真っ白な世界。 この世界、なんだか見覚えがある。 そうだ、今朝の夢。こんな真っ白な世界だった。 違うのは、此処には大好きなあの人が居ないこと。 一人ぼっちで、不安を抱えながら佇んでいるわたし。
唐突に、目が覚めた。 なんだか長い間夢を見ていた気がする。それはものすごくリアルで、そしてものすごく都合がよくて、だけどまったくもってあり得ない夢で。 ベッドに横になったまま何度かゆっくり瞬いて、それからの顔からは自嘲的な軽い笑みが漏れた。 「夢…か……」 ポツリとこぼれたその言葉。彼女は先ほどの夢を思い浮かべる。 それにしても、最高の夢だった。なんせ最愛の悟空に出逢えてしまったんだから。しかもどさくさにまぎれて抱きついちゃったような気もするし。最後のほうはよく覚えていないものの、今まで歩んできた15年と7ヶ月の中で超ド級、一番シアワセなひとときだったことは間違いない。 じきに、現実を思い知らされて、の表情が曇る。 ……こんなこと、一生ありえないだろうな。わたしってばどぉして架空の人物なんか好きになっちゃったんだろ。てゆうか、架空の人物を本気で好きになるあたり、わたしのアタマはどうなんだろう…? ああでも、この苦しくて切ない感情は本物で。 は滲んできそうになる涙をぐっとこらえて思考を切り替えた。 ええい、悩んだって今すぐどうこうできる問題じゃない!! 前向きに生きるんだっ!!! そう自分に言い聞かせ、気合を入れてガバッと勢いよく身体を起こした瞬間。 「ぃ、っっ痛!!!」 体中に激痛が走った。 精神的ダメージをなんとかなだめてムリヤリ引っ込ませた涙が、肉体的な痛みで再びジンワリと湧いてくるのを感じる。 「痛って・・・マジ痛いッッ!!!信じらんない、いったいどんな寝方してたワケわたしってば。……って」 全身寝違えか、とか思いながら自分に文句を言いつつ身体をさすり、潤んだ瞳を上げたは、その視界に入ってきた光景を見て絶句した。 「…ぇ、此処、どこ………?」 てっきり自分の部屋の自分のベッドで目を覚ましたものだと思い込んでいたのだが、そこは彼女の部屋ではなかったのだ。 薄暗くてよく見えないが、ただっ広いシンプルな部屋に自分が寝ているベッドがポツネンと置いてあって。彼女の部屋のごたごたした本棚や、枕元に常備している目覚まし時計、それに壁に掛けておいた制服、あるべきはずのそれらすべてが彼女の目には映らなかった。 「…ッハ!! もしかしてわたし、まだ寝ぼけてたりする!?」 声に出して言ってみる。どう考えても起きているようにしか感じないけど、さっきだって妙にリアルな夢見てたワケだし。もしかしたらあの夢の続きかもしれない。だけど、ズキンズキンと痛みを訴えてくるこの身体。夢の中では痛みを感じないってよく聞くけど、アレはデマだったのか。 さらに自分を見下ろしてみたら、あろうことか高校の制服姿。まだ新しい制服は、哀しくもシワシワになってしまっていた。 再び混乱しかける頭に疲れてきて、は大きくため息をついた。 なんでもいいから、とりあえずこの状況から逃避したい・・・!!! 考えることも億劫で、さっさと目覚めてくれ、と切実に願っていた、そのとき。 がちゃり。 からはまったく見えなかったが、じつは扉があったらしい。 その扉が音を立てて開き、薄暗かったその部屋に光が射し込んだ。 「しょうがねぇだろ、あのままほっとけねぇよ」 山吹色の道着に黒い帯の人物が誰かと話をしながら入ってくる。 「それはそうだが、仮にも此処は神殿であるぞ」 もう一人の人物が答える。 二人が自分のほうに近づいてくるのを、ボーっと見つめる。もはや夢現の状態で。 身体を起こしているに気づいた道着を着ているほうの人物が、明るく声を掛けてきた。 「お、気がついたか。大丈夫か?」 その声にが反応した。ピクッと肩を震わせ、定まっていなかった焦点をその人物にあてる。 その、優しげな顔には見覚えがある。引き締まった口元や、暖かい光を宿した穏やかな瞳は、彼女が長い間想い焦がれてきた人そのもので。 …やっぱり、夢なんだろうか。 「あ……」 何か言おうと思い口を開いたが、うまく言葉が出てこない。あんなに話したいと思っていた人なのに、いざ声を掛けられてみたら何を言っていいのかわからなくなった。 明らかに現実とは思えないこの状況。考えがまとまらないまま口をついて出てきたセリフは。 「……これは、夢なんでしょーか…」 なんて、ボケボケ極まりない声。それを聞いた彼がちょっと考えるような風情を見せて。 「…いや、起きてると思うぞ?」 と、至極マジメに答えてくれた。 わたし、起きてるのか…? じゃ、これって、本当に現実ってこと!?!?!? 興奮が緩やかに戻ってきた。 今、の目の前に居るのは、にわかには信じがたいが、紛れもなく孫悟空、その人らしい。 「えーと…、おめぇ、オラと一緒に神殿に移動しちゃったんだ。覚えてねぇか?」 いまだボーッ、としているらしいを心配そうに見ながら、悟空が言った。 「神殿……?」 問い返しながら悟空を見上げると、彼も自分を見ていて、思いっきり視線がぶつかった。 ボッ、と音か出るんじゃないかと思うくらい、一気に顔が熱くなる。あわてて視線を彷徨わせてみたものの、心臓はもうバクバクで、耳まで真っ赤になってるのが自分でもわかるくらいだ。 (わーわーわー!!! 目がっ! 目が合っちゃいました・・・ッッッ!!!) 大興奮しながら目を泳がせる。ハタから見たら「コイツ大丈夫か?」的な勢いだ。 しかし、泳いでいた視線が次に捕らえたものは、必然的に悟空のそばに立っていた白いマントをまとっているもう一人の人物で。 「……!」 ウワットゥ!!! な、なにものじゃ、この人は!? てか、人なのか!?!? 驚いただけでなく、そんな失礼極まりない疑問が脳裏を走る。 それもそのはず。悟空の隣に立っていたのは、もうかなりの年なのであろう、木の杖をつき、深く刻まれた顔の皺。それだけなら別にどうってことはなかったのだが、その目つきは鋭く、杖を持つしわしわの手の指先には長いカギ爪、そして極めつけは、その肌の色。なんと、緑。そう、グリーンなのだ。 顔色が悪いとか、そんなレベルではないその人(?)を凝視して、絶句し固まるを見やり、悟空はその視線の先―――つまり自分の背後を振り返った。 「ああ、この人は神様だ。心配ねぇよ」 ……………か・み・さ・ま…………って、、、 カミサマって、神様のこと!?!? うっそーん、マジで!? 神様って、初めて見た………てか、神様って実在するのか!? 信じがたいその事実に、思考はさらにぶっ飛んだ。オドオドと目を泳がせ、ぶっ飛んだアタマで必死に考えに考え、そしてやっとひとつのギモンを導きだした。 すなわち。 どうやら此処は、本当に悟空の世界のようだ(いまだに信じられないけど)。ということは、自分はこの世界のことをすべて知り得ているはずなのだ。そのストーリーも、キャラクターだって。それはもう、漫画はもちろん、DVDだって揃ってて、そのセリフを暗記できるくらい何回も繰り返し見てたのだから。それなのに。 今思い出せることといったら―――――悟空の名前だけ。
すこ〜し、LOVEっぽい?? ・・・そんなことないかuu 誰かわたしに文才をください!!(切実) |