「ブルマさんブルマさん!ブルマさーーーん!!!」
「え!?ちゃん!?」
ガバリ、と抱きついてきたを、驚きながらも受け止める。
「よかったっ! ブルマさん無事でよかったぁ………っ!」
ウルウルと目を潤ませて、心底ホッとしたように自分を見つめてくる。
一緒に来た奴らときたら、危険なこの状況下で何の説明もなしに自分をほったらかしにしてどっかに行ってしまって。
とにかく心細かったそのときに、こんなに心配してくれている彼女が、可愛い。マジで、可愛い。
―――――――――って。
悟空が地球を出発したことはブリーフ博士、つまり自分の父親からの通信で聞いていたが、よもやが一緒に来ようとは思いもよらなかったブルマは、彼女の肩をグッと掴んだ。
「ちゃん! ここは危険なのよ!? わかっててきたの!?」
今までの不安や苛立ちなど忘れて思わず彼女に問いかければ、はぱちくり、と目を瞬かせて。
「もちろんわかってます。みんなを助けたくて来たんだから」
ふわん、と笑ったを見て、何故だかひどく安らぎを覚えたブルマと、ブルマの機嫌がよくなったことに胸を撫で下ろし、がいてくれて本当によかったと思っているクリリンと悟飯だった。
第三十二章:七つの宝珠
「………というわけなんです」
ひととおり状況を説明し、ドラゴンレーダーを受け取ったをみて、ブルマは軽く額を抑えた。
どうにもこうにも、この子には構わずにはいられない不思議な魅力がある。自分とて、そんな彼女の雰囲気に思いっきり飲みこまれてるから、身を持ってそれはわかっている。
それはきっと老若男女を問わないんだろう、と思っていたが、まさか染色体が違うであろう宇宙人にまで影響を及ぼすなんて。
けどでもだけど!
「ねえちゃん、もし孫くんが負けたらあんた、そいつらのマスコットになっちゃうんでしょ?」
「そうみたいですね。でも大丈夫、悟空負けないから」
悟空が負けでもしたら自分の命運がガラッと代わってしまうだろうこの状況下で、さぞや心を砕いていることだろうと心配そうに問いかけたブルマに、けれどもはピッピ、とレーダーを弄り、「あっちのほうかな・…」などと呟きながら答える。
不安も何も感じていない様子と、負けないという断定した答え。
はいつでも悟空を信じているが、『信じている』というよりも結果がすでに見えているような彼女の様に、ブルマは微妙な表情で首をかしげた。
「孫くん、そんなに強くなったの?」
地球を出発してからすでに一ヶ月は経っているが、悟空(&)の大怪我が治ってからはたった6日間。
すごい特訓をしながらこちらに向かっているとブリーフ博士は言っていたが、そんな一週間にも満たない間に、宇宙船という狭い空間のなかで、それほど変わるものなのか。
ブルマの問いにレーダーに落としていた視線を上げたが、ふにゃんと顔を綻ばせた。
「そりゃもー。強いしかっこいいし悟空サイコーです! ねっ!?悟飯、クリリンさん!」
「はいっ! 前よりもずっとたくましくてカッコいいおとうさんでした!」
間髪いれずにパァ、と笑顔満開で答えた悟飯に、クリリンもこくりと頷き。
「ああ、確かにすごいよ、悟空は」
「ねーv」と、それは嬉しそうにふにゃふにゃ頬っぺたを緩ませているに、ブルマは思わず苦笑した。
「ホントあんたって、いつまで経っても孫くん大好きなのねー」
「うんっ! 悟空大好き! 最高の旦那様ですっ! ……って、なに言わせるんですかブルマさんってばもー!」
口をついて出てきてしまった本音に、言ってから急激に恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にして慌てふためく。
こちらはこちらで本当に、いつまで経っても初々しい。
「孫くんかぁ…。そうね、あの子はどんどんかっこよくなるわよねぇ」
あの小っちゃい孫くんがあんなにかっこよくなるなんて思ってなかったな、と思いながら呟いたブルマの言葉に、はこくり、と頷いて。
「そうなんですよ。どんどん進化してくんで、いつもドキドキしちゃうんです」
頬を染めてため息混じりに呟くの様子に、ブルマは小さく笑う。
日に日に強くたくましくなる悟空にいつでもドキドキさせられてしまう。彼女が一児を儲けてもなお、初々しいのは、そんな悟空に今でも恋をしているからだろう。
世間一般に、恋する女は綺麗だというが、確かに。
いつになっても一人の男に胸をときめかせているは綺麗で、そんな彼女を見ている悟空はきっと、やっぱり彼女にドキドキさせられているのだろう。
いい意味での無限ループ。
正直、羨ましい。
「それじゃブルマさん、わたしたちドラゴンボール奪還に行ってきます! ブルマさんは危険だからここにいてください。必ず迎えに来るから!」
「え? あ、ええ。気をつけて行きなさいよ」
ボーっとしていた間に意識を切り替えたに言葉を返せば、「はい!」と良いお返事をして笑う彼女。
「クリリンさん、レーダーの見方わかんないや。これってあっちでいいのかな?」
さしだされたドラゴンレーダーをのぞき込んだクリリンが、の示す方向を見て。
「ちがうよちゃん。間逆間逆」
「おかあさん、方向音痴だから……」
息子にまで言われてしまい、けれどもまったく反論できないくらい自覚しているは、「あははは;」と苦しい笑いをするしかない。
結局、クリリンと悟飯の後について飛んでいくを、苦笑気味に見送って後。
「あたしにもそんな男、現われないかしらね……」
ポツリ、と。
ブルマの声がその場に落ちた。
ドラゴンレーダーの示す方向に一直線に飛んで。
着いた先には、見たこともないような大きな宇宙船が在った。
レーダーを手に、悟飯が「ここです」と示したのは、そのへんてこな宇宙船からちょっと離れた地面で。
「そういや、埋めたような後があるな……。よし、掘り出そうぜ!」
「うん」「はい!」
もちろん道具なんてないから、三人してざくざくと豪快に素手で土を掘りおこせば、こつり、と指先に硬い感触。
丁寧にその物体にそって土を分ければ、明らかに岩ではない輝きを放つものが姿を現した。
「あ……あったぁ!」
「ホントだ、あったあった!」
「七個全部ありそうですね!」
次々と出てくる大きな球体。
「ふわぁ、きれい……これが、ドラゴンボール………」
黄金色に光をはじき、その中心に赤い星が一つから七つまで。
本当に、神秘の宝石というにふさわしい輝きを放つそれをひとつ自分の目の高さまで持ち上げてしげしげと見つめて、が感動したように呟いた。
「そうか、ちゃんドラゴンボール見るの初めてだっけ」
じぃ、っとドラゴンボールに魅入るに、クリリンが話しかける。
「んー。悟飯の帽子にくっついてたのがそうでしょ?こんなに大きいとは思わなかった。ホント、魅惑の宝石だね……」
こっちが本場だからおっきいのかな、なんて思いながら、が持ち上げていたそれを地面に置く。
全部、揃ってる。
これで、みんな、生き返る。
「よしいくぞ。オレたちはこの瞬間のためにはるばる来たんだ。見せてもらおうぜ、本場の神龍を!」
「みんな、生き返るんですね!」
「………よかった!」
それぞれ、高揚する胸を押さえ、ドラゴンボールを見つめることしばし。
「いでよ神龍! そして願いをかなえたまえ!!!」
気合を入れたクリリンの声があたりに響き渡った。
のだが。
いでよと言うからには何かが出てくるのだろう、と期待に胸を膨らませてドラゴンボールを食い入るように見つめていたが、しばらく経っても何も出てこない。
「―――――――――なんにも、起きないね」
微妙な顔で首をかしげたの一言をきっかけに、クリリンと悟飯も呆然と顔を見合わせた。
「出ない……神龍がでない………なんで? 何で神龍がどわーーーっと出てこないんだよ!?」
「ちょっとセリフが違うのかも知れませんよ!」
二人が言い合うのを傍観して後、がうーん、と考える風情をしてから。
「やっぱ、ナメック語とかで言わなきゃ、ダメなのかなぁ……」
ポツリとその場に落ちた声に、二人がを見る。
見られたはといえば、二人の顔を交互にみてからちょっと息をつく。
「神様がね、たまに不思議な言葉で話しているのを聞いたことがあるの。あれがナメック語なのかもしれないよね……」
「その言葉、わからない?」
クリリンに聞かれて、は困ったように首を傾けた。
「ちょこっとだけなら、ポポさんに教えてもらったけど……。さすがに『いでよ神龍!』て、どんな言葉使えばいいか、わかんないよ」
そうだよなぁ、と肩を落とすクリリンと、この先どうすればいいのか、と不安顔になる悟飯を前に、もふう、と小さくため息をついた、そのとき。
突然、が空を振り仰いだ。
「誰か、こっちに来る!ふたつの気………」
「ほ、ホントだ!ふたつの気を感じるぞ、さっきの牛乳……じゃなくて、ギニューってやつらじゃないのか!?」
「じゃあ、おとうさんはやられたの!?」
そんなわけない。悟空が負けるはずないっ!!!
――――――――けど、感じる気は、邪悪なもので。
「気を消して隠れるんだ!」
クリリンの声に、こんがらがる頭のままそれに従って物陰に隠れる。
悟空は確かに、牛乳よりもずっと強い。
この六日間、身近でずっと見てきたんだ、間違いなく倒せる相手のはず。
なのにどうして、ここに向かっている気が邪悪なものなの?
なんで………悟空の気じゃないの?
―――――――――悟空、どうしちゃったの???
急激に不安と焦燥感に襲われるの揺れる瞳に、空の彼方からやって来る人影が映る。
間もなくやってきたのは、チーズを引き連れた『悟空』だった。

思いの外、進まない展開で……
もうしわけありましぇんm(__)m
|