が『すき』だ。
気づいてしまえば、確かに『恋』以外のなんでもなかった自分の気持ち。
過去に何回かに言った「おめぇが好きだ」というセリフに、そのときはただ素直に思ったままを口に出して言えたのに、自覚した今はどうしようもない恥ずかしさを感じる。
告白は男からするものだとミスター・ポポは言ったけれど(そうとは限らないが、ポポが可愛さゆえに出た発言)、意識してしまった今、相手にそれを伝えるのに、何故こんなに勇気を必要とするのだろうか。
言いたいけど言い出せない、そんなジレンマに悟空は頭をかかえていた。





第九章:それぞれの想い






の迷走大爆発事件(?)から数ヶ月。
神から「もう下界修行はよい」と申し渡され、(苦笑いされて、多少傷ついた)は以前の修行内容プランに戻っていた。


ただ以前と違うのは、組手の相手がミスター・ポポから悟空に移行したこと。


初めはやってみたいと思っていたにもかかわらず緊張してしまった悟空だが、の想像以上の良い動きにすぐに強敵に対するワクワクする高揚感を覚え、でやっぱりものすごく緊張していたが、始まってしまえば集中して必死に攻防するわけで。



本日も朝から組み稽古に励む二人を傍観しながら、ミスター・ポポは自らの教え子たちの成長に舌を巻いていた。
いつの間にか自分を追い越し、そしていまだ成長過程の彼ら。




まず悟空。
三年前にここに来たときは、チビだったにもかかわらず基礎体力も実戦経験も充分で、パワーもスピードも超一品だった。しかし、気配を消したり気の動きをつかんだりすることに関してはド素人。まずそこから叩き込み、加えて今まで以上の戦闘能力を磨くために神自らが悟空の修行場を選び、数々の厳しい試練を一言の弱音も吐かずにしかも笑顔でこなしてきた。

強くなることに貪欲で、明るく素直でお人好し。
心は水晶の如く透きとおり、出会う人すべてに好感を抱かせる。



そして、
彼女に武道を教え始めて、そろそろ一年にもなろうか。
闘いに関してはまったくまっさらな素人で、悟空の半ば強引な勧誘に押し切られて修行をすることになってしまったが、ミスター・ポポの教えをよく理解し、飲み込みも早い。日々成長し、その類まれなる素質に、神さえも驚きを見せていた。

裏表のない性格で、聡明で真面目で頑張り屋。
少々抜けているところもまた彼女の魅力だと思ってしまうのは、彼女の人柄ゆえなのか。




手塩にかけて育てた子供たちを見るように、ミスター・ポポは二人を見る。
苦労した。そりゃもう、武道の修行だけではなく、プライベートにいたるまで(こっちのほうがタイヘンだった)、本当に苦労してここまでにしたのだ。


できることなら、二人とも無事でいてもらいたい。
ピッコロ大魔王と戦ったあとも、元気に笑っていてほしい。


天下一武道会が近づき、二人がここを出る日も近い。
もちろん、ピッコロ大魔王を倒すためにここまで修行をつけてきたのだが――――――ミスター・ポポの心境は複雑だった。




「二人とも、ちょっと、休憩」

入ってきたミスター・ポポの声と手を叩く音に、悟空とはそちらに視線を送り、それから今まで組み手をしていた相手を見て、「「ありがとうございました」」と笑いあった。





屈託なく笑う悟空。

「すげぇな〜。、ホント強くなったな!! 組み手してっと、じゃねぇみてぇだ」


汗をぬぐいながらを見る悟空は、目をキラキラさせて、嬉しそうで、それはもうカッコよくて。



この人はわかってるんだろうか?
わたしが今この瞬間、鼻血吹きそうなほどの幸福感を味わっていることを。 (いや、わかっているワケがない)



悟空と組み手をすることになって、は少なからず不安を覚えていた。
つまり、非力な自分には修行になっても、悟空にとってはまったくもって無駄なことなんじゃないか、と。
それをこんなふうに言ってもらえて、しかも的に悩殺素敵笑顔vvのオマケ付き。


例の如くの顔は沸騰するほど熱くなり、「悟空さん、わたしを殺すおつもりですか・・・?」などど心の中で呟いてしまう。




?」


真っ赤になって固まるに、悟空は小首をかしげて呼びかける。
ハッ、として、は我に返った。



「そ、そそそそうですかね!? わたしでも、悟空の役に立ってるかな!?」

くぅ〜、そのしぐさもグッとくる!!!


などとが悶えていることなど知るはずもない悟空は、いつものようにいっぱいいっぱいな彼女の様子に破顔して、大きくうなずいた。


「ああ! オラ、びっくりだ!!」


「・・・・・・・・・よかったぁ」


悟空がウソをつけない性分だということを重々理解しているは、役に立ててよかったと心の底から安堵の息を吐き、ふんわり笑顔を浮かべる。



「じゃ、わたし水飲んでくるね」


そういい残して、ついでに顔も冷やしてこようと思いながら、たたたた、と軽い足取りで神殿の中に入っていった。










その後姿を見送って。


「ホントすげぇな、アイツ・・・」


ポツリ、と悟空の口からそんな言葉が漏れた。



ここに来たときは武道の武の字も知らず、ましてや誰かと戦った経験すらなかった彼女が、一年足らずで自分と同じ位置に上ってこようとは夢にも思わなかった。
いや、なんとなく「強くなりそうだな〜」と感じたのは事実だし、だからこそやってみないか、と誘ったのだが。


毎日サボることなく基礎トレをやっているにもかかわらず、の身体は細くて華奢なままだ。そのため組み手をしても彼女の攻撃はほとんど重さを感じないのだが、身体が軽い分スピードは相当なもので、悟空ですらやっとついていけるような今の現状である。


悟空は、組み手をしているときのの目を思い出す。
強い光を宿した、真剣なそのまなざし。
いつもの穏やかな彼女の瞳も好きだけれど、その熱いまなざしにも悟空の胸は高鳴ってしまう。それは、好敵手に対するワクワクする高揚感と、そして彼女自身に対する恋心。





やべぇ・・・///




修行中は考えないようにしているのだが、気を抜くとすぐにこの始末だ。
心にしまっているこの想いは今にもあふれ出しそうで、切ないほど胸を締め付ける。




思えば初めて会ったときから、は『特別』だった。


あったこともないヤツからいきなり名前を呼ばれ、さらにいきなり泣き出されて。
変なヤツだと思ったけど、なぜかひどく気になった。


真っ赤になったと思ったら、次の瞬間には真っ青になってるし、さっきまで笑ってたのに、いつの間にか泣いていたり。とにかく感情の起伏が激しくて、心配で一時も目が離せないときがしばらく続いて。


そうかと思えば、何を考えてるんだかは判らないが、むぅ、と一人で唸っていたり、うんうんと何かに納得したかのように頷いてみたり、そんなことをしょっちゅう一人でやっている。


面白いヤツだ、とその様子を笑いながら眺めていたが、を見ていると不思議と心が和んだ。




だけど時折。
遠くを見て切ない表情をしていることがあって。


その視線の先には、きっともう二度と戻れないだろう元の世界があるんだろうな、と簡単に想像がついてしまって、そんなときはなんだか放っておけなくて、必ずその思いをジャマするように声をかけてしまっていた。





最初は自分のせいで帰れなくなってしまったから、こんなに気になるんだ、と思ってた。
が寂しいのは自分のせいなんだから、ずっと一緒にいてやらなきゃダメだって思ってた。




だけど。



いつのまにか、のことがもっと知りたい、ともっと一緒にいたい、なんて。



今思うと、その時点ですでに、自分はに『恋』してたんだ、と、悟空は懐かしく思い出す。




考えれば考えるほど、思い出せば思い出すほど、に出会ってからの自分は彼女を中心として物事を見ていたんだなぁ、と実感する悟空。



気づいたらもう、強くなりたいのと同じくらいのことも想ってた。
厳しい修行をつらいと思ったことはなかったけれど、神殿に戻ったときにが「お帰り」と笑ってくれると、いつもよりさらにやる気を掻き立てられた。



最近はどうにもこうにも苦しくて、いっそ思いの丈を言ってしまおうかとも思ったのだが、大事な決戦を控えているこの時期に告白するのもちょっとずれてる気がするし、何より言ってしまった後のの反応を考えると、どうしても言い出せない。


言いたいことが怖くて言えないなんて、こんなことも生まれて初めてだ。
は実にいろいろなことを自分に教え込んでくれたもんだ。










ざばぁ!!!




「!?!?!?」




いきなりアタマから水をぶっかけられて、予期せぬ事態に驚いて顔を上げれば、そこにはバケツを持った無表情なミスター・ポポの顔。



「なにすんだよ、ミスター・ポポ!」


ぽたぽた落ちてくる雫を払いながら抗議すれば。


「頭、冷やせ。切羽詰った顔、してる」


ミスター・ポポに言われ、悟空はそんな顔をしていたのか、と苦笑した。


「サンキュー」


水をかけられたことよりも、正気(?)に戻してもらったことに感謝して悟空がそう笑うと、ミスター・ポポもまた表情を和ませる。




そんないっぱいいっぱいの顔をしていたら、またが不安がってやっかいだ――――――という言葉は、ミスター・ポポの胸にしまっておく。










「・・・・・・・・・・・・どしたの? 悟空、ビッショビショ」



神殿から庭に戻ってきたは、頭やら服やらもう水浸しになっている悟空を見て、なにがあったのかと目を丸くした。


「あ〜、いや〜、暑くってさ、ポポに水かけてもらったんだ」


ぽりぽりと頬っぺたを掻きながら照れくさそうに笑う悟空。




(うっわー!! 水も滴るいいオトコーーー!!!)



その笑顔は反則だろう。
せっかく冷やしてきたのに、またまた熱をもつの顔。









―――――――――まったくどうしようもないヤツらだ。
お互いにこれほど態度に出しておいて、全然気づかないなんてホント鈍いにもホドがないか???



ミスター・ポポは軽くため息をつき、パンパンと手を叩く。



「さあ、もう休憩、終わり。組手、始めろ」



ミスター・ポポの合図に、きりっと表情を引き締める二人。


「「よろしくお願いします!!!」」


お互いにお辞儀し合い、稽古に没頭していった。



感情の切り替えも早いものだ。
これも毎日の精神修行の成果の表れだろう。










とりあえず、大好きな悟空の役に立ててうれしいと。
これが落ち着いたらに告白しようと心ひそかに意を決する色ボケ全開の悟空と。
どうでもいいからなんとか無事に生き残って幸せになってくれと切実に願うミスター・ポポと。










天下一武道会まであと約一ヶ月ほど。

天界では、今日も二人は修行中。

二人に親心を抱きながら見守るミスター・ポポ。










―――――――――そして、忘れてはいけないもう一人。
この神殿の主、神様だって、二人の身を案じています!!!(オマケ///)
















ラブラブにしたかったんです・・・・・・切実にしたかったんです。
でもやっぱり失敗〜・・・・・・アハハハハハハ!!!
ごめんなさいマセッ!!! それ逃げろぅ!!!  ε= ε= ≧д) )o〃