死の淵から復活したサイヤ人は、急激に強くなる。
それを裏付けるがごとく、ベジータは一瞬にしてジースを跡形もなく消し去った。
それから外見が『悟空』であるギニューを攻めあぐねているたちの間に割り入り、まさに息の根を止めんばかりの攻撃をそのカラダに叩き込んだ。
「やめて!やめてよバカベジ!!! これ以上悟空のカラダ、傷つけないで!!!」
「どけ。あれはカカロットじゃない、ギニューだ!」
「わかってる!わかってるけど!」
「わかってるならそこをどくんだ!」
を突き飛ばし、トドメとばかりに起き上がれないギニューに向かうベジータ。
そんなベジータを見るギニューの顔に、怪しい笑みが浮かぶ。
「チェーンジーーー!!!」
叫んだギニューとそこに向かうベジータの間に、次の瞬間、悟空が割り込んで。
その場が眩しく光った後。
「あ、あのやろう……よ…よくも、ジャマを……!」
そう呟いて、倒れた『悟空』を忌々しげに見下ろす『ギニュー』と。
「へへへ……いてててて………。ど、どうやら……元に、戻れ…たぞ……」
小さく笑ったボロボロの『悟空』は、その言葉のとおり、もとのカラダに戻った本物の悟空だった。
第三十四章:昨日の敵は、今日の友…?
チェンジチェンジと何回か光が交錯し、結局最後はギニューはカエルさんになってしまった。
これぞまさしく、自業自得というやつだろう。
そんなこんなで、悟空は自分のカラダに戻れたのだが。
「ホント信じらんない。バカベジ!アホベジ!!トンマベジ!!! ここまですることないでしょーが!!!」
悟空に肩を貸しながら思いっきりベジータを睨みつけるが、彼女なりの罵詈雑言を彼にぶつけていた。
死にぞこないと言っても過言ではない悟空から彼女の憤慨する顔に視線を流したベジータは、ふん、と鼻で笑ってみせる。
「あんまり『カカロット』が弱かったもんでな。地球での恨みやら何やらで、ついついやりすぎた」
一時的でも自分の強さの上を行き、如何せんの愛情をほしいままにしているカカロットは、ベジータのプライド的に万死に値するのだ。たとえ中身が違ったとしても『カカロット』をぶっ飛ばしてスッキリしたのは紛れもない事実だったりする。
「悟空じゃなくて牛乳だったじゃん! 悟空が自分よりうーんと強くなっちゃったからって、その腹いせに『悟空』を殺そうとするなんて、ホント信じられません本気でバカじゃないの!?!?」
まったくもって腹立たしい!というオーラをバシリバシリと迸らせているに対し、ベジータは相変わらず涼しい顔を崩さない。
その「うーんと強くなった」カカロットは、今はどう見たってボロ雑巾だ。確かに弱っちい彼を倒したところで八つ当たり以外の何物でもないのはわかるが、要するに。
「カラダを取り替えられるような隙を作るから、こんなことになるんだ。ちがうか、?」
「ああもうっ!ほんっとヤなやつっ!!!」
とりあえずは自分よりも強くなった悟空をぶっ飛ばすことができてご満悦顔でとうとうと理屈をほざきながらにやりと笑ったベジータを、は怒りマックスで睨みつけた。
事実、彼が言っていることは確かに理にかなっているような気もするが、だからといってそれを肯定するのは的にとても許しがたい。どこにかはわからないが、屈辱を感じてしまう。
しかしてそんな彼女のお怒りなどなんのその、ベジータはその高潮した頬をつうっと指でなぞり。
「くっくっく。まあそう怒るな。それに、賭けはオレのひとり勝ちらしいな…。おまえはオレのものぐがっ!」
言いかけ途中で強烈アッパーをバキッともろに顎に入れられて、衝撃に思わず膝を突いたベジータが顔を上げた先。
片方の肩で悟空を支え、もう片方の手で拳を作ったの姿が目に入る。
「誰があなたのもんですか!気安く触んな気持ち悪い!そんなことより、さっきあなたが食べた仙豆を今すぐ吐き戻してください今すぐに!!! それで悟空の怪我、治すんだから!!!」
「「「い!?!?!?」」」
急激パワーアップしたベジータに一発入れたあたりからかなり衝撃を受けていた悟空、クリリン、悟飯だったが、それよりもその後に続いた『吐き戻せ』発言に、愕然となる。
それで悟空を治す、すなわち、その吐き戻したブツを食べさせようというのだろうか、彼女は……。
「――――――あ、あのさ、」
「悟空、大丈夫よ、今すぐあのバカベジの胃の中から仙豆取り出して食べさせてあげるからねっ」
「い、いや、そうじゃなくて………いくらオラでも、人が吐いたモン食うんは、ちょっとイヤだぞ………」
ぽそり、とつぶやいた悟空に視線を戻したは、心底いやそうにしている悟空の顔を見て。
「そ、うか……そうだよね。でもっ!きれいに洗って消毒してあげるから、我慢して食べて、ね?」
ニコリ、とそりゃもう可愛く笑って見せれば、悟空はあっけなくそれにつられて笑い頷いた。
―――――――――――て、ちょっと待て。
「い、いやいやいや、悟空。そこでフツー頷くか!?」
「そ、そうですよおとうさん。それにおかあさん、ベジータさんが復活したところからいって、たぶんもう仙豆は消化されちゃってますよ。もう胃にはないです」
相も変わらず突拍子もない発想を展開すると、それにあえなく引きずられて肯定の意を示してしまう悟空に、思い切り突っ込みを入れる二人。
「ふっ。まあそういうことだな。あの豆のおかげでオレはこのとおりだ。今ならうっとうしい貴様らを消し去るくらい、ワケはない」
口元をぬぐいながら立ち上がり、いけしゃあしゃあと言ってくるベジータが、とにかく憎ったらしいである。
「やっぱりここは、悟空と同じくらい痛い目に遭ってもらわないと気がすまないって言うか……」
「おまえにできるのか? さっきは油断したが、今度はそう簡単にはいかんぞ?」
つい先刻までは牛乳、もとい、ギニュー特戦隊を前に縮こまってたくせに、強くなったとたん自信満々なベジータの態度をついっと一瞥し、は小さく息をついた。
「できないことも、ないけど、さ……」
「やめとけよ、。それに……いまは、オラたちのこと、殺せねえさ………。そうだろ、ベジータ」
そう、できないことはない。
ただ、やったら多分、相打ちになってしまうだろう。
だから、これからドラゴンボールのことを賭けて闘わなければならない相手のことを思うと、今二人が闘うのは得策ではない。
そう判断してため息をつくと、同じ思いで彼女を押しとどめてベジータを見る悟空を、ベジータは例の皮肉げな笑みを貼り付けて見返す。
「………引っかかる言い方だが、まあそういうことだ。ドラゴンボールのこともあるが、何よりフリーザと闘うには貴様らの、特にカカロットの力が必要だからな」
「なのに、こんなボッコボコにしたんだ悟空のこと。どうすんのよ、これじゃなかなか治らないじゃん!」
「仕方ないだろう、さっきまではギニューの野郎に乗っ取られてたんだ」
加減を知らないんだから、とまたまた憤慨するを、ベジータは面白そうに見やった。
カカロット絡みなのは気に入らないが、ほんとうにそのまま感情を表すその表情の豊かさには、なぜだか毎度楽しませてくれるものがある。
まあ、それはとりあえず置いといて。
今はカカロットを治すことが先決だと判断したベジータが、宇宙船に向かって歩き出した。
「カカロットを連れて来い。治療してやる」
「え、マジで!?」
ベジータの申し出に、疑い気味に戸惑うクリリンと悟飯をよそに、さっきまでつり上がっていたの眉が弧を描き、パッと笑顔になる。本当に、感情のままに顔に出るわ、今の今まで食って掛かっていた相手にもかかわらず、まったく疑おうとしないわで。
正直、あまりに素直すぎて危険な気がするのは、悟空のみではなかった。
「ベジさんもやっぱり悪いことしたと思ってるんだねっ! そっかそっか、やだなもー照れ隠しに悪ぶったりして。まあそういうことなら許してあげようね悟空。わたしも殴っちゃったりしてごめんね」
ニコニコニコとそんなことを言いながら喜色満面についてくるの視線の先のベジータはといえば、何をどうとったらそんな考えが出てくるんだろうか、といつものことながら彼女の思考回路に疑問を抱きつつ。
けれども、彼女の中ではどうやら自分は『いい人』という位置づけになっているようで、不本意ながらそれはそれで悪い気はしない。
まあ、が自分をどう思っていようが、フリーザを倒したら次はカカロットの番だ、などと不穏なことを考えてベジータはニヤリと笑う。
黒い笑みをその顔に湛えるベジータにはまったく気づかない真っ直ぐな、それを心配する悟空・悟飯・クリリン。
以外はそれぞれに腹に一物抱えながらやってきたのは、なにやら大きな機械のある一室だった。
「こんなんで、悟空治るの?」
その大きな機械(メディカルマシーンというらしい)に入れられ、なにやら謎の液体に頭まで浸された悟空をその機械のガラスに張り付いて見ながら、が心配そうに問いかける。
「このメディカルマシーンは旧型だが、カカロットならたいした時間もかからずに全快できるだろう」
なにやらピコピコとその機械を操作しながらそれにベジータが答える。
新型のほうはオレが壊しちまったからな、とか言っているのは聞き流し、は酸素マスクみたいなものを装着された悟空をジィ、っと見つめて。
「ふぅん……。悟空、どう? 大丈夫???」
相変わらず張り付きながら中の悟空に聞いてみれば、悟空はかすかに目元を和ませてゆるゆると親指を立ててみせた。
その様子に胸をなでおろし、はあ、とが安心したようにひとつ息を吐き、それから同じくほっとしたように悟飯とクリリンが笑顔をみせる。
そんな感じで、悟空はそのマシーンにホルマリン漬け(違うから)になった。
ベジータいわく、40〜50分で完治してしまうらしい。
余裕で全治一ヶ月はかかるだろうと思われる怪我を、そんな短期間で治してしまうなんて………まさに、ミラクルマシーン。
どうやら痛みが和らいでいるらしく、穏やかに目を閉じた悟空を見守ってから、はやっとその窓から離れた。
「悟空、寝ちゃったみたい。気持ちよさそーな顔、可愛いよねぇ………って、あれ?」
ふふふ、となんだか幸せな気分で笑いながら振り返ったは、そこに誰もいないことに気づき、一瞬きょとん、とする。
それから、すぐ隣りの部屋に三人の気配を感じてそこを覗いてみて。
「―――――――――――――――――――――……………………」
言葉を、失った。
そこでが目にしたものは、いわく付きの戦闘服を身に纏った、我が息子&我が夫の親友。
い、いや別に、それを着ようが着まいが、それはまあ本人の意思であるからして自分がどうこう言うものではないけれどもでもだけど。
「あ、おかあさん。どうですか、これ」
「軽くて防御力も高いみたいだ。こんないいもん着てたんだなぁ」
どうですか、これ――――――って言われても。
こんないいもん―――――――――って言われても。
「ほら、の分だ。さっさとこれに着替えろ。防御に関しては少しはマシになるだろうぜ」
ベジータに差し出されたそれを、呆然と受け取ったものの。
自分の手に納まったそのブツとしばしのあいだ言いようのない葛藤とともに見つめ合って後。
「御厚意は大変ありがたいのですが…わたしはいいですこのままで」
にっこり笑みながら、そのブツを放り投げた。
「え、どうしてですか?」
「せっかくこんないいもんをくれるってのに、ちゃんどうしたの?」
どうしてって、どうしたのって。
――――――――――――――――――だって、この服は。
「………オレたちの着ている戦闘服が、そんなに気に入らんか。まあそうだろうな、甘っちょろいおまえのことだ。大方、仲間を殺したやつと同じ服なんか着れるか、というところか」
バカにしたようにあざ笑うベジータの顔を、しかしてはきょとん、と見返し。
それから、困ったように笑った。
「いや、そんなことはないですよ?言われてみれば、ああ、そういう解釈もあるんだなって気もするけど……そんな難しいことじゃなくって、ね?」
「じゃあ、どうして?」
まっすぐに視線を向けてくる息子の純粋な疑問に、はますます困ったような顔をしてから、意を決したようにぐっとコブシをにぎりしめて周りを一瞥し。
「だってこの服………カッコ悪いんだもんっ!」
「「「――――――――――――――――――は?」」」
一同、ぽかんとそのまたくもってクダラナイ理由に聞き返したが、当の本人はいっぱいいっぱいな様子で。
「だって変なんだもんなんか全身にフィットする着ぐるみに不可思議なヨロイの重ね着みたいで!いやわたしなんかがファッションがどうのこうのって言ったって全然説得力なんかないのはわかってるけどでもダメなのその服は受け付けないの生理的な範囲でもうイヤなんです本当にごめんなさい!」
確かにカッコいいとはいえないこの戦闘服だが、今の現状、見た目なんかにこだわってる余裕なんかはないと思う。
けれど、機関銃のごとく矢継ぎ早に出てくる早口に、本当に着たくないんだなあ、と、それはよくわかった。
着たくないものを無理やり着せることもないと、なんだか必死に拒むにその意を伝える悟飯とクリリン。
それに「ありがとうありがとう!」と涙目で大感謝しているの様子を見ていたベジータが、口の端を引き上げて笑った。
「ふ。別におまえが何を着ようとかまわんが……。カッコいいとか悪いとかなんて、こっちはどうでもいいんだぜ」
「??? え? 何、言ってるの???」
言われた意味がまったく理解できず、がことりと首をかしげてベジータを見る。
同じく彼が何を言いたいのかわからない悟飯とクリリンの視線を受け、ベジータはくるりと三人の顔を見回して後、再度の視線を捉え。
「着るものなんてどうでもいいんだ。男が気になるのは、その中身なんだからな」
にやり、と笑うベジータの言葉に、瞬時にの顔に朱が奔った。
「ばっ! ベジータなんてこと言ってんだよっ!!!」
「???中身? クリリンさん、中身って???」
あまりの衝撃に言葉の出てこないの代わりにクリリンが怒鳴り、やっぱり理解不能の悟飯が何故にクリリンが真っ赤になっているのかと純粋に問いかけていて。
「なんだ? 違うとでも言うつもりか、地球人」
「っ/// イヤ、それは、その………」
「あ、あの、ボクは、よくわから……」
「子供は黙っていろ。男というものはそういうものだ。カカロットだってそうだろう?」
聞かれてますます朱に染まる。
ちがう、と言いたいところだが、確かにそういった節があるところは、身をもって了承済みだ。
露出しているところをすべて紅に染め上げて固まっているを見て、なんてからかい甲斐のある女なんだ、と。
思ったとおりの彼女の反応に、クック、と肩を震わせて笑っているベジータに気づき、彼女は真っ赤な顔でそのからかっている相手をキッとにらみ上げ。
「このっ!!! 品性お下劣ヤローーーーー!!!!!」
壊れかけた敵さんの宇宙船の中、の高く済んだ怒声が、響き渡った。
ベジとっちの関係は、からかいからかわれがいいと思う。(こら)

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