はお風呂が大好きだ。
修行でどんなに疲れてたって、お風呂だけは絶対毎日欠かさなかった。
だから、ブルマがそれを切り出したとき、悟空はふたつ返事でOKした。
――――――そしてそれが、騒ぎの始まりだった。




GoGo!! 温泉パニック *前編*





狭いデコボコ山道を、一台のワゴン車が走っている。
ほんとに車一台がやっと通れるくらいの、細い道――――――ってゆうか。


これは道なのか??? 道は道でも、コレは獣道というものだろう。




「ちょっと〜! 地図!! 地図持ってんの誰よ!?」


運転席のブルマの声に、そのすぐ後ろに座っていたが手を挙げた。

「わたしで〜す。……えっと、おかしいなぁ。コレであってるはずなんだけど……」


地図と見ながらひたすら首をひねるを見て、悟空は慌てた。

に道案内をさせる――――――すなわち必然的に絶対に迷う!!! 

久々(といっても一ヶ月くらいだが)の仲間たちとの再会に話が弾み、彼女を放っておいたのがいけなかったのか。




「ブルマ、の言うこと聞いちゃダメだぞ。コイツはひでぇ方向音痴なんだ」


悟空の言葉に、が後部座席に陣取って談笑していた男性陣(悟空、クリリン、ヤムチャ、亀仙人、ウーロン、プーアル)を振り返り、ぷくっと頬を膨らます。


「そんなことないもん。地図あれば迷わないもん」

「……でもさん、それ、東西南北が逆じゃないかしら」

「え゛」


のとなりに座っていたランチが彼女の持つ地図を覗き込み、可愛らしく首をかしげた。




「やー!!!ごめんなさいブルマさんっ! ま逆ですま逆! ホラ、こっちみたいです!!!」

「ちょ……ちゃん、それじゃ前が見えないわよっ!!!」




東西南北といった方向感覚が欠けている上に、地図もまともに読むことが出来てない自分に、自分のことながら情けなく自己嫌悪に陥ったまではよかったのだが。
さらにはみんなに迷惑をかけたことにプチパニックを起こし、正しい向きに地図を広げ、あろうことか運転しているブルマの目の前にそれを示した。




ただでさえ狭い獣道。
視界を遮られてしまっては、いかな運転のスペシャリストのブルマであろうとも、その狭い道にそって車を走らせることなど不可能で。



ガコン!!!!!



当然のことながら脱輪。
およそ車が走ることなどないその獣道にガードレールなどあるはずもなく。そのまま木々にぶつかりながら、車は登ってきた山道をすべるように急降下。




クリリン・ヤムチャ「「どぅわーーー!!!なんだなんだなんだーーーーー!?!?!?」」
「ぎゃーーー!!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃいい〜〜〜!!!」
ブルマ「い、いいから!!! 早くどかしてよ地図!!! 前が見えないーーーーー!!!!!」」
ランチ「きゃあぁあ〜〜〜!!!…………へぇっくしょいぃ!!!……って、なんだぁ!?!?!?」
悟空たのむから落ち着けって!!!」
ウーロン・プーアル「「まだ死にたくねえ(ない)よ〜〜〜!!!」」
亀仙人「な、なんじゃどうした何事じゃ!?!?!?」





ドカンバキンドガガガガーーー!!! と障害物に遠慮も何もなく衝突し、そのたびに走る衝撃と戦慄にそれぞれ大絶叫し。










かくしてその車の中は、阿鼻叫喚の恐怖の館と化した………。










それからかれこれ小一時間後。






あれほどの衝撃をその身で受けながらもなんとかかんとか走ってくれるボッコボコの可哀想なワゴン車は、転げ落ちたのが幸い(?)してか、思いのほか早く正しい道に軌道修正し。
奇跡的に誰も命を落とさないどころかケガ人もなく、悟空たち一行は目的のお宿に到着していた。(涙目で死ぬほど謝るの姿があったという…)






山の中にで〜んと構えたそのお宿。
『秘境の湯』というにふさわしく、マイナスイオンでまくりの緑豊かな大自然の中、建物はそれ以外は見当たらない。




仲居さんらしき方に案内され、女性陣、男性陣と二手に分かれ。
荷物を運び込んだその部屋の窓を開け、そこから見える山と渓流の絶景にうっとり見入るに、ブルマがフフフ、と意味ありげに笑いながら声をかけた。


「ねぇ、ちゃ〜ん?」
「ハイ?」
「孫くんとはもうお風呂、一緒に入った?」
「………は!? な、ななな何をバカな……あり得ない!!!」


景色に見惚れて浮かべていたにこにこフワフワ笑顔はどこへやら。ブルマの質問に顔どころか身体中を真っ赤に染めて、頭と手を力の限りブンブンふるの様子に、逆にブルマのほうが驚いてしまった。


「……なんで? あんたたち、新婚さんじゃないの。一緒にお風呂入るのって基本じゃない? ねぇランチさん」
「ああ? オレはよくわかんねぇけどよ……。でも惚れたヤツと結婚したら、一緒に入りてぇって思うかもな…」

「―――――――――だって、、、恥ずかしいじゃないですか///」


うつむき恥じ入りマックスで呟くをあきれたように見るブルマ。
悟空とが結婚してそろそろ一ヶ月。あんなことやそんなことやこんなことまでやっちゃってるはずなのに、たかがお風呂ごときでなにがそんなに恥ずかしいんだろうか…。


「な〜んでお風呂が恥ずかしいわけ〜? もっと恥ずかしいこといっぱいしちゃってるク・セ・にv」


「いやあぁぁあ!!! 言わないで言わないでハズかしいぃぃ〜〜〜!!!!!」



酔っ払ったセクハラ親父のように絡んでくるブルマに、は火を噴く顔を両手で覆い、いっぱいいっぱいな様子。なんというか……、これはこれで初々しい。


相変わらず恥ずかしがりやのを目の当たりにして、ブルマの目がキラキラと輝きだした。……何かをたくらんでいるときの瞳である。

ここに予約を入れるとき、パンフレットで読んだのだ。この宿の温泉には大浴場、露天風呂、そして……予約制の貸切風呂があると書いてあった。ちなみに貸切風呂のところには、『ご家族、カップルなどに最適!!』という注釈が。
それを思い出したブルマは。





「ねぇちゃん?」
「な、なんでしょ〜か」
「せっかく温泉来たんだし……、貸切風呂とか借りて、孫くんと二人でお風呂入って…」
「ぜっっったい、嫌!!! せっかくみんなできたんだから、みんなで大浴場に入ろうよ〜!!」 

ブルマの言葉を途中でさえぎり、力いっぱいこれでもかって言うほど否定し、あくまで悟空と二人っきりはいやだと主張するに、ブルマは軽くため息をつき。


ちゃんは、孫くんとお風呂入りたくないわけ?」
「え!? ぇ、ぁ、そ、そんなことは、ない、ケド……」


そう。別に入りたくないわけではないし。
むしろ、ちょっとは入ってみたいかな〜、なんて思ってはいるんだけど……。


思考が思いっきり表に出てしまうのその表情に、ブルマはにんまりと笑った。


「でしょ? 入りたいでしょ? だったら迷わず入りましょうよ!! 旅の恥はかき捨てってよく言うじゃない! よし! じゃ、あたしフロント行って貸切風呂の予約入れてくるわ!!」
「や!! ちょ、ちょっとブルマさん早!! 旅の恥…って、なんか違うーーー!!! いやあぁぁ!!!待って〜〜〜〜」

言うが否や部屋を飛び出すブルマの背中を、の情けない声が追いかけていた……。















そのころ男性陣のお部屋では。

「なんか……となりの部屋でブルマさんとちゃんが大騒ぎしてるぜ」

ちゃっちゃと浴衣に着替えたクリリンが、何事だろうと呟いた。

「いや、ブルマが騒ぐのはいつものことだから」
もしょっちゅう騒いでっからなぁ…」


おのおのの片割れを思い、苦笑を交わすヤムチャと悟空。


「いやいやいや、賑やかでええことじゃわい。旅行は楽しくないとのう。しかも…可愛い娘3人と温泉旅行。わしゃ、生きててよかったぞい」

うししし、と笑う亀仙人と、同じくヤラシイ想像をしてニヤつくウーロン。


「でもここ、混浴じゃないですよ?」



「「なにーーー!?!?!?」」


パンフを見ながら冷静に二人に突っ込みを入れるプーアルに、亀仙人とウーロンの驚愕の声が上がる。



「な、なんてこった…。目の前に特上の女の子が3人もいるってのに、ただ指くわえて見てろってのかよ……」
「そ、そんな…。老い先短い年寄りに、なんちゅう酷なことを……」



がっくりと肩を落とす二人を見て、あっけにとられるクリリン、ヤムチャ、悟空である。




「……だいたい今どき、混浴なんてそうそうあるわけないじゃないですか」
「こんよく? こんよくってなんだ?」
「……相変わらずだな、悟空。ふつう温泉は、男湯と女湯ってのがあってだな、男と女の入る風呂は別なんだ。混浴ってのはな、男湯と女湯が別れてない風呂のことをいうんだよ」
「へぇ。そうなんかぁ」




なんて、クリリンの悟空用『温泉講座』が繰り広げられている中、亀仙人とウーロンは、こうなったら『のぞき』の線でいくしかないっ! という結論を出していたのだが。


クリリンの説明に納得したように頷いてから、悟空はう〜ん、と腕組みをして上を向いた。



「……じゃ、でっけぇ風呂でも、と一緒に入れねぇんだなぁ」
「「「「「はぁ!?!?!?」」」」」



何気なくものすごい発言をする悟空に、その場にいた全員の視線が集まった。



「な、ななななに言ってんだよ悟空!!! そんなの当たり前じゃねぇか!!!」
「新婚なのはわかるけどさ、そういうのは家でやれよな〜」
「てゆうかよぅ…悟空!!!おまえ、羨ましすぎるぞ!!!」
「師匠のわしを差し置いて……悟空!!!おまえというヤツは!!!」
「み、皆さん落ち着いて……」



動揺するいまだ彼女いない暦歳の数を行くクリリンと、呆れたように軽く悟空を諫めるヤムチャと、ウーロン&亀仙人の恨みがましい視線と、大興奮の彼ら4人を宥めるプーアルと。




「家っていってもなぁ。、恥ずかしがって一緒に入ってくれねぇんだもん。広くてみんなが一緒なら入ってくれるかな〜、とか思ったんだよなぁ」

はぁ、とため息をつく悟空。




結婚して、もうすぐ一ヶ月。
悟空の無知により世間一般よりはだいぶ遅れてしまったが、『初夜』なるものも済ませたし。なにがそんなに恥ずかしいのか、悟空にはよくわからないのだ。


そして、そんなふうにため息をつく悟空を見て。
男としては、やっぱり好きなこと風呂に入ってみたいと思うのは自然なことで。


なんだか可哀想だと思ってしまうクリリンとヤムチャ。
そして、ざまあみろと思ってしまうウーロンと亀仙人。










「ふふふふふ。今宵はその夢、あたしたちで叶えてあげるわよ、孫くん」





いつの間に忍び込んでいたのか。
フロントで貸切風呂の予約をバッチリ決め込み、に気づかれないようにそっと男部屋に入り込んだブルマが、上目遣いで悟空をみて不適に笑う。




「ブルマ、なんかいい考えでもあるのか?」

即座にのるヤムチャに、ブルマは含み笑いをしながら頷く。

「あるのよね〜、これが。……そうね、あんたたちが協力してくれれば、孫くんとちゃん、確実に二人でお風呂に入れるわよ」



「オレはヤダぞ、そんなの! なんで悟空だけにそんなオイシイ思いさせなきゃなんねぇんだ!!」
「わしもやらんぞ! わしも一緒に入ってもいいなら別じゃがの」


エロコンビは反抗的な態度だ。
いかな結婚しているとはいえ、はすごい美少女で。そんな彼女と日常いちゃいちゃできる悟空に、何で協力してやらにゃならんのだ、とふてくされモード全開だ。



「オレは、のってもいいかな。贅沢な悩みでムカつくけど、キモチ、わからんでもないしなぁ」
「オレはやるぜ。面白そうだしな」
「ヤムチャ様がやるなら、ボクも協力します」










こうして、ブルマ、クリリン、ヤムチャ、プーアル、そして後にランチが加わり、『二人っきりで温泉に入ってもらおう大作戦・悟空&が開始された。















余談。

「ちょっと待って、マジありえないし!!! 悟空と温泉……って、確かに、まぁ、二人で入ってみたい気もするけど、、、ダメダメ!!!やっぱ恥ずかしいよぉ〜〜〜!!!」


悟空「協力してくれるのはありがてぇけどさ。が嫌なら別にどうしてもってワケじゃねぇんだ。恥ずかしがってるあいつも可愛いと思うし。だから、ムリさせなくたっていいんだけどなぁ」



――――――当人たちよりハッスルしている六人と、なんとかジャマしてやろうと企む二人。




















悟空とは、二人っきりで温泉に入ることができるのか!?!?




















はい、キリリク初のお話です。いきなり続いてるし…(汗)
やってみると楽しいものの、けっこう難しいですね///