ぐっすり眠って一夜明け、とうとうきました天下一武道会開催当日。
体調万全、顔色最高、だけど精神状態はへこみ気味。
ここまで来たら、もうなるようにしかならない、『なせば成る、なさねば成らぬ、何事も』だ。
ん? ちょっと使い方まちがってるかなぁ…? ま、気にしない気にしない。
エイ、と気合を入れて、は自分の顔を両手でパチンと叩く。
「おーい、そろそろ出るぞー!」
男性陣からの呼びかけに、近くにおいてあったリュックを背負い、ブルマとランチとともにホテルの部屋を後にした。
いざ行かん、予選会場へ。
第14章:嫉妬心と悪の影
予選会場に着いた悟空たち一行は、見学隊の亀仙人、ブルマ、ランチ、プーアル、そしてウーロンと別れ、約一名を除き(当然、)意気揚々と競技場に入った。
一歩足を踏み入れて、カチンと固まったのは言わずともわかるだろう、である。
「コレって………マジですか………?」
会場の中には強そうな方々でいっぱいで。
プロレスラーみたいな人や横綱級の力士みたいな人や、さらにはイノシシやらオオカミやらそれはもう豊富なバリエーション(といってしまっていいのだろうか???)の武道の達人たちがそこで準備体操をしたりお話をしたりしている。
つわもの達が強さを競う夢の舞台、と、そう聞いてはいたが。
それを実際目の当たりにし固まるに、悟空が気にすることなく話しかけた。
「、オラたち武道着に着替えるんだけどさ、女はあっちらしいけど、一緒に来るか?」
ひとりじゃ不安だろ、と言いながら、当たり前のようなそのお誘い。だけどね、悟空。それって・・・
男の方々と、一緒に着替えろってコトですか???
「…………や、いいよ、女子のほうで着替える…」
ひとりになるのは相当不安だけど、にだって乙女の恥じらいってもんがある。そりゃ、神殿にいるときは堂々と悟空やミスター・ポポや神様の前で脱いだり着たりしていたが、(だってまったく気にしないどころか見てもいない人たちだったし)コレだけ大勢の殿方がいるとなると、やっぱり恥ずかしい。
そういうわけで、悟空たちと一時別れ、は女子更衣室でリュックにつめていた神様にもらったポロシャツとスパッツに着替えた。
やはり女の子の出場者は少ないのだろう、更衣室はガラガラ、ていうか、今現在は一人。
寂しい・・・なんて思いながら着替えていたためか、重量装備を脱ぐことも忘れて、ハァ、と憂鬱なため息をつき、更衣室を後にして競技場に戻る。
先ほど同様、目に映るのはムッキーな男ばかりで。
(こんな人たちと戦ったら、まちがいなく殺される……!!!)
なんて命の危機を感じてしまう。
早く悟空たち戻ってこないかな〜、とかひとりは不安だよ〜、とか思いながら競技場を見渡したその視線の先。
筋肉ムキムキの男や凶暴な動物の姿をした人(?)たちの中に、女の子を見つけた。
年はより一つ二つ上だろうか。青いチャイナ服に、赤い帯。
つややかな長い漆黒の髪は後ろで一つにまとめられている。
色白の小顔にくりくりとした黒目がちな大きな目、それを縁取る長いまつげ。そして、華奢なその身体の線。
(ぅっわぁ〜///ブルマさんやランチさんに匹敵する美人さんだぁ)
どうしよう、一人でいるの心細いし、声、かけてみようかな………と思っていた矢先、その女の人がにニコッと笑いかけ、こちらに向かってきた。
「おめも、武道会に出るだか?」
顔とのギャップが激しすぎる素敵な訛り。
開口一番のその言葉づかいに一瞬ポカンとしてしまったが、はすぐに気を取り直し、あわてて笑顔を作った。
「あ、ああ、ハイ。一応出るってことになってます」
が答えると、その美人さんがホッとしたように胸をなでおろして笑う。その笑顔は本当に可愛くて。
「よかったぁ。おら、心細かっただよ。みぃんないかつい男ばっかでよ」
「あはは、わたしもです」
も緊張がほぐれ、そう答えてひとしきり笑いあった。
出場する女の子が自分だけじゃなかったという事実に、ものすごく安堵する。
「おらチチってんだ。おめは?」
「あ、いたいた、ー!」
答えようとしたときにタイミングよく名前を呼ばれ、そっちに顔を向けると、悟空が手を上げながらクリリンたちと共にこちらに向かってくるのが見えた。
「あ、悟空」
気づいたが手をふり返して答えると、彼らはの元へとやってきた。
亀マークの道着に着替えた悟空と、同じ道着のクリリンとヤムチャ。ああ、この二人も亀仙人さんのお弟子さんなんだ、とは思いながら、その美人さんに視線を戻し。
―――――――――瞬間、彼女のその表情に、少なからず動揺した。
チチの目は、まっすぐ悟空を見ていた。
透き通った大きな黒い瞳には熱く甘い光が宿っていて。
うっすらと染まる桜色の頬が柔らかく緩み、きれいな自然の微笑を形作っている。
「孫、悟空」
と。
その名を呼ぶ声は、甘い響き。
「「へ!?」」
悟空よりもその場にいたクリリンとヤムチャが反応する。
けれど当の悟空はといえば、じぃっと極上の笑みを浮かべたチチの顔をしばらく見つめ、それから頬っぺたをかきながらことりと首をかしげた。
「だれだ? おめぇ」
その一言が落ちた瞬間、チチの表情が凍りついた。
頭を殴られたような衝撃、というものは、こういった場面で使われる表現なんだろう。とにかく、悟空の「だれだ?」という言葉が、彼女にそういった類の衝撃を与えたのは間違いない。
固まったその表情が、ゆるゆると驚愕の色に変わり、それから燃えるような怒りに変わった。
「バカ!!!!!!!!!!」
キィン、と。
それはもう、ざわついたこの会場の隅々まで響き渡るような大音響の怒りの声を上げ、チチはくるっときびすを返し肩をいからせて離れていってしまった。
「――――――な……なんだ? アイツ…………」
耳元で「バカ」と叫ばれた悟空はその大音量にかなりの衝撃波を受けたのか片膝を床につき、彼女が去っていった方向を振り返る。
ヤムチャとクリリンが続けざまに悟空に向き直り。
「ご、悟空、今のは……?」
「む、むちゃくちゃ可愛い娘じゃないかよ!!」
対する悟空はやっぱりワケがわからないといった表情で呆然としていて。
「ホントに知らねえって。オラ、あんなやつあったことねぇもん」
「………そういう雰囲気じゃ、なかったよ……?」
ポツリ、とその場に落ちるの声。
―――――――――あの可愛いチチって人は、すごく懐かしそうな、やっと会えたような、そんな目で悟空を見てた。
澄んだまっすぐな瞳から、「だいすき」って気持ちが伝わってきた。
人違いなんかじゃない。現に彼女の甘く優しい声は、『孫悟空』とその名を呼んだ。
「?」
震えるの声に、悟空が心配そうに呼びかける。深くうつむく彼女は、今にも泣き出しそうな顔をしていて。
「な、?? オラ、なんかやったか???」
動揺する悟空の声にはあわてて首をふり、ムリヤリ笑顔を作る。
「ご、ごめん! やだ、なんでもないよ」
重い空気がの胸を圧迫する。コレは……やきもち?
やきもちで歪んだ自分なんか見られたくなくて、必死に取り繕うだが、悲しいかな、彼女は感情を隠すのがものすごく下手だ。思いっきり、「わたし不安です」と悟空に伝わってしまう。
「なぁ、…」
「!!!」
悟空がの肩に手をかけようとした瞬間、びくり、と彼女の肩が大きく跳ねた。
そんなにイヤだったのか……と軽く傷つき手を引っ込めようとする悟空の腕を、逆にがギュ、とつかむ。
「?」
少々ドギマギしながら覗き込んだの、顔。
額には、あぶら汗。そういえば、自分の腕にかかる彼女の手のひらは、冷や汗でぬれている。
「…………………悟、空…………こわ、い………」
かすれた声。震えだすの身体。
そして、ようやく気がついた。
自分の目の前に立つ人物の、氷のように冷たい目。
全身から氷の刃のような凄まじい気を発し、悟空を刺すような瞳でじっと見つめるその人物。
悟空しか見ていなかった。まるで、悟空意外は視野に入っていないかのように。
「な、なんだ……。あいつの凍るような目は………」
それに気づいたヤムチャが、尋常ではないその威圧感に思わず呟き、その凍るような目が悟空に向けられていることに気づいたクリリンが、悟空に問いかける。
「知ってるやつか? 悟空」
悟空は答えず、その視線を真っ向から受け止め、そして見返した。
ぴんと張った糸のような緊張感が、その場の雰囲気を包み込む。
近くにいた天津飯がその緊張感を感じ取り振り向いて、愕然とした表情を作った。
「あ、あいつ……。バ……バカな…、まさか……」
緊迫した空気はしばらく続き、悟空とその人物の視線が火花を散らしてぶつかり合う。
それから、フ、と、互いに口元だけで笑い合うと、その人物は白いマントを翻し、その場から立ち去った。
「やっぱり来たな、ピッコロ大魔王………」
呟く悟空の声は小さくて、多分意外には聞こえなかっただろう。
「あの人が…」
悟空から手を離し、いまだ治まらない身体の震えに自分の身を抱く。
重くて暗くて冷たくて、そしてすごい威圧を感じた。
全身を冷たい鎖でがんじがらめにされるような、氷のような掌で心臓をゆっくり握りつぶされるような。言いようのない、恐怖。
そっと近づいてきた天津飯が、後ろから小声で悟空に問いかけた。
「ご…悟空、アイツ、まさか………………………ピッコロ大魔王の手下の生き残りか…?」
「うん、そんなようなもんだ」
大魔王が去った方向に視線を送ったまま悟空が答え、それから振り向いて天津飯を見る。
「でも、みんなにはナイショな。そんなことわかったら大騒ぎになっちゃうからさ」
そう言って笑った悟空に、天津飯が頷く。
それを見やってから、まだショックが抜けきれないの顔を覗きこんだ。
「大丈夫か、」
「あ…うん。もう、へーき。ちょっと……まいったなぁ」
超絶美人の『悟空大好き』光線に対する不安な気分と、ピッコロ大魔王に対する恐怖心のダブルパンチ。いかに日頃から精神鍛錬をしているとはいえ、大ダメージをくらったのは事実で、さすがにまいった。
ハァ、と一つ大きく息を吐きだし、とりあえず自分の気持ちを立て直し、悟空を心配させまいと浮かべた笑みは、なんというか、眉が情けなく下がってしまっている。
力なく笑うの頭を、悟空がくしゃくしゃ、と撫でた。
顔を上げれば、太陽のような悟空の明るい笑顔。
ピッコロの気で凍りついてしまった身体がゆっくりと解凍されていくのを感じる。やきもちのせいでいやな音を奏でていた心臓が、温もりを感じて穏やかに脈打ち始める。
――――――悟空はいつだって、挫けそうなわたしをその笑顔で安心させてくれる……。
いつの間にかいつものふんわり笑顔に戻ったをみて、悟空もほっと安心して、クスリと笑いあった。
「だけど、ホントマジですっごい強い気だよね。感じるだけで萎縮しちゃった。悟空、大丈夫? こわくない?」
自分を気遣い心配そうなの目をシッカリみて、悟空は不適に笑う。
「ワクワクするぞ。強ぇやつと戦うのはでぇ好きだし、いざとなったらおめぇがいるしな」
「は? わたし??」
「………まぁ、オラとしてはにはぜってぇまわしたくねぇからな。なんとかするさ」
「え???」
多分わかっていないのだろう、きょとんと自分を見返してくるに、悟空は笑ってしまう。
彼女に回したくないっていうのは本当で。
勿論、強い相手とサシで戦って勝つことが楽しいというのもあるが、実際問題、さっきのピッコロの気を感じてみれば、もし自分がやられてがキレたとしても、彼女が無傷で済む可能性は限りなくゼロに近い。さらに、キレてピッコロを倒してしまったとき、元に戻った彼女がどんな反応を見せるか、心配だった。
悟空としては、自分を見返してくるこの可愛い顔が苦痛で歪むのなんかゼッタイみたくないし、ましてや傷なんか負わせようもんならたとえどんな相手だろうとも問答無用でぶっ飛ばす!!!
そんな不穏な思いが頭をよぎり。
「でぇじょうぶ! 刺し違えたって倒してみせるさ!」
「それはイヤ」
冗談交じりで笑いながら言った悟空に対し、キッパリハッキリ、が言い切る。
「へ??」
「だから、あの人を倒しても、悟空が死んじゃったら意味ないよ。悟空が死ぬならわたしも死ぬから」
真剣な顔。真剣な瞳。
その言葉に、ウソ偽りなどひとかけらもないことがわかる、その強い口調。
自分が命を賭けてでも守りたい彼女に、そんな真摯な目でまっすぐに見つめられて、そんなことを言われてしまったら―――――――――
抑えている気持ちが、溢れる。溢れ出てしまう。
どうしよう、嬉しい。そして…
すっげぇ、愛おしい………………///
「……」
今すぐ抱きしめてしまいたい衝動を抑えきれず、手を伸ばす。
悟空の手がの頬に触れたその瞬間。
『選手の皆さま、お待たせいたしました。ただいまより予選を行いますので、中央にお集まりください』
「どうしよう!!!!!!!!!!」
シリアスな顔が一転。
がそのアナウンスを聞いてうろたえだした。
「まずい、はじまっちゃう!!! どうしようどうしようどうしよう!!!!! ………って、悟空? どうしたの???」
がっくり肩を落とし、ため息なんかついている悟空を見て、いっぱいいっぱいだった気持ちがそれて不思議そうに問う。
悟空はうつむかせていた顔を上げ、どこか遠くに視線を飛ばし。
「―――――――――いや、なんでもねぇ………」
フッと遠くを見ながら寂しげな笑みを顔に貼り付ける悟空。
もちろんは意識せずに思ったまま感情のまま、それこそ呆れるくらいストレートに自分の感じるままに行動し発言しているのだ。そんなことは、わかってる。わかってはいるけれど。
自分でいい雰囲気を作って悟空を激しくグラつかせ、かつ自分でその雰囲気をぶち壊して気落ちさせる。
―――――――――、そんなおめぇも好きだけど、やっぱり少し…哀しくなるぞ。
―――――――――悟空、なんかシリアスしてない? やっぱり少しは怖いのかもしれないなぁ。
それぞれに思考をめぐらす頭の中は、やっぱりズレていて。
「なぁ、あいつら今の状況まったく無視してるよな」
少し離れた場所で、ヤムチャがため息をついた。一応気を使って(というか呆れて)放っておいたのがいけなかったのか。仮にもこれから神聖な(?)戦いが始まるというのに二人の世界を作りまくっている彼らに呆れてしまう。
。
「まぁ、悟空にとっては初恋だからなぁ。ちゃんの言動に思いっきり振り回されてるし」
苦笑交じりに述べるクリリン。何気に羨ましいなぁ、なんて思ってはいるものの、女の子に振り回される悟空を見ているのは、それはそれで楽しいのだが。
「おい、始まるぞ」
「はやく、来い」
ちちくりあいにはまったく無縁な天津飯が、やっぱり呆れ返ったようにため息交じりに悟空とに呼びかけ、餃子がそれに同意する。
あわてて彼らのところに移動する悟空と。
そして、かなり離れた場所で、彼らを見据える二人がいた。
ひとりは長い髪をひとつにまとめた美しい少女。
その瞳の色は激しい嫉妬に染まり、遠慮も何もなく笑いあう悟空とにきつい視線を送り続ける。
もうひとりは、神が若返ったような姿をした人物。
口元にゆがんだ笑みを浮かべながら主に悟空を注視していたが、そのとなりにいるにも時折鋭い視線を投げかけている。
それぞれの感情が渦巻く中、いろいろな意味での闘いの火蓋が今、切って落とされようとしていた。
一応、敵二人が登場しました・・・。
ですが、、、かなり微妙な感じですねぇ///
たいっへん申し訳ありませんでした!!!(涙)

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