開放されたがその場にペタン、と尻餅をついて、ハァ、と安堵の息をこぼしたのもつかの間。
すぐさま戻ってきたベジータが、ピッコロに殴りかかり、ピッコロはピッコロでその攻撃を臨むところだというように応戦し、目の前で激しい殴り合いが始まった。
「キサマッ!!!いいところで邪魔しやがって!!!また吹っ飛ばしてやるぜ!!!」
「ふざけるなっ!!!先に邪魔したのはキサマのほうだ!!!このオレ様の一世一代の大告白を!!!」
「はっ!!! はオレ様のものだ!!! キサマなんぞに渡すものか!!!」
「思いっきり拒否されてたくせに、よく言うぜ!!!」
自分の目前で激しく戦う男たち。
しかも、、、その原因は、どうやら自分らしい。
顔だけ見たらやたらいい男が自分を取り合っているというこの事態、女冥利に尽きるっていったらそれまでだけど………何とか止めないと本気で死人が出そうなその激しさに、は慌てて仲裁をかってでることを決意。
「ちょ、ちょっと落ち着いてよふたりともっ!!! 不毛な戦いはやめようよ、わたしが好きなのは」
「オラなんだから」
地球を救った超絶パワーの男たちが本気で喧嘩してるその気配を、悟空が感じないはずもない。
どうやらそれがのすぐそばで繰り広げられていることにいやな予感を感じて戻ってきてみれば。
「一世一代の大告白」だの、「はオレ様のものだ」だのと、人の愛しい奥さんを捕まえて勝手気ままに言い合い殴り合っている男ふたり。
「ああ悟空さんっ!なんとかしてよこのふたり!わたしは悟空のものなのに、なんだかワケわかんないことで喧嘩しちゃっててね!? どうやって止めようかと…………って」
あたふたと場の説明をしていたが、悟空の表情を見て言葉を失った。
そこにあったのは、黒い笑みを薄く口元に貼り付けた悟空の様で。
自分のいないところで、自分の大事な妻を取り合っているベジータとピッコロに、いたく腹を立てているらしいその姿に、はもう、瞬時に「避難勧告」を悟った。
「おめえらなぁ………はオラのだぞ? そのオラ差し置いて、なにやってんだよ」
怒気を孕んだ静か過ぎるその声と、一気に立ち上る金色の気。
いきなり超過!?!?と焦るとは裏腹に、そんな悟空を見てとりあえず殴り合いを一時中断するベジータとピッコロ。
「ふっ。役者は揃ったってわけだ」
「それじゃ、決着をつけるとするか」
「決着?に手を出そうとしたおめえらを許せねえだけだぞオラは。はオラのだって言ってんだろ?なあ、?」
悟空の勝ち誇ったような視線と、ベジータの刺すような視線と、ピッコロの真剣な視線。
その三人の視線の先のはといえば、それはもう小さくなって。
「………ええはい。わたしは悟空さんのものです…………はいさようなら!!!」
一言囁いてその場から逃げ出した。
その後、まさに地球全体を揺るがす戦闘が勃発。
何度もくり返すその大地震の正体を知るものは、ごく少数の者たちだったという。。。
その頃、その危険地帯から飛び出して、悟飯・悟天・トランクスの元へと難を逃れたはといえば。
「おかあさんはボクのお嫁さんになるんだよっ!」
「なに言ってんだ悟天! 親子で結婚できるわけないだろ!? ちゃんはオレのお嫁さんにするんだ!」
「こらこらチビたち。お母さんはお父さんのお嫁さんなんだぞ?」
「えーーー!?!?おとうさんの!?!?」
「悟空さん、ずっりーーー!!!」
こっちはこっちで、小さな取り合いの渦に巻き込まれてましたとさ。

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