初の下界修行。
に与えられたのは、森の奥深くに咲いているという『神鏡草』なる花を取ってくること。
言われたとおり森に入り込み、小一時間ほど走ったところに、その花は咲いていた。
薄暗いうっそうとした森の中。その花は一輪だけ蛍光塗料でも使っているかのようにぼんやりと白く発光していて、は摘んでしまうのがなんだかもったいない気がしたが、他ならぬ神の言いつけだったので、「ごめんね」と呟きながらその花を摘んだ。
思ったよりカンタンだったな・・・。
そう思いながら自分の手の中に収まった花を見る。
――――――は気づいていなかった。
『神鏡草』を摘んだと同時に、森がざわめき、濃い邪気が徐々に広がっていくことに。




第七章:恋??





いつものように夕食前に下界修行から帰宅し、の「お帰りなさ〜い」の声を聞こうと神殿の庭に向かう悟空。
自分の気を敏感に感じ取り、たたたた、と駆けてきて、ほわっと笑いながら高く澄んだ声でが言ってくれるそのセリフは、修行で疲れたその身体を不思議と癒してくれる。


今日も成長してっかな〜、という期待と、の春の陽射しのような柔らかい笑顔を思い浮かべて、自然と悟空の顔に笑みが浮かぶ。



が。


そこにの姿はなかった。
そういえば、彼女のほんわかした気を感じない。


焦って彼女の気配を探してみたけれど、神殿の中にそれが見つからない。




どういうことだ!?



ふと背後にミスター・ポポの気を感じ、悟空はガバッ、といきおいよく振り返った。


「ミスター・ポポ!! は!?!?」



あまりの取り乱しように、ミスター・ポポはどうどう、と悟空の腕をたたく。
……どうしてここまで気にしていて、いまだに自分の気持ちに気づいていないのか、甚だ疑問である。




「落ち着け。、今朝から、下界に修行に行った。ちょっと遅いが、じき戻る」


ミスター・ポポの言葉に、悟空は一応納得したが。


もう夕日はだいぶ西に傾き、今にも沈みかけている。
朝出かけたってことは、もうかれこれ6、7時間は経過してるだろう。



初めての下界修行。
こっちの世界に来て心細そうにしてる
必死にこらえているのはわかるが、どうしても涙が出てしまう泣き虫な

神殿にいれば、何かあってもミスター・ポポや神が助けてくれるだろうが、下界に降りたとなると、もしもの時誰も助けられない。つまり、自分の身は自分で守るしかないわけで。




――――――やっぱり、心配だ。限りなく、心配だ……!!!




自分の修行の疲れなど忘れ、悟空は落ち着きなく神殿の庭を行ったり来たりうろうろ歩き回る。まるで動物園の熊のようだ。
は確かに強くなったが、実践で戦ったことなどないし、それに何より彼女は寂しがりやで、絶対に一人ぼっちにしてはいけないと思ってたのに…!


落ち着きのない悟空の様子を見て、ミスター・ポポはため息をつき。


「悟空、なぜ、そんなにが気になる?」

その問いかけに、悟空はピタ、とその足を止めた。


「なぜって……なんでかな? そうだ! オラ、ポポに聞こうと思ってたんだ!」


はた、と思いついたように、悟空がミスター・ポポに向き直る。

いやな予感がする・・・
と彼は瞬時に悟ったが、きびすを返して逃げてしまおうとするより一瞬早く、悟空がミスター・ポポの腕をガシッ、とつかんだ。



神の付き人の自分を簡単に捕まえるとは――――――悟空もまたずいぶんと成長しているな、と嬉しく思う反面、これから聞かされるであろう事を予測し、に続いて悟空もか、と少々うんざり気味なミスター・ポポである。余計なことを聞かなければよかったと後悔したが、それも後の祭り。



「ミスター・ポポ、食事の用意、する。放せ」


食べることが何よりも好きな悟空のことだ。『食事』という言葉を出せばあるいはそこから気をそらすことが出来るかもしれないと考え、悟空の食欲を刺激してみたが、いつもは簡単にこれで引っかかる悟空がこの時ばかりは放そうとしなかった。


が帰ってきてから食うから、今はいいよ。それより、オラの話聞いてくれよ」



食事よりか? 食事よりなのか!? そこまでわかってて、これ以上ミスター・ポポに何を聞けというのか!?!?



悟空を見ると、もう切羽詰った思いつめたような顔をしていて。
その顔が、だいぶ前のの今にも泣きそうな表情と重なって。




はぁ。と、ミスター・ポポは盛大なため息をついた。
またもやこの事態か。ったく、ここは神殿であって恋愛相談所ではないはずなのに、何で自分がこんな色恋沙汰に巻き込まれなければならないのか。


頼むから自分たちで解決してくれ、と切実に思うミスター・ポポだったが、の話は聞いてやったのに悟空の話を聞かないというのはフェアじゃないだろう、と考え直し、疲れることを覚悟で悟空に向き直った。



「聞いてやる。言ってみろ」


ミスター・ポポがそう言うと、悟空は心底安堵したように笑う。それから、言いづらそうに視線をさまよわせ、意を決したようにポポを見た。


「あのさ、のことなんだけど・・・」


そら来た!!!


がどうした?」


ミスター・ポポはなるべく平静を保って悟空に聞き返す。


「なんていうか……すげぇ気になってしょうがないんだ。それに、一緒にいると楽しいし嬉しいのに、なんかドキドキして苦しくってさ。それなのに、がいないってなるとすげぇ逢いたくなる」


サラサラ流れる茶色掛かった黒髪や、髪と同じ色の切れ長の澄んだ瞳。つややかな唇が彩る柔らかい笑顔。そして、自分とは違う、細くて華奢なその身体。


を形作るすべて。それを想うだけで。




――――――どうして、こんなにもドキドキして。
――――――どうして、こんなにも胸が締め付けられるのか。




悟空はうつむいていた顔を上げ、めったに見せない不安げな表情でミスター・ポポに視線を戻し。




「オラ、病気にでもかかってんじゃねぇかなぁ……」


「…………」




言うに事欠いて『病気』とは。
言葉を失うミスター・ポポ。
こいつ、本気で言ってるのか…? まったくわかっていないのか………!?



言うべきか、言わざるべきか。



ミスター・ポポは迷った。悟空は本気でわかっていない。多分というか完璧に悟空にとっては初恋なのだろうが、フツー気づくだろうそのことに、マジで気づかないらしい。

しばらく心の内で葛藤していたミスター・ポポだったが、ここは言ってやるのが親切というものだろう(というか、言わなきゃ一生わからないだろう)、と結論を出し、ここ数年で自分の身長を軽々おいこした悟空を見上げた。



「悟空、のこと、好きか?」

「ああ、もちろん好きだ」


即答。


なるほど。そこはわかってるのか。では。


「おまえ、『好き』という気持ちに、種類があること、知っているか?」


悟空はきょとん、とミスター・ポポを見返す。


「種類?」

「そう。おまえがおまえの友達を『好き』だと感じるのと、を『好き』だと感じるのは、感じ方、違うんじゃないか?」

「あぁ、確かに・・・」


悟空は腕を組んで考えこみ、ミスター・ポポはその様子を見守る。


「そうだな、違うな。クリリンやブルマたちの事だって好きだけど、別に苦しくなんねぇし、会いてぇとは思うけど、会いたくてしょうがねぇってんじゃねぇしなぁ」


そうか、みんなを好きとを好きは、『好き』の種類が違うのか、と納得したように悟空が呟くのを見て、ミスター・ポポは微笑む。



「おまえが『を好き』と思う気持ち、病気といえば、病気」

「やっぱそうなんか?」

「ああ。それ、恋の病という」

「コイのヤマイ?――――――…コイってなんだ?」












は!?!?!?




めったに感情を表に出さないミスター・ポポも、これには目を丸くした。




―――ダメだ、悟空には一からそのことを教えなければダメだ。
なんてことだ。恋を知らないとは、以上に厄介だ。



ミスター・ポポは軽く眩暈を覚えたが、ここまで来たら乗りかかった船だ、と諦め、どっと疲労を感じながらとりあえず一般常識的な恋愛のいろはを悟空に教えることとなる―――――――――。



太陽が西に沈んでからずいぶんと時がたったが、夕食を摂ることもなくミスター・ポポの講義は続き、空腹を忘れてそれを真剣に聞く悟空の姿があった。















一方その頃。


悟空とミスター・ポポがそんな会話をしていることとは露知らず。


「どうしよう……帰れない!!!」


方向音痴のは、森の中で迷っていた―――――――――。(お約束vv)
















悟空のほうにかまけてたら、ちゃんのほうがおろそかに・・・ (>д<;

またまた続いてしまいました。ハイ、ごめんなさいよ〜!!!(逃)