「ねぇブルマさん、コレじゃちょっと胸開きすぎですよ〜」
「何言ってるのよ。せっかくきれいな肌と鎖骨してるんだから、そのくらい開いてたほうがいいわよ」
「でも……わたしブルマさんみたいに胸ないし。何気にこのへん余ってるのがかなり虚しい…」
「あらほんとね…。で、でもちゃんは全体的に細っこいからさ、別に胸がないわけじゃないのよねっ!」
「そんな力いっぱい慰めてくれなくったっていい…。余計ブルーになります」
第九章:それぞれの前夜祭
悟空のためにウェディングドレス着るなんて、半ば…いや、四分の三くらい諦めてたのに。
まぁ、、、元の世界の話になるけれど、悟空はいわば想像上の二次元空間のヒーローでしかなかったわけで、そんな彼との結婚を四分の一も期待していたあたりすごいことだ、なんて冷静な突っ込みも入るが。
とにかく、大好きで大切でぶっちゃけ愛しちゃってるその悟空との結婚式で着るウェディングドレス。
ブルマにとっても、ここが一番のセンスの見せ所…なのだが、やっぱりそこは彼女も若い娘さん。どうしても自分が着てみたい代物を選んでしまう。
すなわち。
自分のセクシーナイスバディを大いに際立たせるちょいエロ系。
胸の大きく開いたものや、斬新的なミニスカートのものや、必要以上に背中の開いたものや。
可愛いは可愛いけれど。
冒頭でブルマが言ったとおり、の躰は線が細くて、ないわけではないがブルマに比べたら胸も発育途上デアル。ミニや背中の開いたのはまだしも、流石に胸が足りなくて布があまったのはちょっと……かなり傷ついた―――――――――女として。
「そんなに気にしないの! あたしだってちゃんくらいのときはそんなもんだったわよ。これからが勝負なんだから!!!」
「ハァ…。そうなんだ………」
ナイーブになっている精神に「そんなもん」発言は、更に深く傷をえぐってくれちゃったのだが、ブルマの精一杯の慰めの言葉にはあいまいに頷いてから、ふと。
「ねぇ、ブルマさん」
「なぁに?」
「ブルマさんがコレ、着てみません?」
「………は?」
またなにを言い出すのだこの娘は、と思いながら見返すと、は瞳をキラキラさせていかにも期待した様子でブルマを見ていて。
「だって、わたしじゃちょっとムリだけど、ブルマさんのナイスバディだったらすっごく似合うと思うの、このドレス」
ニコフワ笑いながらのその発言に、珍しくブルマが赤面した。
「な、何言ってるのよ。今日はちゃんのドレス選びに来たのよ? あたしが結婚するわけじゃないし…」
「でも、いずれは着ることになるでしょ〜。ね、ちょっと、ちょっとでいいから着てください!わたし見てみたい!」
試着はタダだし、なんて言いながら笑う。
結婚なんてまだゼンゼンこれっぽっちも考えてないけれど、そこはブルマも女の子。ウェディングドレスにはそれなりに夢があるのが当然だ。
「う〜ん…/// じゃ、ちょっと。ちょっとだけよ?」
そう頷くブルマの顔は、すっごく可愛くて。
いつものおすまし超絶美人とはまた違った意味で、は「やっぱりブルマさんは素敵だなぁ」なんて思ってしまった。
で、しばし試着をチェンジして。
「………どう?」
先ほどまでが着ていた胸の余る純白ドレスは、そりゃもう、ブルマのために作られたオーダーメイドのようにぴったりで、ものっすごく綺麗だった。
「…………すっごく、綺麗です/// やばいですよブルマさんっ!女のわたしでもウットリしちゃうくらいめっちゃ綺麗!男だったら鼻血ブーもんですよ!!!」
キラキラと目を輝かせて胸の前で指を組み、すっごく感動したようなの表情に、なんだか久しぶりに感じるくすぐったさ。綺麗だ美人だと言われるのには慣れているはずなのに、の心の底からの賞賛は、同じ『綺麗』でも格別に嬉しく感じてしまう。
だけど――――――――――――鼻血ブー…って。
「ちゃん、あんた美少女が『鼻血ブー』はないでしょ? もっとマシな言い方しなさいよ」
本当に気取らないんだから、と軽くため息を落とし、ブルマは鏡に映る自分を見て「さすがはあたし。悪くないわ」なんて呟いてから、に向き直る。
「…うん、そうね。ちゃんにはもうちょっと清純そうなのが似合いそうね〜」
と、今度こそのドレス選びに集中した。
そんなこんなでドレスも決まり、あれやこれやと下準備におわれ、気づいてみれば結婚式前夜。
悟空がそばにいなくてすごぉく長く感じたはずなのに、振り返ってみればあっという間の三週間。
「いよいよ明日ね〜。どうちゃん?今の心境」
聞いてくるブルマは、ワクワク楽しそうな様子。
対するは、そわそわうろうろ落ち着かず、ブルマの質問にぱっと顔を赤らめる。
「心境…って。正直に言って! 来ちゃったどうしようっ!!!って感じです…///」
嬉しいは嬉しいし、幸せは幸せなんだけれど、今一番に感じるのは緊張と焦りだったりする。
結婚って、一生もんだし、ずっとずっとこれからずぅ〜〜〜っと死ぬまで悟空と一緒に暮らすことになるのだ。
優しくてかっこよくて世界一強い悟空が、自分の人生の伴侶になってくれるなんて、としてみればこれ以上ないほど、幸せなんて言葉じゃ表せないほど最高の気分なのだが。
「悟空は………ホントにわたしなんかでいいのかな」
ハウ、なんてため息なんかついてしまう自分に、自分のことながら驚いてしまう。
幸せなはずなのに、嬉しいはずなのに、なんだか―――――――――怖くて。
「コレが俗に言う、マリッジブルーってヤツ???」
真顔でそんなことを聞いてくるに、ブルマは呆れたような顔をした。
この期に及んでなにを言っているのだ、この娘は。
はたから見てれば、アナタでなくちゃダメなんだ的な勢いで悟空に溺愛されているにもかかわらず、「わたしなんかでいいのかな」ときたもんだ。
まぁ…その自分の魅力をわかっていないところもまた彼女の魅力なんだろうけれども、それにしても鈍い。鈍すぎる。
「あのねぇ。あたしも経験ないからわからないけど……結婚て、確かに相手の気持ちも大切だけど、相手がどう思うかよりも自分がどう思ってるかが重要なんじゃない?」
「???」
きょとんと自分を見返してくる、の不思議そうな顔。
「うまく言えないんだけど、、、そうね、ちゃんは孫くんのどういうところが好き?」
そう問われれば、ポポポッと染まる頬っぺたがなんとも初々しくて可愛らしい。
ちょっとうつむきがちに瞳だけブルマのほうに向けて、恥ずかしそうにはにかみ笑いながら。
「ぇ、と。カッコいいとことか強いところとか、穏やかな性格とか、明るいところとか……挙げたらきりないんだけど。一番好きなところはね――――――優しいところ。悟空が優しくしてくれると、すごくホッとするんです」
眩しい笑顔は元気をくれるし、優しい温もりは安らぎをくれる。
赤い顔はそのままに、自然ふわりと浮かぶその笑顔は、恋する乙女そのもので。
思わずクスクス笑い出すブルマに、は困ったような視線を向けた。
「な、なんか、変、ですか?」
「ううん、変じゃないわ。ただ……ちゃんは本当に孫くんが好きなのねぇ」
「はい、大好きです」
こっくりと頷くの素直な反応に、ブルマは再度クスリと笑う。
「だったら問題ないんじゃないの?ちゃんは孫くんが大好きで、結婚したいって思ってて。孫くんはそのちゃんに『結婚しよう』って言ってくれちゃったんだから。それで万々歳じゃない」
「………そっか。そっかそっか。そうですよね!ブルマさんありがとう!」
浮上したのが一目でわかる満面の笑顔。
まったく世話の焼ける、と思っていたブルマに、は悪戯っぽい笑みを向けた。
「じゃ、ブルマさんたちは?」
「は?」
いきなり問われて意味がわからず、問い返してみれば。
「ブルマさんとヤムチャさんですよ〜。付き合い長いって聞いたけど、結婚とかはまだ?」
この前のウエディングドレスだったらヤムチャさんなんかイチコロですよ〜、なんて笑っているに、ブルマは微妙に微笑んで。
「ヤムチャはね〜。ま、付き合ってるって言えばそうなんだけど。なんかいまひとつ足りないのよ。きっかけがあれば結婚するかもしれないけどさ、今はまだ考えらんないわ〜」
昔は純情な硬派だったけど、なんか最近はちょっと女好きになってきたような気もする自分の彼氏考察。
喧嘩も絶えないし結婚なんていつのことになるやら。
「それに、あたしくらいイイ女だったら、ほかにもっとイイ男が現れるかもしれないでしょ?」
屈託なく笑うブルマに、どう返していいかわからずにあいまいに笑う。
「ま、とりあえず今はちゃん、あんたよ。幸せになんなさいね」
「うん。悟空がそばにいれば、わたしは幸せだから」
ブルマの言葉にほんのり頬を染めながら幸せそうに笑う。
そんなふうに想える相手を見つけたを、ちょっと羨ましいな、なんて思いながら、ブルマも笑みを返した。
一方そのころ、カメハウス。
「んじゃ、悟空の独身生活最後の夜に、かんぱ〜い!」
男四人、グラスを合わせて、ささやかな飲み会なんかを催していた。
とはいっても、流石に明日にアルコールを残せるわけもなく(そんなことをしたらブルマに殺される)、最初の乾杯以降はもっぱらお茶中心だったのだが。
「ちくしょー! 悟空もとうとう妻子持ちかよ!」
「いやクリリン、妻は持つけど子供はまだだ」
悔しげにオーバーにも目を潤ませながらグッと拳を握るクリリンに、冷静に突っ込みを入れるヤムチャ。
「まったく師匠のわしを差し置いて結婚とは…。しかし、一番その話題に疎いと思うとった悟空が、一番先になるとはのう。いやいや、人生わからんもんじゃ」
「ハハハ、ホントだな」
恨めしげに悟空にジト目を向ける亀仙人に、悟空はのんきに笑いながら頷いた。
明日になれば。
明日からは。
ずっと、と一緒にいられる。
そう思うだけで、緩みっぱなしの頬っぺた。
へへへ、と幸せそうに笑いながらグラスを傾ける悟空は、他三人から見てもかなりの色惚けヤロウになっている。
「でもいまだに信じらんねぇよ…。あの悟空が、ここまで女の子にハマるなんてな〜」
「確かにな。ったく、ガキの頃は男と女の区別もつかなかったくせに」
「しかも、ギャルを見る目も無かったぞい。どれが可愛くてどれが可愛くないかもわかっとらんかった!」
口々に言いながら頷きあうクリリンとヤムチャと亀仙人。
まぁ、いろいろ…というかものすごく問題もあったが、やっぱり悟空も男だったか、なんて思いながらしみじみとアルコール代わりのお茶を飲み交わす。
悟空のハマった女の子は、ほんわかホワホワ柔らかい空気を纏った美少女。
カワイイの基準もわからなく、ましてや男女の区別もつかなかった悟空が惚れるにしては、あんまりでき過ぎていて。
―――――――――そういえば。
悟空の『教育』に気をとられていて今まで思いつかなかったけれど。
「………なぁ悟空、おまえ、ちゃんのどこに惚れたんだ?」
外見は文句なしの彼女だが、先ほど述べたとおり、悟空は外見にはさほど興味が無いだろう。今更ながらふと疑問に思ったことを口にすれば、悟空はきょとんとそう聞いてきたクリリンを見返す。
それから、興味津々で身を乗り出すヤムチャと亀仙人に視線を走らせてから、う〜ん、と腕を組んで天井をにらんだ。
「どこって言われっと………どこだろうなぁ」
――――――――――――って、おいっ!!!
またすっ呆けた答えを返す悟空に、思わず突っ込むお三方。
そんな三人の様子などおかまいなしで、悟空はしばし上を向いていたが、それからフッと表情を和ませた。
「……うん。の世界にはちゃんとの家族がいて、仲間もいて。それを突然オラがこっちの世界に連れてきちまってさ。最初はアイツが淋しくねぇように一緒にいようって思ってたんだけど…」
初めて逢ったときから、なんだか不思議な感じがした。
こっちの世界に来て、ぐったり気を失っているを見て、なんだかすごく不安になった。
心配で心配で、気になって気になって。彼女が眠っていたのはたった一日だったのに、その一日がものすごく長かった。
やっと気がついて、呆けたように自分をその澄んだ瞳に映した彼女に、胸がざわついて。
笑顔を見せてくれたと思ったら、帰れないと神に言い渡されて、驚いたように見開いた目から、はたはたほたほたと流れ出した涙に、今度は胸が痛くなって。
自分まで哀しい気分になってしまって、とにかく申し訳なくて、謝罪を述べた自分に見せた、のあのときの笑顔。
「悪いのはわたし」「謝らないで」と、途切れ途切れにそんな言葉を声に乗せ、ムリに笑ったあのときのに。
――――――――――――――――胸が、熱くなったんだ。
「そうか………。オラ、あのときにはもう、に捕まってたんだ………」
惚けたように呟く悟空を、再び身を乗り出して見つめる三人。なんだか、自分たちまで気が昂ってきた。
「で、具体的にどんなところが好きなんだよ?」
せかすヤムチャに、今度はふわっと端正なそのお顔を綻ばせる悟空。
「全部だ。の全部が好きだぞ。ちょっと抜けてるところも、すぐ怒るところも、前向きなところも、自分に正直なところも、すげぇ強いところも、全部。でも、一番好きなのは…………オラに元気をくれる、あの笑顔だな」
の笑顔を思い出したのか、悟空が窓から外に視線を走らせ、柔らかく笑う。
その視線の彼方には、カプセルコーポレーションにいる、愛しい存在の微かな気配。
聞いてるこっちが恥ずかしくなるようなことを事も無げに口にする悟空に、思わず悶える男三人。
なんというか、ちょっともう。
「「「ごちそうさん!!!」」」
「―――――――――はぁ?」
聞いていられなくなった三人は、もうダメだとばかりに声をそろえ、そんな三人に、意図せずのろけていた悟空が不思議そうな顔を向ける。
まぁ、ここまで色惚けしてるなら、言う必要もないだろうけれども。
ヤムチャ「悔しいけど、まぁここは百歩譲って」
クリリン「百歩というか、千歩ぐらいゆずんねぇと気がすまねえよっ!」
亀仙人「こりゃクリリン。わしとて悔しいがの、ここはまぁ、涙をのんで」
口々にそう言って、それから三人は悟空にニッと笑いかけ。
ヤムチャ「幸せになれよ」
クリリン「てか、ちゃん幸せにしろよ」
亀仙人「おぬしたちの幸せを、心より願っておるぞ」
いろいろと大変だったし、かなりの苦労を強いられたけれど、悟空は今も昔も自分たちの最高の仲間。
その最高の仲間の幸せな門出だ。
なんだかんだ言ったって、自分たちも心の底では嬉しいはずなのだ………たぶん。
ヤムチャ、クリリン、そして亀仙人の笑顔に、悟空はパァ、っと破顔して。
「サンキュー」
頷く悟空の肩をばしばしと叩いて、声を上げて笑いあった。
そんなこんなでそれぞれの一夜が明けて。
やってきました、結婚の日。
それぞれの恋バナって感じで…
結婚式、どうしようかなぁ…(をい!)

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