どこからどう見ても、『悟空』だった。
敵であるはずの赤いチーズを従えて、所謂スカウターなるものまで装着してはいるけれど。
でも……その顔に浮かぶ歪んだ笑みも、話し方も、声も、気配も…………姿以外は、何もかも。
――――――明らかに、違う人。
まるで、『悟空』という器の中に、なにか別なものが入っているような。
そんな絶対的な違和感に戸惑うに落とされた信じられない一言。
「カラダを取り替えてもらったのさ。こっちのほうが相当に強かったもんでね…」
言われた意味が、まったく理解、できなかった。
第三十三章:Change! Change!
アタマ、マッシロ。
この人いったい、なにを言ってるんだろう。
目の前にいるのは、確かに悟空なのに。なのに、まったく別人で。
「カラダを取り替えた」って言葉はこの状況下、妙にしっくりくるけれど、そんなのできっこない……もとい、できないでほしい。
理解できない、というより、理解したくない。
故に、頭の中は混線する一方で。
とにかく戸惑うしかないに向かう、唇の端を吊り上げた『悟空』のニヤリとした笑顔。
「そういうわけだから、賭けはオレの勝ちだ、ちゃん。………ああ、そうか、オレはあの『サイヤ人』になったんだから、おまえの夫になるわけだな、」
そんなことをのたまいながら迫ってくる『悟空』に、は手を突っ張った。
「ちょっと、待って、ください。今、頭を整理しますんで………」
とりあえず落ち着いて冷静にならないと、と思い、すー、はー、と大きく深呼吸をしてみたものの、この状況下で冷静になれる人なんかいるんだろうか。
結局は受け入れがたい現実を直視できないまま、釈然としない思考回路で言われた意味を考えてみる。
@まず、自分たちがドラゴンボールを見つけている最中に、悟空と牛乳が闘っていた。
A闘ってみたらもちろん、悟空のほうが断然強かった。
Bだから、自分のカラダと悟空のカラダをとっかえた。
Cそして行き着くところは、今目の前にいる『悟空』=牛乳、となるんだろうか……。
「―――――――――そういうこと、なんでしょーか……?」
「そういうことだ。なんだ、可愛いだけじゃなくて頭もいいじゃないか」
「それは、どうも――――じゃなくて!そこでイコールが成立するのは、なんか……なんて、言ったらいいか…………」
目の前に立っている『悟空』が、悟空じゃないなんて。
悟空が、こんなニヤリとした皮肉たっぷりな笑顔を作るなんて。
ちょっと、、、いいえ、ぶっちゃけそんな悟空も、ものっすごくかっこいいんですけど………じゃないだろ自分!!!
こんなときなのになに考えてるんだわたしは!と頭に自らツッコミを入れてみるものの、とても信じがたい、というか理解なんて死んでもしたくないような現実がそこにあり。
うろたえるよりもひたすら唖然とするしかないと、呆然とするその他の方々(つまりクリリンと悟飯)のまえで、当の牛乳さんはなんだか変なポーズをし始める。
「それで色々考えたんだが、まずジースがここに立ってこういうポーズをとる。次にオレがここでこういうポーズをしてだな?」
「こうですね?」
それに従うチーズ。
「となるわけだ。どうだ!かっこいいだろう!!!」
「はい! サイコーですよ隊長!!!」
どう反応していいのかわからないコチラ側を無視して勝手に盛り上がる敵二人。
でもハッキリ言って、かっこよくないから。
なにより………………………………………悟空のカラダでそんなポーズとらないで!!!
というの心の叫びを知ってか知らずか、隊長さんがに視線を戻した。
「それでのポジションだが……」
「何故わたし?」
突然矛先を向けられ、未だショートする頭のまま小さな声で質問すれば、おイロケ路線にするべきか清純路線にするべきかと一生懸命悩んでいた牛乳は、「よし決めた!」と言ってを見る。
「おまえはマスコットだからな……オレが終わった後、最後にここに来て、こうだーーー!!!」
ああそうか、悟空が負けたから、わたしはギニューだか牛乳だか特戦隊のマスコットになりさがったのか………って、ちょっと待て。
なに? そのくねくねポーズ。そんなカッコを、わたしに「やれ」と???
「―――――――――ゼッタイやらない」
「よし、ではやってみるぞ? 用意はいいな!?」
「いやいやいやよくないよくないよくないってば!!!いーーーやーーー!!!放せーーー!!!」
この人は人の話を聞く気がまったくもって皆無なんだろうか。
涙目になって必死に拒むの首根っこをがっちり捕獲し、適度に拓けた場所に移動を始めるギニューとジースを、どうしていいかわからず見守るしかないクリリンと悟飯だが。
ハッと我に返った悟飯が、自分の母親がいろんな意味で大ピンチであることに気づいた。
「クリリンさん! おかあさんを助けないと!」
「あ、ああ、そうだな! そうなんだけど……なんていうか、気が抜けるっていうか……」
切羽詰ってることは切羽詰ってるし、悟空のカラダを乗っ取られているこの事態が如何にヤバイことになっているかだって重々承知の上だ。承知の上、なんだけれども。
「ギニュー特戦隊の赤いマグマ! ジース!!!」
「そしてこのオレはギニュー特戦隊隊長! ギニュー様だ!!!…………、ホラ、おまえの番だぞ!!!」
「ムリ」
「なに!? ………仕方ない、ではオレがお手本を見せてやろう! ギニュー特戦隊プリチーマスコット!ちゃんよぉんvvv(投げキッス)」
「できるか!!! てか、お願いだから悟空のカラダでそんなマネしないでよ〜〜〜〜〜!」
「できる!おまえならできるぞ!!!」
などと眼前で展開される景観に、緊張感を保つほうが難しいのは、いたしかたのないことだ、と思うクリリン。
と、そこへ。
「はぁっ、はぁっ。や、やっと見つけたぞ………!」
そんなセリフが空から降ってきて、その声に空を振り仰いだ、悟飯、クリリンが、その姿を視野におさめると同時にカチコーン、と固まった。
やってきたのは、アオカビ生えちゃった牛乳、だった。
が先刻、「やばくない?」発言をした外見の持ち主で。
でもその、やばい外見の人(といえるかどうかは甚だ疑問)の気配は、あったかくて広がりがあって優しく包み込んでくれるような、まごうことなき――――――
「悟、空………」
どう言ったら、いいんだろう…………この気持ち。
情けないような、泣きたいような、笑っちゃいたいような、泣きたいような、死んじゃいたいような、泣きたいような!
この先、どうしたらいいんだろう。
わたしは悟空の外見だけに惚れたわけじゃないけど―――――――――この先、この『人』をちゃんと『悟空』だと認識して愛していけるだろうか。
心の中はそんな暴風雨に苛まれ、さすがに「カラダを取り替えた」という事実を信じないわけにはいかなくなったの視線に映る『ギニュー』の右胸からは、青い血が流れ出していた。
「よくここまでこれたな、くっくっく。もっとひどい傷をつけておくんだった」
地面に降り立った『ギニュー』に、『悟空』がニヤリとした笑顔を向ける。
それを一瞥して後、『ギニュー』が呆然と佇む仲間たちを振り返った。
「、悟飯、クリリン……よく聞け。そいつはオラじゃねえ! カラダを取り替えやがったんだ……!!!」
声。
大好きな、悟空の声。
「あわわわ………ほ、ホントだったのか………」
「そそ…そんな………あ、あれが、おとうさん…………?」
クリリンも悟飯も、混乱の極致だ。どうしていいかわからないといった様子で。
動けない三人をよそに、『ギニュー』は続けざまに。
「そ、そいつはギニューだ! 遠慮なくやっつけちまえ! 今のおめえたちなら絶対に負けはしねえ。いいか!?ぶっ飛ばしちまうんだぞ!!!」
ぶっ飛ばしちまえって言われても。。。
悟空のカラダは、もんのすごい無理な修行の成果で、今までよりもずっとずっとずぅーっと強くなっている。
確かに認めたくはないが中身はギニューなんだろうけれど、カラダはそのお強い悟空そのもので、それをぶっ飛ばすなんてとてもじゃないが不可能極まりない。
「ぶ……ぶっ飛ばしちまえったって………」
クリリンもと同じことを思っているのだろう。
戸惑ったように悟空である『ギニュー』に視線を送る。
ギニューである『悟空』も、バカにしたようにそんな彼を見やった。
「ふはははは!バカめ!絶対に負けはしないだと?キサマの元のカラダだぞ!?戦闘力は18万以上だ!勝てるはずがなかろう!!!」
「やってみりゃわかるさ…。そ、そいつはオラのカラダだ。界王拳どころか……気の使い方だってうまくできるもんか。精神とカラダを一致させなきゃ、大きな力なんて出せねえぞ……!」
不敵に笑い返す悟空に、自信たっぷりに唇の端を持ち上げるギニュー。
「このギニュー様にそんなハッタリは通用せんぞ。今見せてやる!」
言うや否や、気を集中させ始めるギニューだが、確かに悟空の言うとおり、大してその気は膨らまず。
そこから視線を外し、は悟空のそばに降り立った。
「悟空……怪我。大丈夫?」
そっと見上げれば、見返してくるその顔はやっぱり、的にかなりヤバめの見てくれで。
けれども、その目だけは、澄んでいて優しかった。
「………ご、めんな。こ…こんなカラダん、なっちまって」
「ホントだよ…。よりによって、アオカビ生えた牛乳なんて。ハッキリ言ってやだよ。もう、泣いちゃいたいくらいだよ。…………でも」
うるり、と目を潤ませて、は立っているのもつらそうな悟空を支えた。
「悟空は、悟空だからね。顔、やばくても気持ち悪くても、悟空だから。慣れるように、努力する」
その引きつった笑顔に、悟空の胸に申し訳ない思いが溢れ出す。
別に、自分の容姿を気に留めたことなどなかったが、違いすぎるくらい今までの自分と違ってしまったこのカラダ。自分はよくても、や悟飯にとっては相当なショックを与えているに違いない。
「ど、どうにかして……オラのカラダ、返してもらうから…さ。そんな顔、すんな」
ニッと笑ってみせれば、はで微妙な顔をして。
「ん。それが一番いいよ。だってその……慣れるまでかなり時間かかると思うし。やっぱいつものかっこいい笑顔がいいよ」
実際、その「ニッ」っていう笑顔も、もとの悟空だったら大好きな表情のひとつだったのに、その顔でやられると正直、キモい……なんて言えないから、困ったように誤魔化し笑いをする。
そんな彼女に、「そうだな」と笑い返し、気をためているギニューに二人して視線を戻す。
「!おまえはギニュー特戦隊のマスコットなんだぞ!?敵などに肩を貸すな!」
「――――――勝手に人の肩書き作らないでよ。わたしは今までも今もこれからも、悟空の奥さんなんだから!」
ギニューの物言いに、が負けずに言い返せば、彼はニヤリとそんな彼女を見て。
「そうだな、おまえはオレの奥さんだったな!!!」
「違うわーーー!!!わたしの旦那様は悟空の中身!!!カラダが『悟空』だからって勘違いするなっ!外見なんて二の次だ!!!」
だが相変わらず彼は人の話を聞こうとはせず、「何をそんなに照れているんだ」なんて呟いているので、はこれ以上言ってもムダだと思い、無視することにした。
「………でぇすきだぞ」
「―――――――――はっ!あ、ああうん、そ、そそそうねっ!わたしも悟空はだいすきだよ、うん」
一瞬、『ギニュー』にそう言われたような気がしてしまって愕然としたの様子に、悟空はちょっと傷つく。
外見は二の次だと彼女は言ったが、やっぱりいつもの自分じゃないと彼女の心が離れていくような気がして。
やっぱ、なんとしてでも元のカラダに戻らねえと……っ!
無理にニコニコ笑っているの顔を見て、悟空の胸の内はかなり切羽詰っていた。
その間にもギニューは己の気を高めつづけ。
「ふはははは!ジース!オレの戦闘力はいくつだ!?!?」
どうやらマックスまで気を上げたらしいギニューが、スカウターをセットしたジースに自信に満ちた笑顔を向ける。
けれども、対するジースは呆然とスカウターの数値を見て。
「…………に………23000ですが…………」
「はははは!!!どうだ、23000だぞ!!!たったの23000だーーー!!!………て、は?なんで………?」
伝えられたその数値に、ギニューもまた一瞬きょとん、と聞き返す。
その隙にクリリンが彼に攻撃を仕掛け、食らったダメージの大きさに、ギニューは愕然となった。
「バカな………そんな、バカな!」
それとは逆に、思いのほか手ごたえのあったクリリンは、自分の拳をしばし見てから、半信半疑だった悟空の言葉に確信を得た。
「ほ、ホントだ! なんとか勝てるかもしれないぞ!」
悟空のカラダをうまく使えない今なら、と悟飯を振り返り頷けば、悟飯もキッとギニューに強い視線を送る。
やる気になった二人に対峙するギニューはといえば、今までのアホっぷりは何処へやら。予想外の展開に焦りだし、いまだ唖然として自分を見上げているジースを睨みつけた。
「ジース!!!なにをしている!き、きさまも戦わんか!!!」
「………あ!は、はい!!!」
ジースが参戦したのでは、きっと二人ともやられてしまう。
支えていた悟空を安全そうなところにそっと座らせて、は戦いの始まっているほうを見やって立ち上がる。
「悟空、わたし、行くね」
「オラのカラダだからって、手加減すんなよ」
「それは無理ってもんでしょ? わたし、悟空の中身すごく好きだけど、ホントは外見だってすごく好きなんだから」
悪戯っぽく笑ったの瞳に、炎が灯る。
ちょっと落ち着きを取り戻したら、反比例して怒りがふつふつとこみ上げてきたのだ。
「わたしの悟空を、こんなふうにするなんて、許せない……。チーズのほうはボコるかも。でも、悟空のカラダの傷は最小限に抑えるように、努力するね。だからその間に、悟空は自分のカラダに戻る方法、考えてよ」
クスリ、と悟空に笑顔を向け、とりあえずチーズだ!と意気揚々(?)とチーズに怒視線を走らせたとき。
いやでも視野に入ってきた、その背後の人物に、の動きが止まった。
「おっと。きさまの相手はこのオレだ」
チーズの背後に現われたのは、まったく気を感じなかった、ベジータだった。

ギニュー特戦隊のファイティング・ポーズ……
管理人的にはぜひ混ぜてほしかったと思っていたのは内緒です☆
(暴露ってどうするよ…;)
|