激しく衝突しあい、両者ボロボロになって。
行き着いた結果は、命の水を探しに来た王子の勝利。
「殺せ」と喘ぎながら言う大魔王に、王子はやんわりと首を振った。

「おめえ、ちょっとやり方まちがえたよなあ」
「………な、んだと…………?」
「大好きで大切なヤツにはさ、優しくしなきゃいけねえんだぞ? 好きな子をいじめるってのは、ガキのすることだ」
「―――――――――なるほど、な………」
「おめえがあいつのこと本気で好きだって、オラにはわかる。でも、悪ぃけどオラ、引く気はねえぞ。おめえのせいであいつが泣いたの、許せねえし」
「だから………殺せ、と」
「やだね。死ぬのは簡単なんだ。でも、あいつを泣かせたんだぞ、おめえ」
「だったら、どうしろ………というんだ」
「どうすればあいつが笑うか、わかる、よな?………ほんとはおめえ、あいつの笑顔が見たかったんだろ?」
「……………………………オレの、完敗、だな」

一つ大きく深呼吸し、大魔王は王女の国全体にかけたその呪いを、夜明けとともにその呪縛から解き放った。
それは、彼女との『決別』を意味すること―――――――――彼女を泣かせた自分への、罰。

身体以上に傷の深い心から、死んだほうがましなくらいの痛みを感じる。
そこから学んだことは、『愛』というものは甘く優しい反面、なによりも残酷で心を狂わせるものであるということ。






命の水 act.5







目が覚めたのは、窓から入ってきた緩やかな風が頬を擽ったから。
はゆっくりと目を開けて、それから急速に現実を思い出し、ガバリ、と勢いよく身体を起こした。



大きな窓から、陽の光が射し込んでくる。
ベッドから飛び出てその窓の傍へと寄ると、そこから見えるのは城下町のにぎやかそうな喧騒。





嘘じゃない。
夢じゃない。







やっぱり、呪いは解けたんだ。






胸がいっぱいになって、身体から一気に力が抜けて、がその場にへなへなと座り込んだとき、かちゃり、とその部屋の扉が開いた。





「お、目ぇ覚めたか?」





かけられた声は、柔らかく耳に響く。
無事だったんだ、と安堵の息をついて振り返り、吸い込まれそうなその瞳にほどかれていく胸のまま、ふんわり笑顔を返して口を開こうとした瞬間。





どばーんっ! 



と耳に痛い音を響かせて、彼が入ってきた扉が大きく開け放たれたかと思ったら。



「ちょっと孫さん困ります、わが国の王女の寝所に勝手に入るなんて!!! いかなこの国を救ってくださったとはいえ、あまりに無礼ですわっ!!!」

「うわわわわっ! ちょっと様子見に来ただけじゃねえか!」



唖然とするの目の前で、悟空は血相変えて飛び込んできたブルマに耳を引っ張られてあえなく退室していった。。。










「……まったくもう。油断も隙もあったもんじゃないわ。ちょっと目を離すとすぐ入り込むんだから……っ!」



ぶつくさと文句を言いながら戻ってきたブルマを見て、の目がウルウルと潤む。
昔とまったく変わらない侍女のその様子が、懐かしくて。





さま、ご気分はいかがですか?」
「ブルマさん……………サイッコーの気分ですっ♪」



悟空は無事だし、ブルマさんは以前と変わらないし、城下町は賑わってるし。
呪いが解けたと同時に、の中で半ば凍結されていた本来のほんわか柔らかい気配が顔を出す。
ニコニコと、言葉通りの最高の気分を前面に出した表情に、ブルマはにっこりと笑顔を返した後、キリリ、と眉を吊り上げた。





「それは良かったですけど………何なんですか、昨日までのあの格好はっ!!!」
「…………はい?」



言われた意味もさることながら、ブルマが怒っている理由もまったくわからず、きょとんと彼女を見返せば、ブルマはそんなの様子に軽く額を押さえて。



「なんで一国の王女が、女中のような格好をしていたのかって言ってるんですっ!」
「………ああ、だって―――――――――」
「だっても何もありませんっ!!!前々から申し上げておりますが、王女としての自覚が足りなすぎるんですさまには! 大体……」



の言い訳をぴしゃりと黙らせ、延々と続くブルマのお説教。
呪いをかけられてはや数百年、やっと目覚めのときがやってきたと思ったら、いきなり始まったお説教。長いこと怒ってなかったせいか、ブルマの剣幕はそれはもう、いつも以上だったけれど。
―――――――――それさえも、ひどく懐かしい。





さまっ! 聞いてるんですかっ!?」
「はい、聞いてますよ〜。ものっすごく反省してます、ごめんなさい」



懐かしさのあまり、ニコニコ笑いながら久方ぶりのブルマの説教を聞いていたを一括すれば、それさえもやんわりと笑顔を浮かべて受け流す彼女に、ブルマも毒気を抜かれてしまった。





「………もう、こんなホンワカお惚けで、よくあの大魔王の威圧に耐えられましたねぇ……」



自分の主に向かって何気に失礼ぶちかます侍女のため息交じりの発言に、王女は気にすることもなくいたずらっぽい笑みをその顔に浮かべる。



「こう見えてもわたし、ものっすごく負けず嫌いで意地っ張りなですよね〜」


そう言えば、ブルマはその澄んだ鳶色の瞳をじっと見つめてから、クスリ、と笑って。


「わかってますよ。きっとさまは負けないだろうと、信じてましたから。私だけではありません、この城の者も、この国の民も、みんながきっと、あなたを信じていたはずです」




気取らず天真爛漫で、自分にかなり正直で、気さくで穏やかで優しい空気を纏う見目麗しい姫の、芯の強さは人一倍。責任感も人一倍。
ずっと一人きりで、挫けそうになったこともあっただろうし、その間哀しいばっかりだったはずなのに、一言として『負』の言葉も言わずその表情さえ見せない。

だからこそ、自分はこの王女が好きなのだ。国中の民も、この王女を慕っているのだ。





「お一人で、つらかったでしょう。ご無事で、なによりでした………」



柔らかく髪をなでてくれる温かいブルマの手とその言葉に、胸が熱くなる。
自分の無事に安堵の息をついてくれる人がいるだけで、こんなにも人は強くなれる。





辛かったし、いっぱい泣いてしまったけれど。
今この瞬間の幸せを思えば、すべては『過去の思い出』として胸の引き出しにしまっておける。痕が残るほどの、引きずるほどのことじゃないって思える。







でも、そう思えるのは。
今この瞬間の幸せをくれたのは。







「……………ちょっと、いえ、ずいぶんと礼儀知らずですが、確かに素敵な方ですね」



苦笑交じりのブルマの言葉に、弾かれたように顔を上げる
ほんのり赤らむその頬に、ブルマはいたずらっぽい光をその視線に含ませて。



「中庭でお待ちになっておりますよ。お着替えがお済になったら、行ってらっしゃいませ」

「………はいっ!」















悟空と話せる。
そう思うだけで胸が高鳴り、急いで着替えを済ませて小走りに中庭に向かう王女。
眠りついていた城の者たちのねぎらいの言葉に笑顔で答えながら、は一心に中庭を目指す。





ハアハアと息を乱し中庭に駆け込んだは、命の水の湧き出る泉のふちに腰掛けてその指を泉にあそばせている悟空の姿を見つけて、騒ぎ出す鼓動を抑えるように手を胸に押し付けた。





「悟空」





呼びかければ、こちらを向いた悟空の漆黒の瞳がの姿を捉えて。それから、その端正な顔を柔らかく綻ばせた。



、すげぇ綺麗だぞ。王女さまみてえだ」



悟空と出会ったときはみすぼらしい女中の格好をしていた
それでもこんなにも綺麗な人間がいたのか、と思うほどだったのに、王女のドレスを身にまとったはもう、非の打ちどころがなくて。



「みたい、じゃなくて、王女なんですよ、一応」



悟空の微妙な褒め方にくすくすと笑い出すは、そんなドレスを着ていてもやっぱり、ぜんぜん気取っていない。「こっちの格好は動きにくいなぁ」とひとしきり笑ってから、は悟空の隣に座ってその瞳を心配そうに見上げる。





「怪我、しなかった? 強かったでしょ、ピッコロさん」
「ああ、強かったぞ。怪我もしたけどさ、この水飲んだら治っちまった」


命の水を示してニッ、と笑うと、はふんわり笑って「そっか」と呟いた。


「そんなわけなんで、オラの父ちゃんの分の水、わけてもらってもいいかな?」




その言葉に、は思い出したように顔を上げ、視線を遠くに飛ばす。
もともと悟空は父王の病気を治すため、『命の水』を探してこの国に来たことを思い出した。その目的を果たした今、彼にはもう、この国にとどまる理由は、ない。





「………そっか。帰らなくちゃいけないんだ、ね……」





ちょっとうつむいて唇をかんで寂しさをやり過ごし、それから顔を上げてにっこりと笑顔を向けてから、は悟空に命の水を差し出した。



「悟空のお父様が、はやく良くなりますように」


小さく祈りをこめて渡すと、悟空は「サンキュー」とそれを受け取って。


「さて、と。じゃあ、とりあえず帰ぇるか」



立ち上がった悟空につられて、も立ち上がる。
寂しさを隠し、じっとその澄んだ漆黒の瞳を見つめて、柔らかく微笑んで。



「悟空、呪いを解いてくれてありがとうございました。この国の王女として、お礼を言います」


深く頭を下げたをみて、悟空は屈託なく笑う。


「いいって。オラがそうしたかっただけだしさ」



太陽みたいに、眩しい笑顔。
くらくらしてしまうほどの笑顔に、大魔王さえ退けた王女の虚勢が、簡単に崩れそうになる。
必死で持ちこたえ、は悟空に一切れのパンと、一振りの剣を渡した。



「このパンは、いくら食べてもなくならないパン。剣は、どんな大軍でも打ち負かすことができるといわれています。どちらもわが国の秘宝です。お礼に、悟空に差し上げますね」


悟空は受け取ったその品との顔を交互に見る。


「いいのか? そんな大事なもんもらっちゃってさ」
「いいの。悟空に、使ってもらいたいから」



にこ、と穏やかな笑みを浮かべるの雰囲気は、前にもまして柔らかくて、暖かくて、まるで春の陽射しのように心地いい。
騒ぎ出す胸を意識し、「サンキュー」、と礼を述べてから、悟空はふんわり和むの瞳をひた、と見つめた。





「それとさ………オラ、まだ答え聞いてねえんだけどなぁ」
「答え?」




まっすぐな悟空の瞳にどぎまぎしながら、ことり、と首をかしげる。そんな彼女にいたずらっぽい笑みを浮かべて、悟空はうん、と頷いた。



「オラ、おめえのこと好きんなっちまった。だから、この国の呪いが解けたら、オラと結婚してくれっか?」
「…………あ!」
「思い出したか?」



悟空の言葉に、一気に顔が熱くなる。
言いたい。わたしの気持ちも。でも………。
グッとこぶしを握りしめ、自分を見ている悟空の瞳をまっすぐ見つめ返し、は困ったような笑みを浮かべた。



「わ、わたしも! 悟空のことが、その……すき///なんですけど! この国から離れることはできないの。だから………」
「だから、『とりあえず帰ぇる』って言ったろ?いったんオラの国に戻ってから、またここに来るよ。オラもこんなんだけど一応王子なんだ。でもオラ、三男坊だからよ、オラの国はどっちかの兄ちゃんが継ぐからオラがここに来ても大丈夫なんだ」



語尾を濁すの声を継いで、こともなげに笑いながら続けてくれた悟空の言葉に、の顔にゆるゆると心の底からの笑顔が戻る。



「………うん。だったら、答えは『YES』、です」



ふんわりと、やわらかい笑みを浮かべるその顔は、耳まで鮮やかな朱に染まっていて。
そんな彼女は、文句なしに可愛くて。





思わず腕を伸ばし、衝動のままにその華奢な身体を抱きしめた。





「………オラの国、ちょっと遠いんだ。兄ちゃんたちも今ちょっと行方不明でさ、探しながら帰ぇって、父ちゃんに命の水届けてから、必ずまた、戻るから。一年、待っててくれるか?」



かすれるような悟空の声。
話すたびにもれる呼気が、耳を擽る。



はそっと目を閉じて悟空の体温に身体を預け、穏やかに笑んで。



「一年くらい、どうってことないよ。何百年も耐えられたんだから。あと一年くらい、待ってられるから。だから、約束してね。必ず戻ってくるって」
「ああ、約束する」















―――――――――かくして悟空は命の水を携えて、自国への帰路につきました。



















to be continued...


ブルマ「ねえ、管理人さん………何やってんの?」
管理人「何って………妄想?」
「うん、管理人さん、思いっきり自己満足妄想入ってるよね?」
管理人「……………エヘv」
悟空「で、いつ終わるんだ?この話はよ」
ブルマ「永遠に終わらないんじゃない?」
管理人「――――――だって、妄想が一人歩きしてるんだもん」
ピッコロ「ほう……。で、その妄想で俺様を負け組みにしたわけか……」
管理人「そうなのv ごめんねピコさんvv」
ピッコロ「永遠に眠らせてやるわっ!死ね!!!」
管理人「ハンギャーーーーー!!!!!」
ブルマ「ほんとに殺しちゃったらさ〜」
「マジで終わらないからさ〜」
悟空「半殺しでやめとけよ、ピッコロ」
管理人「…………てめぇら、後で覚え…とけ、よ………(虫の息)」

え……えへへv