「! !!」
大怪我を治すためにメディカルマシーンのお世話になっている悟空。
その間にクリリンがドラゴンボールの合言葉を聞きにナメック星の最長老なる人物の元へと出発し、その帰りを待ちながら願いを叶えてくれるという本場のデカイ宝珠に座って空を見上げている悟飯の耳に、宇宙船の中からベジータのを呼ぶ声が聞こえてきた。
そういえば、彼は地球に来たときから、なにかと母にちょっかいを出してきた。
それに、一緒に来たでっかいほうのオッサンぽいサイヤ人も、かなり母に入れ込んでいた。
さらには、さっきカエルになってしまったギニューとかいうヤツだって、なんだか母を気に入っていて。
おかあさんは確かにカワイイけど、ボクのおかあさんなのになぁ……。
ぼんやりと緑の空を流れる雲を目で追いながら、悟空に比べればちいさな独占欲を悟飯が感じていたら。
「おい、はどこに行った?」
いつの間にやら宇宙船の外に出てきたらしいベジータに、背後から声をかけられた。
いったい自分の母親に何の用があるんだろう、と悟飯は少々不機嫌顔でそちらを振り返る。
「おかあさんなら、さっきブルマさんのところに行きましたが」
「ブルマ? ……ああ、貴様らと一緒に来た地球人の女か」
「はい。おとうさんが治るまで時間があるからって」
「………ふん、そうか。おい、オレは宇宙船で一眠りしてくる。クリリンとやらが来たら起こせ」
あいつに添い寝してもらおうと思ったのに残念だ、などとぶつくさ言いながら宇宙船に戻っていくベジータの背中を、悟飯は超絶微妙顔で見送った。
第三十五章:夢の神
一方、こちらは緊急事態に一時収拾がついたため、とりあえず近況報告をしにブルマの元へとたどり着いたである。
ドラゴンボールで願いが叶うのももうすぐで、大怪我した悟空が復活するのも時間の問題。
苦難はまだまだ山積みではあるものの、とりあえずはうまく好転している状況に、ブルマは軽く息をついた。
「そっか。まあ、今のところは上々ね。一時はどうなることかと思ったけど」
「イロイロと問題はあるけど、最初の目的は達成できそうでよかった…。きっとみんな、生き返る。餃子さんも、天津飯さんも、ピッコロさんも―――――もちろん、ヤムチャさんも。ね?ブルマさん」
ふわん、と広がる柔らかい笑顔。
射してきた希望の光と心を和ませてくれるその笑顔につられ、ブルマも小さく笑って「そうね」と呟いた。
この星に来てからというもの、常に厚く胸を覆っていた不安感が晴れると同時に、今まで忘れていたちょっとした疑問をブルマは思い出した。
「そういえば……ちゃんがナメック星に来るちょっと前に、クリリンと悟飯くんがあたしが預かってたドラゴンボールを取りに来たことがあったんだけど」
「あ、最長老様にもらったってやつ?」
「そう、一星球。――――――そのときにね、あのベジータってサイヤ人も一緒だったのよね……なぜかしら」
確かベジータは、不老不死にしてもらうことが目的で、ドラゴンボール争奪戦の強敵の一人だったはずなのに。
純粋に首を傾げるブルマの前で、の笑顔が目に見えて強張った。
「ちゃん?」
「―――――――――あっ、と!ああそうそう!ベジータさんですね! ベジータさんとは今、一時休戦状態なんです。なんでも、ドラゴンボールを狙ってるもうひとりの方が最強最悪みたいで、その方を何とかしないといけなくて。とりあえず手を組む方向でいってるんで、今現在は仲間ですっ!」
無理矢理貼り付けたその笑顔と、『今現在』を強調するその言い方。
確かに彼はの大事な大事なだんな様をひどい目に合わせた張本人だ。そんな人と一時的にでも手を組むなんて、並みの神経であればイヤなのも当然だろう………が、は良くも悪くも、「並の神経」の持ち主ではなく、芯はしっかりしているもののひどく柔軟でひどく優しい。一時的でも手を組むこととなれば、味方にはとことん甘くなるはず、なのに。
そんな彼女がとったその態度に、ブルマは軽く苦笑した。
どうやらベジータとなにかひと悶着あったのだろう。本当に、わかりやすい子だ。
「じゃ、今は彼は危険人物じゃないワケね」
笑い含みで言ったブルマの言葉に、はピクリ、と肩を震わせたかと思いきや、次の瞬間、風を起こせるんじゃないかと思うほど勢いよく顔を上げた。
「いいえとんでもないっ! 別な意味で危険極まりないです! あの人には近づいちゃいけないのっ!!!」
「は?」
付け焼刃な笑顔から一転、その顔は真剣そのもの、切迫するものが見て取れて。
いったい何があったのだろうと懸念されるほどのその表情に不思議そうにに視線を送れば、彼女は強く首を振ってから、グッとこぶしを握りしめた。
「ベジさんは、お下劣エロ野郎です!ホント、あんなキャラだとは思いませんでしたっ!」
珍しくプリプリと怒りながら今までのいきさつを話す彼女の様子に、ブルマは興味深そうな顔をした。
「ふーん。残虐非道で最悪なヤツだと思ってたけど……けっこう普通の男なのねぇ、そのベジータってサイヤ人」
「普通!? 普通なもんですかっ! 悟空じゃないのに悟空のことぶっ飛ばすわ、人をからかうわ、クリリンさんと悟飯ちゃんに全身タイツの上に変なよろいを重ね着させるわ、最悪ですよあの人!!!」
もう、どこに怒りをおいていいか解らないといったの憤慨ぶりに、ブルマはまじまじとそのお怒り顔を見る。
全身タイツの重ね着よろいとは、いったいどういうことなのか、全然理解不能だけれども。
『悟空じゃないのに悟空をぶっ飛ばす』という言い回しは良くわからないものの、結局はがらみの嫉妬からそういうことをしたみたいだし、気に入った相手をからかっちゃうなんて、ブルマからしてみたら小学生並みではあるが、普通の男だ。
………いや、は得てして弄りたくなる雰囲気を持っているゆえ、別に好意云々にかかわらず彼女をかまって遊んでいたのかもしれないが。
「―――――なんですか?」
ジィ、っと見入っているブルマの視線に気づいたのだろう、ことり、と首を傾げて見返してくるに、ブルマはいたずらっぽく笑って見せる。
「ふふふ、そのサイヤ人、ちゃんのことが好きなのかもよ」
「………はい?」
「可愛いじゃない? 素直にすきって言えないからっていじめちゃうなんてさ」
――――――――――――――――――――――――― すき??? ベジさんが、わたしを?
あまりに隔たりのあるその言葉をしばし考えて後。
「ぇ、えぇえええ!?!?そそそそんなワケないですっ!ベジさんはわたしで遊んでるだけですよ絶対!!!」
ボン、と顔を沸騰させてぶんぶん首を振り回す。
思惑通りの反応を見せてくれる彼女の様に、ブルマはたまらず吹き出した。
「あはははは! 冗談よ冗談。ほんっと素直で可愛いわよね、ちゃんて」
腹を抱えて大笑いしているブルマをきょとん、と見てから、ははあ、とため息をついて肩を落とす。
「〜〜〜〜〜〜ブルマさん……。ある意味、ブルマさんとベジさんはとっても仲良しになれると思います……」
ポツリ、と呟いたその情けない顔がまた、笑いのツボに入ってしまう。
この星に来てこんなに笑ったのは初めてかもしれない、と思いながらブルマはひとしきり笑い飛ばし、それからフム、と考えるそぶりを見せた。
「そうね、それもいいかもしれないわ……。今まで恐怖の対象でしかなかったけど、よく見るといい男だし………」
腕を組んで空を見上げたブルマの呟きに、はえ?という顔を彼女に向ける。
そんなの視線を受けて、ブルマはにこりとその不思議そうな顔に笑顔を返した。
よくはわからないが、とりあえず笑っているからまあいいか、とブルマに倣って空を見上げてみたは、そこに飛行物体を見つけて目を凝らす。
「なんか、飛んでる……。あれは………あ、クリリンさんだ! それと……こ、小型ピコさんっ!?!?」
「え、どこ? どれ???」
「ほら、あれ!」
の指し示す方向に目をやったブルマは、確かに豆粒がふたつ空に浮いているのはわかったが、それが誰かなんて認識できず、いったいどんな目をしてるんだと思いながらとなりで「おーい!」とぶんぶん手を振っているを見た。
「あ、ブルマさんとちゃんだ」
下のほうから「おーい」と声をかけられてそちらに目を向けてみたクリリンは、手を振り回していると手をかざしているブルマの姿を見つけて、空中で停止した。
それから、一緒にとまったナメック星人の子供とともに彼女らの元へと降り立った。
「早かったねクリリンさん。二時間くらいって言ってたのに」
いち早く話しかけてきたに、クリリンはいわく「小型ピコさん」に視線を向けた。
「ああ、デンデが願いの叶い方を教えにこっちに向かってきてくれててさ」
「デンデ?」
クリリンの視線を追って小さなナメック星人を見れば、その子は緊張したように固まっている。
そりゃ、異星人に自分たちの星をめちゃくちゃにされてしまったのだ。たとえクリリンの仲間といえどもおびえるのも無理はない。自分がなにかをしたわけではないが、なんだか罪悪感に駆られてしまい、はその子に視線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「ごめんね。でも、わたしはあなたが怖がるようなことはしないって約束するから。ね?」
ふわっと笑いながらその子の目を見つめると、安心したように息をついて。
「は、初めまして、ボク、デンデといいます。クリリンさんと悟飯さんに、助けてもらいました」
「わたしはです。クリリンさんの仲間で、悟飯のおかあさん。よろしくね、デンデくん」
そっと頭をなでられて、デンデの顔が赤くなる。
こんなふうに優しく触れられたのは、久しぶりだった。
「それじゃ、いよいよなのね? もうすぐみんな、生き返るのね!?」
希望に満ちたブルマの声に、その場のみんなの顔が明るくなる。
やばい敵がいる事実は消せないけど、死なせてしまった仲間たちを生き返らせることができることが、今は何よりうれしい。
「ああ、とりあえず急ごう。フリーザが来る前に、何とか願いをかなえてもらわないとな」
そう、その悪の根源的存在が宇宙船に戻ってくるより早く、願いをかなえてしまわなければ。
きりっと表情を引き締めるクリリンに、とデンデはうなずいた。
それからはブルマを振り返る。
「ブルマさん、わたし的にはかなり危険な目に遭いかねないからおススメはできないけど…一緒に来ますか? みんなが生き返るところ、見たいですよね?」
「ええ、行きたいけど……あたしはとりあえず、あんたたちの乗ってきた宇宙船で待機するわ。願いが叶えられたら、すぐに出発できるようにして待ってる。だからちゃん、そこまで送ってってくれないかしら」
がブルマを気遣うように、ブルマだってをそんな危険な場所に行かせたくはないわけで。
そんな気持ちを知ってか知らずか、はブルマの顔をじっと見つめて後。
「はい」
やわらかく笑んで、こっくりと頷いた。
そういうことで、クリリンとデンデはフリーザの宇宙船に急ぎ、とブルマはとりあえず自分たちが帰路に着くための宇宙船に向かうことになって。
それから数分後。
とブルマが宇宙船にたどり着いたとほぼ同時に、夜のないナメック星の空が暗くなり。
振り向いた二人の目に映ったのは、巨大な半漁人のような物体だった。
「あれが……神龍?」
「そう、みたいね……」
呆然とそれを見つめながら零れたの声に、ブルマはかすかに頷く。
神龍、すなわち、龍の神様。
地球のドラゴンボールから出てくるのは、確かに『龍』の姿だったけれど、今現在、目に映っているのは、いったい何?。
そんな風に思っているブルマの横で、いまだ神龍を見たことのないが微妙な顔で首を傾けつつ。
「でもあれ、、、龍って感じじゃないような……」
「そうね、あれは化け物ね」
「ブルマさん……そんなハッキリと」
「あら、ちゃんはそう思わない?」
「…………思います」
願いを叶えてくれるありがたい『神』を前にそんなどうでもいい会話をしているたち。
その一方で、地球で『神龍』と呼ばれているそれは、本場ナメック星では『ポルンガ』、すなわち『夢の神』である、とデンデに教えられているクリリンと悟飯だったという。
ちなみに、ベジータはただいま夢の住人で、いまだ出し抜かれたことに気づいていなかった。

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