わかっていたことだけど………ここまで力に差があるなんて。
結論から言ってしまえば、このままじゃとても適わない。
ギリギリまで無理しなきゃ、ふたりとも生きて帰るなんて、限りなく不可能に近い。
だから―――――――――。

「カラダぶっ壊れても死ぬよかいいや……」
「…………悟空?」
「界王拳を三倍まであげるしかねえ」

薄笑いを浮かべて自分たちを見下すベジータをひたと見据え、そう言い出した悟空の言葉を、は否定することなんてできなかった。







第二十章:諸刃の剣







界王拳のしっぺ返しは、相当に辛い。
悟空はちゃんとコントロールできるけれど、はそこらへんが大変あやふやで、使えることは使えるが、使いこなせていないってところが現状。
そんなわけで、本当にヤバくなったときのみ一回こっきりという条件付きで、界王に技を使うことを許された。なにせ彼女は、過去三回ほど修行でやってみたところ、メチャクチャな力は出たものの、その後は三日三晩の昏睡状態。ぶっ壊れるの域を超え、生死の境を彷徨う羽目になった。



だから、身をもって経験済みだ。界王拳は相手に与えるダメージが大きければ大きいほど、同じくらい自分の身体にも大きな負担がかかる。



………本当なら、やめてって言いたいとこだけど。



そんな自分の胸の内なんて、言えっこない。
無理しなきゃならないなんて、ベジータの力量を感じた時点で既に了承済みだし、さっきちょこっと手合わせしてみた時点で、それは決定的になってしまったんだから。





は不安の広がる胸を押さえ、否定したい気持ちをムリヤリ押し込めて、悟空を見上げて笑顔をつくった。



「仕方ないね、頑張れ悟空!だいじょぶ!カラダぶっ壊れたらわたしが責任持ってみんなのところに連れて帰るからさ。フォローは任せて」



の悪戯っぽい笑顔。
その表情はきっと、必死で作っているんだろうと思いながらも、悟空は彼女に笑いかける。



「ああ、頼りにして―――――――――」
「ウッギャーーー!!! 抱きつくなケダモノ放せーーーーー!!!!!」





言いかけた言葉を遮る、の絶叫。






どう見ても分の悪い勝負の中で、さらに力の差を見せ付けてやり、どうやったって二人に勝ち目はないことを立証してやったというのに、なぜか笑いあう目の前のご夫婦に、イラッとしたベジータが動いたというわけで。



そんでもって悟空の目に映っているのは。
今の今まで自分に笑いかけていた隣にいる可愛い奥様は今、無理しなきゃ勝てないサイヤ人の男に羽交い絞めにされ、否、抱きすくめられていて、全身全霊でジタバタと大抵抗を試みていて。



!!! このやろオラのに触るな!!!」

「キサマの? フッ。そんなこと誰が決めたんだ?」



界王拳三倍の話なんか怒り心頭の頭からはすっぽりと抜け落ち(ダメじゃん…)、とにかく引き剥がそうと躍起になって飛び掛る悟空だが、結局はベジータに一蹴されて地面に倒れこむ。



「悟空!!!悟空になにすんのさ!決めるも何も、わたしは悟空の奥さんなんだから悟空のものに決まってるでしょーが!!!」

/// って、照れてる場合じゃねえか、離れろよ!!!」



の怒声とその言葉に、倒れた悟空は一気に浮上。
すぐさま立ち上がって再度引き離そうとベジータに殴る蹴るの暴行を加えるものの、悟空の攻撃はまるで効いていないらしく、は一向に抱きしめられたままで。

ぎゅう、とさらに腕に力をこめてを抱きすくめるベジータが、つい、と悟空に視線を流してニヤリと笑う。



はオレ様のものにすると言ったはずだ。カカロット、キサマを殺してな」



その嘲笑に、自分の身よりもの安否にゾクリと背中があわ立つ悟空をよそに、は火に油を注ぐが如くお怒りモード全開になったらしい。



「そんなことしたらぶっ飛ばすとわたしも言ったはずだ!!! って、イヤーーー!!!顔近い顔近い顔近い!!!



ベジータを睨みあげてぶちきれ発言をしたはいいが、目を合わせた途端、身体がくっつくことによって必然的に近づいた顔の近さを思い知り、ベジータの顔に両手をあてがい、ググググ、と思いっきり腕を突っ張って拒否る

の抵抗により、ベジータの顔は押されるたびに変形し、それを見ていた悟空は思わず、ひでぇ顔……と彼を不憫に思ってしまっていたのだが。
当のベジータは片手でをがっちり押さえ込み、あいたほうの手で自分を突っぱねているの両腕を捕獲して。



「そんなに暴れるな。おまえの力じゃ到底オレには適わない。それに…抵抗されると余計に煽られる」



そう言ったベジータの瞳にちらりとよぎった、好色を含む視線。





―――――コイツはSだ……間違いなくSだ!!!





「や………だ!!!このドSーーー!!! 放せ放せ放せ放せ放せーーーーーー!!!!!」





が身の危険を察知してさらにもがきだすと同時に、ベジータを少しでも可哀想だと思った自分自身に、そして自分以外の男がそういった視線をに向けたという事実に、さらにそんな目でを見たベジータに対して、悟空の怒りが爆発して。





「……………界王拳、三倍だーーーーーー!!!!!!」





限界以上の超パワーを炸裂させ、ベジータを殴りつけた。

カカロットの攻撃に対してガードなんて必要ない、と余裕ぶっこいていたベジータは、今までの攻撃とは明らかに違うその破壊力に、大きく吹っ飛んだ。






突然の開放感に、思わずぺたり、と尻餅をつく
助かった………と、ホッとしたのもつかの間。
上げた視線の先では、すでに悟空とベジータの戦闘が勃発していて。





「すご………い」





まさに、限界突破。
あれだけ開いていたベジータとの力の差なんか微塵も感じさせないどころか、どう見ても悟空のほうが上だ。スピードも、パワーも、すべて上回っている。


それまで薄笑いを浮かべて下級戦士だとバカにしていたベジータの顔が、まず驚愕に変わり、それから悟空の力が自分を超えているという事実を理解したのだろう、燃えるような怒りに変わっていった。




「すごい……悟空すごく――――――カッコいい……///」



怒りで血走った目で悟空に仕掛けるベジータの攻撃をすべて交わすそのスピードも、確実にダメージを与えているそのパワーも、とにかくすごくて、闘っているその姿はとにかく………かっこよくて。





その技が悟空の身体をも蝕んでいることも理解しているし、出来ることなら使ってもらいたくなかったってのも本当だけれども。
事実、時折苦痛に歪む悟空の顔に、不安も広がるんだけれども。
悟空が必死に無理して頑張ってるこんなときに何を、と突っ込みを入れる自分も確かに存在はするものの、思わず悟空の勇姿に見惚れてしまった。





そんなのんきなとは裏腹に、ベジータはぶちきれていた。

超エリートの自分が、最下級戦士を相手に、こんなに苦戦を強いられているその事実は、彼の山の如く高い自尊心をメタメタに切り裂いた。
自分の攻撃は当たらず、カカロットの攻撃は大ダメージとなって身体に刻み込まれている、その事実。
こんなことが、あるはずない。落ちこぼれのカカロットの拳に、自分の血が流れるなんて、あり得ない。
あんなゴミが、自分の力を上回るなんて―――――――――許せるものか。





「もう……こんな星などいるものか!!! 地球もろとも、粉々に打ち砕いてくれるわ!!!」



逆上したベジータが叫び、ものすごいエネルギーを集中しだす。



「よけられるものならよけてみろ!!!キサマは助かっても、地球は粉々だ!!!」

「考えたなちくしょう!!!」







………地球が、なくなる?
ちょっと待ってよ、そんなの………聞いてない!!!



「なに考えてんのよ! 逆上して冷静さを失うな!!!」



焦って飛び上がろうとするの腕を、悟空が掴んだ。





「おめえは行くな! オラが何とかする!」

「だって悟空………っ」

「行くんじゃねえ! アイツに近づいてほしくねえんだよ! わかるだろ!? オラは、ヤキモチ妬きなんだぞ!!!」





イヤ、、、今はヤキモチとかそういうのはまったくナッシングだと思うんだけれども。。。
なにせ相手は怒りでぶっちぎれて、さっきまでの余裕なんてかけらも感じないどころか大体今ここにわたしがいることさえわかっちゃいないほど見ているのは悟空オンリーだし!
そんな突っ込みどころ満載な発言をかます悟空の顔は、必死で、真剣。
しかしてとしてみれば、悟空の身体はきっと、界王拳のせいで、もうボロボロのはず。これ以上、傷ついてほしくない。
といった感じなワケなのだ。





「そんなこと言ってる場合じゃないよ! なんとかしなきゃ、地球が……」

「だから、なんとかする!!!賭けるしかねえけど……オラが、三倍界王拳のカメハメ波で、対抗する!!!」

「なっ!ダメだよ!!!そんな身体で、それ以上無理したら―――――」
「ダメじゃねえ!!! オラが無理するって、最初っからわかってたんだろ!?!?」





強く言われ、は言葉を失った。
わかってた。わかってる。悟空は、限界まで無理するって。でも。



「でぇじょうぶだ。オラの身体がぶっ壊れたら、、オラのこと連れて帰ってくれんだろ?」



に、っと笑う悟空の、脂汗の浮いた顔を見上げ、は必死に涙を堪えて笑顔を返した。



「うん。連れて帰るから、だから! 死んじゃダメだよ。死んだら置き去りにするからね!」

「わかってるって」





親指を立てて悟空が破顔したそのとき。





「オレのギャリック砲は絶対に食い止められんぞ!!!地球もろとも、宇宙の屑になれ!!!」





ベジータが、悟空に向かって凄まじいまでのエネルギー波を放ち。
同時に、悟空が上空のベジータに向かって、三倍界王拳のカメハメ波を放った。







一歩も引かない、気孔波のぶつかり合い。
威力は互角。
でも。






このままじゃ、無理している悟空がいつまで持ちこたえられるか。
がぎゅっと冷や汗の噴出す拳を握りしめてそう思ったとたん、悟空の気がさらに膨らんだ。






「界王拳………四倍だーーー!!!」

「悟空………っ!」





悟空の叫びと同時に、カメハメ派の威力は増大し、ベジータのギャリック砲を飲み込み、そして、使い手のベジータをも飲み込んで、空の彼方へと吹っ飛ばした。










激しい衝突が収まり、昼間のように明るかったまわりが、本来の夕闇に戻る。
無理し続けた悟空は、その場にガックリと膝をついた。





額には、脂汗。
もう、どこが痛いのかもわからないのだろう、悲鳴をあげる身体を抑えることもできず、ゆっくりと身を起こすその動きは、ひどく緩慢で。



は悟空に駆け寄り、その身体を支えた。



「大丈夫?……じゃ、ないよねぇ。悟空、無理しすぎ」

「ああ、体中が痛ぇ………」



苦痛に歪む悟空の顔が、本当に痛々しい。
さして外傷はなくても、内側からのダメージが思いのほか大きいのは明らかで、立っているのがやっとの様子。

これ以上、無理をさせたら、悟空が再起不能になってしまうかもしれない。そのくらい、彼の身体にかかる負担は大きい。
ここはひとつ腹をくくって、片割れたる自分が無理をする番だろう、とはキッと顔を上げた。





「――――――うん。悟空は頑張った。次は、わたしが界王拳を……」
「孫ーーー!!! やったでねえかよーーー!!! このヤローーー!!!」





力強く宣言しようとしたの声をさえぎり、第三者の声が割り込んだ。
声のしたほうを二人して見やれば、なんだか悟空をめがけてダッシュかます人が視野に入り、悟空もも一瞬、ぎりぎりの精神が逸らされた。



走ってきたのは、腰に刀を携えた、ちょっと太目のボサボサ頭の男。



「………ヤジロベー。なんでおめえが、ここに………」



振り返った悟空が、ぽかんとそう問えば、ヤジロベーと呼ばれた男はなにやら嬉しそうに笑って。



「おめえともあろうもんが、オレに気づかなかったとは、よっぽど必死だったんだなや」

「ははは。まあな」



ヤジロベーにつられて笑顔を見せる悟空。
そのやり取りを見ていたが、ああ、とポンと手を打ってヤジロベーを見た。



「悟空がピコさんにやられたときに、仙豆をくれた人だ! あの時はどうもありがとうございました」



にっこり笑んだに視線を移し、ヤジロベーは照れたようにポリポリとそのふくよかな自分の頬っぺたをかく。
ピッコロとの大激戦のときも思ったが、孫にはもったいないくらい、いい女。
――――――まあ、自分としては、女よりも食いもんのほうに興味があるわけなんだが。



そんなことを思いながら再び悟空に視線を戻し、ヤジロベーが今しがたベジータを吹っ飛ばした悟空の様に感嘆の意を示す。



「やっぱ大したたまげたヤローだよ、おめえはよ」


言いながら勢いよくバシン、とその背を叩いたとたん。


「うわあああ!!!
「わっ、悟空!!!」
「な、なんだ?」



その衝撃と痛みに上がった悟空の悲鳴と、焦って悟空を支え直すと、何故いきなりそんな悲鳴をあげたのかワケのわからないヤジロベー。



「か、身体に無理なワザを使っちまって………」



小さくあえぎながら答える悟空に、ヤジロベーはさっきの悟空の戦いを思い描き、納得したように腕を組んで頷いた。

「そうか。まあ、普通じゃなかったもんな」

「てゆうか、ヤジロベーさん、でしたっけ? 一緒に戦ってもらえるの?」



突然の味方の登場に、がことりと首をかしげて立てたお伺いに、ヤジロベーは、は?という顔をして彼女を見返す。



「なして? アイツは孫がやっつけたじゃねえか」



言いながら悟空を見れば、悟空はちょっとうつむいてから、ベジータの消えていった空を見上げ。



「やつは生きてる。これくらいで死ぬようなやつなら、苦労はねえ」

「戻ってくるよね、やっぱり」



かなりキレてたし、とため息混じりにこぼす



「悟空はもう限界寸前だし、だから今度はわたしが界王拳使用になると思うんだけど、そうするとわたしもけっこうヤバくなるから、できればぶっ倒れたわたしと悟空をカメハウスに送っていただけないかな…って、あれ?」



自分が元気なら悟空を仲間のところまで連れ帰ろうと思っていたが、どうやら事態はそう容易いものではなくなりそうだ。ゆえに、予期せず出てきたヤジロベーにその役を代わってもらおうと提案したのだが。
顔をあげたが見たのは、いつの間にそんなところまで行ったのかと思うほど、なんだかずいぶんと遠くのほうで手を振っているヤジロベーさんの姿で。



「じゃあなーーー!!! がんばれよーーー!!!」

「「……………………………………………………」」



逃げていくヤジロベーの背中を声もなく見送り。
いったい彼は、何のために登場したのだろう、とひたすら疑問のと、やっぱりあいつは昔からかわらねえな、と苦笑気味の悟空が、その場に取り残された。






「――――――ま、まあ、しょうがないか! とにかく今度は、わたしがいくよ、界王拳!!!」

「ちょ、ちょっと待てよ! おめえがアレやると、へタすりゃ再起不能だぞ!?」



気を取り直して再び宣言する吏紗を慌てて押しとどめようとする悟空。
それをつい、と見やったの瞳には、決意と意思の強い光が宿っていた。



「わたしだって、悟空と同じくらい無理してあげるって言ったでしょ? 大丈夫だよ、過去何回かやったけど、ちゃんと元通りになったじゃん」



言い放つ、強い声。
のことは、自分が一番わかってるつもりだ。
だから、こう言い出したら梃子でも引かないことだって、重々承知している。
でも、まだ彼女が無理をするには、早い。



「オラにはまだ、元気玉がある。おめえが界王拳使うのは、その後でいい。な?」

「でも……」

「でもじゃねえ。元気玉でもあいつが倒せなかったら、そんときは止めねえ。だから、もう少し待ってくれ」



悟空の真摯な目と、まだ可能性を試したいといっているような自信に満ちた表情に、はしぶしぶ頷いた。

そんな彼女の頭をひとつ撫で、悟空は視線を空へと送る。



何故だかはわからないが、うろうろと動き回っていて一向に戻ってこようとしないベジータの気配を感じる。
けれども、このまま終わるはずがないことだけは確かで。







悟空とはそれぞれに、決戦に向けての覚悟を固めていた




















進んでるんだかないんだか……
無理してる悟空も素敵vvv(もはや不治の病…;;;)