ブルマ「ふぅん………コレが神殿?なんだかずいぶん殺風景なのねぇ」
悟空「そうか?オラ、よくわかんねぇけど」
ランチ「でも、なんだか神聖な感じがしますわ」
ウーロン「神聖、ねぇ…」
クリリン「てゆうか、いいのかよ?オレたちまで来ちまって」
ヤムチャ「硬いこというなよクリリン、今日は特別な日なんだからさ」
プーアル「そうですよ。一応僕たち顔見知りなんですし」
亀仙人「確かにのう。つい先日言葉を交わした仲じゃ、つまみ出されることもあるまいて」
天津飯「ここで、おまえたちは修行していたんだな…」
餃子「へぇ………」
「えぇ、まぁ。厳しかったけど、懐かしいなぁ。……でもやっぱり、ちょっとマズいような気も…」
空は快晴。緩やかで爽やかな風の中。
本日挙式の悟空とは、ゆかいな仲間たちを伴って、なつかしの神殿の石畳を踏みしめていた。
第十章:結婚します!
神はここのところ落ち込んでいた。
次に神になる器の人物を見つけ、退位を決心したというのに、その人物は神になることを望まなかった。
望まなかったどころか、「冗談じゃねぇよ」なんて言われてしまったのだ。
いやだというものを無理強いするわけにもいかず、譲る気満々だったその座に戻った神は、はぁ、と深くため息をついていた。
そんな折、付き人であるミスター・ポポが、珍しくあわてたように自分の元に駆けてきて。
「神様、大変」
「どうした、ミスター・ポポ」
閉じていた目を開けて、珍しく慌しく走りこんできたミスター・ポポに視線を向ける。
ポポはといえば、神の全っ然気付いていないその様子に一瞬唖然とし、それから気を取り直したように一息ついて。
「孫悟空と、来てる」
「なに!?」
もしや自分の申し出を受ける気になったのでは!?と期待に膨らむ胸。だが。
………神殿の庭に気を向けてみれば、気配がふたつではない。ふたつどころか…一、二…十以上!?!?
なんで神聖な神殿に、下界の者が十人以上も!?
驚いたようにミスター・ポポに視線をやれば、表情が乏しいながらもポポはそれ以上に困惑したような顔をして。
「あっさり、神殿来たから、神様、許したのかと思った」
そう言われてしまっては、ポポを責めることなどできるはずもなく。
神殿に近づくものの心を読み、この場所にふさわしくない者は入れないようにガードするのも自分の大切な仕事のひとつなのに、悟空に在位を譲れなかったことにショックを受けていて、周りに気なんか配っていなかった。
――――――なんとも神らしくない、と情けなくもなったのだが。
まぁ、来てしまったものは仕方がない。
ここは神として、毅然と迎え入れるのが望ましいだろう。
「よい。行くぞ、ミスター・ポポ」
「わかった」
いつもの木の杖をついて立ち上がった神は、ミスター・ポポを伴って神殿の奥から庭へと向かった。
「ポポさーーーん!!!」
神殿の庭に出るなり、懐かしく響く、高く澄んだ声。
久しぶりに聞く声にそちらに目を向ければ、がミスター・ポポに強烈タックルを食らわせる勢いで飛びついてきた。
まぁ、一応天界人であることと、今のが戦闘モードではないのとでかろうじて踏みとどまり、久々に感じる柔らかい気配に思わず零れ出てしまう笑顔。
「。無事で、よかった」
「うん。いろいろ心配かけちゃって、ごめんなさい」
抱きついたまま顔を上げるの、ほんわり笑顔。
本当に、無事でよかった。
そして――――――――――――幸せそうで、よかった。
ニコニコと笑いあう二人(=&ミスター・ポポ)を、ゆかいな仲間たちは呆気にとられて見守っていたのだが、彼らの視線がそのあと自然向かうのは、言わずもがな、悟空である。
なんだかひどく親しげなその様子。自分の溺愛する花嫁が、どんな意味合いであれ、ぶっちゃけほかのオトコと目の前で抱き合ったりしているわけで。当然、にハマって超がつく過保護になっている悟空にとってはオモシロくないだろうと思い好奇の色で見たのだが。
「ポポ、久しぶりだなぁ」
「そんなに時間、経ってない」
「でも、なんか懐かしい感じがするんだよな」
「あ、わたしも!なんか懐かしいよね〜」
が他ならぬ神に抱きついた時だってかなりムッとしていた様子だったのに、特に何事もなかったかのようにインド人風の男に歩み寄り破顔する悟空に、一同口がアングリだ。
ほのぼの会話をする三人を、神こそのんきに目を細めて眺めているけれど。
他の方々が今、心に思うのは。
唯一が抱きつくことを悟空が容認しているあのインド人、いったい何者???
そんな視線に気づいたのか、悟空が仲間たちを振り返る。
「みんな、こいつはミスター・ポポ。神様の付き人だ」
「そして、わたしたちの実質的な先生です」
…………いろんな意味で、先生だ。と訴える心の声をとりあえず飲み込んで、ミスター・ポポは皆々様にぺこりと無表情に挨拶をする。
「そんでもって、最初にオラに『恋』のこと教えてくれたのも、ポポだ。あんときは世話になったな〜、ポポ」
「え!?悟空も!?!?……何気にわたしも、ポポさんに恋愛相談してたんだよね……」
今明かされる、片想い中の二人に挟まれていた人物の存在。
ああなるほど、だから悟空は怒らないし、もあんなに懐いているわけか、と納得する面々。
しかし同時に―――――この鈍すぎる二人の間にはさまれていたなんて、相当な苦労をしただろう、と尊敬と同情の視線を向けてしまう。
そんな視線とは裏腹に、悟空とは顔を見合わせ、それからミスター・ポポに向き直り。
「「あの時は、本当にお世話になりました!!!」」
ガバッと勢いよく頭を下げる。
どっちからも相談を受けて、それに根気よく付き合ってくれていた彼の苦労に、鈍さ爆発な二人はやっと気がついた。
「本当、おまえたち、世話焼けた。でも、纏まってくれて、ミスター・ポポ、嬉しい」
ピッコロ大魔王と闘ったあとも、元気に笑っていて欲しいと願っていた。
そして今、自分の望んだとおりの姿で、二人は自分の目の前に立っている。
それが…………とても嬉しい。
「取り込み中のところ申し訳ないのだが………」
―――――――――ハッ!!!
ほのぼの笑う三人と、呆然とそれを見つめる仲間たちは、割って入った遠慮がちな声に我に返る。
一斉に声のしたほうに顔を向ければ、そこには忘却の彼方の存在になっていたこの神殿の主、神が軽く咳払いをして立っていて。
「おぬしたち、いったいこの神殿に何用か?」
落ち込む気持ちを押し込めて毅然とした態度を冷や汗もんでキープしていたというのに、まったく無視された形となっている自分はいったいなんなのか。
軽く脱力しながら全員の視線を受けた神の問いに、面食らっていた皆様方が現実に引き戻された。
「そ、そうよ。あたしたち、用があってここに来たんじゃないの!」
「い、いや、なんか調子くるっちゃうよなぁ・・・」
思いっきり場の空気に流されてしまっていた面々を代表して、このメンバーの中で一番の年功者・亀仙人が、神の前に進み出る。
「神様、実はですな、悟空たちは本日結婚式をすることになりましての」
「そうか。それはよかった。私も二人の行く末を案じておったのでな」
いずれはそこに落ち着くだろうとは思っていたので、神の顔に自然笑みが浮かび、そんな自分に笑顔を向ける悟空と。
「それで、我々でいろいろと準備をしたわけですが、是非、神様たちにも出席をしていただこうと思いましたのじゃ。二人の出逢いのきっかけを作られたのは神様ですからの」
亀仙人のお誘いに、神は微妙な笑みを返した。
「お気持ちはありがたいが……私は神。天下一武道会のときは非常事態であったため、このミスター・ポポに任せて下界に降りたが、本来、神は神殿を空けることはできぬのだ」
やっぱりダメか、とちょっと落胆気味のの肩に、ポン、とブルマの手が乗った。
見れば、にっこりニコニコブルマが笑っていて―――――――――次の瞬間、キラリ、と瞳を光らせた。
「多分そうくるだろうと思ったから、全員で神殿に押しかけてきたのよね〜」
「そうなんだよな〜」
「「???」」
ブルマとヤムチャが怪しく笑い、その他大勢が軽く頷き、わけのわからない神とミスター・ポポがいったいどういうことだろうと疑問符の表情を浮かべる。
「じゃあ孫くん、あんた主役の一人なんだから代表してあたしたちの提案を発表してちょうだい」
あたしたち、というか、ブルマさんの提案だったような………と心の中で突っ込みを入れて、がちょっと緊張した面持ちになる。
神殿には神の許しがなければ入れないと、ずっと前に聞いた。その厳かな神殿にこんな大勢で押しかけてきて、それを神が許した(わけではないが)だけでも驚きなのに、その『提案』を神が呑んでくれるだろうか。……いや、自分としてみたら呑んでもらいたいのは山々なんだけれど。
心配そうに悟空に視線を流せば、別に気負った様子もなく神を見て。
「あのさぁ、オラたちの結婚式、ここでやりてぇってんだけど、いいか?」
――――――――――――――――――――――――――はい?
ブルマいわく。
結婚パーティーはカプセルコーポレーションの中庭で盛大にやろうと準備したが、結婚式はやはりしとやかに厳かにという彼女なりの持論をぶちかまし。
式は神様の祝福を受けて二人の愛を誓い合う儀式だ。幸か不幸か、悟空とは神様とお知り合いなんだから、適当な教会の神父を介して式を挙げるよりも、本物の神様の前で直接挙げたほうが話は早いし、オモシロ……じゃなくて神聖で新鮮だろう。
天下一武道会で神を見ていたが、悟空ももいたくお気に入りの様子だった。
というわけで、当日いきなり押しかけて神を捕まえれば、逃げられることもないし断れないんじゃないか。
突然のことにぽかんとする神。
それはすなわち。
神である自分に神父の役をやれと?
決まり文句の「誓いますか?」のセリフをのたまえと、そういうことか?
「「「「「そういうことです」」」」」
困惑した顔で、目で訴えてきた神に、ブルマを筆頭に仲間たちが声をそろえた。
「あ…い、いやしかし………っ!」
視線を泳がす神の様子に、神様でもこんなふうに慌てることがあるんだなぁ、なんて感心する面々。
「別にいいじゃねぇか、それくらい」
なんて、あっけらかんと笑う悟空よそに、はやっぱり困らせちゃって悪かったかなとも思うのだが。
「あのね、神様」
うろうろ彷徨う神の視線をつかまえ、がその目をまっすぐに見る。
「わたしずっと、みんなにも内緒にしてたんだけどね。結婚式のウェディングドレス、お父さんとお母さんにも見てもらいたかったんです」
絶対ムリだってわかってたから、言ったら困らせてしまうってわかってたから、ずっと胸にしまっていた。
でも一生に一度の花嫁姿を、愛情をかけて育ててくれた父母には見せてあげたかった。
「わかってるんです、無理な話だって。だから代わりに…神様と、ポポさんに、見てもらいたい。悟空に逢わせてくれた神様は、わたしの人生を左右した重要な存在だし、ポポさんは…わたしの親みたいな存在だから」
ふんわりと笑う、の穏やかな空気。
まわりを包む、その柔らかな気の流れ。
それは本当に穏やかで暖かいけれど、同時にひどく儚くて、どこか淋しそうで。
「神様………」
ミスター・ポポが主を見上げる。相変わらずの無表情だけれども、その瞳には強い意思が宿っていて。
神はその瞳を見返して、ひとつ息を吐く。
「わかった、引き受けよう」
神の肯定の言葉に、その場のみんなが歓声を上げた。
賑やかになった神殿の庭で、は空を仰いだ。
ねぇ、お父さん、お母さん。
こっちの世界に来てね、淋しかったし、切なかったけど。
でも、心を決めたよ。わたしはこれから、こっちの世界を歩んでいきます。悟空と、一緒に。
―――――――――だから、伝えたい。
「今までお世話になりましたーーー!!! 絶対幸せになるから!!! わたし、結婚しますっ!!!!!」
こみ上げてくる想いのまま、が空に向かって叫ぶ。
花嫁衣裳、見せてあげたかったけど。見せてあげられないけれど。
この気持ち、強い気持ち、どうか異世界まで届きますように――――――そう祈る。
普段、フワフワホワホワしているの突然の大声に、みんなが驚いたように彼女を見て。
その視線を受けたが空を見上げたまま太陽の光を受けて、眩しそうに目を細めて微笑んで。
まっすぐなその視線の先には、きっと彼女の生まれた世界があることを、その場の全員が悟った。
手をかざして微笑むの空を見つめるその瞳は、決意したように力強く、明るくきらめく。
そんな彼女を見ていたらどうにも抑えきれなくなるあふれる想いに、悟空の胸が熱くなる。
悟空はのとなりに立ち、溢れ出る想いにおされて彼女の手を取りやわらかく握った。
なぁ、オラだってちゃんと決心してるんだぞ?
これからもずっと、一生おめぇのそばにいて、ずっと、守ってやるってさ。だから。
「はぜってぇ幸せにするぞーーー!!!だから、オラにをくれよなーーー!!!!!」
同じように叫ぶ悟空をビックリして見上げれば、穏やかな光を宿す漆黒の瞳がそこにあって。
吸い込まれそうな優しい光。だいすきな、気配。
顔を見合わせてお互いに笑みを交わし、それから空に視線を戻す。
二人して並んで空を見上げ、クスクス笑い合う。
「届いたかな〜」
「うん、届いてるといいな〜」
「きっと、届いてる」
幸せな気分で手を繋ぎ、自然に寄り添い微笑む二人と、それを見守り頷くミスター・ポポ。
ほのぼのモード全開な彼らを、同じくほのぼのとした気分で見守る仲間たち。
そしてひとり、神だけは自分の役回りを意識して、いち早く緊張なんかしてしまっていて。
「さっ!じゃあちゃん始めるわよ、花嫁の準備!!!」
「は〜い、よろしくお願いします」
「ランチさんも手伝ってくれる?」
「もちろんですわ」
女三人連れ立って、神殿の中に消えていく。
「じゃ、悟空も着替えるか?」
「着替えるんか?」
「そりゃそうじゃろう、まがりなりにも花婿じゃしな」
「へぇ…そういうもんなんか」
微妙な会話を繰り広げる男衆。
空は快晴。
二人の結婚を天も祝福してくれているような、そんな穏やかで暖かい天気。
幸せいっぱい夢いっぱいに。
「「結婚します!」」by悟空&
そんなわけで、結婚しますw

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