をこの宇宙船の中に留まらせるなんて、できっこないとわかってた。
でも、悟空やあのベジータでさえどうしようもないような相手の処へ行ったって、彼女が何もできるはずない。
――――――死んでしまう、だけだ。

「ブルマさん、ごめんなさい。それでもわたし……行かなくちゃ」

それこそ涙目で、必死にその細い腕をつかんでいたブルマの手をやんわりと握られて、目を上げた先には。
困ったように笑ったの、決意に満ちた瞳、があって。

「え、と。なんとか生き残れるようにがんばります。だから、本当に申し訳ないんですけど…この星が壊れちゃう前、ギリギリまで、待っててもらえますか?」

「この星が壊れる? そんなことって、ある?」

ブルマが信じられない思いでそんなことを言い出したを見返せば、ますます困ったように苦笑する。

「わからない。わからないけど……そんな気がするんです。単なる悪い予感で済めばいいけれど、なんかわたしの悪い予感って、今まで何回か当たってたりするから」

ここにいたって安全なわけじゃないけれど、それでも行かせるよりは幾分かマシのはず。少なくとも、殴ったり殴られたりの危険はないのに。

それなのに、目を伏せて語るの様子に、ブルマは硬く握っていたその腕を開放してしまった。
考えてみれば、この星で今一番の危険地帯には、彼女の命を賭しても構わないものが二つもあるのだ。いくら引き止めても言い聞かせても、彼女は絶対に聞きはしないだろうと。そう、わかってしまったから。

「生きて、帰ってくるのよ、必ず………っ」

小さくかけたブルマの声に返事はなく、代わりに綺麗な、それは綺麗な微笑を残して、はその場を後にした。








第三十六章:最強=最凶








「デンデ、くん………」



その場に着いて、最初にの瞳に映ったもの。
それは、ついさっき、「初めまして」と挨拶してくれた小さなナメック星人の、変わり果てた姿だった。

少し緊張した、そして不安そうな面持ちで、異性人である自分を見上げたその子を安心させようとして笑いかけたに、返してくれたそのはにかんだ笑顔が、まだ記憶に新しく。この子の頭を撫でたときの温もりが、まだ、この手に残ってる、のに。



そっと、抱き上げる。
かなりの衝撃を受けたのだろう、小さなその身体はひどく傷ついていて。



「どうして……? この子が、何をしたっていうの? こんな…………こんなの、酷すぎる…………っ」



いったい誰が、こんなことを。
こんな、年端もいかない小さな子が、こんな惨い殺され方をしなければならないほどの事をするわけがない。そして何より、こんな小さな子供を殺せるなんて、精神的に病んでいるとしか思えない……相手は狂人だ。





「君、誰? 虫けらどもの仲間かい?」





怒りでか、悲しみでか、小刻みに震える手でデンデの傷を拭っているの耳に入ってきた、初めて聞く声。そちらに視線を送るより先に、とてつもなく速い光線が飛んできた。

デンデを抱え込むようにして、かろうじてそれを避ける。
標的を逃したその気弾は、の背後で爆音と爆煙をあげて大きな岩を粉々に打ち砕いた。





「へえ、虫けらにしては結構やるね。まさか避けられるとは思わなかったよ」



笑いを含んだその言葉。
柔らかそうな草の上に抱えていたデンデをそっと置き、は立ち上がって声のほうを振り返る。

そこに居るのがすべての元凶だと、わかってる。その、最強だけれども最悪の気をたどって、ここまできたのだから。



「あなた、頭、へーきですか?質問しといていきなり攻撃とか、あり得ないんですけど。それに、この子をこんなにしたの、あなただね………どうして……どうして!こんなことができるの!?」



目に映ったその、冷たく鋭い眼光。自分の実力なんて、その足元にだって間違いなく及ばない。彼がほんの少し本気を出せば、自分なんか瞬殺されるだろう。
それでも、黙って怯えてなどいられなかった。言わずにいられなかった。



潤む瞳に激しく猛る炎を宿し、強く言い放つその相手を、子供を殺った当人は面白そうに見返す。

周りの連中はすでに自分の闘気に中てられたように動けずにいるなかで、自分に比べればひどく微弱な存在であるにもかかわらず、気後れなど微塵も感じさせない、強く輝くその激しい眼。



「だってそいつ、せっかくボクが虫けらをぶっ飛ばしても、すぐに復活させちゃうんだ。邪魔だったんだよ」



くっくっく、と笑いながらその眼に免じて答えてやれば、彼女は軽く身じろいで後、深くうつむく。



「デンデくんに、そんな力が………。けど―――――――――そんな……たった、それだけのことで…………っ!」



はき捨てるように呟いてから、はキッと顔を上げて目の前で笑っている顔を強く睨んだ。



「許せない………許さな―――――――っ!?」





勝てないことは百も承知。それでも一矢報いなければ気がすまないと、怒りに任せて攻撃に移ろうとしたそのときに、後ろから強く腕をつかまれた。





「まあ待て」

「邪魔、しないでよっ!!!」



止められたことにカッとなり、瞬時につかんだ相手をも攻撃しようと身を翻してあいている方で拳を繰り出したが、それも軽くかわされてしまい、少し驚いて自分を捕まえている相手を見上げる。





「ふっ。なかなか来ないから怖気づいたと思っていたが……そんなことはなかったらしいな」





見上げた先には、口元に皮肉げな笑みを貼り付けたベジータ。
頭に血が上っていたため、周りなんか見えていなかった。気づいてみれば、その場にはベジータのほかに、悟飯も、クリリンも、ピッコロもいる。










―――――――――って、ピッコロ???










「ピッコロさん……?――――――ピッコロさんっ! 生き返ったの!?」

「だからここに居るんだろう」





死んだはずのピッコロが目の前に立っていることに驚き、思わず逆上し熱くなっていたことも忘れて問いかけたに、ピッコロもまた固まっていた身体から力が抜けてそのびっくり顔を見返す。





フリーザの気に中てられていたのもあるが、のキレるとヤバいところが少しも変わっていなかったどころか少々…さらに凶暴になっているような気がするところ(止めたベジータに攻撃を仕掛けようとしたところとか)にも正直動けなかった要因があったりするピッコロのその顔を、当のは怪訝そうにじっと見つめて。



「本当に、ピコさん……?なんか、感じが変わったような………」



気の大きさ云々じゃなくて―――――否、確かに彼が天に召されたときとは比べ物にならないくらいその気の強靭さも違いすぎるんだけれど―――――なんていうか、気配そのものが、今までのピッコロとはなんとなく、違う気がする。いってみれば、生粋のピッコロの気配に何かが混じっているような、そんな感じだ。



「まあ、いろいろあってな……。だが、オレ様がピッコロであることには変わりない」



微妙な顔で首をかしげるに、ピッコロが珍しくも微笑を見せた。
いや、雑種ピッコロ(?)だからこそ、ここで微笑んだのだろう。



「………そっか。そっかそっか、生き返ったんだピコさん。よかったね! じゃ、ほかのみんなも生き返ったんだね!」



ピッコロの珍しい笑顔に一瞬激しく動揺するも、生き返ったことには違いがないらしい事実にの顔にふわりと笑顔が広がる。その笑顔が、とても懐かしい。

しかして、一つ目の願いで生き返ったのは自分ひとり(神もだが)、二つ目の願いでこのナメック星に飛ばしてもらったが、夢の神は最長老の死によって三つ目の願いを叶える前に消滅してしまった。





「―――――マジで? でも、よかった……ピコさんだけでも、生き返ってよかった。それに、神様復活すれば、地球のドラゴンボールも復活だもんね。そしたらみんな、生き返るよね?」



ふわふわ笑いながら、は悟飯を見る。



「悟飯、大好きなピッコロさんが生き返って、よかったね」



その笑顔につられたように、固まっていた悟飯もやわらかく笑って頷いて。
本当に、彼女がいるだけで、どうしてこれでもかというほど入っていた肩の力が抜けてしまうんだろう、と傍らで見ていたクリリンもひとつ息を吐いたが、実際問題。





「でも………今はそれより、あのフリーザってヤツの強さのほうが、問題なんだ」





再び表情を硬くしたクリリンの言葉に、その場の空気が底冷えした。
それはもちろん、目の前の最強の敵を再認識したことからであったが、それに加えて今まで笑っていた彼女から瞬時にして穏やかな雰囲気が掻き消えたからでもあった。





「デンデくん……守って、あげられなかった」





小さくつぶやくの表情は深くうつむいているため窺い知れないが、震えるその声と強く握りしめたその拳から、察することはできる。たぶん、というか間違いなく、最初からこの場にいたってデンデの命を救えたとは到底思えないけれども、それでもどっと自責の念がこみ上げてくる。



の言葉に、ピッコロ、悟飯、クリリンも深くうつむいた。



仇をとってやりたいが、それさえできそうにもなく、むしろ、自分たちでさえ生き残れるかどうか確証もない。
攻撃を仕掛ければすべて余裕でかわされ、その動きすら速すぎてとらえられず。背後で爆発音がして初めて、デンデが攻撃されたことに気づいた始末。
それを考えれば、最初のあの光線をかわしたは、それだけでも充分フリーザに対して自分たちよりも応戦できたというよりほかないが、どちらにしても目の前の最悪の敵を倒せる見込みは限りなく薄い。

唯一の望みがあるとすれば、悟空が完治してこの場に来てくれることだ。
けれども悟空の怪我が治るまで40分〜50分。実際経過した時間は約30分を越えるか越えないか程度。
希望の光が見え始めていたのがつい先ほどなのに。その1時間にも満たない僅かな時間で、こんなに状況が変わってしまうなんて。






これはちょっと、、、さすがに………やばいかも。





らしくないそんなマイナス思考が、否が応にも頭をもたげた。





「ふっ。珍しく弱気じゃないか、





ネガティブ思考に持ってかれそうになっているの耳に届いた、バカにしたような一言。
まごうことなきその声は、ベジータのもので。



そちらに視線を向ければ、死の淵から再び復活したためにさらにパワーアップしたのだろう、数段に気力を上げた彼が例の皮肉げな笑みを口元に貼り付けている。



「…………さすがはサイヤ人の王子様、とでも言うのかな。ずいぶんとお強くなられたようで」



ちょっと前のベジータとはまったくもって別といっていいほどの大きな気に、は素直に驚き、同時に感心する。
命に危険が及ぶほどの怪我が完治すると急激に強くなるというサイヤ人の特質を目の当たりにして、悟空が治るまで持ちこたえられれば、もしかしたら何とかなるかもしれない、と思っているだったが。



「貴様らにいいものを見せてやる……」



居丈高に言い放ち、ベジータが前に進み出る。
自信に満ちたその視線は、まっすぐにフリーザを射抜いている。



「ま、まさかおまえ、勝つ自信があるというのか!?」



ピッコロがベジータに問えば、ベジータはニヤリ、と口端を引き上げた。



「まあな……。貴様らは邪魔だ、引っこんでよく見ておくんだな」
「ダメ!!!」



なおも前に出ようとしたベジータを止めたの強い声に、彼は振り返る。
必死にベジータの腕をつかんでいる彼女と視線が交わる。彼女の目は切羽詰ったような色に染まっていた。

さっきは逆上して仕掛けようとしちゃったけど、、、冷静になって考えてみれば今の状況でサシで戦うのは得策ではない。
特に、ここまで力をつけているベジータには、絶対に今戦って死んでもらっては困る。



「ダメ、今はまだダメです!ベジさん、確かに強くなったけれど、それでもあの人にはかなわない。せめて悟空が来るまで、もう少しだけ待って!」



ベジータの底は見て取れる、けれどもフリーザの底は計り知れない。
ベジータは絶対の自信を持っているけれども、彼が気を感じる能力を身につけたのはつい最近で、それに関してだけならたちのほうが長けているのだ。





無理だ、勝てない。
言わなくても、のわかりやすい表情が如実にそれを物語っており、それがベジータをイラつかせた。



「放せ。今のオレなら奴を倒せる。絶対にだ」

「たいした自信だねベジータ。それとも、恐怖のあまりアタマがおかしくなったのかな?」



言い切るベジータに返答したのは、フリーザ。
バカにしたように鼻で哂い、面白そうにベジータを見やるその瞳は、相変わらず鋭利で冷酷で。



そんな冷たいフリーザの瞳をベジータは真っ向から見据え、自信に満ちた笑みを浮かべる。



「今のうちにそうやってニヤニヤ笑っていろ……。ここにいるのが、貴様の最も恐れていた超サイヤ人だ!」



の手を振り切り、ベジータが高らかに宣言した。







このおっかない人が、最も恐れている…………超、サイヤ人?
それが、今のベジータさん?
―――――――――違う。



何故かは、わからない。
でも、にははっきりとわかっていた―――――――――彼が、超サイヤ人などではないことを。





フリーザはベジータの宣言を聞いて、一瞬だけ目を見開き驚いた顔をしたが、不穏な目つきでベジータを一瞥した後すぐにまた冷酷な微笑を浮かべて。



「ふっふっふ………相変わらず冗談きついね……」



そのフリーザの鼻持ちならない態度に、ベジータは広い額に青筋を立てた。



「カカロットの出番はないぜ!!!」
「だから待てってば!!!」



飛び掛ろうとしたベジータと、相変わらず不穏な笑みを浮かべるフリーザとの間合いに入り込み、がベジータの攻撃を止める。



「どけ!!!」
「どきません!!!ベジータさん、冷静になってください!!!今のあなたに、この人が倒せるとは思えません!!!」




ガツンと食いつくを、ベジータはイラついたように睨んだが、彼女は彼女で怯むことなくその目を睨み返す。

その様子を面白そうに見るフリーザ。





「じゃなにか、カカロットなら倒せるとでも言うつもりか!」
「そんなことも言いません!!!わたしは、ベジさんを過小評価してるわけでもないし、悟空を過大評価するつもりもない!ただ、ひとりで戦っても勝ち目はない!そのくらいわかりませんか!?」




相手は、かつてないほどの最強で大凶の相手だ。
せめて悟空が来るまで待って、全員でやるのが唯一の手立てだと思う。
ここでベジータを死なせるわけにはいかないのだ。力を合わせる意味では、彼の力はもっとも必要なのだから。





「ふん、超サイヤ人となったこのオレを、侮るなよ」



なおも自分が超サイヤ人だと信じているベジータに、は静かに首を振る。



「あなたは、超サイヤ人なんかじゃない」

「何故おまえにそんなことがわかる!?」

「何故かはわからない……。でも、わかるの……。お願いベジータさん、悟空が来るまで待ってください!あなたが今死んでしまったら、みんなも助からない、悟空も悟飯もピッコロさんもクリリンさんも!だから―――――――――っ」










突然、の声が途切れた。
必死に訴えていた強い瞳が、驚いたように見開かれる。
突然の変化に怪訝そうにベジータが見つめる中で、がゆっくり背後を振り返る。










の目に映ったのは、手のひらをこちらに突き出したフリーザの姿。

ベジータが見たものは、一瞬後にの左肩から噴出した、鮮血だった。











「おかあさん!!!」「!!!」「ちゃん!!!」





その場に倒れこんだに、動けないでいた周りから声が上がる。










「ふーん、やっぱり結構やるね。心臓を貫くつもりだったんだけど。けど、バカだね…。誰かが来るまでボクが待つとでも思うかい?まあ、誰が来たって虫けらは所詮虫けら。そんなのを待ってやるほど、ボクは気が長くないよ」



血の噴いた肩口を押さえてうずくまるを一瞥して、フリーザが薄く笑う。


目の前の相手を止めることで精一杯で、背後にいる相手からの攻撃まで気を配っていなかったが、直感と反射神経が作動したため、かろうじて直撃を免れたらしい。










の苦痛に歪んだ顔を見たベジータが、激昂した。





「フリーザ、貴様!!!」





というバリケードがなくなったベジータが、フリーザに向かっていく。
その背中が、薄く目を開けたの視界に入ってくる。










「だ、め……っ!べじ……た……さん………っ」










熱く焼けるような痛みを耐えて立ち上がり、静止を促したの声は、ベジータには届かなかった。



















そんな感じで、フリーザ戦開始。
シリアスは嫌いだけど…この辺は色々と、ねぇ。。。