悟空の放った超カメハメ波は、確かにピッコロ大魔王を飲み込んだ。
それを堪えたピッコロ大魔王だったが、やはりそれが炸裂したときは恐怖を感じたもようで。
そこはプライドの高い彼。一瞬とはいえ恐怖を与えた悟空に、いたくご立腹の様子だ。
空中から武舞台に降り立ったピッコロは、そりゃもうコメカミどころかアタマや首にまで青筋を立て、ぎりっと歯軋りが聞こえてきそうなほどに歯を食いしばり。
「許せんぞ……ばらばらに砕いてやる………!!」
なんて、空恐ろしいことを口走る。
怒り狂ってその言葉を即実行してやろう的な大魔王の表情に、ゾクっと恐怖心を煽られただったが、そんなことをしたらわたしがあなたを殺りますよ?(できればの話ですが)などと、こちらもまた恐ろしいことを考えていたりして。(愛の狂気)
とにかく、試合続行です。
第二十七章:神の復活
『も、ものすごい孫悟空選手の攻撃でした……。し…しかし、マジュニア選手、信じられないことにこれを、こ…こらえました……服がボロボロになっただけで――――――………あ、あれ?』
我に返ったように実況中継をしていた審判が、先ほどの悟空の気功波のせいでターバンは吹っ飛び服はボロボロのピッコロ大魔王を見て、小さく首をかしげた。
『はて…? ど、どこかで………』
審判の声に、会場内がざわつきはじめた。
今まで試合に熱中していた観客たちが、ピッコロ大魔王を指差しながらなにやら微妙な顔をして近くの者と話をしている。
「い、いかん………正体がばれる! これはとんでもない騒ぎになるぞ…………!」
観客席のざわめきに、ヤムチャが焦りを隠せない様子で呟いたとき、最前列で試合を見学していたランチがボソッとその名を口にした。
「似てるぞ………ピッコロ大魔王に」
「え!?」
ブルマが聞き返し、ウーロンやプーアルとともにランチを見てから、武舞台上のピッコロに視線を戻し、皆が皆驚愕の色を瞳に宿す。
思いのほか響いたランチの声は、観客たちの疑惑をも煽ることとなり。
「ぴ、ピッコロ大魔王……?」
「そ、そういえば……」
「ほんとだ………に、似てるぞ…」
「そっくりだ…………!」
ざわつく天下一武道会場。
そんなはっきりとした観客たちのセリフに、マジュニアはゆっくりと観客席を振り返り、酷薄な笑みを浮かべた。
「似てて当たり前だ! このオレはピッコロ大魔王の生まれかわりだ!!!」
ピッコロの声が、会場内に大きく強く響き渡り。
それを聞いた観客たちの表情が、衝撃 → 動揺 → 恐怖に変わっていく様子をまるで楽しむかのように眺めている大魔王のその黒い笑みに、思わずは身震いした。
「世界中に知らせておけ。孫悟空の息の根を止めたあと、再び貴様らの王になってやる!!! ピッコロ様の天下がよみがえるのだ!!!!!」
恐怖で身動きの取れない観客たちに大演説をぶちかまし、高らかに笑うピッコロ大魔王。
直後。
観客席は大パニックを起こし。
我先にといっせいに逃げ出す見物客。
彼らの上げる阿鼻叫喚は、ものの10分足らずで耳に届かなくなり。
あんなに賑やかだった天下一武道会の客席は、ブルマ、ランチ、プーアル、ウーロン、そして、審判のみを残して、誰もいなくなった。
「このほうが、いいかも………」
ぽつんと、が独り言を零した。
さっきみたいに大魔王が大暴れして、会場がいつ吹っ飛ぶかわからないような事態になってしまったとき、巻き添えを食らう人間が少しでも少ないほうが、悟空にとっては好都合だろう。
一瞬にして静かになった会場を見回した審判が、ささっとブルマたちのところに移動してマイクを握りしめた。
『さ、さあ!!!これは大変なことになりました!!! マジュニア選手は、実はあのピッコロ大魔王だったのです!!!!!』
………素晴らしいですね、審判さん。もう殆ど見てるお客さんいないのに、塀に隠れながらもやめることのない実況中継。これが、『プロ意識』ってやつなのか。
なんて、はまたまたトリップして感心してしまった。
「みんなも少し離れててくれ。そのほうがオラも闘いやすい」
そんなさなか、悟空が武舞台入り口で戦いを見ていたたちに視線を投げかけ、そう言って。
その言葉に頷いて、みんながブルマたちのいる観客席のほうに移動した。
「死ぬなよ、悟空!!!」
「死なないから」
「え?」
クリリンが悟空に声援を送り、それにが不満そうな声で答え、驚いたクリリンがを見ると、ぷくっと頬を膨らませたが武舞台上の悟空から目を離さずに。
「クリリンさん、悟空は死にません。絶対勝つって約束したんだから。ね、悟空?」
口調はしっかりしてるし、「信じてます」オーラは健全だけれど、その表情はどことなく不安そうな、今にも泣き出しそうな顔をしていて。
先ほどの超カメハメ波を堪えたピッコロ大魔王の強さとクリリンの言葉に揺れているを振り返った悟空は、その瞳に強い意志を宿した。
「ああ。死んでたまるか!」
力強い悟空の言葉に、ホッとしたように笑うに安心してから、悟空はピッコロに視線を戻す。
「いっとくが、おめぇなんかに天下はとらせねぇからな!」
ピッコロ大魔王を見据えての悟空の言葉。
その言葉に、大魔王は薄く笑った。
「そういう自信に溢れたセリフは、次の技を見てから言うんだったな……」
余裕そうにニヤリと笑うその顔は、ゾクリとするほど歪んでいて。
これからなにが起こるのか、と悟空をはじめとするその場の全員が固唾を飲んで見守る中、ピッコロが気を集中しだした。
ピッコロの気が高まるにつれ、背中がぞわぞわしてくる。
「な、なにが始まるんだ…………」
呟くような天津飯の声。
ピッコロの身体を電流のような気が覆っている。
次の瞬間、その身体が巨大化し始めた。
「げげっ!!!」
もとより三倍は大きくなっただろうピッコロのその姿に、悟空が思わず驚きの声を上げた。
驚いたのは悟空だけではない。
それを見ていたその場の全員、目を皿にして巨大化したピッコロを凝視。
「「う、うそ……」」
武舞台上の悟空の驚愕の声と、でかくなったピッコロをみて恐ろしいとかそんな感情よりも、「ビックリドッキリ異世界ワールド!」な感じで驚いているのおとぼけな声が重なった。
「いよいよ貴様の最期が見えてきたな!」
高らかに嘲笑うピッコロを見上げ、悟空は驚きを隠せない。
「で…でっけえ………! た、たまげた…………っ!!」
ほんとビックリ〜!!!
なんて思ってる面々を尻目に、大魔王は勝ち誇ったような笑みをその顔に浮かべた。
「死ねっ!!!」
ピッコロ大魔王の攻撃が始まり、悟空は素早く避けていたのだが、大きなピッコロに対して武舞台は狭すぎる。
その狭い空間内で避けなければならない悟空の動きは、完全に読まれていて。
バチィ!!!!!
ピッコロ大魔王の平手が、悟空を叩き落した。
武舞台の床に叩きつけられて、悟空が痛そうにうめく。
「悟空!!!」
「孫っ!! 助太刀するぞ!!!」
思わず身を乗り出して叫ぶ。
そして、武舞台に飛び乗ろうとする天津飯を、悟空は立ち上がりながら制した。
「や、やめろ! 手助けしてもらっちゃ優勝できなくなっちまうよ」
ぴたっと動きを止めた天津飯を見やり、それから呆然とするに不敵に笑ってみせる。
「大丈夫だ。あれぐらいの大きさだったら、どうってことねぇさ」
「―――――――――ほんと?」
「ああ!」
「ふっ、どうってことないだと?」
聞き捨てならない、といった雰囲気で悟空の言を聞き返すピッコロ大魔王を、悟空は自信に満ちた瞳で見上げて、力強く頷いた。
「そうだ」
返事をするや否や、悟空はピッコロの後ろに回り、その膝の裏側を蹴り、バランスを崩して倒れたその巨体を軽々と投げ飛ばしてみせた。
「す、すごい…! 悟空のやつ、いったいどんな修行を………」
感嘆して呟く亀仙人。
呆然と試合の様子を凝視するクリリンたち。
そして、ピッコロ大魔王の強さに不安になったり、素敵悟空に胸をときめかせたりと忙しい。
そんな面々の視線を一身に集めながら、悟空は立ち上がったピッコロ大魔王を的に悩殺素敵笑顔で見上げる。
「言っただろ!? それぐらいの大きさだったらコワくなんかねぇさ!! もっともっとでっかいんだったらやべぇけどな!!!」
まるで挑発するような悟空の言葉に、ピッコロ大魔王はピクリ、と口の端をあげた。
「ふっふっふ……これ以上は大きくなれんとでも思ってたのか!!!」
勝ち誇ったようにそう笑い、驚いたように目を見開く悟空を前に、ピッコロの身体はさらに大きくなっていく。
「で、でか!!!!!」
は思わず手をかざし、はるか上空にあるピッコロの顔を見上げてみたが、あまりにでかすぎて顔が見えない。
怖いとかやばいとか以前に、信じられない……。
なによりまず、一歩でも動いたら、ピッコロさんの場外負けじゃなくって???
そんな冷静な突っ込みを入れてみたくなってしまうあたり、も大概オオモノである。
『でで、でかいっ! さらにものすごい大きさ!!! まっ、まるで山です!!!!!』
審判が頑張るなか、ブルマやウーロン、プーアルなどはとにかくそこから離れようと逃げ惑い。
「悟空っ、逃げろ! 逃げるんだーーー!!!」
ヤムチャが武舞台に向かって叫んだが、当の悟空は同様、感心したようにポカンとその巨体を見上げていて。
「さあ、どうする!?!?」
大声でばか笑いしながら悟空を見下ろすピッコロ大魔王に、悟空はにっと笑った。
「へっ!!! ひっかかったな!!!!!」
言うや否や、ピッコロの顔の位置まで高くジャンプし、その口の中へと入っていく悟空の姿。
「おっ、おう!!! がはっ!!! げはぅっ!!!」
多分体内で暴れてるんだろう、ピッコロが激しく咳き込んでいる。
「がはぁ!!!!!」
ひときわ激しく咳き込んだピッコロ大魔王が、悟空を吐き出した。
…………悟空、お風呂に入ってください。今すぐに!!!!!
なんて、唾液まみれで出てきた悟空に無理難題を申し渡したくなるのをグッと堪える。
そんなの様子などお構いなしな悟空は、一番近くにいた天津飯に向かって何かを投げた。
「天津飯っ、コイツを!!!」
ナイスキャッチな天津飯が、自分の手の中に入ってきたものを確かめると、それは、神が封じ込められたあとにピッコロがお腹におさめてしまった小さな小瓶で。
「ふたを開けてくれーーー!!!」
「しまったあ!!!」
ピッコロが動くより、天津飯がコルクの栓を抜くほうが早かった。
ぼんっ、と煙が出た後に、ぱっと神の姿が現れて。
「神、様…。神様! 神様!! 神様〜〜〜!!!」
次の瞬間、が神に抱きついた。
神は呆然とその場に佇み、飛びついてきたを見下ろす。
「……? わたしは…。そうか、魔封波を跳ね返されて………」
よかったよ〜〜〜、と泣き出すをよそに、ブルマたちは恐れおののいたように神を遠巻きに眺めている。
「ピッコロ大魔王が二人になったわ! な…っ、ちゃん!? あんた何やってるの!?!? いくら孫くんがやばい戦いしてるからってピッコロに抱きつくなんて、まさかおかしくなっちゃったんじゃないでしょうね!」
「へ? いやブルマさん、ちがうから」
遠くのほうから怒鳴ってるブルマに顔を向け、が微妙な顔をする。
たとえおかしくなったとしても、悟空を殺そうとする人なんかに抱きついたりしませんっ!!!
失敬な、などと思っているをよそに、亀仙人が神を見上げた。
「神様ですな? 悟空のやつが見事な作戦であなたを救出したのです」
「悟空が……」
神が武舞台上の悟空に視線を流すと、微妙にちょっと面白くなさそうな悟空がそこにいて。
ああ、そうか。
が抱きついているのが気に入らないんだろうと思い当たり、神はあわててを引き離した。
「、泣くでない。もう、大丈夫だから」
「う〜〜〜、ホントですか? あぁよかったぁ…。ってゆうか、悟空最高! 悟空大好き!! 悟空愛してる〜!!!」
悟空の機転に感動し、高揚する気持ちのまま舞台上の悟空にガッツポーズを決めながら笑顔を向けると、悟空は照れたように頬っぺたをぽりぽりとかいた。
「お…おのれ〜〜〜!!!」
そんなほのぼのした空気を撲殺するように、ピッコロ大魔王の怒声が会場内に響き渡り、次の瞬間、その巨体が縮み始めた。
「なんだ、元に戻るのか。またカラダん中に入られちゃまずいもんな!」
すぐに戦闘に意識を切り替えた悟空が、元のサイズに戻ったピッコロに言い放つ。
悔しそうに顔をゆがめるピッコロ大魔王。
激闘は、まだ続く。
そして、それを見つめるはというと。
悟空、優勝したら、まずお風呂に入ってください、と切実に思っていた。
乾いた笑いが聞こえてきそう……
いや、でも頑張りますっ!
精進いたしますので、どうぞご勘弁を〜(≧д≦;)

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