ブルマたちがナメック星へと旅立ってから約一ヶ月。

「無事についたかな〜……」

包帯の量はずいぶんと減りつつも、いまだベッドとお友達のが、窓から空を見上げた。

「ボクだって闘える」と言ったまっすぐな息子の瞳と、「今回は危険なことはない」とのブルマの意見にしぶしぶながら悟飯のナメック星行きを承諾したけれど、やっぱり親としては到底手の届くはずもない場所へと旅立っている息子を心配するのは当然。

ハウ、とひとつため息を落とし、は今日も遠い宇宙の果てへと想いを馳せていた。







第二十六章:甘い一時と無慈悲な現実






「よ、



同様、半死半生だった悟空は、松葉杖使用で動けるようになったらもう、毎日に会いに来る。
本日も例に漏れず、医者や看護師の目を盗み、にこりと笑って現れた悟空に、はちょっと苦笑した。



「いらっしゃい、悟空。 さて、今日はどれくらいで気づかれるかな?」

「ん〜、ここんとこ見張りが厳しくなってっかんなぁ……」



何の話かといったれば。
実は悟空、と同じくまだまだ絶対安静を言い渡されている身なんである。
にもかかわらず、ベッドから降りて腹筋してみたり、病院抜け出して無理な修行を試みてぶっ倒れてみたりと、とにかくじっとしていない困った患者なのだ。



ぶっ倒れてるところを発見されて連れ戻されたとき、心配しすぎて大泣きしながらマジ切れしてくれちゃったの剣幕に懲り、それからは悟空も病院の敷地内からは出なくなったが、それでもじっと寝ているということはしない彼。





目下、重症云々とは違うところで、お医者様たちの頭痛の種、なのである。







「あんまり動かないほうがいいよ。治るもんも治らなくなっちゃうよ?」

「でぇじょうぶ! オラこのとおり元気だぞ! まぁ、確かに痛ぇけどよ、じっとしてっと身体なまっちまうし、仙豆ができればすぐ治るだろ?」

「そうだけど………お医者さんが可哀想っていうか、、、ね」





悟空が会いにきてくれて、嬉しいは嬉しいし、悟空がそばにいるだけでなぜかものすごく落ち着くのは事実なんだけれども。
ベッドを抜け出した悟空がここにくることは、既に医者や看護師にはバレバレで、血相変えてとんでくるその方々を幾度となく目の当たりにしているは、なんだか彼らに申し訳ない気分になる。






「オラ、もうでえじょうぶなんだけどなぁ………」



うーん、と天井を仰ぎながらポツリと呟く悟空を見て、は軽くため息をつく。



「でえじょうぶじゃないじゃん。そんな、包帯オトコみたいなナリして。たまには見つからないうちに戻ったほうがいいよ」

「やだ。オラ、のそばにいてえんだもん。………それに、さ」



の意見を即座に短く否定し、悟空はその顔をのぞきこんで、ニッと笑った。






、口じゃそんなこと言ってっけど、ほんとはオラが来るの、毎日待ってんだろ?」

「うっ! そ、そんなこと」

「あるよなー。だって、オラが来るとすげえ嬉しそうに笑うんだ。そんなおめえ見てっと、オラも嬉しくなるんだぞ。オラのだいすきな奥さんは、オラのことを好きでいてくれるんだな、って思ってよ」





クスリ、と笑う悟空の言葉に、真っ赤になって視線をさまよわす
普段は鈍いくせに、なんでこんなときだけ自分の胸の内を見透かすんだろうか、この旦那様は。



恥ずかしそうにつつい、と視線を外したの熱くなった頬っぺたを、悟空は両手で包み、その瞳を捕らえて。





「………うん。チュウくれえなら、いいよな?」

「ぅえ!? な、ななななに言ってんですか悟空さん!?」

「だから、それ以上は身体に辛えけどよ、チュウくらいなら大丈夫だろ?」





それ以上って………
なにをそんなに爽やかな笑顔でサラリと言ってくれちゃってるんでしょうか、この方は。





「ちょ、ちょっとちょっと待ってよ! 確かにねっ、悟空が来てくれるのはとっても嬉しいし、悟空のこと大好きってのも認める、けど!ここって病院――――――や、せっせっ迫らないでぇ!!!」





ズズイ、と顔を寄せられて、は焦りに焦って何とか悟空を思いとどまらせようとする。
だって、ここは病院だ。
そして、自分たちは重症の患者だ。
そんな状況で、そんなこと………常識的に考えて、やっちゃ拙かろう。





しかして自称「元気」な悟空にとってみれば、怪我が治るまではと、に触れることをじっと耐え忍んでいるのだ。キスくらいだったら別に負担もかからないし、それで我慢してやろうといっているのに。

切迫して潤んだその瞳も、真っ赤に染まった顔も、フワンと柔らかい頬の感触も。





そんな彼女は、ひどく、扇情的で。






「な、。オラがチュウだけって言ってるうちに、おとなしくなったほうがいいと思うぞ」






そんな意味深なセリフをのたまいながら危険な艶を瞳に宿した悟空を見て、ビクンと肩を跳ねさせたがピタリと抵抗をやめる。






この悟空は、ヤバイ。
こういう目をしたときの悟空に抵抗すると、普段の穏やかな彼からは想像もつかないくらい、Sっ気を発揮することは、身をもって了承済みだったりするのだ。



けれど、ハイそうですねとあっさり肯定するのもなんだか悔しいから。






「――――――悟空の、エッチ。色魔!舌入れないでよね」







そんな憎まれ口をたたきながら恨めしげに自分を見つめてくるに「さあどうすっかな」と笑顔を返し、悟空がひとつ彼女の柔らかい髪を撫で、唇を重ねようとしたとき。












「なにやっとるんじゃ、おまえら」







どっきーーーんっ!







二人して文字通り飛び上がり、割って入ったその声の方向に恐る恐る視線を向ける。
そこには、片手になにやら見舞いの品を持ち、スーツを着こんだ白ひげグラサンのお爺様が立っていて。





「か、か、か、亀仙人さんっ!!!」

「………いっつもいいところで出てくるよなぁ、じっちゃん」





恥じ入りマックスで素っ頓狂な声を上げると、ため息交じりで彼女から顔を離す悟空とを交互に見てから、亀仙人は深々と息を吐いた。





「まったくおまえらは。さぞかし悟飯たちが心配じゃろうと思って連絡入ってすぐに来てやれば、何をイチャイチャと……」
「連絡!? って、ブルマさんからの!?!?――――――痛っ!!!」




さっきまでの羞恥などなんのその、亀仙人の言葉にガバリと勢いよく上半身を起こし、とたんに身体に走る激痛に顔をしかめたの、まったく色気ナッシングな様子に、亀仙人はうまく邪魔してやったと胸の内でほくそ笑みながら、「うむ」とひとつ頷く。



「ブルマたちは無事ナメック星についたそうじゃよ」

「よ、よかったぁ……」





息子を宇宙に送り出して後、途中で事故に遭ってはいないかとか、宇宙船が故障して立ち往生してるんじゃないかとか、とにかく心配で心配でたまらなかったは、とりあえず目的地にちゃんと到着したことを聞かされてホッと安堵の息だ。

対する悟空はといえば、ちょっと羨ましそうに。



「いいなぁ、オラも行きたかったぞ」



いまだに摩訶不思議アドベンチャーをしたいようで。










そんな二人を交互に見た亀仙人が、それから少しためらいがちに口を開いた。






「確かに、無事についたんじゃがな………」






言いにくそうな硬い声に、二人が亀仙人に視線をやれば、彼はなんだかひどく渋面を作っている。
言うべきか言わざるべきか、そんなふうに迷っているような様子で。





「なにか、悪いことでもあったんですか……?」







ドラゴンボールを探すだけだから特に危険はない、と言ったブルマの声と、本来ナメック星人はとても穏やかな種族だといった界王の声が甦ったが、もしやそんな簡単なことではなかったのだろうか。

亀仙人の表情を見て、急速に不安に襲われたが問いかける。
その心底心配そうな顔を見て、身体の万全ではない今、ブルマから入った現実の姿を悟空とに話したほうがいいのかどうか迷っていた亀仙人だったが、やはり。

今起こっていることは彼らにとっても重要なことで、だから耳に入れておいたほうがいいだろうと思い直し、彼は意を決したように顔を上げた。











「実は……ベジータというあのサイヤ人………なんと、やつもナメック星にやってきたらしいのじゃ」

「ベジータ!?」
「あ、アイツが!?」



驚愕の声を上げる二人を手を上げて制する亀仙人。



「待て、まだ続きがあってな。それだけではなく、ナメック星にはベジータのほかにも、やつの仲間が十数人いるようじゃ。乗っていた宇宙船はそいつらに壊されて、地球に戻ることもできんらしい」

「な、なんだって!?」



愕然とする悟空と、言葉もなく顔色を失ったに、さらに追い討ちをかけるがごとく明かされた事実は、そのベジータの仲間のうちの少なくとも一人は、ベジータを超える気を持っていた……ということだった。










「ま………まさか―――――――――って、うわっ!!?」







黙ってそれを聞いていたが突然ベッドから飛び降り、それを見た悟空が驚いて声を上げ、視野に入った彼女の様子に瞬時に息を呑む。









そこにあるのは、不穏な空気。
プッツンしちゃったときの、あの彼女にひどく近くて。













「………行かなきゃ」

「「え?」」






深くうつむいてポツリ、と呟いたの小さな声に、聞き返す男二人。






痛いとか痛くないとか言ってる暇なんてない。そんな危険な場所に悟飯を置いておくわけにはいかない。
なんとかしてナメック星に行かなくては、とパニックを起こした今のには、痛覚などどこかに行っちゃったみたいで。



たじたじと自分を見つめる悟空と亀仙人をブワッと風を起こす勢いで振り返ったの目は、いっぱいいっぱい切羽詰っている。






「わたし、ナメック星に行かなきゃ!!!」






今の今までベッドで横になり、ちょっと身体を動かしただけで痛みを訴えていた彼女のその変貌振りに呆気に取られていた悟空と亀仙人だったが、突然そんなことを言って走り出そうとする彼女の様子に我に返った。





「ま、待てよ! 落ち着け! そんな身体で走ったりしたらヤベえって!」

「そ、そうじゃよ、ちゃん! 大体、どうやってナメック星に行くつもりなんじゃ!?」





そんなヤバイ展開になってりゃのことだからパニックに陥るのは当然だが、自分のことを棚に上げて彼女の怪我を案じる悟空と、やっぱり彼女がいるときに言うべきではなかったか、と後悔先に立たずなことを思いながら押しとどめる亀仙人。



けれどもの脳内は、完全に混線状態で。



「うぅううう! 放して〜〜〜! 悟飯とブルマさんとクリリンさんを助けなくちゃ!!! とにかく気合でもなんでもいいから行かなきゃならないんですわたしーーー!!!」








病院内ではあまりに似つかわしくない大騒ぎに、ほかの患者たちが集まってくる。

そこで彼らが目にしたのは、大怪我をして包帯にくるまれた華奢な女の子が、同じく包帯だらけの男に前から押さえられ、一見見た感じヨボヨボとした老人に後ろから引っ張られている姿。






ギャーギャーワーワーと繰り広げられるその現状に、患者たち誰かが呼んだのだろう、野次馬の間を縫ってその場の状況を目にした人物が、一瞬固まったあとに声を張り上げた。










「なっ!なにをしとるんだ君たちは!!!」










突然あがった第三者の怒鳴り声に、一同そちらに視線をやれば、そこには仁王立ちした医者の姿。





「「あ、先生……」」





看護婦を伴って現れたその医者は、悟空との主治医で。
彼の姿を見て動きを止める二人を見て、医者は額を押さえて首を振る。



「まったくもう……。旦那さんはいつものことだが、今日は奥さんもかね? とにかく!君たちは相当な重症なんだからね。そんなんじゃいつまでたっても退院はできんよ。早くベッドに戻りな――――――」
「キャッ!!!」



話の途中で上がった、一緒に来た看護婦の悲鳴。
そっちを見れば、亀爺さんが彼女のおシリをさわさわと撫でているのが目に止まる。





「――――――またですか。看護婦に妙な真似しないでくれんかね」

「ホント、恥ずかしい真似やめてよ、亀仙人さん」

「相変わらずだなぁ、じっちゃん」



看護婦を見ると手を出さずにはいられないエロ爺さんにため息交じりに医者が注意を促し、思わず我に返ったと悟空が呆れ顔で彼を見れば、彼は彼でいささか焦ったように。



「やや? わし今なにかしましたか?近ごろ年のせいか自分でもよくわからん行動を……というか、恥ずかしい真似っていったら悟空!おまえらだって病室で――――――」

「わーわーわー!!! なに!? なに言う気ですか亀仙人さん!」

はオラの奥さんなんだから、チューするくれえいいじゃんか。なあ先生?」

「なに暴露してんの悟空さん! ていうか、未遂です未遂! 未遂なんです先生!!!」






反撃に出た亀仙人の言葉を、真っ赤になったが必死に遮り最後まで言わせず遮ったにもかかわらず、当の悟空があっさりとバラしてくれちゃって。違うんだやってないと必死に言い募るだが、そんなことよりも。










こんなに大怪我しているにもかかわらず、どうしてじっとしていてくれないんだろうかこの患者たちは。

常人では動けるはずのない怪我を負っているのに、なんでこんなに元気なんだろう。










お医者様の疑問は膨らむ一方だけれども、事実、彼らは自分の治すべき患者に変わりはないのだから、とにかくいうことを聞いてくれ、と切に思いつつ眉間に軽くしわを寄せ。










「あーもーなんでもいいから君たちは病室に戻っておとなしく寝てなさい! ホラ、おさわりじいちゃんも彼らをベッドに寝かせるの手伝ってくれんかね!」

「ははは、おさわりじいちゃんだってさ」

「先生もなかなか言いますねー。でもま、自業自得だよね〜亀仙人さん」

「うるさいわいっ!」









医者や看護師が加わったれば、さらに大きくなる騒ぎ。見学人はもはやコントでも見ているような気分である。












そんな大騒ぎの中。











「なーにやってんだ、おめえら」






妙に緊張感の無い、その聞き覚えのある声。

そこに立っていたのは、ボサボサの長髪に、太目のシルエット。腰に差してある、日本刀。






「「「ヤジロベー(さん)!」」」





声を合わせた三人をみるヤジロベーは、呆れ顔。
まったくいつもいつも、何を大騒ぎしてんだこいつらは、と思いながら、ヤジロベーは自分の手に持っていた袋を悟空に差し出した。



「やっと仙豆が出来上がったんだぜ。ちょっとだけどな。カリン様がよ、おめえにできた7粒ぜんぶ持ってけってよ」











ヤジロベーの言葉とその袋の存在に、今までのバカ騒ぎがまるで夢だったかのような静けさがその場を襲い。
















その一瞬後。















「ヤジロベーさんグッドタイミング!!! さすがオイシイところ取り男!!!」
「はやく! はやく食わせてくれ!!!」







なんだか妙に迫力のあると悟空に差し迫られ、ヤジロベーはちょっと身を引きながらも二人の口に「ほ、ほらよ」と仙豆をポポンと投げ入れた。





医者が焦って「患者におかしなものを与えちゃ困る」とヤジロベーに抗議をしている間にそれを咀嚼し飲み込んだ二人は、しっかりとヤジロベーから残りの仙豆を受け取ると。











「よし! 行くぞ!!!」

「うんっ! 急げーーー!!!」











窓から身を投げ、それを見ていた医者が愕然と言葉を失ったり、看護婦が悲鳴をあげたりしているのを尻目に、悟空が呼んだ筋斗雲にポヨンと乗っかって。







「じゃあ、助けに行ってくる!」

「どうもお世話になりましたー!」






笑顔で手を振ってから、筋斗雲をスタートさせた。




















残された事情を知らない方々は、ひたすら唖然とするしかなく。

事情を知ってる者たちも、「どうやって宇宙の果てまで助けに行くつもりなんだろう」とひたすら首をひねるばかり。




















そんな超微妙な空気を残しつつ、悟空とは目にも止まらぬ速さで病院を後にした。






















病院内でイチャつくなよキミたち・・・(こら書いた人;)
そんなこんなで復活。