パパイヤ島に着いたのは、神殿を出発た日の午後だった。
着いた途端にぽつぽつと雨が降り出し、会場に向かううちに徐々に強くなっていった。
「へぇ〜、やっぱりこっちの世界でも雨っって降るんだね〜」
雲の上にある神殿では一度も降ったことがなかった雨に、は妙に感心していて。
濡れることも気にしないで歩いていたら、親切な初老の男が傘を貸してくれた。
一本しかないその傘を悟空が広げそこに二人で入ると、肩が触れ合いそうな近い距離。お互いの体温が伝わってしまいそうなその距離に、緊張したけど嬉しくて。
人ごみの中、相合傘で、武道会会場はもうすぐです。
第十二章:初めまして
は感動していた。
そりゃもう、目をきらっきらさせて、落ち着きなく周りをきょろきょろと見回している。
人、人、人! 人がいっぱいいる・・・!!!
そんな当たり前のことが、これほど新鮮に感じるとは。
神殿にいたときは、顔を合わせるのは悟空とミスター・ポポ、そしてたまに神様ぐらい。そのほかにあった人(というのだろうか…?)といえば、ヘンなバケモノだとかゾンビーズだとか・・・。つくづく、今まで自分が置かれていた状況が普通とはかけ離れていたのだと思い知らされる。
そんな人ごみの中に、決して少なくはない二足歩行の動物たちを発見して、は目を丸くする。
すご…。フツーに喋ってるし、フツーに服、着てるし。
もといた世界とまったく同じなようで、ゼンゼン違うその事実。
軽いカルチャー・ショックを感じながら、それでも収まらない好奇心満々の瞳で嬉しそうに笑いながら歩くを、悟空もまた笑顔を浮かべて見守っていた。
「ほら、。アレが天下一武道会の門だぞ」
しばらく歩いた後、悟空が指差したところには、石造りの大変立派な門があって。
顔を上げてそれを見たは、それまでのフワフワ笑顔を消して、いくらか緊張した面持ちになった。
見物だけだったら、もっともっと楽しめたのにな・・・なんて今更なことを思っても致しかたがないと解っていても、やっぱり思考はそっちに向いてしまう。
そもそもは武道を始めてまだ一年にも満たないし、下界で普通の人間と戦った経験も皆無。こっちの世界の人間のレベルはまったくもってわからず、ましてや自分の力さえ把握しきれていないどころか非常に疑わしい。
そして何より、武道の試合なんかやったこともないにとっては、知らない人間と戦うということに抵抗、というか恐怖を抱いていたりした。
もとより暴力沙汰や殴り合いの喧嘩などとは程遠い位置に属していたのだ。はっきり言って、殴りたくない、殴られたくない、つまりは戦いたくない!!
「ヤダな〜」なんて呟くに、「大丈夫さ」なんて何の根拠があるのか答える悟空。
はぅ、とため息をつきながら歩を進めるの視線の先に、ふと、木に引っかかった風船を取ろうとしている女性がいた。
的第一印象=すっごいキレイな人〜〜〜///
アイスブルーのサラサラの髪に、同じくアイスブルーのきれいな瞳。真っ赤なルージュが大人チックで、さらにぴったりしたミニの黒いワンピがそのスタイルのよさをアピールしてて。
それこそスクリーンの中にしかいないような美人を肉眼で拝めるなんて、わたしの人生も捨てたもんじゃないねv なんてちょっとおっさんくさいことを思いながら足を止める。
その女の人は、精一杯背伸びをしているけれど、もう一歩のところで風船の紐に届かない。
「ちょっとわたし、取ってくる」
悟空にそう言いつつ傘から出て、軽くジャンプしてその紐をつかんだ。
「はい、どうぞ」
にっこり笑って風船を差し出すと、少し驚いた様子をしていた美人さんが、それはもう、きれいに微笑んで。
「ありがとう」
から風船を受け取り、となりで待っていた小さな女の子に、「もう放しちゃダメよ」と言いながら風船を渡した。
風船をシッカリ握りしめて嬉しそうに走っていく女の子。何気なくその姿を目で追っていたのとなりに悟空が立つ。
「、濡れるぞ」
悟空はを傘の中に入れると、目の前に立つ超美人さんに笑いかけた。
「オッス」
知り合いに話しかけるように、軽く声を掛ける悟空。
知ってる人だったのかな、と思いながらは悟空を見上げ、それからその美人さんに視線を戻したのだけど、対する彼女はごく微妙な顔を悟空に見せている。
「おぬしの知り合いか?」
近くにいた多分連れであろうと思われる老人が彼女に話しかけ、その老人の周りにいたやはり連れの女の人、猫(!)さん、豚(!!)さんが美人さんに目を向けたが、やっぱり彼女は首をかしげ。
「いいえ」
ふるふると首を振った。
そんな彼女には気にも留めず、悟空は勝手に話を続ける。
まずその老人に目をやり。
「ジッちゃん、生き返ってよかったな!」
それからその周りにいた方々を見回し。
「みんなも元気そうだ!」
陽気に声を掛ける悟空だが、声を掛けられたほうはやっぱり微妙な顔をして。
悟空はこの人たちを知ってるみたいだが、相手は悟空のことを分かっていないような、そんな様子を見て、は悟空に視線を戻した。
「悟空、知り合い?」
首をかしげて問いかけたその声に、いち早く反応したのはそばにいた老人だった。
「悟空? 悟空じゃと!?」
「「「「えええええーーーーー!?!?!?」」」」
ビクビクッッ!!
突然の大声にはビックリして文字通りとび上がり、悟空はきょとんと怪訝そうな顔を彼らに返して。
「なに言ってんだ? あたりめぇだろ」
それから明るくなってきた空を見上げ、傘から手を出して空にかざす。
「よかった、雨が小降りになってきたぞ」
言いながらそれをとじだ。
それからの背中をポン、と叩いて。
「おめぇがさっき風船渡したヤツが、ブルマ。で、こっちがオラの師匠の亀仙人のジッちゃんだ」
悟空が薄い青色の髪の美人さんを指し、それからとなりのご老人を示す。
ご老人は茶系のスーツを着こなし、きちんと黒いネクタイを締めていた。スキンヘッドでサングラスをかけ、白い髭をあごにたっぷり蓄えている。この人が、悟空のお師匠さんか、ちょっと、イメージ違うような…、なんて思ってしまう。
ブルマさんに、亀仙人さん、と確認するように呟くを見てから、悟空はその後ろに控えていたほかの三人に視線を移す。
「それと、こっちの女がランチで、浮かんでる猫がプーアル、豚がウーロンだ」
ふわっとした紺色の髪を背中まで伸ばした可愛らしい方に、空飛ぶ猫さん(驚き!!)に、服を着た豚さん(ひえぇ!!)を次々に指し示し。
「う〜〜〜、ん、と……」
は眉根を寄せて、必死で覚えようとぶつぶつ彼らの名前を呟いている。
あっけに取られて悟空を凝視していたその五人だったが、服を着た豚さん(的思考→「確か…ウーロンさん」)が恐る恐るというように悟空を指差した。
「ほ…ほんとに、悟空なのか………?」
信じられないというようなその表情。それは、他の皆々様方もおんなじ顔をしていて。
悟空はぐるりと彼らを見回しやっぱり不思議そうな顔をしてから、ああ、と思いついたようにターバンを巻いた自分の頭に手をやった。
「なんだよ、コイツ巻いてるからわからないのか? 取ってやらぁ。よっく見ろよ」
するするとそれが解かれると同時に、少しずつ姿を現す悟空の特徴的な髪型。すべて取り払って自分の髪の毛を撫でつけるように触ってから、悟空はにっと笑った。
「どうだ。まちげぇねえだろ?」
悟空の言に、やっと納得したようなその人たち。
まだぶつぶつ言っているをよそに、悟空はブルマと亀仙人につかつかと近寄り、二人の前で止まってちょっと考えるように首を傾ける。
「それよりさぁ、ブルマとジッちゃん、縮んじまったんじゃねぇか?」
「あ、あんたがでかくなったのよ…」
いまだ呆然とするブルマが呟くように悟空に言った。
悟空はおもむろに自分の頭に手を置くと、誰にともなく。
「そういや、背、伸びたかもしんねぇなぁ……」
そんな悟空の発言に、空飛ぶネコさん(的思考→「んと、プーアルさん、だったよね?」)とウーロンが「伸びた伸びた」とコクコク頷いている。
それから悟空はブルマの顔を覗きこむと、驚いたように目をまん丸にした。
「ブルマ、唇赤ぇぞ。病気じゃねぇのか!?」
純粋にそう思いその唇に触れようとした悟空の手を振り払い、ブルマはキッと悟空を見返し。
「んなわけないでしょ! 口紅よっ!!」
そう怒鳴りつけてから、いまだに腕を組みながら考え込んでいるに視線を向けると、悟空に問いかけた。
「そんなことより、孫君。そっちのお嬢さんは?」
ブルマのその声に、その場にいた全員の視線がに集まった。
恋愛どころか女っ気もまったくなく、それどころかつい数年前までは男と女の区別もつかなかったような悟空が連れてきた女の子。否が応でも彼らの興味が彼女に向いた。
「ん?」
その好奇の視線に気づいたのだろうか。
が顔を上げる。
「あらv」「ほぉ///」「わぁw」「へぇ///」「まぁ!」
五人がそれぞれに声を上げた。
一斉に向けられた視線が恥ずかしかったのか、少し頬を染めてはにかむように笑う彼女。
悟空の後ろにササ、と隠れるように動くと、その動きにあわせてサラッと流れる茶色掛かった黒髪。
スッと綺麗な弧を描く眉のしたには、髪と同じ色の切れ長の涼しげな瞳。
そして、柔らかな表情をつくるつややかな唇。
「あ、あの…///あれ?」
困惑したようなその声は、高く澄んでいて。
その場にいた全員が共通して思ったことは。
(((((すごい、美少女!!!!!)))))
ブルマとプーアルとランチが感嘆の声を上げ、亀仙人とウーロンはデレっと鼻の下を伸ばした。
しかしはで、自分に向けられている視線に大いに動揺し、(わたしの顔になんか付いてるのかな!?)などと素っ頓狂なことを思ってごしごしと顔をこすっていると、悟空がその背中を軽く押した。
「コイツは。オラと一緒に天界で修行してたんだ」
「え、ぇと、初めまして、です///」
悟空に押し出されたは、ペコっと頭を下げてご挨拶。
緊張してカチンコチンのその様子に、彼らはいっせいに表情を和ませた。
「ヨロシクね、あたし、ブルマよ」
「ちゃんか、わしは亀仙人じゃ」
「ボク、プーアルです。ヨロシクね」
「わたしはランチです。よろしくお願いしますわ」
「ボク、ウーロンって言います!」
みんながみんな挨拶を返してくれて、は安心したように肩の力を抜き、にっこりと笑う。
が、その先では。
「こらウーロン! な〜にいい子ぶってんのよ!!」
ゴチン!!!
「痛てーなブルマ!!!」
「ちゃん、コイツと亀仙人さんはすっごいスケベだから、近づいちゃダメよ!!!」
「なんでそこでわしが出てくるんじゃ!!!」
ギャーギャーと始まる賑やかな言い合い。
がそれを目を丸くしてみていると、悟空が苦笑した。
「みんな変わってねぇなぁ」
懐かしむように細まる瞳。それから、「ああ、そうだ」と気づいたように悟空が切り出した。
「なぁ、クリリンやヤムチャや天津飯たちはどこだ? もう予選会場に行っちまったのか?」
悟空の言葉に、ぴたっと止まるその喧騒。
プーアルが心配そうに表情を曇らせた。
「それが、まだ来てないんです」
「まあでも、そのうち来るじゃろ。みんな悟空を倒すって張り切ってたからな」
時間はまだある、と亀仙人が笑う。
「そうか。楽しみだな!」
そこには、それはもう、嬉しそうに笑う悟空がいて。
――――――「悟空を倒す」って張り切ってるのに、なんでこんな表情ができるのでしょーか。つくづく戦うのがお好きな方だ。
そんなことを思っていると、悟空がを見た。
「じゃあ、オラたち先に申し込んでくるか!」
「ハァ。うん…」
そうか、やっぱりわたしは試合をするのか、などと諦めの悪いことを思いながら浮かない顔で頷くと、悟空はあっけらかんと笑った。
「そんな不安な顔すんな。でぇじょうぶだって!」
だから、その「大丈夫」の根拠はいったい何なんだ!!!
そりゃ、悟空は大丈夫だろうけど、にとってはすべてが初挑戦なのだ。
ハァ、と再度ため息をついたを、悟空が笑顔でずるずると引きずっていく。それを見送るその場の五人。
「ちゃん、試合できるのかしら…」
「いやいや、しかし神様の元で修行していたんじゃし、大丈夫じゃろう」
「でも、なんかイヤそうでしたよね・・・」
「ええ。少し心配ですわ」
「しっかし、すげぇ可愛いよなぁ。悟空もアレで、けっこうやるもんだぜ」
ウーロンの最後の言葉に、まったくだ、と頷いていたとかいないとか……。
とにかく、そんなこんなで、天下一武道会編、幕開けです。
ハイ、原作沿いになってまいりました!!!(ホッ=3)
ホントは全員出したかったのですが、思いがけなく長くなってしまい…ゴメンなさい!(≧人≦)
え? ヒロインさんの設定?? 夢ですもの、美人でいいじゃないですか、ねえww
とにかく、続きます〜☆☆☆

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