突如として現れたに、動揺を隠せないクリリン、ピッコロ、そして悟飯。
さらにはサイヤ人二人も、いきなり出てきた彼女を、目を丸くしてみていたりする。
しかしてその場の全員の度肝を抜いた当の本人のいまの状況はと言えば。
ひたすらダッシュして、この場所に来ることだけを考えていたは、次に最強最悪のサイヤ人たちと一戦交えなければならないことなどすっかり抜け落ちていたらしく。
息は完全に上がっていて、酸素を吸い込むたびに胸に痛みが走り、膝が笑うとはこういうことなのか、と納得できるほどにガクガクと定まらない足元。
………つまるところ、既にそんな体力が残っていなかった。。。
とりあえず、今はなんとなく(だが妙に癇に障る)見覚えのある戦闘服を着ているでこぼこコンビは置いといて。(いいのか?)にとっての最優先かつ最重要事項としてすべきことは、仲間の生存確認だ。
ゼイハアと喘ぐ呼吸を無理やり整えて、ちらりとそのでこぼこコンビを見やってからすぐに視線をはずし、それからは感じたことのある気配のほうへと目を向けた。
の目に映ったのは、ピッコロ、クリリン、そして―――――――――
「………悟飯」
ビックリ顔をひとつひとつ確認し、視界に捉えたわが子の姿に少し驚いた。
長いようで短かった、一年。
その、たった一年で、こんなに変わるものなのか。
の中で記憶していた悟飯よりも一回り背が高くなっているし、なによりひどく、逞しくなっていて。
顔つきも、瞳の色も、体付きも…………すべてが成長しているように見えて、けれども以前と少しも変わらないその優しい雰囲気は、悟空のそれにひどく近くて。
いまだフラフラな足を叱咤して無理に身体を起こし、動けないでいる悟飯を抱きしめた。
腕に収まるその存在は、確かに以前より大きくなっているし、確かに、以前よりもプニプニ感が削がれているけれど。
悟飯の感触も感覚も気配も、やっぱり温かくて、柔らかい。
ぎゅう、と少し腕に力をこめれば、胸から溢れ出すのは『愛しさ』とそして――――――『罪悪感』。
「………ごめんね。ごめんね悟飯。一年間も、ひとりにしちゃって」
強くなるためとはいえ、守るためとはいえ、まだ年端もいかないわが子を長い間ほったらかしにしてしまった自分は本気で母親失格だ。こんなに、愛していたのに…………愛しているのに。
緊張しているのか、いまだに身体を硬くしている悟飯を感じ、やっぱり許せないよね、と思ったとき。
「……おかあさん…………」
固まっていた悟飯が、ぎゅっと自分の胸にすがってきてくれた。
嗚咽を漏らしながら必死で声を殺して泣く悟飯。皆が見ている前で泣くことに抵抗を感じるほど成長した悟飯に、嬉しさと寂しさの入り混じったような感情がわいてくる。
「ごめんね…」と繰り返しながらその小さな背を撫でると、何度も何度も、首を横に振ってくれた。
第十三章:Break Time
涙のご対面を果たした親子。
抱き合っている悟飯とを見て、クリリンがうんうんと頷いていたりする中、ピッコロだけはいたく冷静にただいまの非常にヤバイ状況展開に軽く舌打ちをした。
「ちっ、誰が来たのかと思えば…孫悟空の女じゃないか。がっかりさせやがって………」
気配を感じることもできないほどの超スピードだったから、てっきりやっとこさ孫のヤツがやって来たと思ったら。
現れたのはその片割れで。
まあ、彼女も多少の戦力になるのは確かだが、いま彼女は傍から見てもはっきりわかるくらい満身創痍。ここに来ることだけですべての力を使い切ったことがわかりやすいほど見て取れる。
忌々しそうなピッコロの発言に、は抱きしめていた悟飯を放してピッコロを見上げた。
へへへ、と力なく笑って「がっかりさせてごめんなさい」と謝罪してから立ち上がり、それからその顔にふわっと柔らかい微笑を浮かべた。
「………悟飯を、ありがとうございました。こんなに嫌なヤツ二人といないって思ってましたけど、悟飯をいろいろな意味で強くしてくれたこと、感謝します」
悟空を殺そうとしたこと、絶対許さないって思っていたけれど。
ほったらかしにしてしまった息子をこんなに立派に鍛えてくれたのが、その「二人といない嫌なヤツ」だったことに不思議な運命の流れを感じる。
「……ふん。オレ様の狙っている世界征服には、悟飯の力が必要だっただけだ……」
「ふ〜ん、そっか」
は意味ありげに笑い、それからそばにいる悟飯に視線をやって。
「ね、悟飯。ピッコロさんのこと、好き?」
「はい! おかあさんと同じくらい好きで、おとうさんと同じくらい尊敬してます!」
間髪いれずに答える息子の、パッと明るい笑顔。
その顔でわかる。ピッコロは、彼なりに悟飯を大事にしてくれたんだ。こんなに強く逞しく成長しなければならなかった過程を想像すれば、悟飯は血の滲むようなつらい毎日を経ていたはず。それでも、どんなに厳しくされても耐えられる「愛情」を、悟飯ははきっと感じていたんだ。
それに、自分のことは「孫の女」なのに、悟飯のことはちゃんと「悟飯」と呼んでいるその事実に、はなんだか嬉しくなってしまって。
ニコッと笑ってピッコロを見上げたら、彼はプイ、とそっぽを向いてしまった。
孫悟空も悟飯もそうだが………この女、調子が狂う………。
そんなふうにピッコロが思っている中、クリリンが現状を思い出したようにを見る。
「てゆうか、ちゃん。なにしに来たの!?」
「なにしに……って。もちろん、戦いに。ちょっと、遅かったかな……」
確かにの力は了承済みではあるものの、命のやり取りの場にはあまりにそぐわない存在に、クリリンは慌てたように彼女を見たが、とうの彼女は「戦いに来た」ときっぱり言い切って。
それから、目の前にいる三人以外の気配が感じられないことに、目を伏せる。
そんなに倣い、クリリンもうつむいた。
「ヤムチャさん、天津飯さん、そして餃子。やられちまった………」
ポツン、と落とされたクリリンの言葉に、はグッとこぶしを握りしめる。
仲間を守るために修行したのに、これじゃ、元も子もない。「間に合いませんでした」で済む問題でもない。
唐突に浮かんだのは、ブルマとランチのことで。悟空が死んだときに味わった、今にも自分が壊れそうなあの悲しみを、二人にも味合わせる羽目になってしまったことが、何よりもやるせなくて。
「わたしがもう少し、早く着いていれば……」
「きさまが早く着いていたところで、結果は同じだ。そう落ち込むこともあるまい」
落ち込み少し声を震わせたの言葉に、間髪いれずに鼻で笑いながらバカにしたような口調で言い放ったのは、悟飯の「大好きな」ピッコロで。
………すなわち、「おまえなんか役に立たないぜバ〜カ」的な物言いに、へこんだ気持ちを一転、ちょっとイラッとくるである。
「何気にかなりムカつくんですけど、この人」
「ふん。オレ様は事実を言ったまでだ。それに、そんな体力の残ってない身体でどう戦うつもりなんだ?」
ピッコロの確信をつく問いに、自分のバカさ加減を思い出し、今度はしゅ〜ん、とうなだれだす。(ホント、忙しい)
とにかくできる限り早くたどり着くことだけでいっぱいいっぱいになり、体力を使い切ってしまったという、究極の大ポカ。どうして先のことまで考えなかったんだろうか、といつものことながら自己嫌悪をしてみても、やっちまったことは取り消せるはずもなく、いまさら反省したところで失った体力が回復するわけもない。
いろんな意味で落ち込みマックスになり「ほんとバカじゃないの、わたし……」と呟くの情けない表情に、今までの重く緊迫した雰囲気が流された。
「お、おかあさん、元気出してください。大丈夫です、なんとかなりますよっ」
「なんとかなる…つっても悟飯ちゃん、このどえらくプライドの高いピコさんが宿敵の悟空が来るのを切望してるじゃん。そんだけ敵さんに歯が立たなくて形勢不利ってことでしょ? そんなときにわたしってば何やってんだろ」
てゆうか、年端もいかない自分の息子に慰められるなんて、なんて不甲斐ない母親なんだろう、と、また別の意味でドドンとへこんだに、怒視線を走らせるピッコロ。
確かに勝算はもう皆無で、孫悟空の来訪を心待ちにしていたが、それを他人に言い当てられるのはプライドの高い彼にとっては事実なだけに腹立たしい。
「………黙れ。きさま、このオレ様に喧嘩を売るつもりか?」
「は? なんでピコさん怒ってんの?」
「その『ピコさん』はやめろっ!」
きょとん、と聞き返す本気でわかってないそのお惚け顔になんだか余計にむかっ腹が立ち、そのうえ大魔王ともあろう自分に向かって『ピコさん』とは。
こめかみに青筋が浮かんだのを見て、「怒りの矛先がちがくないですか〜?」とのほほんと言葉をかけるに、本気でキレそうなピッコロの様子に慌てたクリリンと悟飯が、二人の間に割って入り。
「まあまあ……。今は仲間内で喧嘩してる場合じゃないだろ?」
「そうですよ。ピッコロさん、おかあさんはこれで素なんですよ別にピッコロさんを怒らせようとしてるわけじゃないんです」
「ちゃんも、ピッコロの性格知ってるんだからあんまり刺激しないでよ」
先ほどまで命のやり取りをしていたなんて嘘のような緊張感の無さ。
悟飯に宥められたピッコロがふん、と鼻を鳴らしておとなしくなったのを見たは、「やっぱりピコさんは悟飯のこと大切に思ってるんだな」と嬉しく思ったが、クリリンの「あまり刺激するな」という言葉を受けて口にするのは我慢した。
しかしてニコニコ笑うのその表情は、あまりにもわかりやすく。
「オレ様をバカにするつもりかきさま」
低く呟き、その暢気に笑っている顔に睨みをきかせれば、は穏やかな笑顔はそのままに、フルフルと柔らかく首を横に振った。
「いえいえ、そんなつもりはまったく。ただ、ピコさ…ピッコロさんて、思ってたよりもずっといい人だったんだな、と思って」
クスリ、と笑いながらのその言葉は、少し前に悟飯の口からも聞かされた。
荒んだ心が和んでしまうような、不思議な感覚。そんな彼女の雰囲気に思いっきり流されている自分と、それから妙に緊迫感のなくなった場の空気を感じ、妙な気配を持つ女だ、と、ピッコロはそこから視線をはずした。
そんなふうに一瞬にして切迫した雰囲気ををぶち壊し、あまつさえ自分たちを完全無視状態にせしめたに向かうのは、興味深そうなサイヤ人の二対の目。
「ベジータ、あの女……」
「ああ。声から察するに、ラディッツを骨抜きにしかけた女だな……ということは、カカロットの女、か」
最初に登場したときは、そのスピードに驚いた。
それから、思ったまま感情のまま起こす行動と、その流れに思い切り振り回されている地球人たちの様子を呆気にとられて傍観してしまっていた。
あまりにも感受性豊かで、ひとつところにとどまらないその表情。
くるっくると変わるその様に少々呆れている自分たちも、裏を返せば彼女の纏う不思議な気配に飲まれているのかもしれない、と思ってしまったが、よくよく見れば。
さらりと流れる茶色がかった黒髪、先ほどから上がったり下がったりしている整った眉、その下の切れ長の目には表情豊かな鳶色の澄んだ瞳が収まり、滑らかな頬は走ってきたせいか少し高潮している。高く澄んだ声が零れてくるその唇は、艶やかで。
今はどうやら体力を激しく消耗しているらしいが、あのスピードといい、少し線が細すぎるがその容姿といい、きっとあの中では一番楽しめそうな地球人――――――いろんな意味で。
「ほう……。下級戦士のカカロットには勿体ねえくらいいい女じゃねえか、なあベジータ」
「………ああ。なるほど、あのラディッツが揺らぐわけだ」
ニヤつくナッパの言葉に、思わず本音を漏らしたベジータ。
容姿はもとより、なにか、見ているだけで心が和んでしまうような、そんな印象を受ける。
非情のサイヤ人の中でも超エリートの自分でさえそんなふうに感じてしまうのだ、下級戦士のラディッツが心を奪われるのも無理はない。
そんなことを思っているベジータの隣で、ナッパが動いた。
「おい、そこの女」
ナッパの声に、ぶっ壊れた緊張感が瞬時に戻る。
ほわほわ笑っていたの顔も、その他と同様のきりっとした表情が窺える。
そんな引き締まった表情にもまた妙な色気を感じ取り、ナッパは薄く笑った。
「おまえ、名は何てんだ?」
「………人に名前を聞くときは、まず自分から名乗るのが礼儀じゃないでしょーか?」
聞かれたほうのは、どうやら目の前のでっかいほうのサイヤ人が仲間を死に至らしめた実行犯だと認識したらしく、ギラリと鋭くその目を見返し。それから、その「ニヤリ」笑いにゾクリとするものを感じて、嫌悪感もあらわに突き放したような口調で言葉を返したが、ナッパにしてみればそれもまたツボだったようで。
「いいねえ、その強い目! ますますオレ様の好みだぜ!」
「………ねぇ、この人キモいんですけど………」
ナッパの発言に、思わず仲間たちのいる後ろを振り向いてが呟くと。
「確かにキモいが、その強さは本物だ。気をつけろ」
と、渋〜い顔をしたピッコロさん。
「つーか、そんなこと言ってる場合か?」
と、何気にこんなやばいヤツにもモテモテかよ、と思いながらもやっぱりそんなこと言っている状況じゃないだろう的なツッコミを入れるクリリン。
「ボクのおかあさんをそんな目で見るな!」
と、ママ大好きな悟飯ちゃんは怒り気味。
そんな感じで思いっきり拒否反応を示すと、微妙な空気をかもし出すその仲間たちのことなどまったく無視して、ナッパは一人ふんぞり返って胸を張った。
「オレ様はサイヤ人の名門出のエリート戦士、ナッパ様だ!」
「あっそ。まあ、そんなことはどうでもいいや………」
なんだかわからないがえらっそうに自己紹介をしたナッパに向かって、は視線を逸らしてポツン、とこぼした。
そう、こんな男の名前なんてどうでもいい。
今自分がすべきことは、できるだけ長く、悟空が来るまでみんなを守ること―――――――――なのに。
「どうでもよくはねえだろう。おまえはオレの女になるんだぜ?」
「――――――アタマ、膿んでるんですか? わたしは悟空の奥さんですよ?」
「ゴクウ? ああ、カカロットのことか。あんな下級戦士のどこがそんなにいいんだかわからんが、今からはそんなのは関係ねえな。どう考えてもオレのほうがいい男だぜ」
「…………バカじゃないの? 名門出だかエリートだか知らないけど、わたしのだんな様のほうが断っ然いい男ですよ」
はナッパの根拠のない自信満々な態度に、一歩もひかずにその巨体を睨み上げる。
その超絶反抗的な瞳にナッパは一瞬ひるんだが、次の瞬間こめかみに青筋をくっきり浮かばせた。
「この女ぁ、言うに事欠いて、オレ様よりもあんな下級戦士のほうがいい男だと!?!?」
「事実です」
怒髪天を突くナッパの言葉に、サラリとすまして答える。
そんな彼女に、もう我慢ならないとばかりにナッパのお怒りモードが全開になった。
「好き勝手言いやがって! カカロットなんぞよりこのオレのほうが上だってことを、その身体でわからせてやる!!!」
怒気を孕んだすさまじい気迫に、たじろぐピッコロ、クリリン、悟飯。
しかしては、いきなり感情的な声を上げたナッパに比例するごとく、怒りのボルテージを上昇させてしまい。
「好き勝手言ってるのはそっちじゃん!!! やれるもんならやってみろこのおバカ!!!」
瞳に炎を宿して怒鳴り返したの態度に、火に油を注ぐがごとく激しく怒っているナッパを感じたピッコロが、こっちはこっちで怒りマックスのを慌ててを振り返る。
「バカかきさまはっ!!! 孫悟空がまだ来ないのに、下手に刺激するなっ!」
「だって、ムカつくんだもんあのハゲ頭!!!」
「「ハゲ頭…………」」
ピッコロの怒鳴り声に、即座に感情のまま怒鳴り返すの言葉。普段穏やかな彼女だが、昔から感情的になると見境ないところは変わってないな……と、クリリンと悟飯は思わず脱力。
しかして攻撃態勢に入ったナッパの気を感じたは、自分が今、戦えるほどの体力が残っていないことをいまさらながら思い出してしまったが、言ったことを取り消す気なんか毛頭ない。
ええい、仕方ないっ!
こうなったらやるしかない、限界突破なんか、界王星で死ぬほどやってきた!!!
と、がっつり覚悟を決めて、怒りに任せて気を開放しようとしたまさにそのとき。
「ナッパ、待てぃ!!!!!」
「「「「「!?!?!?」」」」」
勢いつけてに向かってくるナッパと、それを迎え撃つために軽く身構えたの間に割って入った凛とした通る怒鳴り声。
急ブレーキをかけたナッパと、決死の覚悟で臨んだ気合を流されてビックーン、と飛び上がった、そして、自業自得とはいえ見殺しは拙いだろう、とを助けようとやはり気合を入れていたピッコロ、クリリン、悟飯が、目を丸くして声を上げたその男を見る。
「な、なんですかベジータ。なんでやらせない………」
そう問うたのは、攻撃を中断させられたナッパ。
不服そうなその目を一瞥してから、ベジータはついっとその視線をに向けた。
「オレ様はベジータ。誇り高き強戦士族サイヤ人の王子だ。……で?」
「―――――――――で?」
「おまえの名は?」
一瞬、なにを言われたのか理解できず、戸惑ったようにベジータを瞳に映したが、その涼しい顔をキリ、っと睨んで。
「わたしの名前なんか、関係な―――――」
「おまえの、名は?」
関係ない、と言おうとしたの言葉を遮り、ベジータが再度、問う。
その、鋭く光る強い眼光と竦みあがるような覇気を感じ、は反射的に目を逸らして。
「………、です」
思わずポツリ、と自分の名を口にした。
逆らい難い、人を萎縮させるような雰囲気と、射抜くような強い光を宿す瞳。
瞬時に、ナッパなんかとは比べ物にならないくらいの力量を感じ、ひとつ身震いするをその瞳に捕らえ、ベジータは薄く笑む。
「そうか。で、、カカロットはどうした?」
聞かれたは顔を上げ、逸らした目を再びベジータに向けて、まっすぐに見据えた。
「悟空は、ここに向かってます。どれくらいで着くかちょっとわからないけれど……必ず、来ます」
断言する、強い口調。
自分を見て畏怖と恐怖を感じていた目の前の女が、カカロットの名を出しただけでその瞳に宿る強い光を蘇らせたのを見て取って、ベジータが小さく笑った。
「なるほど………おもしろい。よかろう、やつが来るまで待ってやる。おまえもずいぶんと体力を失っているようだし、このまま戦って死なすには惜しい」
どんな意図でベジータがそんなことを言い出したのかわけがわからず、微妙な顔をしたに対し、血気盛んなナッパが納得できずに反論しだした。
「なんだと!? 冗談だろベジータ! あんなやつ来るわけねえぜ!!!」
「来る!!! 悟空は、ぜったい来る!」
「そうだよ、おとうさんはきっと来ます!」
の強い声に、悟飯が大きく頷き。
それを見たベジータがのどの奥でクック、と哂った。
「ただし、三時間だけだ。それ以上は待ってやらん」
冷静で、静かな声。
なにを考えているのか窺い知れない、変わらない冷笑。
背筋に冷たいものが走りながらも、とりあえず三時間だけでも悟空が来るまで待ってくれるというのは願ってもないことだ。
そう思い、肩の力を抜いたたちだったが。
「ばかばかしい!!! オレはいま遊ぶぞ!!! とそこのナメック星人を死なせなければ問題ないだろ!!!」
途中で止められたナッパはやっぱり納得がいかないらしく、そのまま襲い掛かってこようとしたそのとき。
「ナッパ!!! オレの言うことがきけんのか!!!!!」
一括するように張り上げた声と、すさまじい覇気。
屈強な壁に阻まれたようにナッパは急停止して、ベジータのそばにおとなしく降り立った。
「す……すいません。つい、調子に乗っちまって………」
そんなナッパに軽く視線をやってから、ベジータが地球防衛組に嘲笑を向け。
「そういうことだ。少しは寿命が延びたんだ。感謝しろ」
そう言うと、足元に落ちていたスカウターを拾い上げて時間をセットし、近くの岩に座り込んだ。
「なんか、よくわかんないけど………とりあえず、助かったぁ」
ペタン、と緊張の糸が切れたようにその場に座り込み、いま戦っても、ちょっと勝ち目ないもんね、なんて力なく笑う。
まったくなんというか、感情のままに動く彼女のせいでやばくなったり救われたりしているいま現状に、あきれたような視線を送るピッコロ、クリリン、悟飯。
けれどもそんな一時の休戦状態の中で、ナッパをあれだけ脅えさせたベジータの計り知れない強さに、おのおの戦慄を覚えていた。
ハイ、壊れてます壊れてますサイヤ人さんたちの人格!
これからどんどん壊れます。。。イヤン///

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