激しくぶつかり合う力と力。目にもとまらぬスピード。
「みっ、見えん!!! この神の目にも!!!」
「上です!!!」
二人のスピードを追うことができず、驚愕したように上がった神の声に、が間髪いれずに凛とした声を返す。
空でなお繰り広げられる攻防。
不意にピッコロが、その触覚から電磁波のようなものを放ち、それが悟空をとらえた。
ビーム直撃の悟空が空から落ちてきて、ダンッ、と背中から武舞台の床に叩きつけられて。
立ち上がりかけた悟空に、素早く空から着地したピッコロがその拳を振り上げる。
「死ねぇ!!!!!」
「いかん!!!!!」
大魔王の声に神の声が重なり。
「悟空!!!!!」
思わず叫んだのその視線の先。
ピッコロ大魔王と悟空の間に割って入った神が、その殺人パンチを止めていた。
第二十八章:目前の勝利
「ジョーダンじゃねぇよ神様!!!」
………はい、これは神様に助けていただいた悟空さんのセリフでございます。
ピッコロ大魔王のパンチを受け止め、二人でピッコロを倒そうという神のお言葉に返ってきたのが、ちょっとお怒りモードの入ったその悟空の声でした。
彼曰く。
「まだ試合の決着がついてねぇんだ! ジャマしねぇでくれよっ、いいところなんだからさあ!!!」
だ、そうです………。
「し……試合、だと…………?」
神、呆然。
いや、呆れているのは神だけではない。その場の面々が呆けたような視線を悟空に送ってしまった。
「あ、アイツ、まだあんなこと言ってるぞ。ピッコロを倒さないと世の中が危ないんだぞ!」
クリリンの言葉に、思わず笑ってしまう。
なんというか……なんとも悟空らしくて。
そして、悟空の『試合』宣言を聞いて笑っているのがもうひとり。
「ふ…ふっふっふ………。いかにもアイツらしいわい。悟空にとっては世の中のことなんぞはたいしたことではないようじゃ。ワクワクするような強い相手と試合をして勝つことがすべて……」
いつものお惚けエロ爺の顔はどこへやら、今は立派に武道の神様と呼ばれるにふさわしいシリアス顔がそこにあって。はああ、この人はやっぱり悟空のお師匠さんだ、とそんな亀仙人を見て納得する。
で、武舞台上の悟空はというと。
「おい、今のぶん殴らせてやる。オラの気がすまねぇから」
ピッコロに向かって、そんなバカ正直なことを進言していた。
となりに立つ神が唖然として悟空を見るが、当の悟空は神のことなどアウトオブ眼中だ。
「かっこつけやがって…………」
その言葉と同時に、ピッコロが悟空に拳を振り上げ。
バキッ!!!とすごい音を立てて殴りつけられた悟空の身体が吹っ飛び、部舞台入り口の壁にドカッと激突した。
悟空……。
まっすぐで正直な貴方が好きだけど、けっこう損な性格かも………。
が痛そう…とハラハラしながら見上げた視線の先で、悟空は殴られた頬っぺたを拳でグッとぬぐって立ち上がり、ピッコロ大魔王に向かって不敵に笑む。
「い…いぢ〜……。こ、これで、さっきの分は無しだぞ」
そう言った悟空の息が、少し上がっていた。
「フッ、さすがの貴様もついに疲れが見え始めてきたな………」
「おめぇだって人のこと言えねえだろ。パンチの効きが鈍ってきてるぞ……」
にやりと笑うピッコロに対し、悟空も負けじと言い返す。
未だ武舞台上にたたずみ存在を無視されている神が、そのやり取りを遮るかのように悟空に呼びかけた。
「孫悟空! 試合などというつまらん意地をはるのはよすのだ! 今二人でこやつを倒さんと、後悔することになるかも知れぬぞ!!」
神としては、当然の申し出だ。
なにせ悟空に修行をつけたのも、ピッコロ大魔王を倒してもらいたいからであって、天下一武道会で優勝するためではなかったはずなのだ。
けれど悟空は、そんな切迫した神に向かってちょっと苦笑する。
「そんなことしたら、オラもっと後悔しちゃうよ。…わりぃけど、わがまま聞いてくれ。武道家の意地なんだ」
そう言った悟空は笑みを浮かべてはいるものの、その瞳は熱くて真剣で。
確かに、世の中の命運を左右してしまうこの戦いで絶対に負けられないという神の言い分のほうが正しいのはわかる。わかるけど。
「――――――神様、わたしからもお願いします。悟空に、やらせてあげてください」
「………しかし」
神にとっては、世の行く末と同等に案じているものがあり。
それはすなわち、悟空の命と、の精神。
それを守るためならば、たとえ悟空がどう反対しようとも、自分もこの死闘に参戦し確実な線でピッコロを撲滅するのがベストなのだ。
あまりに心配そうな神の様子に、は「神様はのために闘ったんだぞ」という悟空の言葉を思い出した。
「わたし悟空を信じてるから。悟空はきっと勝ってくれるから。だからきっと、わたしが暴走することもないと思います」
だから心配しないでくださいとでも言うかのような悪戯っぽい笑顔を見せるに、神はやっぱり微妙に納得のいかない顔だ。
「神様……オレからもお願いします。悟空ひとりに戦わせてやってください。今の世は、一度悟空に救われた世界です。誰にも文句は言えません………」
傍から見ていた天津飯がそう進言し。
神がそちらに視線を向ければ、その場に残った面々も同じく覚悟を決めたように頷いていて。
間違っている。
そうは思うが、天津飯が言うことも一理あるのは確かだ。
「―――――――――よかろう。悟空、ではおまえひとりに世をたくしたぞ。その代わり、必ずピッコロの息の根を止めろ。よいか!? 私も死ぬが、そのときはドラゴンボールで生き返らせてくれればよい」
迷いに迷い、やっと頷いてくれた神に、パッと顔を輝かせる悟空と。
「ありがとうございます、神様!」
「うん、任せてくれ! オラ勝てる自信があるんだ!」
拳を握りしめて笑顔を見せる悟空に、神は幾分か安心する。
強い相手と戦ううちに、どんどん力をつけていく悟空。気付かぬうちにいつの間にか自分をはるかに追い越してしまっていたその事実に、神は、確かに悟空なら勝てるかもしれない、と勝算を見出した。
一方、悟空の「勝てる自信がある」という発言ににむかっ腹を立てている輩が約一名ほど。
言わずもがな、ピッコロ大魔王である。
「このオレ様に勝てる自信があるだと…? クックック、口からでまかせを言いやがって」
ゆがんだ笑みを貼り付けるその顔を真っ向から見返した悟空が、へへへ、と笑った。
「でまかせなんかじゃねえさ。もうおめぇの技は見切った!」
素敵な爽やか笑顔で言い切った悟空に、悩殺寸前のと、付け焼刃な笑顔を一瞬にして崩し怒り狂うピッコロ大魔王。
「このピッコロ大魔王に、勝てるだと……? 勝てるだと〜〜〜!?!?」
「勝てる!!!」
お怒りマックスで声を震わせるピッコロ大魔王に、ひるむことなく力強く頷く悟空。
そらもう、清々しいくらいにきっぱりはっきり言い切ってくれちゃったその悟空の言葉は、ピッコロをプッツンさせるのに充分すぎるくらいだった。
「勝てるものか…! 勝てるわけがあるまい!!! このオレは…このオレは!!! 三年前の貴様との戦いのときより、さらに数倍もレベルアップしたのだ………!!!!!」
握った拳もいからせた肩も、怒りで小刻みに震えていて。
これ以上刺激しないほうがいいんじゃないでしょうか、悟空さん? なんてが思っていることなんかおかまいなしで、悟空はその端正なお顔に自信に満ちた笑みを浮かべて。
「じゃあオラは、それよりもさらに、もうちょっとだけ強くなったんだ!」
ぷちっ!!!(←大魔王の堪忍袋の緒が切れた音)
「ほざけぇーーーーー!!!!!」
感情そのままの大怒鳴りと同時に、ピッコロから気功波が放たれた。
素早く避ける悟空だが、その気功波はまるで意志を持っているかのように執拗に悟空を追って軌道修正をする。それに追われて逃げる悟空をピッコロは勝ち誇ったように笑う。
「いくら逃げてもムダだ!!! どこまでも追いかけていくぞ!!!!!」
それを聞いた悟空は、小さく「そういうことか」と呟くと、武舞台に降り立ち。
追ってくる気功波の動きを探るように一瞬待った後、退治するピッコロ大魔王へと走り、気功波が悟空をとらえる寸前、大魔王の間合いに滑り込んで超スピードでそれを交わした。
一瞬のことに、避け切れなかったピッコロ大魔王。
ドオン!!! と炸裂する気功波。
爆風と土ぼこりがおさまった先に現れたピッコロの姿は。
――――――――――――左腕を著しく痛め、だらりと下げたその腕からは、ぽたぽたとちの雫が武舞台の床に血溜まりを作っていた。
「すご……い。―――――――――悟空、マジすごい……///」
痛そうなピッコロ大魔王にひっじょ〜に申し訳ないと思いつつ、思わず悟空の勇姿に見惚れてしまう。
これが、あれだ。世間一般で言う、「惚れ直す」ってやつだ。
なんて、ハートマークになっているの瞳に映る悟空は、そんな怪我を負ったピッコロに向き直り。
「降参しろ! そんな腕じゃ、もう、ろくに戦えねぇぞ」
と、促したのだが。
ピッコロは唇の端を引き上げてひにくげな笑いを浮かべ、健全な腕で痛めたほうの腕をばきっと引きちぎった。
!!!!!
それを見ていたその場の方々、もちろん一瞬にして凍りつきました。
そんな背筋に冷たいものが走りまくっている見物人たちの前で、ちぎり取った腕を武舞台に投げ捨てたピッコロが何か集中するようなそぶりを見せた次の瞬間。
ズッ、と、腕が再生したのでありました…。
「ひえ…………!」
あっけに取られたように声を漏らす部舞台上の悟空。
そんな彼を、荒い呼吸でにらみ上げるピッコロ大魔王。
その瞳はもう、燃えるような怒り以外のものなんかありはしない。怒髪天を突くっていうのは、きっとこういうものなんだろう。
とにかく、そんなおっそろしい目が射抜くように悟空をとらえる。
「ゆ…許せんぞ………このオレを、ここまで追い詰めるとは………。ピ…ピッコロ大魔王様の最後の賭けを受けてみるがいい…………!!!」
憎憎しげに悟空を見やった後、集中し始めるピッコロ大魔王の気は、まさに「最後の賭け」と呼ぶにふさわしく。
その膨大な気に呼応するかのように、武舞台の床に敷き詰められた石が浮上する。
まるで地震のように、地響きとともに地面が震え。
「なんて……気………っ!」
潰されそうな圧迫感に、立っているのがやっとの。
「逃げろっ! 逃げろーーー!!! みんな、今すぐここから離れるんだーーーーー!!!!!」
これから起こるであろう大爆発の威力を察知した悟空が、見学していた面々を振り返って叫ぶ。
だが。
「い…いかん……こりゃ、とんでもないぞ………」
亀仙人が呟く。
すくんで動けないのは、だけではない。
そのくらい、大魔王の気は凄まじかった。
「!!! しっかりしろ!!!! みんなを逃がすんだっ!!!!!」
悟空の怒鳴り声に、ハッと我に返り、頷きかけただったが、我に返ってしまえばその凄まじい気に対峙する悟空の身が、何よりも心配で。
「悟空は!? 悟空はどうする気!?!?!?」
こんな。こんなすごい気で攻撃されたら、いくら悟空だって……。思わず泣きそうになるを見て、悟空は不適に笑った。
「泣くなよ、。オラは、こらえてみせる!!!」
「バカを言え!!! いつまで強情をはるつもりかっ!! こんなのはもはや試合などではない!!! 一緒に逃げろ!!! 逃げるんだーーーーー!!!!!」
神が悟空に向かって叫ぶのと、ピッコロが最高まで気を高めたのと、ほぼ同時だった。
はっとしたように悟空が視線を戻した先。
ピッコロ大魔王がにやりと唇をゆがめて笑うのが見えた。
「ダメだ!!! もうみんなが脱出する時間がねえ!!!!!」
どうしようっ!!!
悟空は大丈夫だと言った。それを信じるしかないとして、じゃあ、他のみんなは!?
焦れば焦るほど思考はまとまらず、絶望的な気分でがピッコロ大魔王を見上げたとき。
「気功砲!!!!!」
天津飯がの背後で叫び、ドオン、という破壊音とともに地面に大きな穴を開けた。
「おいみんな!!! 死にたくなかったらこの穴に飛び込め!!! 悟空を困らせるな!!!!!」
天津飯の叫びに、全員が我に返った。
次々にその穴の中に飛び込み、伏せる。
「悟空!!! ムリするんじゃないぞ!!!」
「おう!!!」
クリリンの呼びかけに、笑顔で答える悟空。
「む、ムリだ……孫!!!」
「神様、悟空を信じて!!! 悟空は大丈夫だって言った! おねがいっ!!! 神様がここにいたら、悟空が困っちゃ……」
「てめぇ!!! もたもたすんじゃねぇよ!!! 神だかなんだかしらねえがとっとと入りやがれ!!!」
動かない神を必死で説得しようとしたの言葉をさえぎり、ランチが神を穴に蹴り落とした………。
悟空とピッコロ以外の全員が穴におさまる。
は組んだ指を額に強く押し付け、(悟空は大丈夫。絶対、勝てる・・・・・・っ!)と、不安な気持ち打ち消すように強く自分に言い聞かせる。
そして。
ものすごい爆音と、ものすごい爆風が、その場を襲い。
大きく地面が揺れた。
しばらく固唾を呑んで、穴に身を伏せて。
「悟…空」
呟きながらそこから顔を出したが、パァッと笑顔を咲かせた。
続いて顔を出したクリリンが。
「悟空―――――!!!!! 生きてるっ! 悟空は生きてるぞーーー!!!」
ピッコロ大魔王と対峙し、両腕で顔を覆い、踏ん張ったそのままの格好で、悟空はそこに立っていて。
愕然とする大魔王に、その腕から顔を上げ、にっと笑顔を向けた。
「ど、どうだ……。なんとかこらえちゃったもんね……」
あんなすごい爆発をまともに食らって、それでもぴんぴんしている悟空の姿に、みんながみんな、歓声を上げた。
「そ…そんな………バカな……………」
信じがたいその事実を受け入れられないように呟くピッコロ大魔王に対し、悟空は自身溢れる笑顔で。
「もうおめぇに勝ち目はねえ…! 今ので残ったすべての気を使い果たしちまったはずだ。――――――優勝、いただき!!!!!」
ひるむピッコロ大魔王を前に、気を集中する悟空。
「ま、待て!!! どうするつもりだ!!!」
明らかに怯えの見えるピッコロに、悟空は鋭い視線を返し。
「よーい……どん!!!!!」
掛け声とともにエルボー、蹴り、腹パンチの重い連続攻撃を決め込み、たまらずピッコロ大魔王が倒れると同時に空に高く飛び上がり。
「か…め…は…め…波ーーーーー!!!!!」
動けないピッコロがもろにそのカメハメ波をくらって。
爆音とともに爆風があたりに吹き荒れる。
身を伏せそれをやり過ごし、顔を上げた武舞台の上。
地面に着地した悟空が一息をつき、見下ろすその先に、ピッコロ大魔王は半分土に埋もれたような状態で、気絶していた。
悟空の勝利だと、誰も信じて疑わない瞬間だった。
さすがにもう、限界です。ってゆうか、こんな駄作で本っ当に申しわけありませんっ!
お付き合いくださってありがとうございます!
次で、終わる・・・かな?てか、次で、終わしたい……m(__)m

|