「わ〜い、海だ海だ〜!」
「ね、見て見て悟飯、お魚が跳ねてるよっ! 悟空、高度下げられる?」
「まかせとけ! 筋斗雲、もうちょっと低く飛んでくれっか?」

親子三人筋斗雲に乗って、ほのぼのニコニコ笑いながら。
向かう先は、悟空のお師匠様の家。






第二章:久々の再会、そして…






遠くに見えてきた小さな島。
そこに一軒建っているのは、真っ赤な屋根、ピンクの外壁の派手でモダンなつくりのお家―――――カメハウス。


「ほら悟飯、あれが武天老師さまの家だぞ!」
「可愛いおうちだね〜」

悟空の言葉に、悟飯がにっこり笑って答える。

「ほんと、可愛いよねっ! 五年ぶりだっけ?」


見えてきた亀仙人の家は五年前と少しも変わってなくて、目を細めて懐かしそうに笑ってから、ふと思い出したようにが眉をひそめた。


「そういえば………」
、どうした?」
「おかあさん?」

二人の視線を感じて顔を上げたは、苦しい笑いをその顔に浮かべて。


「ちょっと思い出したんだけど…、わたし五年前、西の都から泳いできたよね、ここまで」


若かったなぁ、なんて遠い目をしている妻を見て、悟空も思わず失笑した。
それは、若さとかそういう問題ではなくて、切羽詰ったが起こす珍騒動のひとつなわけで、たぶん同じような状況になればまたやるんじゃないかと懸念されるわけであり。

けれど、そんな過去の出来事を知らない息子はと言えば、そんな不可思議な行動を起こす自分の母親をキラキラと尊敬の目で見上げて。


「すご〜い! ボク全然泳げないのに、おかあさんはいっぱい泳げるんだね〜」

なんて感心していたりして、それにクスリと笑って「まあね」と悟飯の頭を撫でている
なにかが違う気がするが、まぁ、それはそれでほのぼのしているからまあいいか、と悟空は笑った。










そうこうしているうちにカメハウスに到着し、三人は筋斗雲から降りた。


久しぶりの再会にちょっと緊張するとは裏腹に、悟飯を抱き上げた悟空は気負った様子もなく。

「やっほー!」


その声に飛び出してきたのは、この家の主の亀仙人、居候のクリリン、そして、ブルマ。
しばらくぶりに見た仲間たちの顔に懐かしさを覚えながら、もほわっと笑顔を浮かべた。



「こんにちは〜。 お久しぶりですーーーーー!?!?!?」


挨拶の途中でいきなりヘッドロックをかけられ、の語尾が不自然に高くなる。
突然の攻撃にこんがらがるアタマのまま手足をばたつかせるの上から、がっちり彼女の首をロックした人物の声が振ってきた。


「ちょっとちゃん! あんたねぇ……最後に連絡くれてからいったい何年経ったと思ってんのよっ! まったく、結婚前にあれほどこまめに連絡しろって言ったのに!!」
「ご、ごごごごごめんなさいごめんなさいブルマさんっ!!! い、いろいろと忙しかったんですよわたしもっ!」
「忙しいったって、電話の一本くらいかけられるでしょうが!!!」
「だからごめんなさいって! 忙しさにかまけて忘れちゃったんですよ〜〜〜!!!」



ブルマとしてみれば、可愛い妹のように思っているが、何年も連絡をくれなかったのがいたくご不満なようで。
心配していた彼女がホンワカのんきに笑っているのを見て、ホッとしたと同時に苛っと来てしまったらしい。



女二人の言い合いに、唖然とするその場の男四人組。
悟空にいたっては、を押さえつけるなんて、ブルマもなかなかやるな〜」などとのんきに思いながら眺めていたりする。



「ま、まあまあブルマさん。ちゃんもこんなに謝っとるんじゃし、それくらいで許してやったらどうかの」
「そうですよ、久しぶりに会ったんだし、その辺で……」


の顔色がやばくなったのを見て取って、我に返った亀仙人とクリリンがブルマを宥めにかかり、一息ついたブルマがやっとを解放した。

「そうね、まぁ、元気そうだし。あたしのほうもけっこう忙しかったから連絡できなかったってのもあることだし。この辺で許してあげるわ」
「あ、ありがとう……ございま、す??」



ブルマの気迫にちょっと息を切らしたが、ここでお礼を言うべきなのかと首をかしげながらもとりあえず感謝の言葉を声に乗せ、それから再び笑った。



「ブルマさんも元気そうで、よかった。亀仙人さんもクリリンさんも、みんな元気そう」



フワンと笑いながら言うに、久しぶりに会った三人は一瞬言葉を失う。
その声は、以前と変わらず高く澄んでいて、柔らかな雰囲気もそのままに。
ただ――――――少し前まですごい美少女だった今彼らの目の前に立つ彼女は、少女の雰囲気を残しながらも『女』の色香をかすかに漂わせていて。





可愛らしくて、そして、前とは比べものにならないくらい、綺麗になっていた。





ボケッと自分を見つめる視線を怪訝そうに見返し、首をかしげたに、ブルマは感嘆のため息をついた。


ちゃん、あんた、美少女だとは思ってたけど……ずいぶんとまあ綺麗になったわねぇ」
「――――――は? そ、そそそんなことないですよっ? ブルマさんこそ、一段と美貌に磨きがかかって…! うっとりしちゃいますよ〜」



ブルマのお褒めの言葉にポポッと頬っぺたを染め上げたは、「美人さんはショートヘアでもやっぱり綺麗なんだなぁ」なんて、逆にブルマに見惚れていたりする。





「くっそ悟空のヤツ…。ちゃんと結婚できただけでも許せねぇ………」
「ほんとじゃわい。こんな別嬪さんといつも一緒じゃなんて……万死に値するわい」



ブルマとクスクス笑い合いながら話をするを見ながらそんな不穏な発言と共に、同じく不穏な視線を悟空に投げかけるのは、言わずもがな、クリリンと亀仙人である。が。

悟空に目を向けた二人は、次の瞬間彼の腕の中にいるもうひとりの存在に気づいて首をひねった。



「悟空、なんじゃいその子は?」
「おまえ、子守りのバイトでも始めたのか?」



亀仙人とクリリンの問いかけに、ブルマも悟空に視線を送り、次いでも振り返る。
注目を集めているわが子は、照れて悟空の腕に顔を摺り寄せていた。





そんななか、悟空は悟飯をおろしてその肩に手を置いて。





「オラの子だ」










一瞬、しばしの沈黙。 
それから。










「「「えええええーーーーーー!!!!! ごっ、悟空の子!?!?!?」」」










飛び出すんじゃないかと思うほど目を見開き、大音量で口をそろえるお三方。
驚いたなんて言葉では足りないくらいの驚きようを見せてくださる三人のリアクションに、は思わず噴出した。



「――――――てことは、ちゃんの、子………?」



信じられない、とでも言うかのようにおそるおそると自分に目を向けてくるブルマに、肩をすくめてクスリと笑う
驚愕の視線に恥ずかしくなったのか、顔に少し赤みを差しながら。



「そう、です。だからちょっと、忙しかったの」



それがトドメだったのだろう。
アングリと口を開け、頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けているのが一目でわかるような三人の表情に、そんなに変だろうか、とことりと首をかしげて悟空に視線をやれば、悟空も同じように怪訝そうな顔をする。





「ま、いっか。………そら、あいさつ」



悟空に促され、悟飯が緊張した面持ちで、それでも丁寧に頭を下げて。



「こ、こんにちは」



いまだショックの抜けきれていなかった三人は、その御丁寧な挨拶に我に返り、あわてて揃って同じく深々と頭を下げた。



「「「は、ハイ……。こ…こんにちは………」」」



よくできました、とその子の頭を優しく撫でるを見てから、悟空は呆気にとられたような三人に視線を戻し。


「孫悟飯っていうんだ」

悟空の言葉に反応したのは、武天老師さまだった。

「孫悟飯? そうか、死んだじいさんの名前をつけたのか」
「ああ」


亀仙人さんは悟空のおじいさんと知り合いなのかな、と思いながらが立ち上がると、悟飯はやっぱり恥ずかしいのか、母親の足に擦り寄ってくる。
ブルマがその悟飯のそばにしゃがみこみ、視線を合わせてにっこり笑った。


「悟飯くん? 何歳かな?」

ブルマの笑顔につられたように、悟飯もはにかむように笑う。
指折り数え、四本指を立てて。

「よんさいです」
「そうか〜、四歳か〜。あらあら、孫くんの子供にしては礼儀正しいのね〜」


悟飯の頭を撫でながら、ブルマが意外そうな声を出してから、そのそばに立つを仰ぎ見た。

「顔は孫くんにそっくりだけど、中身はちゃんね、この子。戦闘バカにはならないんじゃない?」
「戦闘バカ……って、ブルマさん」
「あら? なにか間違ってるかしら?」
「いえ、確かに悟空はバトルマニアです………」


たはは、と苦笑するを見てから、ブルマは悟飯に視線を戻す。


「ねぇ悟飯くん、大きくなったら、何になるの?」
「えらい、学者さん」
「が、学者さん………」

武道家はないだろうと思っていたブルマだが、こんな年端もいかない子供から「学者」と言う言葉が出てきたことに驚いて、思わず復唱してしまった。
そんなブルマに苦笑を深めて、が悟飯の頭にポン、と手を置く。



「なんかね、図鑑とか大好きなんですよ。ホント、おんなじ顔してるのに悟空とは正反対で、ちょっと違和感が…」
「ちょっと待って!」



の言葉をさえぎって、ブルマが驚いたように声を上げた。
何事かとブルマを見たのは、だけではなくその場にいた全員で。





「し…しっぽが………っ」





ブルマの視線の先。
ゆらゆら揺れるお猿さんのような長いしっぽ。



「ああ。はは、前のオラと一緒だろ?」
「そうなの。この子、生まれつきしっぽがあるんですよ〜。最初はわたしもビックリだったけど、悟空も昔あったっていうし……。慣れちゃうとこれもとっても可愛いでしょ?」



ニコニコ笑うご夫婦。
悟空は昔自分にもあったわけだからわからなくもないが、自分の子供にしっぽが生えていて、それを「可愛い」と言ってのほほんと笑うに、ああ、やっぱり昔と変わってないんだな、と失笑する面々。



それから思いついたように、ブルマがに顔を向け。

「ね、ねぇちゃん。この子、とくに妙なことが、あったり、しない……?」
「妙なこと?」

首を傾けるに、今度は亀仙人がずずいと迫り。

「た…たとえば、満月の夜に、なにか、変化はないか………?」
「満月の夜??」


問われて、は更に首をひねってとなりに立つ悟空を見上げ、「あるかな〜?」と聞いてみる。
だが悟空もう〜ん、と空を見上げながらしばし考え。


「さあなぁ……。オラんち早く寝ちまうから」
「お月見なんかしたことないしね〜」


悟飯に視線をやってから顔を見合わせて首を傾げあい、それからブルマと亀仙人に視線を戻した二人は。



「「なんで?」」



声をそろえて聞き返せば、二人とも焦ったように手と首をブンブン振り回した。

「い、いや、なんでもないっ! それならええんじゃっ!」



過剰反応な二人の様子に、どうにも腑に落ちない悟空とだったのだが、割って入ったクリリンが期待に満ちた目で悟空を見上げて。


「なあ悟空、この子もおまえやちゃんみたいに強いのか?」


そう聞いてきたので、気を削がれてしまった。
相も変わらずの足にピトッとくっついている悟飯を見てから、悟空は軽く顔をしかめる。


「それがさぁ、かなりのリキは持ってると思うんだけどさぁ、こいつ、鍛えてやろうとすると嫌がるんだ」
「なんで? もったいないじゃないか」
「だろ!? でもがさ……」
「嫌がることを無理強いするのはよくないじゃん。悟飯ちゃんがやりたいっていうなら別だけどさ、やりたくないことを無理にやらせたって上達しないよ。『好きこそ物の上手なれ』っていうでしょ?」



そう言い切ってにっこり可愛らしく笑う
なるほど、言外に「無理強いしたら許さない」的なオーラをばしばし感じるこの笑顔でそう言われてしまっては、いかな悟空でも強引に押し切れなかったらしい…。



そうだな〜、なんてたじたじと笑う悟空とクリリンを尻目に、ブルマがふと気づいたように悟飯を見る。



「ねぇ。今気がついたんだけど、悟飯くんの帽子についてるの、ドラゴンボール?」
「ああ、四星球だ。じっちゃんの形見だからな」
「それに、悟飯の名前もらった人だから。悟空が探してきたのをくっつけてあげたの」



は器用だよな、と言う悟空に、照れたように笑う
相も変わらずラブラブな夫婦に、呆れたような視線が集中し、悟空はそんな彼らを見返して。


「あ、あとついでに三星球と六星球も見つけて、家においてあるぞ」


その言葉に、ブルマが地平線の彼方に視線を飛ばし、髪を潮風に遊ばせて目を細める。



「懐かしいわね。ドラゴンボールか………」



昔の冒険を思い出しているのだろう。
どんな願いもひとつだけ叶えてくれる、不思議な七つの宝珠。
神秘的な輝きを放つ、魅惑の宝石。
確かに。確かに夢のような話だけど、そこにはきっと血で血を洗う欲望の争いがあったことが容易に想像できてしまって。





「綺麗だけど……少し怖いな」

の小さな呟きは、潮風に乗って流れていった。















ちゃんは、なにか願い事あるの?」

唐突にブルマに聞かれ、くるんと振り返ったは、大きく伸びをしてからクスッと笑って。

「ん〜ん。今があればそれでいい。これからもずっと、この生活が続けばそれで…………!!!」
ちゃん?」



ふわふわとした笑顔が、突然こわばった。
聞き返すブルマに視線を戻すことなく、があらぬ方向をひたと見据える。
その、あまりに緊張した横顔。



?どうし―――――――――!!!」



の変化に気づき声をかけた悟空の言葉が途中で途切れ、と同じ方向を厳しい目で見つめた。





「な、なんだ? どうしたんだ、二人とも」



クリリンの怪訝そうな顔を見ることもなく、二人はあらぬ方向を見据えたまま。


「な、なにか………。なにかこっちにやってくる!」


悟空の緊張した声音。
同時に、の身体が震えだした。



けれど、二人意外はそんな気配を感じないらしい。
二人の見据える方向に視線をやるが、結局はなにも見えない。





「すごい……気配。何、この大きな気………っ!」

自分自身の身体を抱きながら呟くの声は、自分でもわかるくらい震えていて。


「おかあさん………?」


自分にくっついていた悟飯に、震えが伝わったのだろう。
不安そうに見上げてくる息子に、今、笑顔を返す余裕すらなく、その小さな身体をぎゅっと抱きしめる。





「来たっ!!!」





悟空の硬い声。
同時にこの小さな島に降り立つ殺気だった大きな気に、背中が粟立つ。





悟飯を抱きしめたまま、勇気を振り絞り、見上げたの視線の先。















――――――――――――――――――――その男は、立っていた。





















やってきましたお兄様。
次の展開、どうしよう;(おい)