一千年にひとり現われるという、伝説の超サイヤ人。
ただの言い伝えだと思っていたそれに、今最も近いのはカカロットである、と。認めざるをえない闘いっぷりだった。
けれども、どこまでも甘く、敵に情けをかけるような彼が、殺戮と血を好む超サイヤ人と対極にあることも確か。
やはり超サイヤ人になれる可能性があるのは自分だけだ、と、強く言い聞かせるベジータ。

「ね? 悟空強くなったでしょ? 一段とカッコよくなったよね!」

嬉々として弾む彼女の声。
指を胸の前で組んで、まっすぐ見つめているその瞳の先に、カカロットの闘う姿。

――――――いろいろな面で、嫉妬に狂わされそうになっているベジータだった。




第三十一章:やってきた隊長





「ギニュー特戦隊?………ああ、なるほど」



先ほどの戦闘終了後、いったいあいつらはなんなのかと聞いてきたに簡単に説明したら、なんだか妙に納得したように頷いた。



「おかあさん、なるほどって?」

「うん、だからクリームとヨーグルトとバターとチーズなんだねー。そんでもって隊長はやっぱり、すべてに欠かせない牛乳なんだな、と」



「ああ、そう……」



今現在まったく関係のないことで意を得たりと嬉しそうにニコニコ笑っている彼女に、軽く脱力したようにクリリンが相槌を打つ。





そんなほのぼのお惚けなをタメ息交じりに横目で見ていたベジータが、ふと気づいたように視線を上げた。

二つの大きな気配が、こちらに向かって移動している。



「カカロット、おまえがくだらん情などでみすみす逃がしたジースが、ギニュー隊長を連れてきたぞ。今度はいくらおまえでも一筋縄でいく相手じゃない」



忌々しそうに吐き捨てたベジータの言葉に、クリリンは崩された緊張感をさっと取り戻して悟空に視線を見上げる。



「確かにやばいぞ、悟空……っ!」



「うーん…そうだよね。牛乳だもんね。乳製品の源だもんね」



腕を組んで難しそうな顔で空を仰ぎながら言うに、一同、目が点だ。
狙ったボケではなく、素ですっとぼけている彼女が、その場の硬い空気を一瞬にして流してしまう。ここまできたらもう、KYのプロフェッショナルだろう―――――――良くも、悪くも。




「………まあ、それはとりあえずいいとして、とにかくたちはドラゴンボールを取り返してきてくれ」



こっちはこっちで悠長な悟空。
一筋縄ではいかないとベジータに言われたにもかかわらず、「とりあえずいい」ときたもんだ。
しかも、敵の本拠地に置いてあるであろうドラゴンボールをかるーく「取り返してこい」と言っているあたり、こちらも今現在の状況をわかっているのかいないのか。





けれどもは、悟空のその言葉に力強く頷いた。



「よしっ! じゃ、牛乳さんは悟空に任せて、わたしたちはまずブルマさんにレーダー借りて、ドラゴンボール奪還! それから死んじゃったみんなを生き返らそう!」

「おう!」「はい!」



グッと拳を握って悟飯とクリリンを振り返ったに、二人も気合を入れる。



「そんなくだらない願いをかなえに、わざわざこんな星まで来たってわけか? それよりオレを不老不死にしろ」



そんなふうに水を差してきた声のほうに視線をやれば、そこにはにやりと口端を吊り上げたベジータの顔が。

は小さくため息を吐いた。



「相変わらず、冴えわたる憎まれ口ですねぇ。不老不死こそ、くだらないじゃん。わたしたちにとっては、仲間たちを生き返らすことが最優先なわけ。それからここにきた理由はもうひとつ。仲間の仇というか、そんな感じであなたの顔をバシリと一発、殴るために来たんだけど……」



本当は、一発どころか、できればボッコボコにしてやりたいって思ってた。
仲間を奪い、悟空を傷つけた張本人、ぜったい許せないって思ってた―――――――――けど。
どういういきさつかは知らないけど、悟飯とクリリンさんを助けてくれたから。



「だから、ベジさんをボコりましょう計画はとりあえずやめることにしました」



ニコリ、と笑顔を向けられて、ベジータの鼓動がひとつ、高くなる。
殴る、とか、ボコりましょう計画、とか。ひとつひとつの発言がいちいち癇に障るはず、なのに。ほかのヤツに言われたら、ぜったいむかっ腹が立つはずなのに。



―――――――――彼女の笑顔が、そんな苛立ちを流してしまうのは、何故なのか。




初めての感情に戸惑うベジータに対し、けれどもはといえば次には鋭く目を細めて。




「けど、みんなを生き返らせるジャマをする気なら、遠慮なくぶっ飛ばすから」



がらりと180度、雰囲気を変えて言い放つ。
彼女と離れていたのはほんの数ヶ月だが、相変わらずの感情豊かなその様子には毎度、驚かされる。



「ぶっ飛ばす、か。できるもんならやってみるんだな」

「やってみるともさっ!」



どうにも流されてしまう自分の感情をごまかすため口端を歪めて笑ったベジータに、はグッと拳を握って不適に笑い返す。






どうしての行動ひとつひとつが、こんなにも気にかかる?
他人などどうでもいい、自分さえよければそれでいい、と。物心ついたときにはすでに他人への関心など無いに等しかったのに、どうして。



どうかしてる、と思いながら、ベジータは押し黙った。






そんな彼の様子なんか、言いたいことをいい終わったはまったくもってスルーだ。
むしろまわりのほうが、ベジータが彼女に特別な感情を持っていることに気づいてしまい、顔を見合わせていたりして。
の鈍さにはほとほと手を焼かされてきたが、今現在、その鈍さに大いに救われている気がする悟空。

まあでも、今は、ベジータ云々なんてことはとりあえず後だ、と悟空はひとつ頭を振った。






「話は後だ。それよりはやく行かねえと、その牛乳が………」

「お出ましだ」






ベジータの硬い声と同時に、スタリ、と地面に降り立つ足音が二人分。



一斉にそちらに目を向ければ、先ほど逃げ帰ったジースのとなりに、彼よりも一回り大きな青い物体が立っていた。





「さっきはよくもなめたマネをしてくれたな! ギニュー隊長みずからがきさまらに制裁を加えてくださるぞ!」



悟空にやられた仲間を見捨ててぴゅ―っと逃げてしまったくせに、隊長が隣にいるせいだろう、なんだかえらそうに胸をそらすジース。





「ねぇ………あれが、牛乳さんなの………?」



マジマジッとジースのとなりを凝視したが、呟くように漏らす。

その固まったような表情と囁くような声に彼女もようやくギニューの恐ろしさがわかったか、と思いながらも、クリリンは隊長に対峙する悟空の背中を見つめた。



「ど、どうだ悟空……こ、今度も勝てそうか?」



クリリンの問いに、悟空はギニューのほうを睨みながら。



「やってみなくちゃわからねえよ。さすがに今度のヤツはケタちがいの強さみてえだからな……」



キリ、と表情を引きしめ、ギニューを見る悟空は、どんだけ強くなってもそれをひけらかしたり傲慢になったりせず、いつも相手に対しての礼儀をわきまえている―――――――――戦闘に対しては。





「……わかる?ベジータさん、この謙遜がまた素敵でしょ? ウフフフフ〜」
「わかるか!!!」





頬を染めてヘラリと笑みをこぼすを見て、忌々しそうに吐き捨てるベジータ。
まったくどうしてここで自分に話を振るのか。
それに、先ほどの硬い表情はどこに行ったのか。





、おまえ、今度もカカロットが勝てると思ってるんじゃないだろうな?」
「え? ああ、思ってますよ」



サラリ、と笑顔で言ってのけるの言葉に、ベジータはもちろん、クリリンと悟飯もビックリだ。



「で、でもおかあさん、さっき……」

「ああ、ヤツの気の強さに驚いてたよね、ちゃん?」



立て続けにきかれたは、二人を振り返ってちょっと眉をひそめる。



「まあ、確かにさっきの人たちと比べればケタちがいだけど……それより、牛乳さんの、その…風貌が、ね………」



言いにくそうに尻すぼみになる言い方に、首をかしげる二人を困ったように見やり。



「だからね? 人のことどうこういえるような外見してるわけじゃないから、あんまり言いたくないんだけど………角はまあ、牛さんってことで許せるけど、、、なんで乳製品の源なのに、青いの? なんかやばくない? アオカビ生えちゃったのかな? だから、あんなに頭に血管浮き出てるのかな???」



心配そうにそんなことを言い出す
そっか、源にアオカビが生えちゃってたから、乳製品なのに緑だったり青だったり赤だったりしてたのかも、と何気にひとりで頷いているその様に、もう呆れるしかない面々だ。










一方、そんなことを言われていることとは露知らず。



ギニューのほうもジースの示すサイヤ人をスカウター越しに見据えていた。



「なるほど、あいつか……。戦闘力は、約5000……」

「そうなんですよ、たったの5000で……妙でしょ!?」



自分を見ながらのジースの言葉に、ギニューは相変わらずサイヤ人に視線を置いたまま冷静に彼を諭す。



「おろかものめ……!スカウターの数値だけを見ているから、そういうマヌケな目にあうんだ。あいつはおそらく瞬間的に戦闘力を大幅に上げたに違いない。そういうタイプだ…………ん?」



なるほど、と尊敬のまなざしで自分を見上げているジースに、ギニューが問いかける。



「おいジース、あの子はさっきはいなかったな……」

「あの子?………ああ、やつと一緒に地球から来たんですよ。リクームのヤツは、彼女にボコられてました」

「なにぃ!? リクームがボコられただとぅ!?!?―――――――――やるじゃないか、可愛い顔して」

「あ……はい」




なんだかとても楽しそうに笑うギニュー。

サイヤ人のほうは、多分60000ほどの実力だろう。かつてないほどの楽しい闘いになりそうな予感に胸が踊る。

それに。






「おい、おまえ」



サイヤ人と一緒に来たという女に声をかけてみれば、一瞬、自分が呼ばれたとは思わなかったんだろう、きょろきょろと周りを見回して。



のことみてえだぞ?」

「わ、わたし………?ですか?」



サイヤ人に言われて、恐る恐ると言ったように自分を指差した彼女に、ギニューは頷いてみせた。



「そうか、ちゃんというのか。リクームをやってくれたそうだな」



ギニューのニヤリ笑いに、背中がゾワッとしながらも気丈にその目を睨み返し。



「クリームさんが悪いんです。大事な悟飯ちゃんにヒドイことしたんだからっ!」



怒りを思い出したのか、潤んだ瞳にちらりと炎をともす
――――――いい目だ。






「おいサイヤ人、賭けをしようじゃないか」

「賭け?」



ことり、と首をかしげて自分を見るサイヤ人に、ギニューは不適に笑う。



ちゃんは、おまえの女と見た。違うか?」

は、オラの大事な嫁だ」

「今だけだ。いずれオレ様がいただく」



三人目のベジータの言葉に「おーい」が抗議するも、なんだかわけがわからずひたすら疑問系の彼女を差し置き、ギニューは大きく破顔する。



「なんだ、ベジちゃんも目をつけてたのか? まあいい。賭けるものはちゃんだ。勝ったやつが彼女をもらう!」

「「「「はあ!?!?!?」」」」




ギニューの提案に驚きの声を上げたのはもちろん、悟空、そしてベジータ、さらにはジース。



はオラんだ! 一番大事なものなんか賭けられっかよ!!!」

「力で奪うのは賛成だが……今のオレ様には正直分が悪い………」

「隊長!!! なに考えてるんすか!?!?!?」





それぞれに大抗議をする面々を見渡し、ギニューが楽しそうに笑う。



「賞品があったほうが戦闘も面白いだろう? いいじゃないか、勝てばちゃんはおまえのものなんだ。それにジース、我が隊に欠けているものはなんだ?」



悟空とベジータに鋭い笑みを向けた後、ジースに視線を流すギニュー。
ジースはといえば、隊長の問いを一生懸命考えているが結局わからず、助けを求めるようにその目を見返す。





「それはな………マスコットだ!!! マスコットは隊の象徴!!! ギニュー特戦隊のマスコットは強く美しいものだ!!! どうだ?ちゃんはそれにピッタリじゃないか!!!」






ギニューの剣幕に気圧され、とにかく頷くしかないジース。















そして。







「賞品………? マスコット…………?」



ポツリとその場に落ちた静かな声。



それぞれがそちらに視線を向けると同時に、グッと顔をあげたが。












「勝手に人を賭けるなーーーーーー!!!!!!」




















叫んだことは、言うまでもない。





















やっぱり、ギニュー隊長は1、2本キレてないと、ねvvv