なにが起こったのか……。
シェンの手から竜巻のようなものすごい暴風が生まれ、それがマジュニアを捕らえる直前。
動じることなくそれを見据えたマジュニアが、にやりと口端をあげて笑い手を前に突き出すと、豪風は生み出したシェンに跳ね返り向かってしまい。
シェンの身体から、神が分離した。
風の外に投げ出されるシェンの肉体と、渦に飲まれたままの神の姿。
渦巻く風の向かう先は、小さな小瓶。
神はその小瓶の中に竜巻とともに吸い込まれていった。
「孫よ!! わしは死んでもかまわんっ!!! こいつを倒せ!!! 世を清めてくれーーーい!!!!!」
その言葉を最後に、神の姿は小瓶の中に完全に消え、マジュニアが素早くそれにふたをした。
武舞台の上には、小瓶を拾い上げ勝ち誇った笑みを浮かべるピッコロ大魔王と、気絶し倒れたシェン選手。
なにが起こったのか、よく、わからなかった。でも。
―――――――――神様が負けてしまったことだけは、紛れもない真実だった。
第二十四章:彼女の『力』
審判が10カウントを数えても、シェン選手は起き上がらない。
乗り移っていた神がいなくなれば、普通の一般人。だから、当たり前かもしれないけれど。
絶望的な気分で、はぼうっとその光景を瞳に映していた。
神様が、負けた。
最後まで、悟空と、わたしを心配してくれていた神様――――――。
「、大丈夫か?」
顔色を失い、ふるふると震えているに、悟空が話しかける。
審判に揺り起こされ、会場の観客席からの盛大な拍手にワケがわからないといった様子でそそくさと武舞台から飛び降り、人ごみにまぎれるシェンをなんとなく目で追いかけてから、は自分を落ち着かせるようにゆっくりと瞬きをした。
「……神様、どうなっちゃったの……?」
「わかんねぇ。ピッコロの持ってるあのちっこいビンの中に吸い込まれちまった…」
悟空の戸惑うような視線の先の、小さな、ビン。
そのビンを握りしめ、悟空たちのいる武舞台の入り口にゆっくり歩いてくるピッコロ大魔王。
悟空はピッコロ大魔王を真っ向から見据え、入り口に立ちふさがった。
「ジャマだ。どけ」
ピッコロの、低くどすの聞いた声には答えず、その瞳を射抜く悟空。
「おい、おめぇ。なにをやったんだ? そのビン、オラによこせよ」
大魔王は小ばかにしたように嘲笑を浮かべて、手を差し出す悟空を見る。その、背筋が凍るような、冷たく威圧的な眼光。
「冗談じゃない。せっかく鬱陶しいヤツを閉じ込めたんだ……」
鋭く睨み上げてくる悟空の瞳と、身がすくんでしまうようなその気配を感じながらも、必死に自分を見るの瞳とを交互に射抜き、見せ付けるようにゆっくりとその小瓶を口にくわえ、次の瞬間、それを飲み下した。
「あっ!」
驚愕の声を上げたのは、悟空だけではなかった。
その光景を目にしたその場にいた全員が、息を呑む。
「さぁ、どうする? これで俺様を殺さんかぎり、ビンはもどらんぞ。………だが、オレを殺せばやつも死ぬ。困ったなぁ………」
「こ、このやろう……!!!」
ぱんっ!
悟空が怒りの声を上げたのと、がピッコロの頬を張ったのと、同時だった。
突然のの行動に驚き、彼女に視線をやった悟空の表情が、一瞬にして硬くなる。
「神様を……返して」
静かな口調。
ピッコロを口調と同じく静かに見上げる潤んだの瞳が、怒りに染まっていて。
徐々に膨れ上がる彼女の気。それに反応して浮き上がる、肩にかかっていた彼女の柔らかい髪。
やべぇ!!!
ゆらり、とひどく緩慢な動きに、悟空はとっさにの腕をつかんだ。
「っ!!!」
ハッと、我に返ったように悟空を見上げるの、驚いたような表情。
わたし、今、なにを――――――――――――
自分の所業が信じられず、自問するを背後にかばい、悟空がピッコロを睨み返す。
悟空もそうだが、ピッコロ大魔王も先ほどのに寒気を覚えていた。
「―――――――――貴様、何者だ………?」
ピッコロの氷の視線と低い言葉が自分に向けられているものだと理解し、びくり、と肩を震わすを感じ、悟空はピッコロ大魔王に不敵な笑みを向けた。
「おめぇの相手は、オラだ。は関係ねぇ」
その言葉に、大魔王はから悟空へと視線を戻し、にやりと黒くて暗い笑みを浮かべる。
「ふん、まぁいい……。覚悟しておけよ。次は貴様がボロ雑巾のようになる番だ」
そう捨て台詞を吐き、ピッコロは悟空を押しのけ、控え室から外へと出て行った。
その後。
シェンの身体から分離した神様の姿を見学席から見ていた亀仙人が、悟空に事情を問いただして。
悟空はすべて、打ち明けた。すなわち――――――
『マジュニア』は、ピッコロ大魔王の生まれ変わりだということ。
そして、三年前に悟空が倒した前のピッコロよりもはるかに強くなっているということ。
ビンに吸い込まれたピッコロそっくりの人物が神様で、『シェン』の身体を借りて大魔王と戦っていたこと。
そして、先ほど神様がビンに吸い込まれた技は『魔封波』という亀仙人の師匠があみ出した技で、ふたさえ開ければ神は元に戻れるということを、亀仙人が教えてくれた。
とりあえず神が無事であることがわかって安心する悟空と。
しかし、マジュニア=ピッコロ大魔王と認識した仲間たちは、それぞれが驚愕と恐れの入り混じった表情で。
「ど…どうすんだよ……。アイツの強さは異常だぞ…神様だって負けちゃったんだぞ………!」
そんなクリリンの言葉に、天津飯がうつむいた。
「た…たしかに……。はっきりいって、今の俺たちでは束になってかかってもかなう相手じゃない……」
心底悔しそうな天津飯の声。同じく悔しそうなヤムチャが、悟空を見て。
「また、悟空に頼るしかなさそうだぜ……残念ながら」
「すまんのう…。魔封波も通用せん今となっては、悟空だけが最後の望みじゃ……」
亀仙人の申し訳なさそうな表情。
その場にいる全員の希望と期待と信頼の入り混じった瞳が、悟空に集まった。
一身にその視線を受けた悟空が、応えるようにぐっと拳を握って微笑んで。
「ああ。オラがなんとかするさ」
自信に満ちたその宣言。
それを聞いて幾分か落ち着く仲間たちとは裏腹に、はドクン、と心臓がいやな音でなるのを感じていた。
みんながみんな、悟空に期待して。
悟空だけが、すべての重荷を背負っている。
確かに悟空は強いし、相手が強ければ強いほど高揚し楽しそうではあるけれど。
それに、悟空はそんな仲間たちの信頼を重いだなんて少しも思ってないかもしれないけれど。
「……悟空、わたしに―――――――――なにかできること、ない?」
悟空を助けたかった。
今の自分になにが出来るかわからないし、悟空にとってはそんなもの必要ないかもしれない。
でも。
―――――――――なにもしないで、すべてを悟空に任せて、ただ見てるだけなんて、耐えられない。少しでも、悟空の重荷を軽くできれば。
仲間の視線がに集まったが、今のの瞳は悟空しか映していなかった。
「わたし、悟空の役に立ちたい。神様も言ってた、悟空をサポートしろって。悟空は強いけど、大魔王だって強いし、悟空を殺そうとしてる。戦闘は絶対激しくなるよね。わたし、悟空が怪我するの見たくない。だからもし、神様と悟空が言ってたような『力』がわたしにあるなら、その力が出てくれば、わたし悟空の役に立てる?」
の思いつめた視線を受け、悟空は真剣な目でそんな彼女を見つめ返し。
「オラ、にちょっと話があるんだ」
それは呟くように落とされた小さな声なのに、いつもの柔らかい悟空の声とは明らかに違う、低くて強い響きが含まれていた。
その『力』を使えばひどく傷つくのが自身であることを、彼女はわかっていない。純粋に、悟空を助けたいと、そう思っているのだ。
そんなことはわかってるし、思いっきり自分を心配しての言動であるということだってわかってる。
けれど。
争いを基本的に避けようとするが、そんなことを言い出すほど、自分は頼りなく見えるのか。
―――――――――そんな力、使わせはしない。
を傷つけないために。
そして、自分の武道家としての意地のために。
の腕をつかみ、悟空は人気のない裏庭へと向かい。
そんな二人を見送った後、心配そうに顔を見合わせるクリリン、ヤムチャ、天津飯、亀仙人だったという。
なんか、シリアスな感じ……
場の空気が重いのは、、、嫌なんです。
なのに、あぁ、重たいし甘くないし―――イヤ〜ノ(≧д≦;)ノ

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