界王さまの修行を受けるためには、テストがあって。
そのテストというのは、ダジャレで界王さまを笑わすことで。
「ふとんが、ふっとんだ!!!」
「ねこが、ねころんだ!!!」
「えんぴつが、みえんぴつ!!!」
悟空とわたしが気合入れまくりでそんなありふれたダジャレを叫んだら、難なく笑ってくれました。。。
んでもって、なにを勘違いしたのか。
「いいだろう、修行をしてやろう。教えてやるぞ、最高のギャグを!」
…………違うから。
笑いすぎて出た涙をハンカチで拭きながら言った界王さまの言葉に思わず突っ込みを入れたのは、きっと悟空も一緒だろう。
簡単に笑ってくれたり、思いっきり踏みつけたこととか存在無視して目の前でマジギレの喧嘩しちゃったこととかをあっさりと許してくれたりと、界王さまってとってもいい人だけど。
―――――――――ズレちゃってるんじゃないのかこの人は。
「……いや、そうじゃなくて、ですね?」
「……ギャグはいいからさ、武術教えてよ」
第十一章:素質と実力
蛇の道をクリアして、この小さな界王星に着いた悟空と。
界王のアンテナ(……触角?)で見立ててもらったところ、サイヤ人たちが地球に到着するまでには後たった158日しかないと聞かされ、さらにはそのサイヤ人たちは界王よりも強いと聞かされて、かなり勢いづいて焦った二人だったが。
十倍の重力負担のあるこの星で界王が158日鍛えてくれれば、地球で数千年も修行をした価値があるとのこと。
それでもサイヤ人に勝てるかわからない、とシリアス顔で言った界王に、二人は「やるしかない!」と気合を入れなおした。
そんなこんなで始まった、界王式しゅぎょ〜い(すごいの意)修行とは。
まず始めに、十倍の重力に慣れるためにペットのサルであるバブルスくんを捕まえて、それから今度はスピードをつけるべく、バッタのグレゴリーさんをハンマーで叩き落す、というもので。
そんな地味な修行にまじめに取り組むこと早一ヶ月。
「どぅりゃーーーっ!!!」
ぱっこーーーん!!!
なんとも女失格な気合一発。
の快心の一撃(武器=めっさ重いハンマー)がグレゴリーに炸裂し、大きく吹っ飛ばされた彼は、哀れお空の星になりました。(いや、死んでないから…)
「どんなもんだいっ! ちん必殺・バッタ打ち!」
「そんなバッタな! ぷっ…いいシャレ」
「バッタ打ち…って、そのまんまじゃねえか。それにしても、くっそー!またに先越されちまった!」
なんとも緊張感のないそんな明るい雰囲気のなか、二人は着々と課題をこなしていた。
今まで強くなることを意識していなかっただったけれど、今回に関してはできるだけ強くなりたい一心で取り組んだこの修行。強さを求めていなかったときでさえ驚異的な成長を見せていた彼女だったが、目的が定まった今、ものすごい集中力でその素質を開花させてしまったというかなんというか………。
とにかく、バブルスとの追いかけっこもグレゴリー叩きも、一歩先を行くに、悟空はちょっと悔しそうだ。
「よろしい、よくやったぞ」
「人間、なりふりかまわなきゃなんでもできちゃうもんですねっ!」
界王のお褒めの言葉に、修行用のめちゃくちゃ重たいハンマーを軽々と右肩に担ぎ、左手を腰に当てて得意そうに笑うは、なるほど、はいていたロングスカートは「邪魔だ」と言って、ずいぶん前に膝丈でびりびりと破ってしまっていて、結婚してからはずっとさらりと流していた長い髪の毛は、「ウザい」と言ってきっちりまとめていて。
そんな格好で、逃げ回るバブルスを追い掛け回して顔から突っ込んでパンチラ披露してくれちゃったり(悟空赤面)、重たいハンマーをガニマタで踏ん張って持ち上げたり(界王さま感心)と―――――――――本当に、なりふりかまってない。
その気持ちいいほどの割り切り、ワイルドさ、そして、まったくもって飾り気のない立ち居振る舞い。
必死なには現在いつもの半分の恥じらいもないらしくむしろ、女捨ててるんじゃないかってな感じで。
いろんな意味で「すごい」と思いつつも、一途に強くなりたいと一生懸命なその姿は、やっぱり大好きな彼女そのものだ。
リードされっぱなしなのは悔しいし、を守れるくらいの夫になるためには彼女よりもっと強くならなくちゃいけないとカツを入れられる気分ではあるけれども、そんな彼女に惚れ直してしまう悟空なのである。
「いったたたた。ちょっとは手加減してくださいよ〜」
「あ、ごめんなさい。でもグレゴリーさん、思いっきりやっていいって言ったから」
ふらふらと遠いお空の彼方から戻ってきて文句を言う涙目のグレゴリーに、てへへ、と頭を掻きながら謝るを見て。
わくわくするような高揚感と、疼きだす戦闘本能に後押しされた、好敵手に対する鋭い微笑が悟空の顔に浮かんだ。
結婚してから約五年。
もちろん喧嘩もしたし、必死な姿も幾度となく見てきたけれど。
それでも今と比べたら、その間の気配はいつもフワンと柔らかくて穏やかだったから、ちょっと忘れていたのかもしれない。
―――――――――華奢な身体に秘めた、彼女の計り知れない強さを。
「やっぱりあいつ、すげえよな……。オラも頑張んねえと! いくぞグレゴリー!」
「そ、そう簡単には、やられませんよ!」
「悟空もグレゴリーさんも頑張れー」
「うほ♪」
ハンマーを握りなおし、キッとヤル気満々な視線をグレゴリーに向ける悟空と。
ハアハアと肩で息をつきながらも、その視線に強気な態度をとるグレゴリーと。
バブルスを抱っこしてニコニコ笑いながら二人の応援にまわると。
そんな光景を目におさめながら、界王は一人、小さくほくそ笑んだ。
「まったく楽しみなやつらだぞい………」
界王という立場上、邪な気持ちで強さを求めるものを鍛えることなど言語道断であるため、自分の知り得るすべてを叩き込んでもいい、と思った人間が目の前に現れたのは初めてだった。
包み隠さずオープンで、感情的で感受性豊かだが、界王でさえ不思議と心和んでしまう柔らかく優しい気配を感じさせると、こちらはこちらで裏表がなく、今まで見てきたどんな善人よりも純粋で澄んだ魂を持つ悟空。
下界にも、こんな人間がいたのか、と。
約一ヶ月間二人を見ていて思ったことは、なんて無垢な人間なんだ、ということ。
そして、なんて―――――――――鍛え甲斐のあるやつらだ、ということ。
実力も相当なもんだが、界王から見ればまだまだ荒削り。しかも、二人ともいまだに目覚めていない素質の底が知れない。
ここに来たときは、この星の重力に抗えずに墜落してきて、必死に立ったり歩いたりしていたのに、たかだか一ヶ月くらいでもう、何気にめちゃくちゃすばやいバブルスを捕まえるわ、軽々とあの重たいハンマーを振り回すわと、十倍の重力なんかすでにものともしていない。
この分だと、悟空がグレゴリーを叩き落すのも時間の問題。
タイムリミットまでは、まだまだ修行日数は残っている。
あの二人なら、極められるかもしれん…………界王拳を。
そして―――――――――
「…………さま。界王さま? お〜い」
「――――――はっ! な、なんじゃ?」
「いや、ニヤニヤしながらボ〜、としてるからどうしたのかと思って」
自分の目の前で、「なんか気持ち悪いですよ〜、ねえバブルスくん」なんて言っていると、彼女に抱っこされてるのが嬉しいのだろう、サルのくせにニヘラと笑いながらうなずく自分のペット。
修行中のの瞳には鋭い光が宿り、強い意思を感じさせるのに。
いま自分に向けられている視線は、穏やかで柔らかい。
「いやいや、おまえたち二人とも、とんでもない素質を秘めておるようなんでな、鍛えがいがあるなぁ、と思っとったんじゃよ」
のフワンとした空気につられるように、界王が笑う。
その言葉にことり、と首を傾げてから、はたはは、と苦笑した。
「うん、確かに悟空は、すごい素質もあるし、実力もあるんですけど。わたしは普通なんですよ〜。バブルスくんとかグレゴリーさんとかの修行も、わたしのほうが体重軽いから先にクリアーできたってだけだし。だからわたしは、悟空よりもたくさん頑張んなきゃならないんです」
大切なものを、守るために。
二度と、なくさないように。
「守られるだけじゃ、守ってくれる人をいつか失うことになる。わたしだって、闘わなくちゃならない時だってあるんだって、思い知らされました。だから、今は少しでも――――――強くならなきゃ、いけないと思うんです」
おどけたように肩をすくめて、笑ってはいるけれど。
その言葉もその瞳の色も、嘘偽りなく真摯で、ひたむきな決意がひしひしと伝わってくる。
「は―――――――――まっすぐだな」
「は?」
思わず呟いた界王の言葉の意味が、きっとわからなかったのだろう。
キョトン、としたような顔で聞き返すを見て、界王は小さく笑った。
健気なほどに。
くじけない。
あきらめない。
その心根も、信念も、想いも―――――――――まっすぐだ。
「おまえにも、素質はあるぞ。わしが言うんじゃから間違いない」
力の入っている細い肩をポンポンとたたきながら笑って言えば、パアッと明るい笑顔が花開いて。
「ほんとですか!? じゃ、必死に死ぬ気で頑張れば、サイヤ人たちに勝てるかなっ!?」
そんな笑顔全開の言葉に、思わず苦笑してしまう。
悟空もも確かに素質もあるし、できるだけそれを引き出してやりたいと思っているが、困ったことに今地球に向かっているサイヤ人たちにも、戦闘の素質が充分にあるわけで。
「ま、死ぬ気で頑張ればなんとかなる…かなぁ」
「なんだ、なんか弱々しい答えですねぇ」
界王の語尾に、が唇を尖らせる。
しかして界王は、その顔に微妙な表情を貼り付けた。
「おまえたちにももちろん素質はあるがの、サイヤ人という種族には持って生まれた闘いのセンスがあるのだ。そこがちと厄介なところでもある……」
今地球に向かっているのは、そんな戦闘民族の中でも天才的な実力を持つ最強のサイヤ人。
簡単に『勝てる』などと口にできるほど、一筋縄ではいかない。
神妙な界王の顔に、けれどもはう〜ん、と腕を組んで空を見上げる。
「闘いのセンス、かぁ。うん、確かにそうかも。悟空ってば、闘ってるときすっごいカッコいいもんね。戦い慣れてるってのもあるんだろうけど、あれはきっとセンスだよねぇ…。ほんっとうにカッコいいんですよっ!」
悟空の戦闘シーンを思い描いたのだろうか、が頬を染めて力説する。
夫婦だと、そうは聞いていたが、最初にワケのわからない勘違いで怒った悟空や、今ここで真っ赤になっているを見ていると、ずいぶんと初々しい夫婦だなぁ、と半分あきれてしまう界王である。
てゆうか。
なぜにサイヤ人の闘いのセンスの話をしているのに、「悟空がカッコいい」になってしまったのだろうか。
彼女の思考回路はいささかズレているところが多々見られるので、それを軌道修正すべく、界王は口を開く。
「いや、悟空の話をしているんではなくてな、わしはサイヤ人の話をしとるんだが」
キャイキャイ言いながら頬っぺたを両手で押さえているにそう述べれば、彼女から返ってきたのは満面の笑みで。
「わかってますよ〜。悟空もサイヤ人みたいだから」
「へ?………って、うわっ!!!」
その言葉に目を丸くした界王の頬を掠めて、高速の重量ハンマーが風をきって吹っ飛んでいった。
「に惚れちゃダメだぞ界王さまっ!!! グレゴリー、覚悟!!!」
しっかり念を押してから、悟空はぶん投げたハンマーをがっつり握って。
自分も巻き添えにするつもりだったのか、とアタマにきた界王が「惚れる惚れないの問題じゃないわい!」と抗議の声を上げると同時に。
こつん、と。
グレゴリーの頭を、悟空がそのハンマーでかる〜く、叩いた。
「思いっきり叩いたら、痛てえもんな」なんて笑っている悟空に、「優しい悟空バンザイw」なんてキラキラした目で悟空を見ている。
時間の問題だとは思っていたが、こんなにはやく二人ともこの修行をクリアするとは予想外だった界王は、先ほどの悟空の攻撃も忘れて、期待に胸を高鳴らせる。
このわしが夢に描きながらもついに極められなかった界王拳。こいつらなら。
そして、あの必殺技も、もしや………。
「やったね、悟空っ!」
「おう、すぐ追いついたぞ!」
パチン、と両手をはじき合っている二人に向けて、界王がグッとこぶしを握りしめた。
「覚悟しておるだろうがわしの修行は想像以上につらいぞ! 耐えられるか!?!?」
界王の宣言に返ってきたのは、二人分の強い光を宿したまっすぐな視線。
「うん!!! やってみる!!!」
「よろしく、おねがいします!!!」
その力強い言葉と揺るがない強い視線に、どうにもこらえきれなくなる興奮。
熱い胸のうちを、界王は続けてぶちまけた。
「どうせ目指すなら――――――宇宙一じゃ!!!天下一じゃ!!! 肉体も、そして心もだ!!!よいなっ!!!!!」
「わかった!!!」「はいっ!!!」
力強くうなずく二人に満足した界王は、ふっと息を吐き表情を和ませて。
「それじゃ、その前にちょっと、茶でも飲みますか」
「は〜い、じゃ、わたしお茶いれま〜す」
「おー、すまんなぁ」
界王の提案に、はピシッと手を上げて、パタパタと軽い足取りで家の中に入って行き。
悟空は、最高潮の緊張を即座にぶち壊した界王の発言に、思わずぶっ倒れた。
「ときに悟空よ、おまえ、サイヤ人ってのは本当か?」
「…………ああ、まあな」
身体を起こして力なく笑っている悟空に問いかければ、こっくりと何の気負いもなくうなずく悟空。
なるほど。
同じサイヤ人であれば、あるいはなんとかなるかもしれない。
そんなふうに思っている界王と、いまだ脱力気味の悟空の耳に。
どんがらがっしゃーーーん!!! 「うひゃーーーっ!」
…………家の中から、ものすごい音とのへんな悲鳴が聞こえてきた。
「……………………おい悟空、はいつもあんな感じなのか?」
「はは。ああ、ちょっと抜けてるよな〜」
呆れ顔の界王に、悟空は苦笑を返す。
修行中は一分の隙もなくキリッとしている彼女だが、普段の彼女は天然であわて者。
「――――――そんなとこも、可愛いだろ?」
ニッと笑って界王を見る悟空に、なんと返せばいいのやら。
この二人に備わってるのは、底の知れない素質と、まだまだ鍛え甲斐のある実力と、それから。
――――――――――――天然バカップルオーラか。
はぁ、とため息をつきながら家に入った界王は。
「可愛いだろ?」じゃないだろう的なあまりの惨状に、言葉を失ったとか。
そんな感じで、やっぱり進んでませんです……;
すいませんっ!つ、次はぽ〜ん、とすっ飛ばしますです!!!(え?

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