三時間だけ待ってくれるらしいサイヤ人。
何でだかは知らないけれど、の体力回復と悟空が来るまでの時間稼ぎにはもってこい。
そんな感じでこの貴重な時間を満喫(?)させてもらうことになった皆々様は、休憩タ〜イム、でお話中。

「「あの世で悟空(おとうさん)と修行してたーーー!?!?!?」」
「………あはv なんか、成り行きでそうなっちゃって、さ」
「きさまは………呆れてモノも言えん」

三時間後、また再開するであろう死闘への不安と緊張はどこへやら、の常識破りの所業にまたもや流される地球防衛組でありした。







第十四章:三時間ほど待ちましょう






「でもよう、ベジータ、なんでカカロットのやつなんか待ってやるんですか……」



自分たちが不利な立場に置かれていることになんら変わりはないはずなのに、なんだか和んでいるような地球人たちと、その中心で笑っているに忌々しげに視線を投げかけながら、ナッパがベジータに問う。

ベジータはスカウターを装着しながら、ナッパの視線がに向いているのを見て皮肉げに笑った。



「フッ……ナッパよ。に否定されたのがずいぶんと堪えているようだな」

「あたりまえですよ。あの女…よりによってこのオレをカカロットよりも劣るなんて言いやがったんだぜ」



自分は名門出なのに、エリートなのに、と悔しそうなナッパの様子。
問題はそこではなくて、顔と口調となにより仲間を殺された私憤からきていると気づいていないらしい。



「………あの女、絶対モノにしてやるぜ」

「ある意味、それもカカロットを待つひとつの理由でもあるな………」



ナッパが零した呟きにベジータがそう言えば、ナッパはいぶかしそうな視線をベジータに向けた。
その視線を受け、ベジータは皮肉げな笑みをその顔に貼り付けたまま、地面に視線を落とす。



「カカロットは、オレたちサイヤ人の裏切り者だ。裏切り者には、制裁を加えてやらねばならん」



ベジータのきっぱりとした発言と冷たさを増した威圧的な気配に、ナッパは一瞬身を固くする。
そんなナッパに、ベジータは顔を上げ、ついっと視線を向けて酷薄な笑みを浮かべた。



「ヤツの目の前で、息子と仲間を殺してやるんだ。………それから、妻であるも」

も、ですか………」

「と、思っていたんだがな…。確かにおまえの言うとおり、はカカロットには勿体無いくらいいい女だ。容姿も、度胸も、それから向こうっ気の強さも。殺すには惜しい」

「だろ!? そうだよなあ! な〜んであんな弱っちいカカロットがいいんだか」



パッと表情を明るくするナッパを嘲笑うかのように一瞥するベジータ。それから地面に視線を戻し。
単細胞のバカであるナッパには、彼女をモノにすることなどはっきり言って限りなく不可能に近い。(ひどい…)
念のためスカウターで彼女の戦闘数値を調べたが、へロヘロの今現状でナッパの数値をやや下回っている程度。本来の状態に戻ればそれを上回ることに間違いはなく、さらにこの三時間で体力回復も間違いない。
すなわち、外見、品性で拒否られるのも然ることながら、力ずくでもおそらく無理。(さらにひどいが…ベジータ的冷静かつ正確な判断力)

彼女がいったいどんなことをしてこの短期間にこれほどの力をつけたのかは謎だが、ナッパは無理でも自分にしてみればまだまだ格下だ。彼女のパワーアップからして、カカロットのほうもかなりの力をつけて戻ってくるはずだが、それを考慮に入れたところでカカロットが超エリート戦士である自分を上回ることは絶対的に不可能だ。





「ベジータ?」



うつむきじっと考え事をしているかのような様子に、ナッパが話しかけると、ベジータはひとつ息を吐き。



「殺さずとも、彼女をこっちでいただいてしまえばカカロットにとっては殺すよりもさらにダメージになるだろう。ずいぶんと可愛がっているようだからな……。そのあとで、やつもじっくりと料理する。己の無力さをわからせ、もだえ苦しませてやるんだ」



ナッパは無理でも、自分がをモノにするのは赤子の手をひねるよりも簡単なこと。
――――――――外見も、品性も、力も。(何気に力以外にも自信たっぷりなベジータ…)
そう思いながら、口元だけに薄い笑みを貼り付けたベジータを見て、ナッパは自分が彼にどんな風に思われているのかも気づくことなくニヤリ、と笑った。




「なるほど…そういうことか。 そりゃあいいぜベジータ!」

「三時間のうちにヤツが来ればの話だがな……」



残虐な作戦に興奮するナッパに、ベジータは小さく笑い釘をさす。
どっちにしろ、来なくても同じこと。三人は殺し、を奪い、地球を徹底的に破壊する。それだけでも自分たちは充分に楽しめる。来ればさらに楽しみが増えるだけの話だ。



「カカロットは譲るけどよ、あの三人とはオレにやらせてくださいよ!」

「……好きにしろ。ただし、あのナメック星人はドラゴンボールのことを吐かせてからだ」



ドラゴンボールで不老不死を願うという目的もあることから、ベジータが冷静にナッパに言えば、ナッパは口端を吊り上げて頷いた。





「来るといいなあ……カカロットのヤツ」

















で、そんな悪巧みをしているサイヤ人たちから離れること約100メートルほど。

「くそっ! 悟空のヤツ、なんで来ないんだよ……っ! あいつ、ほんとに生き返ったのかなぁ……」

「うん、生き返ったと思うよ。………たぶん」



あいまいな返事をするに向かう皆様方の反応は、みんながみんな、「は?」と言う感じで。



「たぶん……って、おかあさん。おとうさんと一緒だったんでしょ?」



代表して悟飯がそう問うと、は今日何度目かの苦しい笑いをその顔に貼り付けた。



「ん、一緒だったんだけどね。え〜と……悟空が生き返る前に急がなきゃならないことを界王さまから聞かされて、ね。生き返るのを見届ける前に、その………」

「ダッシュ、かましたんだね、ちゃん」

「……………………はい、スイマセン」



濁した語尾を継いだクりリンの言葉に、しゅん、と小さく呟きうつむいてから、突然ババッと顔を上げたは、グッとこぶしを握りしめて。



「で、でも! 生き返らせてくれるように頼んでた(ような気がする)し!それに、生き返ったとしても、蛇の道っていうバカ長い100万キロっつう距離走ってこないと現世に戻って来られないんだよ。だから………」

「で、おまえはその100万キロというバカ長い道を、愚かにも体力配分も考えずにひたすらダッシュでここまで来たってわけなんだな?」

「……ピコさんムカつく…けど事実だから言い返せないのが悔しい。。。まあ、それは置いといて、そういうわけなんですよ。フライングスタートだったけど、わたしがここに到着してるんだから、三時間もすれば悟空も絶対くるっ!!!………と、思う」



なんだか信じられるのかられないのか、ボッコボコのの説明だけれども、とりあえず悟空がここに向かっていることは間違いないらしい。
とにかく信じて待つしかないのだが、やっぱり今現在の状況的に、形勢不利なのは確かなわけで。
不安に揺れる精神のせいか、「もしかしたら来ないんじゃないか……」とマイナス思考になってしまうのが人間の心理というものだ。





「な、なあ。こうなったらやっぱり逃げようか! 勝ち目はないんだ、意地張ってる場合じゃないぜ!」

「バカめ、やつらはどっちにしても人類を全滅させるつもりだ。今逃げたところで、同じだ」



クリリンの提案を、強がりがみえみえの皮肉っぽい笑みを浮かべたピッコロが即座に否定する。



重苦しい空気が流れる中、が顔を上げてサイヤ人のほうに視線を向けた。
こっちを見てなにやらニヤニヤ笑っているでっかいほうの…確か、ナッパとかいうキモいほうのサイヤ人と目があった気がして、思わず「あっかんベー」と舌を出した。



「なにをしてるんだきさまは。こんなときに」

「なんか、ヤラシー笑いかたしてるような気がしたから」



なんて緊張感のないヤツなんだと呆れながら、「うえぇ」と顔をしかめるをため息交じりで見るピッコロ。
……だが、こんな現状の中でそんなふざけた態度をしている彼女に対して、不快な気がせず、むしろ、なんだか余裕ができたように感じるのは何故なのか。
状況的には、何も変わっていない。
このまま悟空が来なければ、三時間後に迎える結果は今想像しているものとなんら変わりはないはずなのに。
―――――――――彼女のペースに乗せられて、胸を覆っていた不安と絶望感が、何故だか一掃されてしまう。





変な女………だが、気分的には悪くない。





ピッコロがそんなことを感じているなど露知らず、相変わらずサイヤ人のほうを見ていた当のはといえば。



「あんな程度の力で、悟空を『下級戦士』なんてバカにして! 絶対許せないっ!」



………………あんな程度…………!?

聞き流すにはあまりにも衝撃的なその言葉に、仲間たちが驚きで目を丸くした。
三人がかり、しかも地球で悟空の次に強いピッコロがそこに入っているにもかかわらず、まったく歯が立たなかった相手をつかまえて、「あんな程度」なんて。

集まる視線なんかまったく気づかず、一人ぶつぶつと悪態をついている
まさか、相手の気の力を感じていないんだろうか。





「あんな程度……って、おかあさん?」

「オレたちが束んなってかかっても、全然歯が立たないんだぜ」

「バカも休み休み言え。相手の力がわからんほど、未熟ではなかろう」



いくら頭にきているとは言ったって、お惚けにもほどがあるだろう、と思いながら各々そちらに眼を向けて、それぞれに声をかける。
その声にくるり、と振り返ったは、戸惑ったような視線を自分に投げかけている仲間たちにふわっと笑いかけてから、サイヤ人たちに視線を戻した。
ナッパに向かうその視線は鋭く、いつもの柔らかさが完全に消えているその横顔は、先ほどまでバカやっていた彼女とはまるで別人で。
今さっきふわっと笑いかけてくれた彼女とのあまりのギャップに、全員、軽く息を呑む。





「うん、三時間も休めば、あいつだけならわたしでもなんとかなる」



確信したように頷く
それは気休めでもなんでもなく、ナッパの戦闘力を認識した上での断言だと、その目と表情が物語っていた。



言われてみれば。
あまりにすっとぼけてる行動に流されるままになっていたために彼女を『戦士』と見ていなかったが、柔らかさの消えたその気配からは確かに以前とは比べようもないほどに圧倒的な力を感じる。







「…………マジかよ、ちゃん」



掠れた声で問うクリリンに、は軽く頷いてから、今度はベジータのほうに視線を送った。



「ただ…それは、あのちっさいほうのやつが出てこなければ、の話。あの人はすごい。威張ってるだけのことはある」



そう言って、は仲間たちのほうに向き直り、ふう、と一息ついてから、鋭利な刃物のように鋭かった表情を緩めた。



「やっぱり、この三時間のあいだに悟空が来てくれるのがベスト、かな」



小さなため息とともにこぼされたの微苦笑は、なんだか悔しげに見えた。
勿論、自分だけでなんとかなると思うほど自分の力を過信していたわけではないが、死ぬほど頑張ってきたのに、小さいほうのサイヤ人との力の差はあまりにも大きくて。
神様に任されて、ポポさんにも「頑張る」なんて言っておきながら、コレじゃ地球どころか、目の前の息子と仲間たちさえ守りきれないかもしれない。
悟空も悟飯も守ってみせるって意気込んでいたのに、結局最後は悟空を頼るしかない自分が、なんだか情けなかった。





「もし。もしもだよ? 悟空が来なかったら……逃げたほうがいいかも」



ポツリ、と零れた小さな声。



「逃げたところで同じだと言ったはずだ………怖気づいたか」



皮肉げに笑いながら、その呟きにピッコロがスパッと突っ込めば、はそんなピッコロの馬鹿にしたような顔をまっすぐに見返して。



「あのナッパっていう人だけなら、わたしだけでもきっと倒せるから。だから、もし悟空が来なかったら、わたしが戦ってるうちに、みんなは逃げたほうがいいかな、と」



本当に情けないけれど、みんなの命を守る方法なんて、これくらいしか思いつかない。
けれどそれさえ、あのベジータって人が動かないで見逃してくれれば、の話。つまり一種の、賭け。



「おかあさん、それって………」



不安そうに見上げてくる悟飯に、は明るい笑顔を向ける。



「悟飯ちゃん、そんな不安そうな顔しないの。おとうさんが来るまで、おかあさんが時間稼ぐだけ。大丈夫、コレでもずいぶん腕上げたんだから!」



悟飯の目の高さに合わせるようにひざを折り、一見硬そうだけれども柔らかい髪を撫でると、悟飯は小さくうつむいて、の服をギュッと握りしめた。



「いや、です………」

「悟飯?」



うつむき小さくこぼした息子の声が聞き取れず問い返せば、悟飯はしっかりと顔を上げて首をかしげる母親に視線を合わせた。その、強い意志を宿した、双眸。



「おかあさんを残して逃げるなんて、絶対にいやです! ボクだって、ボクだってピッコロさんにいっぱい鍛えてもらったんだ! 闘えます!」

「悟飯…………」





泣き虫で、気が弱くて、臆病で。
戦闘なんかにはまったく向かない優しい性質だから、母親である自分が悟飯を脅かすすべての危険なことから絶対に守ってあげなければ、と思っていた。それが。

向かってくる瞳は力強く、一瞬感じたその覇気は、自分を怯ませるほどの威力。
強く成長したと、そうわかっていたはずなのに、思わず面食らってしまってその顔をまじまじと見つめてしまう。



そのやり取りを黙って聞いていたピッコロが、腕組みを解いてその手を悟飯の肩に置き、を見る。



「………きさまがどうなろうと知ったことではないが、人を勝手に臆病者にするな。オレ様が逃げるわけなかろう」



そんな憎まれ口を叩いていても、ピッコロの表情は決して険しいものではなく、むしろ穏やかで。

そして、クリリンも。



「そ、そうだよな! オレだって、出来ればやられちまったみんなのためにも、一矢報いたいところなんだ」





が自分たちの命を心配してそんなことを言い出したのはわかっていた。
悟飯的には大好きなママを失いたくないという思いから、ピッコロ的には女に助けられるなどプライドが許さない&悟飯の『闘う』の一言が嬉しかったことから、そしてクリリン的には一人にすべてを任せて逃げたりしたら仲間たちに申し訳ないという思いから、自分たちも一緒に闘う、と再度決心したわけだが。


口々に『逃げるもんか』と主張する皆様方の言葉に、はといえば、どうしたもんか、と困惑しているのが見て取れる。
ほかでもない彼女が、その場の全員の闘志に火をつけてしまったことなど、まったくわかっていないその様子。



「いや、臆病とかそういうんじゃなくって。ホラ、『退くも勇気』っていうじゃん?悟飯もピコさんもクリリンさんも――――――」

「だからっ! ピコさんはやめんか!!!」


「あ、あああごめんなさいーーーっ!」





―――――――――結局、最後はシリアスをぶっ壊す地球防衛組。





「と、とにかくさ!悟空が来ないって決まったわけじゃないんだし!まあいいじゃないか!」



再びキレたピッコロに慌てて謝っているの図を見ながら、クリリンが切り出す。



「でも……」



それでもまだ言い募ろうとするを軽く手で制したクリリンは、微妙な笑みをその顔に浮かべ。 



「それにさ………。もし、オレたちが逃げ出してちゃんひとりがサイヤ人と闘って万一やられでもしたら、たとえそれがちゃんの意思だったとしても、悟空が黙っちゃいないと思うぜ?」

「そりゃ、まあ、ね。でも!悟空だったら絶対仇とってくれるから!」



的に、サイヤ人たちに対して悟空が黙っているはずもない、という解釈をしたわけなのだが、クリリンはため息混じりに軽く首を振る。



「そうじゃなくて。ちゃん絡むとアイツやばいからな………。サイヤ人はもちろん、逃げ出したオレちの命も危ないんだよ、マジで」

「―――――――――言えてます。おとうさんの一番は、おかあさんだから………」



まさか、と思いつつも、今までの悟空の自分に対する過剰な愛情表現を思い出せば、さもありなん。
それはそれで今まではタイヘン嬉しかったけれども、もしそんなことになったらものっすごく悲惨、更なる悲劇。
そしてそのまっすぐな愛情を、息子にまで悟られているという始末。(まあ、あれだけ息子にヤキモチやいてれば、いやでも気づいてしまうかもしれないが)



「だからさ、オレたちのためにも、『逃げろ』なんて言わないでくれ」



そう言ったクリリンの顔がなんだかすごく微妙で、その言葉にコクコクと頷く悟飯の顔が妙に真剣だったので、は思わず笑ってしまった。
釈然としないながらもとりあえず頷けば、ピッコロがそれを見て鼻を鳴らして。



「………孫が来れば問題のない話だ。余計なことを考えてないで、きさまはできるだけ体力を回復させろ」

「うぃっす!」



とりあえず吹っ切れたのか、ビシ、と敬礼つきで返事をしたを一瞥して、ピッコロは視線を逸らす。
息子である悟飯や、悟空の親友であるクリリンを守ろうとするのはわかるが、その中に自分も含まれている、その事実になんだか胸がざわつくのを感じる。



柔らかい笑顔、研ぎ澄まされた刃物のような鋭利な横顔、自分よりも他を大切にする心意気。



けれども、彼女のすべては孫悟空のものだと思うと、少し、ほんの僅かだが、胸が痛んだのは気のせいだろうか。




















そして待つこと三時間。

悟空は、来なかった。





















ヒロインさんは、モテなくちゃ!
だって夢だも〜んv(え?)