病院から疾走(疾飛行?)し、向かった先はカプセルコーポレーション。
後先考えずに行動するとは反対に、悟空はナメック星に行く=宇宙船は必要不可欠=天才科学者ブリーフ博士に作ってもらう、という数式をちゃんと考えていたりした。
「オラが赤ん坊のときに乗ってきたやつがオラんちの近くにあるはずだから、ブルマの父ちゃんが見舞いに来たときにそれ使って宇宙船作ってもらえるように頼んどいたんだ」
筋斗雲を走らせながらの悟空の発言に、は思わず悟空を尊敬のまなざしで見てしまった。
ゼンゼン考えていないようでいて意外と先を見越している悟空に比べ、感情に流されるまま常に「なんとかなるさ!」思考で動いている自分がなんともアホっぽく。
「悟空ってさ………実はわたしよかずっと常識的なんだね…………」
脱力気味に呟いたを振り返った悟空の顔にはなにやらたくらんでいるような笑みが浮かんでいたが、とにかく自分があの悟空よりも常識破りなことをしようとしていたことに気落ちするはそれに気づくこともなく(何気に悟空に超失礼)。
程なく西の都、懐かしのカプセルコーポレーションに到着。
第二十七章:出発進行ナメック星!
「―――――――――重力装置?」
「うん。重力装置」
「最大100倍の重力?」
「そ。いい修行になるだろ?」
「イヤ、修行とかそういう次元の前に……………………死ぬから」
この人を常識的だと思っていた自分が、バカだったのだろうか。
にぱっと太陽の笑顔を振りまきながらさらりと言ってくれちゃったソレは、タイヘン信じ難いものがあった。
いや、確かにベジータよりも強い方々がいる、という報告は受けたので、多少なり…もとい、今よりも数倍は強くならなきゃいけないというのはとて漠然とは考えていたけれども。
何故に、その報告を受ける前に製造を頼んだ宇宙船に、そんな装置をくっつけるんだろうかこのお方は。
「わしも100Gなんて無茶だと言ったんだがね」
「まったくですね」
あとちょっとで完成だ、といいながら広い宇宙船内を歩き回っているブリーフ博士と、その意見に同意した。
そんな二人を振り返り、悟空はニッ、と好戦的な笑顔を浮かべた。
「でえじょうぶ。そんくらいやんなきゃ、サイヤ人に勝てっこねえもん」
――――――まあ、百歩譲って、ある意味それは理に適ってる。
無茶苦茶やらなきゃ絶対勝てっこないコトだって、勝てなきゃナメック星に行ったとしても先行ご一行様を助けるどころか余計な死体が増えるだけだって、解かっちゃいるが。
自分が今までやってきたことを思えば人のことを言えた義理じゃあないものの、無謀にもほどがある悟空のむちゃくちゃな思いつきっぷりに思わずこぼれ出るため息だ。
ていうか。
どこがもう少しなのかはわからないが、完成間近なこの宇宙船の中でそんな「命捨てます」的な修行を繰り広げながらナメック星に向かうということは火を見るよりも明らかで、加えてもその宇宙船でしかナメック星に行く術がないこともまた明らか過ぎる事実なワケで、つまるところ。
「……………悟空さん、わたしもこれで行く、んだよね?」
「もちろんだ」
「ということは、わたしも100倍の重力に耐えろと、そう仰りたいわけですか………?」
「ああそうだ。オラとなら、でぇじょうぶだ!」
「―――――――――でぇじょうぶなわけあるかーーーっ!!!」
「??? なんで?」
「なんで」ときましたか……。
そりゃ、悟空は大丈夫だろう。
なんせサイヤ人だし、宇宙人だし、普通じゃないし無茶するの大好きだし!
けど、は基本、戦うの好きではない上に異世界トリップヒロインとはいえごく一般の普通の地球人なのだ。
―――――いや、一般人よりは少しだけ強いだろうけれど、それでも100倍の重力に耐えられるようなそんな非常識なカラダの作りはしていないのだ。(←本人は未だに超人の自覚ほとんど無し。)
「一年とか二年とか時間があればきっと慣れでなんとかなるかもしれないけど……ナメック星まで約一ヶ月だよ?そんな短期間で100倍の重力モノにするなんて…………」
「いや、六日だよ」
「それならなおさら。一週間もないのに―――――――――って、六日?」
「そう。もうデータはすべてインプットしてあるから、このスイッチをポポン、と押すだけで、六日後にはナメック星に着く」
飄々と言ってのけたブリーフ博士を見て、はきょとんと聞き返す。
確か、ブルマたちは一ヶ月の宇宙の旅だったはずなのに、そんなに早く着くのか。
急いでいるのは確かだから早めの到着は非常に喜ばしいことこの上ないが、やっぱりまとわり付くのが重力装置の存在なワケで。
「風呂とトイレとキッチンとベッドルームはそのハシゴを下りて………」
「なあ、じゃあ、あとはなにができてねえんだ?」
嬉しいと困ったで頭混乱なの思考回路を無視して、ブリーフ博士が宇宙船案内なんかしている中、悟空が彼の説明を遮り問いかける。困ってなどない悟空としてみれば、飛べるんであればすぐにでも出発したいのだろう。
そんな焦って足踏みしている悟空の様子と、腕を組んで考え込んでいるを交互に見てから、ブリーフ博士はむう、と難しい顔をして。
「ステレオのスピーカーの位置がなかなか決まらんのじゃ。どうせならいい音で聞きたいじゃろ?」
聞きたいじゃろ?って。
悟空はまず音楽なんか聴かないだろうし、それでなくてもこの宇宙船に重力装置をつけた時点でもう、修行すること必須で音楽聴く間は皆無に等しいんではなかろうか。
――――――どうせなら、ステレオ云々より重力装置がまだ50Gまでしか出力できないとかならよかったのに。そのくらいならなんとか耐えられそうな気がするし、悟空の足引っ張ることないかもしれない。
そう、の一番の懸念は、自分がいることで悟空の邪魔になってしまう、ということ。
だからって、危険な場所に悟飯を置いたままで帰りを待ってるだけなんて、それこそ精神崩壊しちゃうんじゃないかってくらい心配で身が持ちそうもない。
「そ、それだけ!? 完成してないって、それだけのことなんか!?」
「それだけって、君。最高の音で聴くには反射とかを考えるとなかなか難しいんだよ、スピーカーの位置は」
深刻に悩んでいるを一人置いて、悟空とブリーフ博士はそんなほのぼの(?)した会話を繰り広げていたりする。
「ステレオはもういいからっ! 急いでっから! オラたち今すぐ出発するよ!!! な、!?」
「あ、うん、ステレオは別にいいけど………」
「なにをそう急ぐんじゃ?ステレオをあきらめるほどのことなのか?」
どこまでもステレオにこだわる悠長なブリーフ博士に、痺れを切らした悟空が一気にまくし立てた。
「ブルマから通信が入ったんだ!三人の行ったナメック星にこの前のサイヤ人やその仲間もいたんだ!オマケにあの宇宙船も壊された!」
そう、だから早く行かなきゃならないのに、重力装置。
行って悟飯たちを守らなきゃならないのに、重力装置。
この宇宙船じゃなきゃナメック星に行けないし悟飯たちもこの宇宙船じゃなきゃ帰ってこられないのに、重力装置。
「だーーー!!! もう悟空のおたんこなす!!!」
「な、なんだよ」
「こんなのくっつけたら、わたし行けないじゃん!!! 悟空の修行の邪魔になっちゃうじゃん!!!」
バンバンバン、と悩みのタネを壊すべく重力装置を叩き出す。
わかってる。これで修行すればきっと数倍、数十倍、もしかしたら数百倍パワーアップするってわかってはいるけれども!
「こ、こらこらこら、やめろよ!」
「だってだって! 100Gの重力なんて出したらきっと、わたし死んじゃうもん! 修行する前に潰れちゃうもん! そんなわたしが一緒にこれ乗ってったら、悟空ゼンゼン修行にならないじゃん!」
叩いていた腕を捕まれたは、怒ってるんだか悔しいんだか哀しいんだかあるいはそのすべてか、ウルウルと涙目で大抗議をしてくる。
―――――――いや、こんなときになんだが、悟空的にはかなり、可愛い。何年経とうが何回見ようが彼女の涙目と上目遣いは、悟空にとってはかなりの凶悪犯罪だ。
「らしくねぇな、」
ニヤリ、と口端を吊り上げた悟空の笑みに、はビクッと過剰に反応した。
自分の何が悟空のSっ気に再度火を点けたのかはわからないが、この嗤いは明らかに自分を苛めるときの表情だ。
「やる前っから、降参か? じゃあ、おめえはここで待ってっか? オラは別にそれでもいいんだぞ? ほんとのところ、あのサイヤ人におめえのこと近づけたくねえしさ」
あのベジータってサイヤ人は、を狙ってた。
あの目を思い出すだけで、悟空の胸には怒りの炎が燃え広がる。実のところ、ベジータの目に大事な奥さんを触れさせたくないってのも本音だ。
けれど、は絶対に一緒に来るだろう。どんなに言い聞かせたって、どんだけ危険だって、彼女は自分の意志を曲げるような弱い女じゃない。
「――――――――――――やだ」
ほら、案の定。
グッと拳を握りしめ、唇をかんで否定の言葉を返し、瞳にゾクリとするほどの強い光を宿して睨みあげてくる。
この臨戦状態の表情…………たまらない。
「だったら一緒に修行しながら行くしかねえよな?」
明らかに、確信犯。
悟空はが一緒に行くに決まっているとわかった上で、そんなふうに聞いてきたのだ。
本当に、優しくて穏やかなくせに時々とても意地悪で。そんなあなたがなぜかとっても大好きです、と思ってしまう自分も自分だ。
つべこべ言っても始まらない、諦めるしかない、と、マジ泣きしそうだった自分に活を入れ、は顔を上げる。
浮上したらしいの頭をぽんぽんと優しく叩きながら、悟空はブリーフ博士に視線を戻す。
「それじゃ、オラにこいつの飛ばし方教えてくれ」
「わかった………で、ホントにステレオはいいんじゃな?」
なんでそんなにステレオにこだわるんだろう。。。
そう思い脱力した悟空とのことなどお構いなしで出発のスイッチを示し、簡単に宇宙船の操縦の仕方を説明した博士は、最後にポケットから何か小さな機械を取り出した。
「これはちゃんに」
「わたしに?」
手渡されたそれは、見たこともないような小型のメカで、なんなのだろうとキョトンと自分を見返すの様子を見て、ブリーフ博士が肩をすくめる。
「それは反重力装置じゃよ。ほれ、このスイッチを押せば、君の周りだけ無重力になる。悟空の修行についていくのは至難のワザだろうから、死にそうになったら使いなさい」
それを聞いたの顔に、ぱあ、と明るい笑顔が甦った。
「ありがとうブルマパパさん! 大好きですよーーーvvv」
「わしもちゃん大好きですよv」
博士の手をしっかり握って嬉しそうに笑うに、まんざらでもないようにニヘラと笑みを返す博士を見て、悟空が面白くなさそうにべりっとその手を引き剥がす。
「サンキューな、ブルマの父ちゃん。でもの一番はオラだかんな。だろ?」
「でも、悟空たまに意地悪なんだもん」
「わしはちゃんに意地悪なんかせんよ」
「ですよねーv」
もちろん、の一番は悟空に決まっているが、このくらいの仕返しはいいだろう。
そう思いフフフ、と笑うに合わせて悪ノリする博士に、悟空はまた違った意味で焦り。
「ほ、ほらもう行くぞ! 早く悟飯たち助けに行かなきゃならないんだから!」
「あ、ああうん、そだねっ! じゃあ博士、本当にありがとうございました!」
がぺこりと頭を下げると、博士は苦笑しながら軽く手を上げた。
「よし、じゃあ押すぞ!」
「や、ちょっと待って悟空! シートベルトを―――――――って、、、ギャーーー!!!」
「うわわわっ!!!」
どっかーーーん!!!
ものすごい轟音とともに、超スピードで打ちあがり飛び立つ宇宙船の中は、まだきちんと席についていなかった二人の悲鳴が飛び交い、阿鼻叫喚の恐怖の空間になっていた。
そんな二人の恐怖など露知らず。
自分の作った宇宙船が無事に飛び立っていった方向を手をかざして見上げ、ブリーフ博士がほほう、と一息。
「急いで作ったわりには、ちゃんと飛びおったわい」
と、満足げに呟いた。
一方、大気圏を抜けて地球を無事に後にした宇宙船のなかは、先ほどとは打って変わって静かになっていた。
「いったたたた、もう悟空! ちゃんと席についてからに…………って、わぁ!」
ぶつけた頭を押さえて起き上がり、悟空に文句を言おうとしたは、窓から見える景色に感嘆の声を上げる。
遠ざかっていく、青い星。
「綺麗!アレが、地球なんだ……。地球は………青かった!」
窓にへばりついて地球を見るの口から、どこかで聞いたようなセリフがこぼれ出る。
それを聞いて笑いながら遅ればせながら起き上がった悟空が、コックピットから正面を見れば、真っ暗な中に浮かび上がる星たちが流れるように過ぎ去っていく。
「へえ、こいつは確かに速ぇや。それにしても……宇宙ってのはずいぶん暗いもんだな。今、夜なのかな」
またすっとぼけたことを呟く悟空に、は地球から視線を外して悟空に苦笑を向ける。
「いや悟空、宇宙は暗いもんなんだよ」
「なんで?」
「―――――――――なんでだろうね?」
結局何故暗いのかなんて説明できず、二人して首を傾げあうお惚けご夫婦。
それから思い出したように悟空がポン、と手を打った。
「ま、いいや。それよりさっそく修行しねえと!」
「あ、ああうん、そうだね」
腕をぐるぐる回しながら重力装置に向かう悟空を見やって、とりあえず付いていけるところまでは頑張ろうとも気を引き締める。
「六日間しかないんだもんね。わたしもできる範囲で頑張るよ」
「ははは、やっとらしくなったな」
「ていうか……開き直った。結局やるしかないし、どっちにしてもやらなきゃ死ぬ可能盛大だもんね」
ハウ、と大きくため息をつくに、悟空は頷く。
「そうだな。たった六日でつくのはありがてえけど、それまでにあのベジータってやつを超えなきゃなんねえってのはえれえことだ……」
逆立った髪のサイヤ人の顔を思い出し、はひとつ身震いした。
あの、如何ともし難い歴然たる力の差を、埋められるんだろうか。
そんな不安が胸をよぎるが、考えても仕方がない。やるしかない。
「界王さまんとこは確か、10倍の重力だって言ってたよな………とりあえず、20倍くらいから慣れてったほうがいいかな」
「よし来ーい」
「えらく前向きになったな。やっぱはそのほうがいいや」
クスクスと笑いながら装置を操作する悟空の背中を見て、も軽く笑う。
ピピピ、という機会音がなった後、ずしん、と身体中に重石を乗せたような重圧がかかった。
「げぇ……っ! きっつぅ…………」
「く〜〜〜〜〜っ! さすがに、効くなぁ……」
それぞれに厳しい重力をその身体で受け止め、二人のナメック星重力修行ツアーvvvが始まった。
なんだかんだで、出発です!

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