悟飯が強いこともわかったし。
は気絶しているだけだし。
とりあえず、兄貴だっていう奴もやっつけたし。

そんなわけで、悔しいけれどここで死ぬのも悪くないって、思ったのに。


知ってしまった未来は、のんきに死んでなんかいられないもので。


一年後に地球を滅ぼしにやってくる、兄貴よりも更に強い二人のサイヤ人の存在。
命がけでやっとこさ守った大切な宝物が、またもや危険にさらされるという事実。


だから、神様が「生身の死人」としてあの世で修行するように取り計らってくれたことに、悟空は感謝していたりした。守り抜きたい存在のためにもっともっと強くなることが、今の悟空の望みでもあったから。



ただ、心残りなのは。
――――――――――愛する彼女の、自分を想って流す、涙。







第六章:ワガママです






神に付いてやって来た、神殿の奥底にあるあの世への門の前。
あの世行きの門はけっこう要所要所にあるけれども、神殿の門を通ってこの世と決別する者は、神によって救われたさまよえる魂と、悟空のように肉体を持った死人。あるいは、いまだ生を受けていて、何らかの理由であの世にどうしても行かねばならない者。

その必要以上に大きな門の前で、自分の頭の上に浮いている天使のワッカを確認しながら、悟空はズキンとする胸に歩みを止めた。


「どうした?」


怪訝そうに振り返る神に苦笑を返したつもりだが、はたしてちゃんと笑顔になっていたかどうか。



、泣いてんだろうなぁ…」



呟くように漏れた悟空の声に、神の心も重くなる。



強がりで頑張り屋でひたむきで一途で。そのくせ、淋しがりやで泣き虫で。
いつでも前向きに前向きにと自分に言い聞かせ、涙をこらえてきたをよく知っているが、悟空の『死』という現実を目の当たりにして、それでも前向きでいられるだろうか。
さらに、彼女のもうひとつのかけがえのない命もまた、かつて自分の夫に瀕死の重傷を負わせた人物の手の中であるという事実。

いかなでも、このような状況でなお、顔を上げていられようか。




あの世へと続く門の前で、二人してうなだれて立っている姿は、はたから見たらなんとも奇妙な光景だ。
まあ、、、死人が往生際悪くも「死にたくない」と門をくぐるのを嫌がるのはたまにあるが、神がその門に死人を通すのをためらうのは、前代未聞で。

しかもそのわけは、目の前の死人ではなく、その妻の涙を見たくないという、どうにもすべてにおいて平等の神らしからぬ理由だったりする。



「…………だけどさ、行かねぇと、もっと泣くことになっちゃうもんな」


自分に言い聞かせるようにそう言って、顔を上げる悟空の横顔に決意を感じ取り、神はひとつ息を吐いてから頷く。



「そうであるな。今考えるべきは、現在よりも、近い将来」
「ああ、わかってる」


力強い悟空の答えに、神が彼に小さく笑みを向けた。


には、私が直接話をしておこう。おぬしがこれからどこに行くのかも、まちがいなく生き返ることも。……なにか、伝えたいことはあるか?」

神の問いかけに、悟空はちょっと視線を落とし、普段見せたことのない自嘲的な笑いをその顔にかすかに浮かべる。
本当は、あの世に旅立つ前に一度会って、ちゃんと自分の口から伝えたかったけれど。
は自分が生きている間に目を覚ますことはなく、だからといって死んでいる今の状態で神殿以外のところに行くのは不可能だと神は言った。
――――――まあ、死ぬ間際のあんなひどい状態のときにが目を覚ましたところで、ろくに話もできなかっただろうし、なによりあんな自分を見て、が冷静でいられるはずもない、か。



「………伝えてえことはいっぱいあるけど、そうだな。簡単に言うと二っつかなぁ」

そう言って顔をあげ神に視線を戻し、悟空がそのふたつを伝えようと口を開きかけたそのとき。







「ちょっと待ったああぁぁあああーーーーー!!!!!」
「お、おまえが、待て!!!」






あまりにも聞きなれた高く澄んだ声。
ついで、慌てたようにそれを追いかける、いつもは抑揚のない声。





カメハウスから出て、一時も休まずこれぞ奇跡の全力疾走だと自負するような素晴らしいスピードで神殿にたどり着き、ひたすら驚くミスター・ポポに挨拶をする間も惜しんでここまで馳せ参じたのは、言わずもがな、である。
そして、自分の横をすり抜けて大爆走をかますそんな彼女を、いくら娘のように可愛く思っているとはいえこの世の生業を無視されてはたまったもんではないと必死に止めようと追いかけてきたのは、当然神の付き人のミスター・ポポである。





勢いよく振り返った悟空と神の前で、はやっと自分の足にブレーキをかけた。
後先かえりみず走ってきたせいで、心臓はバクバク、息はあがりきり、肺がものすごく酸素を欲している。



「ポポ、、止められなかった」


膝に手を当てて肩で息をしているの後ろから、ミスター・ポポが同じく息を切らせながら困りきったように神を見上げていて。
唖然としていた神がそんなミスター・ポポに視線を向け、ひとつ頭を振ってから、その視線をいまだ下を向いてハアハアしているに流す。





「…………暴走マックスのを止められるのは、多分、孫だけだろう。ミスター・ポポよ、そんなに気にせずともよい」


もう、あきれ果てて笑うしかないというような苦笑交じりの神のセリフに、未だに目をまん丸にして固まっていた悟空が我に返り、改めて目の前に突然現れたの姿を視野におさめた。



まさか、あの世へ旅立つ寸前に彼女が現れるとは思いもよらなかった。
ここまでダッシュでやってきたのだろう、その細い肩を大きく上下させているのは、紛れもなく。





「――――――………?」





半ば諦めていたけれど、どうしても諦めきれなくてそれこそマッハの勢いで走ってきて。
聞きたかったその声が自分の名前を呼んでくれたことに、ホッとしたのと同時になんだか泣きたい気分になってくる。



上がった息をなんとか整えて、恐る恐るといった感じでそうっと見上げたの視線の先。






「―――――――――…………ひえぇ………」




おもわず、そんな奇妙な感嘆の声が出てきてしまった。



そこにいたのは、紛れもなく愛しのだんな様である悟空だった……のだが。
その顔色といったらもう、真っ蒼をとおりこして完全に土気色で、血の気の血の文字もなくて。
その頭の上には、天使のわっか。
まるで、死んでいるかのようなその顔色と、コントでもかましているんじゃないかと思わせるようなその天使の輪に、は一気に血の気が引いていくのを感じた。





「悟空、顔色やばいよ…。それに、なに? その天使のわっか」





搾り出した自分の声は、自覚できるほどに震えて上ずっていて。
ひたと悟空の瞳を見上げ必死に問うたその言葉に、悟空は一瞬瞳を泳がせてからに視線を戻し、困ったように頬っぺたをかいた。



「あ、ああうん。ごめんな、オラ、死んじまったからさ」



伝えたかったことの一つ、謝罪の言葉。
ずっと、一緒にいてやるって言ったのに。不安そうなに、何度も何度も言ったのに。



バツの悪そうな顔で悟空の口から出てきたその言葉に、は頭上からでっかいタライが落ちてきたような衝撃を受けてヨロめき、がっくりと肩を落とす。



「本当に……すまねぇ」

落とした肩に乗った手は、氷みたいに冷たくて。
悟空のあったかい手はもう、ここにはないんだと思うと、無性に哀しくて。
―――――――――でも。





はキッと顔をあげ、それから自分の肩に乗ったその冷たい手をむんずとつかんだ。


?」

戸惑うような悟空の呼びかけに返ってきたのは、ほわりとした柔らかい笑顔。



「――――――確かに、死んでるかもしれないけど。顔色も悪いし手もこんなに冷たいし……微妙な気分だけど百歩譲ってその天使のわっか、も付いてるし。でもさ、こんな悟空だって、悟空は悟空。わたしの目の前で普通に喋ってるじゃん。だから」


不安な気持ちを押し込めてにっこり笑うは、本当に綺麗で。
悟空はもちろん、その泣き出す一歩手前のような笑顔にボケッと見惚れてしまった神とミスター・ポポは、混乱の極地にあるがぶっとんだ行動をとる娘だということを一瞬忘れてしまった。





「帰ろっ! わたしたちの家にっ!!!」
「うわっ!!!」




提案するや否や、はつかんでいた悟空の腕を強く引いて、引っぱられてバランスを崩した悟空にかまわずきびすを返して元来た道を彼を連行したまま戻りだしたもんだから。





、駄目!」
「き、気持ちはわからぬでもないが、とりあえず落ち着きなさい、!」
「うわわっ!!!」




我に返ったミスター・ポポと神が、あいている悟空のもう片方の腕をつかみ、引っぱり戻す。

強い抵抗を感じたは、ジャマをする二人をキリリ、とにらんでから、ウルウルと目を潤ませて悟空を見上げた。



「ね、悟空。一緒に帰ってくれるよね? 悟空、言ったもん。ずっとわたしと一緒にいてくれるって。そりゃ、今の悟空はちょっとゾンビさんみたいだけど…それでもいい。わたし、悟空がいなくなるなんて耐えられないよ」



一生懸命涙をこらえながら訴えてくるに、胸が痛くなる。
どうして、自分はこんなに弱かったんだろう。
兄貴なんかよりもずっと強ければ、にこんな顔をさせずにすんだのに。
―――――――――でも。



、オラだって、ずっとおめぇと一緒にいてえんだぞ? でも、おめぇの言ったとおり、今のオラは死んでっからゾンビみてえなもんなんだ。いまだに腹の真ん中にでっけぇ穴あいてるしよ」

「…………おなかに、穴……………あいて、るの?」

「まあな。それで死んだんだし。見るか?」

「ヤダ! まくるな〜〜〜!!!」



驚愕の事実に思わず聞き返したを見て、悟空が傷口を見せようと道着の裾をまくろうとすれば、手と首ををブンブン振って必死に否定の言葉を発する
そんなグロいもん見せようとするな、と心の中で悪態をつく彼女に、神が口を開いた。



「孫の魂は生身の体に戻したが、神殿から一歩出てしまえば生きていくことはできぬゆえ、また魂は分離してしまう。それに……早くこのあの世への門をくぐらなければ、孫の体はこのまま朽ち果てていってしまうのだ」

哀れみの視線を投げかけながらの神の言に、は深くうつむく。





わかってる。
頭では、わかってた。
悟空はもう死んでしまって、生き返りでもしない限りもう二度と一緒に暮らすことはできないって。
おなかに穴が開いているっていうのは見たくもないし正直信じがたいけれど、その血の通っていない冷たい身体と真っ白な顔を見れば、受け入れたくなくたって頭ではわかってしまう。
でも、そんなこと、信じたくなくて、悟空が自分のそばから離れていってしまうことが、身を切られるように痛くて。
一緒にいたい、行かないでほしいって思ってしまうことは、ワガママなんだろうか。





瞳から、知らずに涙が溢れ出す。
とめることなんか、できなかった。
パタパタとその場に落ちて音を立てる、涙。




「ごめんな。本当に、すまねえ」

かすれた声で謝罪の言葉をかけながら頭を撫でてくれるその手は、やっぱり冷たくて。

「謝って、くれなくて、いい…。ごめんなんて、いらない。だから………お願い。行かないで………」


華奢な肩を震わせて、涙を拭いもせずに顔をあげたを見ていたら、なんというか、もう。

彼女の笑顔を守れなかった自分への苛立ちと、そんな顔をさせてしまった申し訳ない気持ちがあふれ出してきてしまって、悟空はその想いに後押しされるまま、気づいたら、を抱きしめていた。



「―――――――――………冷たい、ね……」
「……悪ぃ、でもオラ、もっと強くならなくちゃいけねえんだ。は気ぃ失ってたから聞かなかったけど、オラの兄貴ってヤツが言ってたんだ。一年後、アイツよりも強いサイヤ人が地球を滅ぼしに来るんだって」

抵抗なく腕に収まっているから、小さな身じろきと、息を呑む気配が、伝わってくる。

「だから、あの世で修行してくっから。修行してもっともっと強くなってくっから。今度こそ、と悟飯をちゃんと守れるようにさ」

そっとを開放して、必ず帰ってくるから、待っててくれ、と。
の涙に濡れる顔をまっすぐ見て、伝えたかったもうひとつの言葉を言おうとしたのだが。



「そうだよ、悟飯ちゃん!!! 悟飯ちゃんはピッコロ大魔王に連れてかれちゃったんだ!!!」




悟空のことでいっぱいいっぱいで、もうひとつの愛しい存在を忘れていた自分が信じられない。(そして悟空は、いままで今にも壊れそうだった彼女のその変貌ぶりが信じられない…)
同じく大事に思っている悟飯はいま、大魔王と名の付く恐ろしいお人の元にいることを思い出してしまい、はおろおろとうろたえだした。




「どうしようっ!…って、そうだ、助けなくちゃ!!! ああでも、悟空が逝っちゃうのもイヤだし、どうしたら……」



パニックがどうやらピークに達したらしい。
その場でひとり問答を繰り広げ始めたを見て、こんなときに不謹慎な上に本気で悩んでいる彼女には申し訳ないが、神とミスター・ポポは、いまも昔もちっとも変わっていないその様子に懐かしさなんかを感じてしまっていた。





「お、おい落ち着けよ!」
「お、落ち着いてられますか! 悟空がこんなふうに死んじゃって、その上悟飯まで死んじゃったりしたらわたし、後追うからねっ!生きてられないっ!!絶対死んでやる〜〜〜っ!!!」
「そんなのオラやだよっ! が死ぬっつうんだったらオラだって死ぬからなっ!!!」
「悟空はもう死んでるじゃん!!!」
「そ、そうだけどよ…。でも!やなんだよが死ぬのはっ!!!」
「なにそれ!ワガママだよめちゃくちゃワガママ!!!自分はわたし残して死んじゃったくせにっ!!!どんだけ哀しいかわかってんの!?!?」
「わかってっけど、仕方ねえだろ!?おめえと悟飯助けるためにしょうがなかったんだよ!!!それに死んだっつったってドラゴンボールで生き返ることできんだから!!!」
「たとえ生き返ることができたって、わたしにとっては『死ぬ』ってそんな簡単なものじゃないんだよっ!!!とくに悟空と悟飯は、わたしの命よりも大切な人なんだからね!!!」






よくよく聞いていれば、悟空は自分のことを棚にあげてに「死ぬな」と言っていて、で守ってもらった事実を無視して「勝手に死ぬな」と主張している。
要するに、我の張り合い。



だがしかし、目の前で始まったその夫婦喧嘩に、のんきに懐かしがっていた天界人二人は大いに焦ってしまった。
悟空もも、いつもホワホワで、激しく言い合ってるところなんて今まで見たことはなく。
いや、日常ではたまにやりあったりはしていたのだが、神とミスター・ポポが喧嘩してる二人を見たのは初めてだったりするわけで。





「ま、まあまあ、喧嘩はその辺にして……」
「「神様は黙っててくれ(ください)!!!!!」」
「神様、いまの二人、なに言ってもムダ」





とりあえず仲介に入ろうとした神に返ってくるビシリとした容赦のない発言と刺すような視線。
にはあの世へ旅立つ前に悟空と会話することを許してやったのに、そして悟空にいたっては、わざわざ肉体に魂を戻してやったというのに…と少々物悲しくなり肩を落とした神の背中を、ずっと二人の面倒を見てきたミスター・ポポが慰めるように叩いた。










数分後。



「ったく……相変わらず、ぜんぜん、引かねえん、だから………」

「人のこと……言える、立場………?」



言いたいことを激しく言い合うことは、スッキリすると同時にひどく体力を消耗してしまいます…。
生きているはともかく、死んでいる悟空もまた息を切らしてお互いににらみ合った後。

どちらからともなく、笑いがこみ上げてきた。



「「あはははは! あ〜、すっきりした!!!」」



仲良くハモったことがまたおかしかったらしく、さらに笑ってしまっている悟空とを見て、それまで二人のワガママな言い合いを体育座りで傍観していた神とミスター・ポポが立ち上がる。



「ようやく終わったようだな」
「はい、神様」



ひとしきり笑いあった後、胸のもやもやを吐き出し、本来の精神状態に戻ったがググッと拳を握り締めた。





「じゃ、悟空はこれからあの世で修行するんだね? 一年後に来るそのめちゃくちゃ強いサイヤ人をやっつけるために」
「…………なんだ。ちゃんと聞いてたんじゃねぇか」
「そりゃ聞いてますよ。聞き流すにはあまりにショッキングな現実ですから」


言ったはいいが、その後悟飯のことになってしまってテンパッたが、その内容を理解していたことに悟空がちょっと意外そうに言えば、は得意そうに切り返す。

それから、う〜ん、と考える素振りを見せてから、決心したように顔を上げる

「どうも悟空だけが死んじゃうのは納得いかないけど、そういう理由であの世に行くなら仕方ないねすっっっごくイヤだけど、生き返ることを信じて……うん。とりあえずわたしは、悟飯助けに行くよ」

「いや、少し待て」


そうと決まったら即実行! ときびすを返しかけたを、神が呼び止めた。
きょとんと振り返ったに、神は微妙な顔をする。



「助けに行ったところで、相手はピッコロ。返り討ちにあうのが関の山ではないか?」
「うっ。い、いや何とかなりますよ!ママパワーで!!!」
「うむ。確かにおぬしがキレればなんとかなろうが…。しかし、ピッコロとて一年後に脅威のサイヤ人がやってくることを理解し、その上で孫悟飯をさらったのだ。つまり、あやつは孫悟飯を鍛えるつもりのようなのだ」



神の言葉に、はぱちくりと大きく瞬きをした。




だって、悟飯はまだ若干四歳の小さな子供なのだ。
しかも、バトルマニアで戦うことの大好きな悟空の息子とは思えないほど、戦闘に関してはまったく興味を持っていないため、いままで『修行』と名の付くものにはいっさい手を出していない。
その悟飯を連れて行って、鍛えるって。



「理解、不能。悟飯は確かに悟空の息子だけど、ただの子供なのに……」

の呟くような声を耳にした悟空は、それはもう嬉しそうに破顔した。



「それがよう、悟飯のヤツ、怒るとオラやピッコロより強えんだぜ? オラの兄貴っつうヤツだって、悟飯の一撃にだいぶ参ってたんだ。やっぱ、オラとの息子だよな〜」

「マジですか?」



信じられない、というような顔を悟空に返してから、神に視線を戻せば、肯定の意味で軽く頷く神。


「そういうことなのだ。心配なのは重々承知だが、いまのピッコロは昔のように魔族の筆頭という感もずいぶん薄れておるようだし、ここはひとつ、悟飯の身はあやつに預けてみるのも一つの手かと―――――――――」
「冗談!!! じゃ、わたしは!? 悟空も悟飯もいなくなっちゃったら、わたしどうすりゃいいの!?!? わたしだって自分の非力さ加減に今回ほど後悔したことないのに。わたしだって、悟空と悟飯を守りたいのに…っ!」





ワガママだってわかってる。独りになるのがイヤだって駄々をこねてる子供と一緒だって。
でも、言わずにはいられなかった。
だって、失ってしまったら本気で立ち直れないほど、二人を愛しているから。



強く唇をかむを見つめて、悟空が思いついたように破顔した。





「じゃあさ、もオラと一緒に行こうぜ!」
「え?」「は?」「なに!?」





悟空の提案にきょとんと顔を上げるの声と、なにを言い出すんだコイツはと呆れたようなミスターポポと、ふざけてるのかおぬしはというような神の声が重なった。



そんな三人の顔を一通り見てから、悟空はなんていいことを思いついたんだ、とひとり悦に入っていたりする。
悟飯も心配だけど、確かに自分やでは思いっきり息子に甘いため、とても修行をつけられるとは思えないし、確かに神の言うとおり、ピッコロ大魔王は昔よりもずいぶん丸くなっているように思える。悟飯を強くする師匠には、うってつけかもしれない。
それに、が自分と一緒に来てくれれば、ずっと一緒にいられるし、も一年も自分を待っている必要もなく、さらには彼女もサイヤ人と戦う戦力になる――――――命がけで戦わせる気はないが、彼女が強くなれば自分としても組み手が非常に楽しかったりする。





「おめえだって、強くなりてえんだろ?」
「そりゃそうだけど……。わたし、生きてるし」

あの世への大きな門を見上げて、不安そうに視線をさまよわすの瞳を捉え、悟空がニッと笑った。



「オラ、すげえいいこと思いついちゃったな〜。だって、オラと一緒に行けば、オラのこと待ってることねえし、修行して強くなれるしさ」


その土気色の顔色でも、やっぱり素敵な笑顔の悟空にクラリとやられてしまったは。
自分が生きていることも、多分神やミスター・ポポがそんなこと許すはずもないことも、念頭から綺麗さっぱり消えうせて。





「はい、そうね。悟空、アタマいいね〜」





こくり、と頷いてしまった。










直後。





「ワガママも大概にせぬかおぬしらーーー!!!」
ポポ「か、神様、落ち着いて!!!」
悟空「なんで? いい考えだと思うんだけどなぁ」
「とりあえず、ごめんなさいっ!!!」




















初めて、神様に怒鳴られました。




















く、苦しい…。
自分で自分の首を絞めている気がします……。

でもっ!ひとりで二人をじっと待ってなんていられませんっ!!!(ワガママ)