「………悔しい」
「へへへ♪やっぱオラのほうが強いな」
「………どーせわたしは弱いですよ。ものっそ頑張ったのにさ、『界王拳』止まりで、『元気玉』できるようになりませんでしたよーだ!!!」
「いやいや、界王拳を習得できただけでもたいしたもんじゃよ」
「ありがとう界王さま〜〜〜。でもやっぱ悔しいよ〜〜〜っ!」
「ったく、負けず嫌いなんだから。嫁より弱いダンナなんて、カッコつかねえじゃねえか。なぁ、界王さま」
「う、うむ」
「――――――ふん、だ。強い強いって言ったって悟空、追いかけっこじゃ絶対わたし捕まえられないくせに……」
「なんか言ったか、?」
「べっつにー」

脅威のサイヤ人来訪が明日に迫った今。
大レンガの超スピードを元気玉で見事に捕らえた悟空を見て、悔しさを隠しきれない、というか、隠すつもりもないがすねていて、そんな彼女に勝ち誇った態度を見せる悟空。

基本ほわふわバカップルのくせに、妙なところで負けず嫌いっぷりを見せる二人をあきれたように見ていた界王だったのだが、ふと、思い当たってしまったときの流れ。それはつまるところ。

サイヤ人来訪→明日。
悟空&→いまだに界王星。

イコール、蛇の道を通って現世に戻らなければならない二人は、もしかして……いや、もしかしなくても
―――――――――間に合わない、のではなかろうか。

「しまったーーーーーっっっ!!!!!」

突然大声を上げた界王を、軽く言い合っていたお惚け夫婦が仲良く肩をびくつかせて振り返った。



第十二章:ダッシュ!!!





「おまえたちが蛇の道を通って帰る時間を、計算に入れてませんでした」



―――――――――――――――し〜ん……。



その場に落ちた界王の一言は、とても信じがたく。
いや、本当のところ、『信じたくない』という言い方が一番ピッタリくるだろうか…。



一瞬、どう反応していいのかわからずに固まった二人だったのだが、先に我に返った悟空が急速に慌てだす。



「かっ、界王さまなら、オラたちのことビュ〜ン、って下界まで飛ばせるんじゃないのっ!?」
「そ、そうよそうそうっ! なにせ、『界王』ってくらいだもん、そのくらい簡単ですよねっ?」



悟空の言葉に即同意するの瞳は、「そうであってほしい」と訴えかけているのだが、対する界王はぶんぶんと首を横に振るばかり、すなわち―――――――――『そんなことはできない』





頭から、音を立てて血の気が引いていくのを感じた……。
もし間に合わなかったら、こんなところまで来て死にそうになりながら頑張って修行した意味が、まったくもってなくなってしまう。



「また、あの道とおって帰るわけ!?!?」
「来るとき半年もかかったんだぞ!?」



一気に焦りの頂点までのぼりつめた悟空とは、続けざまに界王に迫るが、こっちはこっちで焦っている界王。



「い、今のおまえらなら二日もあれば着く! 地球の神に出迎えに来るように伝えておいてやるから!」

「それだって一日オーバーだ! みんな殺されちゃうよ!!!」

「バカバカバカ!!! 界王さまのアホたれーーー!!! 悟飯たちが死んじゃったらどうしてくれるのさーーー!!!」

「ガタガタ言うなっ!!! わしだってタマにはミスぐらいあるわいっ!!! だいたい、そんなことに気づかなかったおまえらにだって非はあるぞ!!! 悟空、おまえは早く地球の仲間にドラゴンボールとやらで生き返らせてくれるように伝えろ!!!」



切羽詰る悟空、パニくって教えを請うたにもかかわらず界王を罵倒する、そんな二人に逆ギレぶちかます界王。

ギャーギャーと本気の言い合いの末、そっか悟空は死んでるんだからとりあえず生き返らなくちゃならないんだ、なんてテンぱる頭の隅で思っているの前で、「つ、伝えるったって、どうやって!?」「わしの背中に手を置いて心の中で伝えろ!」などといまだに感情的な声を上げる悟空と界王をよそに。





言い合ってる場合じゃないよっ!!! とにかく今は、急いで地球に戻らなきゃ!!!





いっぱいいっぱいの頭の中でその正当な答えをいち早く導き出したは、界王と、その肩に手を置いた悟空の二人をバッと強風が起きるほどの勢いで振り返る。





「悟空!!! わたし、先に行くっ!!! 界王さま、いろいろお世話になりましたっ!!!」





言うや否や。疾風のごとく走り出し、勢いよく界王星から飛び降りた。
その間、約0.1秒。の言葉に返事を返す間もなかった。
さすが、スピードだけは悟空に引けを取らないだけはある。







「…………行っちまった」

「ボロボロの服くらい、なんとかしてやろうと思ってたんだがなぁ…」




の突発的な出動に、焦っていた気持ちを流されてしまい、彼女の消えていった先を見つめながら、悟空と界王はそれぞれポツリと呟いた。。。






「ひゃー、軽い軽いっ! 身体がめちゃ軽い! これなら全速力で走れば、もしかしたら間に合うかもっ!」


蛇の道に降り立ったは、十倍の重力から開放されたことにまず感動し、それからキッと前を見据え、超スピードで走り出した。















でもって、悟空が生き返ったりサイヤ人が来たりしている中(すっげー、スルー…)、ひたすらダッシュを決め込んだは。
これぞ奇跡の全力疾走パート2(パート1は悟空死亡時に神殿まで)バリに、蛇の道を自分でも信じられない速さでクリアして、迎えに来てくれていた神様に現世に戻してもらった。





「神様ありがとうございますサヨウナラ!!!」
「ま、待て待て待て!!!」
「いや無理待てませんもうサイヤ人来てるんです一刻の猶予もないんです行かなきゃ!!!」
「それはわかっておるがとりあえず待て!!!」



神殿に戻ってきたとたん、さらにダッシュをかまそうとするの腕を神がすばやく捕まえれば、はいまだパニック覚めやらずに大抵抗を試みる。その力やいかに。見た目はほとんど変わってないにもかかわらず、一年前とは比べ物にならない。


「放せーーー!!!」と力任せに腕を振るに耐え切れず、神はその遠心力のままに吹っ飛ばされて、そばにいたミスター・ポポを巻き添えにして床に倒れこんだ。



! 待てというにっ!!! そんなカッコで行くつもりか!?!?」



そのまま神殿から飛び降りようとするに、頭をひとつ振って身体を起こした神が強く声をかけると、その怒鳴り声に我に返ったようにが神を振り返る。




「そんなカッコ………って」




神の言葉に見下ろしてみれば、なるほど、あまりにズタボロになってしまった自分の服。



「…………でも着替えなんか持ってきてないし、気孔波とかの打ち合いになったらどうせきっとまたボロボロになっちゃうだろうから、別にこのままだって―――――――」
「そういう問題ではないっ! そんなカッコでサイヤ人たちの前に行ってみろ、別な意味で危険この上ない!!!」
「別な意味って……どんな意味ですか?」
「どんな意味って……それは、その///」
「???」



長めのスカートだったはずのものは、いまやちょっと屈めばパンツ丸見えなほどの超ミニになっちゃっているし、上半身にいたっては、へそは出てるわ肩ははだけてるわで。
どう考えても露出度が高すぎ、そのカッコは思いっきり、チラリズム。

急がなければならないのは重々承知だ。しかして、そんなことはないとは思うが、サイヤ人とて男だ。
万が一彼女が襲われでもしたら。



悟空が一緒でなかったことが一番の懸念だったのに、のそんな格好を目の当たりにして何よりもまず彼女の身を案じてしまうあたり、すべてにおいて平等でならなければならない自分も大概に肩入れしてしまっている。



「カッコなんかにこだわってるヒマない! 早く行かなくちゃ!」
「と、とにかくそんな姿で行かせるわけにはいかぬ!」



どうして極度の恥ずかしがりやのくせに、こんなところでこんなに無防備なんだろうか。
本気で、こんなあられもないカッコで戦う気なんだろうか。
はなはだ疑問には思うものの、今はのいうとおり、一刻の猶予もないのは確かだ。



神が小さく念じると、の服がいつものポロシャツとスパッツに変わる。
これでひとまず安心だ、と胸をなでおろし。



「よし、それでいい。ところで、孫はどうした?」

当初の疑問を思い出し神が問えば、吏紗は足踏みしながら神を見る。

「悟空は後から来ます! 諸事情で遅れちゃってるけど、たぶんもうすぐ来るはずです。じゃわたし、行ってきます!」
「わかった、たのんだぞ!」
「頑張れ、!」
「はい、たのまれました神様! ポポさん、頑張ってくるねっ!」



早口で答え、ついでに心配するなとでもいうように、にっこりと笑顔を返してから、は神殿から躊躇うことなく飛び降り、界王星でちゃっかり習得した舞空術を駆使して超高速で大きな気の集まっている場所を目指した。















一方その頃。



とにかく強すぎる二人のサイヤ人に歯が立たず、ヤムチャ、餃子、そして天津飯が次々と倒れていく中、切実に悟空の来訪を待つ地球防衛組み(?)の叫びを聞いたちっさいほうのサイヤ人が、ピッコロ、クリリン、悟飯に襲いかかろうとしていたでっかいほうのサイヤ人の攻撃に「待った」をかけて。


「おまえたちの言うソンゴクウとは、カカロットのことだな?」


『悟空、早く来てくれ!』と叫んだクリリンに視線を移し、そう問いかける。
問われたクリリンは、戦闘実行中の大きいサイヤ人からその小さいほうのサイヤ人に目を移した。


「………そうだ! だからなんだ……っ!」


その答えを聞いたサイヤ人が、馬鹿にしたような笑い声を上げる。


「なるほど。やはり無線で聞いたとおり、ドラゴンボールで生き返ったらしいな。それにしても………おまえたちの頼みの綱が、あのカカロットとはな」


声を上げて笑ってから、ついっとクリリンに視線を戻す。


「ラディッツにさえ歯が立たなかったあいつが来たところで、なんの役に立つというのだ?」


嘲笑いながらのその言に、クリリンとピッコロが眼光鋭くサイヤ人を睨んだ。


「この前とは違う! もっともっと、ずっと強くなってるさ!」

「きさまら、孫悟空をなめるなよ……!」



そんな会話を聞いていたでっかいほうのサイヤ人が、大声で笑い出した。


「だっはっは!!! そのわりにはちっともやって来ねえじゃねえか! 怖くて逃げちまったんじゃねえのか!?」
「来るよ!!! おとうさんはきっと来る!!! おまえたちなんかやっつけてくれるんだ!!!」


それまで小さくなっていた悟飯が、父親を罵倒されて切れ、間髪いれずに怒鳴り返したそのとき。






ばしゅんっ!!!



「「「「「!?!?!?」」」」」






火花を散らしていた両者の中心に、吹きすさぶ突風のごとく、一人の人物が姿を現した。



突然の登場に驚くその場の全員の視線の先、その人物は肩で大きく息をしていて。
全速力で力のかぎりを尽くしたのだろう、うつむき膝に両手を当てて激しく咳き込んだ後、顔を上げた。






「はあっ、はあっ! そ、そうよ、もうすぐ、来るよ、悟空は」






途切れ途切れに言うその澄んだ声は、しばらくの間行方不明だった人のもの。
先ほど咳き込んだのとひどい息切れのため、その瞳は潤んでいて。






一瞬の間、の後。






、ちゃん……?」「孫悟空の………」「―――――――――おかあ、さん?」










クリリン、ピッコロ、そして悟飯が、呆然とした声をあげる中、とりあえず息を整えたがくるり、と三人を振り返り。











「遅れちゃって、ごめんなさい」





バツが悪そうに、微苦笑を浮かべた。





















バシュンバシュンとすっ飛ばし、戻ってきました現世。なんとか登場、サイヤ人さんたち。
あらあら、おやおや、それからどんどこしょ〜♪(古っ!)