武舞台の上で対峙する悟空とピッコロ大魔王。
「覚悟はできたか?」
ピッコロ大魔王が黒い笑みを悟空に向ける。
その冷たい瞳を、悟空はいつものようにまっすぐに見返し。
「なんの覚悟だ」
聞き返す悟空を、相変わらず口端をあげてにやりと笑いながら、ピッコロ大魔王は自分の着ていたマントに手をかけ脱ぎ捨てた。
「もちろん、死ぬ覚悟だ」
興奮と好試合への期待で盛り上がる天下一武道会会場。
そんな中、事の重大さを知る方々のシリアスなお顔。
『天下一武道会決勝戦!!! 始めてください!!!!!』
審判の声に、ひときわ高く試合開始の太鼓が鳴り響いた。





第二十六章:決勝戦開始




息を呑む攻防。
まさに、宿命の対決。
一瞬たりとも目の離せない激しい死闘が、目の前で繰り広げられている。
互いに一歩も引かないその試合を、はドキドキしながら瞬きも忘れて傍観していた。


そう、ドキドキする。
もちろん、悟空とピッコロ大魔王との死闘の行く末がどうなるのかという不安もあったが、悟空は『ぜってぇ勝つ』って約束してくれたし、それを信じてるので優勝は悟空で決まりだ。(←ちゃん、断言!!)
それより何より、悟空の鋭い眼光とキリッと引き締まったお顔! ぶつかり合うたびキラキラ光る飛び散る汗!  鍛えぬかれた逞しい身体!! そしてそして、ため息が出るほど素敵で見事な戦闘技術と流れるようなその動き!!!



カッコいい…///格好よすぎる!!!!!




いや、世界がどうにかなっちゃうような大変な事態であるってことはわかっちゃいるけど。
こんなときになにをのん気な、て言われてしまうかもしれないけれど。
でも!! 恋する乙女にとっては、地球の未来よりも目の前のカッコいい自分の恋人の勇姿に、興奮し鼻血ブーなほどにドキドキしてしまうのであるvv


やっぱり、強い相手と戦っている悟空の様は、もうっ!!! 格別だ〜///
ピッコロさん、ありがとうっ。
こんな素敵な悟空を拝めるのも、貴方が見事なほどに引き立て役になってくれてるおかげです!!!



なんて、あろうことか宿命の天敵に思わず感謝なんかしてしまい(しかもすごい言い様で)、胸の前で指を組み、そりゃもうきらっきらな瞳で真剣に試合を見入るの様子に、仲間たちはやや心配そうな顔を向けていた。





クリリン(やっぱり、心配なんだろうな……)
ヤムチャ(そりゃそうだろう、自分のフィアンセが、命を賭けて戦ってるんだぜ……)
亀仙人(いたわしいのう……。なんとか元気を出してもらいたいものじゃ……)
天津飯(孫………)





とまあ、小声で案じてくれている皆様には悪いが、今のところは『心配』で食い入るように試合を見ているわけではなく、とにかくカッコいい悟空を見逃したくなくて見つめているだけだった。(←もはやLOVE一色の…)




そんなピンクなや、彼女の精神と悟空の身を案じる仲間たち、それから大興奮の観客たちの前では、激突する悟空とピッコロ大魔王の戦闘が続き。



流石は大魔王というかなんというか…。
悟空に負けず劣らずのスピード、パワー、戦闘センス。
確かに悟空意外では太刀打ちできないだろうと思わせるその戦いっぷりに、亀仙人たちは息を呑む。

対する悟空はといえば、相手が大魔王であろうがなかろうが、強敵に対して感じる高揚感で見ているこっちまでワクワクしてしまいそうなほど嬉しそうで。ピッコロの超人的な技(腕が伸びる等)にも即座に反応し、戦いを楽しんでいる様子。





「なかなか手の内を見せんな……。様子見ってとこか」

自分の打った気功波をもろに受けながらも、服だけがボロボロになっただけでぴんぴんしている悟空を見やり、ピッコロ大魔王がにやりと笑う。

「そっちだってそうじゃねぇか」

ボロボロになった道着の上着を脱ぎ捨て、帯を結びなおしながら不敵な笑顔で返す悟空。



ゾクリ、と背中があわ立ったのは、その悟空の素敵笑顔と、悟空の言葉のあとに冷気を伴った邪悪な気が強く大きく膨らんでいくのを感じたせいだった。



「ふっふっふ…。これからどんどん見せていってやるさ。恐怖の世界をな………」

ピッコロ大魔王の気に呼応するように、悟空の気も徐々に大きく、強く膨らんでいく。
身がすくんでしまうような冷気に当てられていたのに、まるで悟空が包んでくれているような、そんな暖かい気分にさせてくれる、その気配。
同じ大きな気配でも、こんなに、違う。





「へへへ…。おめぇ、どうしようもねえぐらい悪いやつだけどさぁ、腕はすげぇからオラワクワクすんだ!」

ピッコロ大魔王の瞳を見返して悟空が笑む。

「今にそんなたわごとは言っておれんようになるぞ……」
「かもな……」


武舞台上の笑いあう二人の気が、互いにバチバチとぶつかりあいだした。





「い、今のでまだ様子見じゃと………!?」
「な、なんて奴らだ……」
「う〜ん、でもカッコいいっ! あの笑顔、もうサイコーvv」
「「「「はぁ?」」」」
「あ、スイマセン……」



悟空とピッコロ大魔王の会話を聞きとめた亀仙人が信じられないというように呟き、同じく天津飯が驚きを隠せず目を見開き。
けれども間近で悟空を見てきたにとってはまだまだ彼がこんなもんではないことを心得ているらしく、だからといって今そんなことを言っている場合ではないだろう発言をぶちかまし。
張りつめた空気を一掃させてしまうそのふんわり笑顔に、亀仙人、天津飯、ヤムチャ、クリリンの四人が思わず呆れ顔でを見てしまい、しまった! とばかりに顔を赤らめて謝罪するである。


悟空がかなり突っ走っていたせいで気づかなかったが、も大概LOVEってるんだなぁ、とため息を落とす面々に、は慌てふためき。



「いやあのっ! わ、わかってるんですよ!? これが世界を左右するバトルだってこと! けど、あ、あんまり悟空がカッコいいものでつい……。ご、ごめんなさいっ。ごめんなさいぃい〜〜〜!!!」

未来への不安と死闘を繰り広げる二人の行く末を思う緊張で、皆さん真面目に戦いを傍観していたというのに、わたしってヤツは……!!!
場の空気を読めない自分がどうしようもなくアホに思える。


そんなふうに必死にぺこぺこ頭を下げるを見ている仲間たち。
………なんだか、とても微笑ましい。



「うん、まぁ、どうにかなるって思えちゃうよ、ちゃん見てると」
「ああ、ホントだな。どうも緊張感に欠けるっていうか…」
「なんだか世の行く末を案じて心を砕いていてもしょうがない気分じゃわい」
「孫に任せたんだ。信じて待つよりほかない……それに気付かされたな」



口々にそういって苦笑する方々を見回し。

わたしって……わたしってホント、緊張感をぶち壊す名人かも………なんて、微妙な気分で力なく笑ったが。





そんな和やかな見物人たちとは裏腹に。

「一瞬の隙も見逃さんぞ!」
「さてと。そろそろ全開で行くかな!」

悟空とピッコロ大魔王は今まさに、様子見から真剣勝負に移行する運びとなっていた。



気合とともに激しくぶつかり合い、まずは力比べ。
互いに一歩も引かず、押し合っていたそのとき、ピッコロ大魔王がその両眼から殺人ビームを放ち、それを難なく避けた悟空の蹴りがピッコロ大魔王のあごに炸裂。
すかさず体制を崩したピッコロとの間合いを取り、それから―――――――――


『あ――っと、孫選手、また消えましたっ!!!』

審判が高らかに言う。

「見事だ・・・。完璧に姿を消した!!」

天津飯の感嘆の声。
確かに超高速で常人の目には見えないだろう。音もなくピッコロ大魔王に近づいていく悟空の動きは、目には映らない。気配を探っているにも、悟空の存在している位置がかすかにわかる程度。でも


が感じられるのに、大魔王がその位置を感じないわけがない。

「はっ!!!」

短い気合の声とともに、ピッコロ大魔王の肘鉄が悟空をとらえた。

衝撃で吹き飛ばされた悟空が、たちが試合を見物している武舞台入り口の門の壁に激突し、ものすごい音ともにガラガラと崩れ去った。


「悟空!!!…って、いない!?」
「なにぃ!?!?」


崩れた壁に目を奪われ、思わずその名を叫んでしまったが、倒れていると思っていた悟空の姿はもうすでにそこにはなく。
やはり壁にぶち当たって倒れているはずだと高をくくっていたピッコロ大魔王が、瓦礫のほうに顔を向ける。


「後ろだ!」

悟空の声にあわてて武舞台に視線を戻すと、ピッコロの後ろを取った悟空が、蹴りを一発お見舞いしたところだった。その一撃によって今度はピッコロ大魔王が吹き飛ばされ、武舞台の床に激突する寸前、バン、と床に手を突き空に飛び上がる。




「おのれぇ……!!!」


武空術で空で止まったピッコロ大魔王から、先ほどまでの笑みが消えうせ、怒りに満ちた表情で悟空を射るように見ているその殺気のこもった瞳の色。


「効いてねぇ!!!」

確かに、相当な威力があっただろう悟空の蹴りを受け、それでも大したダメージは負っていそうもないその様子。
大魔王は上空から会場のほうに手を突き出した。


「会場もろとも吹き飛ばしてくれる!!!!!」



すごい気が大魔王に集中する。
の背中にも冷たい汗が流れた。


「っ! みんな、巻き添えになっちゃう!!!」

のうろたえた声。
亀仙人たちが彼女を振り返るのと、悟空が観客たちに向かって声を張り上げるのと、同時だった。


「みんな、逃げろーーーーー!!!!!」
「死ねい!!!!!」


ピッコロ大魔王は、もう準備万端、いつでも気功波を打てる体制で。
これから逃げ出しても間に合わないと瞬間的に察知した悟空が、武舞台から高くジャンプした。


「オラはこっちだーーー!!!」

「ばかめ!!! 人間などをかばいおって!!!!!」


標的を定めたピッコロ大魔王は、武舞台から悟空に視線を移し、ものすごい威力の気功波をうった。
悟空はかろうじてそれを避け、次の瞬間、気功波の消えた先で大爆音と大爆発が起き、ついでその爆風が会場内を吹き荒れた。


「ちぃ! かすっただけかっ!!」

小さな気功波を放ち、その風圧で武舞台に戻る悟空の姿を忌々しげに視野におさめるピッコロ大魔王。


「あ、あんにゃろう! 相変わらずむちゃくちゃしやがるな…!」

武舞台に降り立ち、ピッコロ大魔王を見上げながら、悟空が苦々しい表情で呟いた。
まったく回りに頓着しない大魔王に、少々ムッとしたご様子だ。


「………はぁ。よかった〜、みんな助かったねぇ」

緊張で止めていた息を吐き、「さすが悟空v」とほっとしたように笑う

「悟、悟空がなんとかせんかったら、ここにおる全員が木っ端微塵じゃったぞ……!!」


亀仙人が噴出した冷や汗をぬぐい、他の面々もふう、と息をつく。
そんな安堵の雰囲気の中、悟空はキッと大魔王を見上げ、その姿を見据えた。


「お返ししてやるぞ!!! 超カメハメ波だ!!!!!」


見慣れた悟空の構え。
超…ってことは、ものすごいカメハメ波ってこと??

ドキドキしてくる胸をグッと押さえるの前で、亀仙人が悟空に向かって声を張り上げた。


「待て悟空!!! 踏みとどまれい!!!


びっくぅ!!!
亀仙人の大声に、期待に胸を高鳴らせていたの肩が大きく揺れ、悟空がぴたっと動きを止めて亀仙人に視線を走らせる。

「はやまるでない、忘れたか!? もしあやつを殺してしまえば、神も死ぬことになるのだぞ!!!」


………そうか、忘れてた。
カッコいい悟空に夢中で、ピッコロ大魔王のおなかに未だおさまっている神の存在を忘れてたなんて。
ごめんなさい神様っ!!! あの時あんっなにアタマにきたのに……やっぱりわたし、とんでもなくおバカです……!!!

なんて、が軽く自己嫌悪をしているさなか、悟空も「くそっ」と悔しそうに地面を見つめる。


対するピッコロ大魔王はといえば、未だに空中にとどまり、そんな悟空の様子をにやりと笑いながら冷たい瞳で見やり。

「どうした! なにかするんじゃなかったのか!?」

バカにしたようにそう言った大魔王を、悟空が苦々しい表情で見上げる。

「ちきしょう……」

「貴様の最大の弱点は、冷酷に撤しきれんところだ。神が気がかりで思い切った攻撃ができまい。…だが、この俺様はなんだってできる! これが悪の素晴らしさだ!! ――――――たとえば」

そこで言葉を切り、黒い笑みを浮かべるピッコロ。
冷気を漂わせながらの熱い熱弁。
しかも感情を逆なでするポイントをしっかりつかんで話してるあたり……アタマにくるっ!!!


「ここにいるすべての奴らを、一瞬のうちに消し去ることだってな!!!!!」

ピッコロ大魔王の言葉に、愕然とする悟空。

それから、ワケがわからないといった感じの審判と観客たち。

「ま、まさか……」
「やるよ、あの人。そんなこと、なんとも思ってない」

クリリンの声に返ってきたのは、の硬い声だった。
柔らかい雰囲気を消し去り、きつく拳を握りしめたを見て、現実を悟ったその場の全員が息を飲む。
で、自分が今できることを必死で考えていたが、助けるにしてもあまりに多い観客たち。時間がない、まにあわないっ。いったいどうしたら………。


「見せてやろう、地獄という素晴らしい世界を! ただ残念なことは、あっという間の死で貴様らの苦しみもがく姿が見れんことだ!!」

言い切った大魔王が、気を集中し始める。
さっきよりもより強く、より大きくなっていく邪悪な気配。


「よせっ、卑怯だぞ!!! 闘ってるのはオラだ!!! 他のみんなは関係ねぇ!!!」

悟空の必死の叫びに返ってきたのは、にやっと口の端をあげた黒い、黒い微笑。


「知ったことか…………」


どうしよう、どうしたらいい!?
手に汗を握り、今までテストの時だってこんなに考えたことがないだろうと思えるくらいアタマを使っても、どうすればいいのか皆目見当もつかなくて。

、どうしたらいい!? なんか考えつかねぇか!?!?」
「ふえ!? わたし!?!? 今考えてるけどダメ!!! わかんない!!!」

土壇場の機転はのほうが鋭いため、彼女に視線を走らせてみたが、ずいぶん前から考えていたと思われる彼女にもいい方法は思いつかないらしい。

いっぱいいっぱいな彼女のとなりで、ハッと何かを思いついたようにクリリンが拳を握りしめた。

「そうだ! ドラゴンボールだ! ドラゴンボールがあったじゃないか! 悟空!!!神様が死んでも、神龍に頼んで復活できるぞ!!! 俺たちが生き返ったようにっ!!!」

「………そうか! その手があったんだ! サンキュークリリン!!!」


ぱっと顔を輝かせて悟空が破顔し、それから表情を引き締めて構える。



ピッコロ大魔王の手からものすごい気功波が放たれ、同時に「超カメハメ波」が悟空からピッコロ大魔王へと向かっていく。そのカメハメ波は、今まで見たそれの比ではなかった。


空中で激突した気功波。
断然悟空の塊のほうが大きく、必然的にピッコロの気功波は跳ね返され、炸裂した超カメハメ波に飲まれていくピッコロ大魔王。


吹きすさぶ爆風が収まり、見上げた上空に。
未だたたずむピッコロ大魔王の姿を確認し、戦慄を覚える

あんなに大きなカメハメ波だったのに。
服はボロボロで、ターバンも吹き飛んではいるけれど、まだ気は殆ど減っていないその現実。















悟空、勝てる、よね…?
『絶対勝つ』という悟空の言葉を強く胸に留め、は不安を払うように頭をひとつ振った。






















やっぱり戦闘シーンはニガテです…
何とかがんばります、決勝戦っ!!!