普段ホンワカとしていて、基本的に受身な。
いつも穏やかなその瞳が今、鋭い光を放つ。
桃白白もそれなりに武道を心得ているため、今の彼女に不用意に近づくことがいかに危険であるかを本能的に感じ取っていたが、どんなに眼光鋭くても、たかが、一人のひ弱そうな女、というか、子供――――――それを前に動けない自分がなんだか馬鹿馬鹿しく思えて。
動かない桃白白を一分の隙もなくみていたが一瞬、息を吐いたのを見逃さず、攻撃に移ったのだが。
次の瞬間。
攻撃の標的である女をを見失ったかと思ったら、背中に鈍い衝撃を受け。
――――――その衝撃に押されるまま、桃白白は場外に投げ出されていた。
第二十一章:プロポーズ?
一瞬。そう、桃白白が動き出してからほんの瞬きするくらいの間だった。
「すごい………!」
「速い………!!」
「信じられん………!!!」
度肝を抜かれたクリリン、ヤムチャ、天津飯の口から呟くような声が漏れたが、驚いたのは彼らだけではないようで、会場内はしん、と静まり返っていた。
『……あ、っと! え〜、よ、よくわかりませんが…桃白白選手、場外!! 選手の勝ち、です!!!』
水を打ったような静けさの中に落ちた審判の我に返ったような声に、徐々にざわめきが戻り、それから割れんばかりの歓声と拍手で武道会場は騒然となった。
「ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げ、それから再び顔を上げたの顔は、先ほどまでの鋭利な表情など微塵もなく、いつもの穏やかな雰囲気に戻っていて。「勝ったよ〜」なんてホワホワ笑い手を振りながら悟空たちの待つ武舞台の入り口に戻ってくるその姿は、ついさっき信じられない速さを見せた少女と同一人物とはとても思えない。
『あの〜、選手、ちょっとよろしいですか…?』
審判の声が戻ろうとしていた背中を追いかけてきて、は足を止め、彼を振り返った。
「? はい?」
きょとん、と審判を見返す。
『え〜と、ですね。我々の目には、いつの間にか桃白白選手が場外に吹っ飛んでいたように見えたのですが、いったいどのようにして彼を場外に押し出したんですか?』
そういって審判がにマイクを向けた。
『ああ、えと、ですね・・・』
マイクで拡大された自分の声を気恥ずかしく思いちょっと顔を赤らめながら、が説明する。
すなわち。
向かってきた桃白白の攻撃を素早くかわし、背後に回って、ガラアキだったその背中を、ポン、と。
『押したんですよ』
アハハ、と照れ笑いしながらのその発言に、会場内大騒然。武道に関して素人な見物人でも、目にもとまらないような素早い動きで成し遂げたその勝利がいかにすごいことであるか窺えたのだろう。しかもそれを難なくやってみせたのは、ひどく華奢な女の子。
『すごい! 素晴らしい動きで勝利を収めた選手、堂々の二回戦進出です!!!』
大興奮の見物客に向かって声を張り上げる審判。それにはにかんだように笑う。そして―――――――――。
「ポン、と押しただと……? ふざけてるのか、貴様……!!」
再び控え室に戻りかけたに話しかけるその声は、憎悪と怒りに満ちている。
またまた振り返るの目に映ったものは、思いっきり無視されていた敗者・桃白白が武舞台によじ登ってくる姿だった。
立ち止まるに向けられた、望遠鏡のようなサイボーグの赤い瞳に、狂気の光が宿っている。
「軽く押しただけで、このオレ様が場外に弾かれるはずがないだろう!!!」
大激怒とは、こういうことをいうんだろうな、、、などとすっ呆けたことを思うだったが、その怒りが自分に向いていることに気づき(ホントに遅い)、ちょっと罪悪感に苛まれた。
は自分も相手も怪我をせずに勝つ最善の方法として、この戦い方を選んだわけだが、確かにどう見ても自分よりもひ弱そうな女に場外に押し出され、挙句に「ポンと押しただけ」なんて言われてしまっては、桃白白としてはえらくプライドが傷つくだろう。
「あ、あの……」
が何かを言いかけるより早く、桃白白が彼女に向かって拳を繰り出した。
「わっ!」
戦闘体勢に入っていなかったが、かろうじてその手をつかみ、が困ったように眉根を寄せ、審判がマイクのスイッチを切って桃白白に話しかける。
「桃白白選手、お気持ちは分かりますが、この試合は選手の勝ちで……」
「う、うるさいっ!!! もう試合などどうでもいいわ!!!!!」
審判の言葉をさえぎり、大怒鳴りした桃白白の手が。がつかんでいたその手が。
ポロッと――――――とれた。
「「ぅっっっっっぎゃーーーーー!!!!!」」
て、ててててて手が!!!
重なった大悲鳴は審判とのもの。
審判は猛ダッシュで桃白白から離れ、にいたっては自分の手に残っていた桃白白の手首から先を力いっぱい投げ捨て、うろたえまくって武舞台を走り回り。
だから、冷静ではなかったから。
―――――――――気づかなかった。
取れた手首から、鋭利な刃物が剣のように突き出し、に振り下ろされたことを。
ザシュッ、という音と共に、左頬に熱い痛みが走った。
「!!!!!」
悟空の声が上がる。
「あ……うん、大丈夫。かすっただけ」
痛みで我に返ったが、そういや桃白白はサイボーグだったっけ、なんてぼんやりと思い出し。刃物が走った左頬を無意識に押さえ、心配そうな悟空を見て笑ったが。
その押さえたの手の隙間から血が流れ出しているのを見て、悟空の顔色が変わった。
「殺してやる!! 殺してやるぞ、貴様!!!」
狂気の笑い声をあげながらを見据える桃白白。その様子に、それまで黙って見ていたヤムチャとクリリンが武舞台入り口から飛び出してきた。
「手を貸すぜ、ちゃん」
「汚いヤツだ」
そして、桃白白のもと後輩の天津飯は、彼らよりももっとお怒りな様子で、ぴくぴくと額に青筋を立てて。
「武道家としての誇りもなくしてしまったのですか……!!!」
ちらりと天津飯に視線を投げた桃白白が、フン、とバカにしたように鼻先で笑う。
「あ、大丈夫ですよ、わたしひとりでも何とか…」
今更ながら、女の子の顔を切りつけるなんて!!!と怒りを覚え、意識を切り替えたが、炎のともった視線を桃白白に流し、「何とかなります」と言おうとした矢先。
「カ…メ…ハ…メ…波ーーーーー!!!!!」
「は?」「な!?」「うお!?!?」
飛び出してきた天津飯、クリリン、ヤムチャ、の脇をかすめ、それからの横をすり抜けていく気功波。
「え?」
ゴオォオオオオオオーーーーーー・・・・・・ドオン!!!!!
「うわああああああーーーーー!!!!!」
カメハメ波の直撃を受け、吹っ飛ばされた桃白白の悲鳴が、だんだん遠くなっていく。
「「「「………………………………………………………………………」」」」
それを声もなく見送る、クリリン、ヤムチャ、天津飯。
「、でぇじょうぶか!?!?!?」
誰よりも、そりゃもう、やられたよりもお怒りモード全開でカメハメ波をぶっ放した人物は、ダッシュでのそばに駆け寄り、頬っぺたに手を添えてその傷を心配そうになぞった。
「あ、ああ、うん。かすっただけって言ったじゃん。大丈夫」
桃白白の消えていった彼方遠くを傷つけられた怒りも忘れて呆然と見つめていたが、その視線を悟空へと移し、今の状況も忘れてその手の暖かさにドギマギしてしまっていた……ってゆうか。
「あの、あのね、悟空さん?」
「なんだ?」
「桃白白さん、遥か彼方に吹っ飛んでいきましたけど……」
流してしまうにしてはあまりに衝撃的なその事実。
の上目遣いのお伺いに返ってきたのは、晴れやかで爽やかな悟空の笑顔で。
「ああ、に怪我させたヤツの顔なんか、二度と見たくねぇもんな」
それだけ!?
それだけなのか!?!?
それだけのことでカメハメ波を放つなんて…と少々恐ろしくなる。そんなつもりは毛頭ないが、もし自分が浮気でもしようものなら、いったいどんな反応が返ってくるか。
――――――その反面、そんなに自分を想ってくれているのか、とニヤけてしまう顔。ものすごく嬉しくなってきてしまうあたり、まったくどうしようもない。
そして、今はほのぼのしているが、先ほどの怒れる悟空を恐れる方々が約数名。
「オイ、やばいぜ、悟空」
「ああ、ちゃんのことになると見境ないっていうか…」
「あの孫が…全く信じられん」
いわずと知れたヤムチャ、クリリン、天津飯がひそひそと額を寄せ合い、ひそかに「二人をからかうのはもう止そう」と結論を出し頷きあい。
「まったくなんちゅうヤツじゃ。ちゃんの強さなら桃白白なんぞ一人で倒せたじゃろうに」
「う〜ん、孫くんったらホントちゃんにハマっちゃってるわね。愛よ、愛!」
「愛かもしんねぇがよ、行きすぎじゃねぇか?」
「オレもそれに賛成だよ、ランチさん。悟空のヤツ、今までそっちに興味がなかっただけに目覚めちまうと限度をしらねぇんだから」
「確かにちょっとコワいですよね…」
こちらは最前列で見学していた亀仙人、ブルマ、ランチ、ウーロン、プーアルである。
武舞台裏の控え室に戻っていく出場組の背を見送りながら、悟空の過剰な反応を空恐ろしく感じる面々。
そしてこちらは控え室。
「傷、残らないといいけど…」
でっかい絆創膏を左の頬っぺたに貼られたに、クリリンが心配そうに言う。
「ん〜、でも刃物の傷跡って、なかなか取れないんだよね」
が顔をしかめて答えると、悟空がにかっと笑ってに視線を向け。
「心配すんな。顔に傷があったって、はオラがちゃんともらってやっからさ」
「はぁ………って、えぇ!?!?!?」
一瞬意味がわからずあいまいな返事をしただったが。
…………もらう?
…………もらう!?
…………もらうってか!?!?
その意味合いを理解したとたんにぼっと火を噴くの顔。
せっかく血が止まったのに、さっき以上に噴き出してくるんじゃないかと思うくらい顔に集中する血液。ってゆうか、鼻血? このままいったら噴くのは間違いなく鼻血だろう…///
だってだって、、、それってプロポーズvvvじゃなくって!?!?!?
「―――――――――あのさ、悟空」
ぽかんとしていたクリリンが、ハッと我に返り、咳払いをしながら悟空の肩を叩き。
「もらうって意味、ちゃんと理解してんのか?」
クリリンを見返す悟空の顔は、なんだか得意そうだ。
「わかってるさ。好きなヤツとはケッコンするんだろ? オラは男だから、好きなヤツを嫁にもらうんだ。オラさぁ、に逢うまでは嫁ってのは食いもんのことだと思ってたんだけどさ。へへ〜、オラ、ミスター・ポポにいっぺぇ教えてもらったんだぜ」
テレもせず当たり前のように話す悟空に、クリリンは肩を震わせ、泣きそうな表情をしたと思いきや。次の瞬間、激昂した。
「ちっくしょーーー!!! 悟空に先越されるとは思わなかったぜ!!!!」
涙目で叫ぶクリリンを、ヤムチャが「ドウドウ」と慰め。
「というわけで、」
「はっ、はははははハイ!!!!!」
緊張しまくって呼びかけに過剰に反応し、真っ赤に染まったの顔を覗きこむ悟空。ウルウルそわそわ彷徨っているその瞳をしっかり捕らえ。
「武道会終わって、ピッコロ倒したらさ、ケッコンしようなっ!」
キラキラまぶしいお日さまの笑顔でなんの気負いもなくさらっという悟空に、は思わず笑ってしまった。
悟空にとっては両想い=結婚という数式ができているらしい。ミスター・ポポの教育らしいが、それはそれでオイシイかも///、なんて思ってしまう自分は、したたかなんだろうか?
でも、今まで悟空以外の人と結婚するなんて考えてもみなかったし、心の中で(ポポさん大感謝します///)と狂喜の涙を流しながら。
「うん!」
大きく頷きふんわり笑う。
確かに過程は大事。
でも。
悟空はが一番大切で、それは今もこれからも変わらないと確信していて。
は悟空が誰より大好きで、それだって今までもこれからも絶対に変わらない。
だから――――――。
ニコニコ笑いあう二人には、もはや周りなんか見えておらず。
クリリンたちは呆れたように二人を見守る以外に成す術もなくて。
そして――――――同じ控え室にいたピッコロ以外(ピッコロは控え室にはいなかった)のもう一人の天下一武道会出場者・シェンも、呆れたような、それでいて嬉しく思っているような、そんな視線を悟空とに送っていた。
先に謝ってしまいます…ゴメンナサイませーーー!!!
やっぱり状況無視してます管理人!!!
精進いたします、許してください・・・(≧人≦;)

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