さてはて、さっそくはじめた20G重力特訓。
基本からテッテー的に鍛えなおす!をスローガン(?)に、悟空とは腕立てやら腹筋やら背筋やらの基礎的修行を地味に行っていた。


「それにしても……は細えよなぁ。なんでそんだけ筋トレしてんのに、筋肉つかねえんだろうな?」

「そんなのしらないよ。でも見た目は変わんないけど、やった分だけちゃんと力はつくんだよ? 腕力も脚力もね」


悟空が筋トレを続けながらを見て不思議そうに首をかしげ、ももちろん修行の手を休めることなくそんな悟空に言葉を返す。


「でもさ、わたしが悟空みたいな腕とか足になったら、ちょっとヤじゃない?」


クス、と笑いながら繰り出したの細い腕を見て、悟空はその腕にがっしり筋肉のついたときのことを想像し、顔をしかめた。


「ちっとじゃなくて、うんとイヤだな、それ。ギュウしたときに硬えと、気持ちよくねぇもん。やっぱはやわっこくねえとな」

「重要度は、そこなんだ………」


見た目じゃなくて、感触なのか。
微妙な気分になりながらも、まあ、悟空は人を見た目で判断するような男じゃない、というか、可愛い可愛くないの区別がつかないのだから、それはそれで仕方のないことなのかもしれない。


そんなふうに、普通に会話をできるあたり、ずいぶんこの重力にも慣れてきたもんだ、と思ったとき。


『悟空よ、聞こえるか? 悟空…………あれ?』


頭に響いた妙に悠長な聞きなれた声は、重力修行の足がかりを作ってくれちゃった、あの世の偉人さんの声に違いなく。


「あー!その声は界王さまか!」

『お、おう、いかにも界王じゃが……おまえ、いったいそこは………もしかして、宇宙か?』


パッと破顔した悟空に返ってきたのは、そんな不思議そうな問いだった。





第二十八章:最凶最悪の敵の影







「わーい界王さまだー。お元気ですか?」



訝しげに聞く界王の声に返ってきた、のほほんとした声。声だけで見なくたってわかってしまうその顔には、相変わらずのニコフワ笑顔が浮かんでいるんだろう。



、か? その言葉そのまま返したい気分じゃな……』



完全にプッツンしていた彼女の頭の状態と、普通に考えれば絶対ウエルカムあの世vであろうボコられた身体の状態。「元気か?」というよりも、「大丈夫なのか」と言ってやりたいのはこっちのほうなのに。



「え? なんで???」



聞き返してくるその声は、いつもの穏やかな彼女そのもので。



『―――――――――まあ、元気そうでなによりじゃ』



とりあえず、精神崩壊も怪我の後遺症もなく、すべて回復し正常に機能しているようだ、と、ぴんぴんしているであろう彼女の暢気さに少々呆れ気味で、界王はタメ息交じりに苦笑した。





『それはそうと、おまえらいったい宇宙なんかで何を・…・…って、そうか、ナメック星じゃな?ドラゴンボールが見つかるといいのう』



思い当たったその目的を界王が述べて後、の顔色がさっと変わった。



「あ、そうか。当初の目的は仲間を生き返らせることだったんだよね………わたしってばそんな大事なことをっ!!!」



悟飯たちの生命の危機に目を奪われ、最初の重要事項を忘れていた自分の頭がとても信じられない。あんだけ自己嫌悪と謝罪と懺悔をしたというのに、まったくなんて単純にできてるんだろう自分!





「わたしってホント………バカ」

「そう落ち込むなよ。要は悟飯たち助けてみんなを生き返らせればいいんだからよ」

「―――――――――簡単に言うよね、悟空」





がっくりと落とされたの肩をポンポンとたたきながらあっけらかんと笑って言う悟空に、はなんというかもう、乾いた笑いしか出てこない。
確かにそれですべてOKなのだが、それを成し遂げるのはぜんっぜん簡単じゃないことに、彼は気づいているんだろうか、と一抹の不安が胸をよぎるが、当の悟空はさして気にすることもなく。





「簡単だろ? やんなきゃなんねえことは決まってんだ」

「…………まあ、そうなんだけど、、、なんかちがうー!」

「なにがちがうんだ?」

「なにがっていうと、なんだろう……?でもなにかがちがうのよっ!」

「ふーん……まいっか」

「ま、いいの? それでいいの? それでいいの、かなぁ………」

「とりあえず、ま、いいさ。それよりさあ、界王さま。なんかオラたちに用か?」



以前と変わらない彼らの夫婦漫才を唖然と傍聴していた界王は、悟空の問いかけにハッと我に返った。



『あ、ああそうじゃ。まったくおまえらを見てると調子が狂うわい……。実はな、ここに客が来おったんじゃよ』

「「客?」」



仲良く声を揃えて二人してことりと首を傾げれば、界王は含み笑いを漏らす。



「すごいぞ。今度の客はおまえらよりはるかに短い時間で蛇の道をクリアーしてここに到達しおった。しかも、4人じゃぞ!」






蛇の道、をクリアーして?
4人…………?
って、もしかして――――――――――――






なんだかものすごく思い当たる方々がいらっしゃるんですけど的なはさておき、悟空が相変わらず首をかしげて「4人?…それがどうしたんだ?」と聞き返すと、さらにもったいぶったような界王の言葉が返ってきた。



「おまえらもよーく知っておる4人のはずじゃが」



そう言われれば、行き着く答えは悟空もやっぱりと同じで。



「ま、まさか……」

『そうじゃ、サイヤ人との闘いで死んだおまえらの仲間たちじゃよ。みんなおまえらがしたよりも厳しい修行を望んでおるぞ』



界王の声に悟空がぱっと破顔した。



「そりゃあすげえやっ!ははは! そろいもそろって界王さまんとこに着いたってか!」



嬉しそうに笑う悟空の隣で、は呆然とその会話を耳に入れていた。その表情は悟空とは対照的だ。

けれども仲間たちが界王のもとに着いたという事実に思考を持っていかれている悟空は、それに気づくこともなく。





『よう、聞こえるか、悟空』

「ヤムチャっ!」



界王と入れ替わって聞こえてきたその声に、即座に弾んだ声を上げる悟空だか、はといえぱその悟空にも聞こえないような小さな声で「ヤムチャさん……」と上の空のような表情で囁く。



『あの世で、死んだ神様に会ってさ。ここのことを教えてもらったってワケだ。おまえたち、ピッコロの故郷の星に行って、ドラゴンボールを探してくれるらしいな。オレたちを生き返らせるために……』

「はは、まあな。ところで、4人って言ったな。ヤムチャと天津飯………ひょっとして、ピッコロもいるのか!?」

『ああ、ピッコロもいる』



ピクン、との肩が小さく跳ねる。



「あとひとりは……神様なのか?」

『いやちがう。神様はあの世に残られた。なんと餃子さ』

「餃子!? あ、でも、餃子は自爆してばらばらになっちまったって聞いたけど、大丈夫なのか?」

『ああ、神様が特別に身体を再生してくださったらしい。ここで修行させるためにな』

「すげえ! よかったな!!!」






――――――ヤムチャさん、天津飯さん、餃子さん、そして、ピッコロさん。
の胸の内で、なにかが弾けた。






『それより「ゴメンナサイ皆様ーーーっ!!!」うわっ!?!?』
「!?!?」






何かを言いかけたヤムチャの言葉をさえぎった大声に、驚いたように途切れるヤムチャの声と、同じくビックリしてその大声を張り上げたであろう人物を振り返った悟空。
当然のごとく、そこにいたのは。しかして、その姿は今、力いっぱいの土下座。



?」



いきなりなにをしだすんだろう、と、悟空はまたなにか不可思議なことをしだしたぞ、みたいな感じでに呼びかける。

けれどもはそんな彼なんかお構いなしで必死に「ごめんなさいスイマセン申し訳ありません」とひとしきり謝罪の言葉を並べた後、額をそのまま地べた、いや、宇宙船の床にこすりつけたまま。



「ほんっとうにもうっ!ヤムチャさん天津飯さん餃子さん間に合わなくてごめんなさいっ!いやわたしが間に合ったからって助けられたかどうかも怪しいんですが何もせずに見捨てるようなまねをしてしまってほんっとうに申し訳なく思ってるんです許してくれなんて言えた義理じゃないのも百も承知ですけどとにかく謝らせてください!!!」



一気にまくし立てて一息ついたと思いきや。



「それからピコさん!わたしが甘ったれたことを考えてないでさっさとぶちキレてりゃきっとピコさんも助かったはずだと思うんですそれなのにわたしってヤツは結局は人殺しが怖かったというか同情が先立って本末転倒していたというかなんというかっ!とにかくバカだったと今更ながら反省してますごめんなさいっ!!!」



息継ぎなんかいったいどこでしてるんだろうかと思うほど、機関銃のごとく吐き出されるの胸の内。





まさかこんな形で、サイヤ人との戦闘で犠牲になった仲間たちと話せるなんて思ってもみなかったから、みんなが生き返るまではムリヤリ全部胸に押し込んで、生き返ったときにすべて吐き出そうとしていたものが、口をついて溢れ出してきてしまった。





いまさら謝ったって、もう遅いことだって。
いまごろ反省したって、もう取り消しなんかきかないことだって。
わかってる、けど。






でも、言わずにはいられなかった。
みんなをみすみす死なせてしまった、その事実が、あまりにも―――――――――重たくて。







「本当に、本当にっ!ご、ごめん、なさい………っ!」







こみあがってくる涙を、必死に飲み込む。
泣くべきなんかじゃない、むしろ、泣いちゃいけない。ここで泣くのは、卑怯だ。
本当につらいのは、わたしじゃないんだから。もっともっと、辛い思いをした人たちがいるんだから。






グッと唇を引き結び、なんとか涙をこらえながらそのまま床に額を押し付けていたの上に、途切れた声が降ってきた。





『え、えーと、、、ちゃん?』

「―――――――――ヤムチャさんっ!」





その声にガバッと勢いよく顔を上げる。
周りを見回してみても、目に入るのは目を丸くした悟空のみで、もちろんヤムチャの姿なんかそこにはないけれども、それでも。



「ご、ごめ・………」

『あー、ストップストップ! なんでそんなに謝ってんだ?』






謝罪の言葉を遮ったどころか、自分が謝っている理由が本気でわからず戸惑っているようなヤムチャの声音に、でぽかんと口を開けた。



「ふぇ? だって……わたしが遅れなければもしかしたらみんな助かったかもしれないって………」








華奢な肩に、殺された自分たちの命を全部乗っけて、泣きそうな顔で。
みんなが死んでしまったのは自分のせいだと、お門違いな重荷に押しつぶされそうな彼女。





『あの、さ……ちゃん』

「はっ、はいっ!」





呼びかけに返ってきたのは、緊張していっぱいいっぱいな声。
それに苦笑したのはきっと、自分だけではないはずだ。






ちゃんがオレたちを殺したんじゃないだろ? オレたちはサイヤ人に殺られたんだ。だから、ちゃんがそんなこと気にする必要ないよ』

「けど……」

「っていうか、が悪いってんなら、オラなんかより遅れたわけだし、オラもみんなに謝まんねえとなぁ。すまねえな、おめえたち」





ぺこりと頭を下げてから、悟空は隣でうつむいているの顔をのぞきこんだ。







「な? おめえが全部背負い込むことなんかねえんだぞ? オラが全部もらってやっから、だからそんな顔すんな」

「…………全部悟空に渡すわけにはいかないよ。悟空だってわたしがチンタラしてなきゃあんな大怪我しなかったんだから」

「んじゃ、半分っこな」






ニコッと笑って頭を撫でてくれる手が、すごく優しくて。






ああもう、どうしよう。
なんでこんなに優しいんだろう。






思わずうるり、とさらに目が潤んでしまえば、悟空はぽんぽん、とそんなの頭を叩く。



「ああもう、泣くな泣くな。ホントおめえはいつまでも泣き虫だなぁ」

「だってだって……っ! 悟空が優しくするんだもん。それをすごく嬉しいって感じちゃうんだもんっ! そんな悟空が好きで好きでたまらなくなっちゃうんだもん!」



やっぱりその優しさに甘えてしまう自分がとても、とても不甲斐ない。



胸がいっぱいになってしまって、するすると出てくるの本音。
それを聞いた悟空は悟空で、照れくさくて嬉しくて。



「オラもがでぇ好きだから、だから泣くなよ」



赤面しながらを宥めたりしていて。






相変わらずのラブラブっぷりを見せ付ける悟空とに、きれいさっぱり無視された界王星の皆々様はひたすら唖然だ。
いったい何が哀しくて、死んでまでこんな二人の桃色劇場を見なければならないのか。






ちょっと虚しくなってしまった界王星修行組だったが、なんとか泣き出す一歩手前で踏みとどまったを確認した悟空が、その後すぐに現実の世界に戻ってきた。





「つうわけで、遅れて悪かった。おめえたちのことは責任もって生き返らせっから、許してくれ」

「命に代えてでも、絶対なんとかするから!」





一緒に謝罪の言葉を口にしてくれる悟空に、肩の荷が幾分か軽くなるのを感じて、はグッと拳に力をこめてみんなを生き返らせる決意を硬くする。






『命に代えてもって、、、そんな危険なところなのか?ナメック星って』

『いや、ナメック星人は本来はとても穏やかな種族だから、そんな物騒なことにはならんだろう』



なんだか知らんがとりあえず自分たちの存在はなんとか忘却の彼方にならずにすんだと思いながら、しかして「命に代えても」なんて言ってくるの言葉に、ヤムチャが一抹の不安を覚えながら問えば、それに答えたのは界王の声。

その界王の答えに、はなんとも微妙な表情をその顔に浮かべた。



「えー?でもピコさんはお世辞にも穏やかなんて言えないですよ」

きさま……このオレ様に喧嘩を売るとはいい度胸だな………』



思わず呟いた本音に返ってきた、なにやら低く怒気を孕んだ聞き覚えのある、その声。

まったくもって、イライラする。
自分が死んだときあんなにボロボロと泣いてたくせに、二人きりで宇宙船でイチャイチャと。
挙句に自分の悪口とは。

そんなふうに思っているピッコロのムカつきをそのまま表現したようなその静かな怒声には思わず首をすくめた。



「ひぇ…っ! 聞こえてました? って、聞こえてるよねっ? ごごごごめんなさいピコさんっ!」

『だから、その呼び方はやめんかっ!』

「ギャッ! スイマセンスイマセンってゆうかホラ全然穏やかじゃないじゃないですか界王さまーーー!」

『いやいやいや、ピッコロがおかしいんであって、おまえたち地球の神であったあのナメック星人が本来の性質なんじゃよ。だからドラゴンボール探しも命のやり取りなんかにはならんはずだ』



そうかよかった、と胸をなで下ろす。(『おかしい』発言に怒っているピッコロは無視。)
でもちょっと待て――――――今重要なのは、ナメック星人の性質なんかじゃない。
そのナメック星に来訪中の、異性人たちの存在なわけで。






「なんだよ界王さま。なんにも知らねえのか? ナメック星じゃとんでもねえ事が起こってんだぞ?」

『とんでもないこと?』



聞き返してきた界王に、悟空は神妙な顔で今までにナメック星で起こったことを話し出した。

先にナメック星に向かったブルマ、クリリン、悟飯の宇宙船が壊されてしまったこと、そのナメック星にベジータもドラゴンボールを探しに来ていたこと、そのほかにもベジータとそっくりの戦闘服を着た連中がドラゴンボールを狙っていること、さらに、そのうちのひとりはベジータの気をはるかに上回っていること。







その話に、界王は明らかに動揺して。
自らナメック星の状況を調べ、そして、愕然としたようにその名を絞り出した。









『ふ…フリーザ………っ!』

「ふふりーざ?」

「なんだよ、界王さま知ってんのか!?」







ことりと首をかしげると、悟空の問いに、界王の返答はない。
代わりに、緊張し震えるようなその声が返ってきた。



『ご、悟空よ、今度ばかりは相手が悪い……というより、最悪のヤツだ。とても手に負える相手ではない……。ぜ、絶対そいつには手を出すんじゃないぞ………』






手を、出すな………って。






「え…? な、なんだよ、それ………」






界王の尋常ではない様子に、悟空が呆然と界王に言葉を返せば。







『聞け悟空! これは界王の命令だ! ヤツには近づくな! ナメック星に行ったら3人を乗せてすぐに逃げるんだ、いいなっ!!! おまえのためにだけ言っておるのではないぞ、地球やナメック星、そのほかの星のみんなのために言っておるのだ…っ! 中途半端な攻撃を仕掛けてやつの怒りをかえば、とんでもないことが起こるぞ……アイツだけは、放っておくしかないのだ………!!!』



界王をここまで怯えさせる人が、今度の相手だなんて。
背筋をゾクリとするものが走り抜け、戦慄を覚えるに対し、悟空はいまだ呆然とした様子。



「そ、そんなにすげえヤツなのか? ………ちょっと、見てみてえな………」
「ご、悟く『絶対に近寄るんじゃないぞわかったか!!!!!』ひぇっ」





ビックン!

宇宙船を揺るがすような強い口調に、悟空をなだめようとしたの肩が大きく跳ねた。
その命令に悟空が何かを返そうと口を開きかけたとき。






『悟空、意地でもドラゴンボールを集めてオレたちを生き返らせろ。ここでてめえより腕をあげてナメック星に行って、オレたちでそのなんとかってふざけたヤローをぶっ飛ばしてやろうぜ』

『ばっ、バカ言うんじゃないっ!!! おまえたちはフリーザのことをまったく知らんから………っ!!!』





ピッコロの発言に界王がぶちきれ、そこで界王星からの通信がぷっつりと途絶えた。















もちろん、意地でもドラゴンボールを集めて、みんなを生き返らせたいのはやまやまだ。でも。

界王さまが、『絶対に近寄るな』なんて、あんなに怯えたように命令するってことは、本当にやばいなんて言葉じゃ言い表せないくらい最悪の相手なのだろう。



不安げに瞳を揺るがせて悟空を見れば、その視線に気づいた悟空がの頭をひとつ撫でた。



「へへ……たとえ手を出さねえにしたって、強くなって損はねえさ………」

「―――――――――うん、そうだね」



コク、と頷くを見てから、悟空はニッと笑む。
その笑顔は、挑戦的でとても、とっても素敵な必殺悩殺笑顔、なんだけれども。









「よーし、! 一気に50倍の重力でいってみっか!!!」

「………………やっぱりそうくるのね………」















こういう笑みを浮かべた悟空は、いつもとんでもないことを言い出すことを知っているは、その言葉に深くため息を落とし、重力装置に向かう悟空の背中を覚悟を決めて見送った。






















わたしはフリよりギニュー特戦隊が好きv