神様の前で、誓いました。
悟空を一生愛することを。
だから、どんなにもとの世界が恋しくても、――――――もう、泣かない。
ごめんね、お父さん、お母さん。こんな親不孝な娘で。
わたしを心配してくれてるもとの世界の人たちに、どんなに謝っても謝りきれないけれど。
でも――――――わたしが選んだ道は、こっちの世界で悟空と共に歩んでいくこと。
第十二章:初・体・験
帰ってきましたパオズ山。
仲間たちに祝福されて、神やミスター・ポポに祝福されて、最高に幸せだった結婚式と、例に漏れず大騒ぎだったけどいっぱい笑ったパーティー。
みんなでわいわい楽しく過ごしていたせいか、悟空と二人っきりになったときは正直、少し緊張してしまった。
「どうした?」
夜更け過ぎ、ブルマにもらった彼女いわく『携帯用中古品』にもかかわらずご立派なカプセルハウスに戻ってきたはいいが、どうも変に意識してしまってギクシャクするに、悟空はことりと首をかしげて尋ねる。
「い、いいいいえ別に!ど、どうもしないんだけど、ねっ!!!なんか、その……二人っきりなんて久々だから、緊張しちゃって………」
悟空のお伺いにドキンとひときわ高くなる鼓動を感じ、それに誘発されて増す緊張感。
そんな可愛いしぐさをされたら、こっちの心臓が持ちませんっ!などといつもながらズレる思考に、うろたえまくって夜目にも鮮やかに頬を染め上げながらいっぱいいっぱいなの様子に、伝染したかのように緊張する悟空。
「あ、ああ、そうだな!久しぶりだよな、二人っきりなんてさ」
「う、うん」
久しぶりどころか、二人っきりになることなんて今まで数えるくらいしかなかったのだが、緊張のあまりそれ以上会話も続かず、し〜ん、と夜独特の静けさが二人の間に落ち。
それから、二人して同時に軽く噴出した。
「アハハ、なんか上がっちゃうねっ!……でも、嬉しいんだよわたし。悟空に選んでもらえて、悟空と結婚できて。これからずっと悟空のそばにいられるって思うだけで、泣けてきちゃうくらい幸せ」
赤い顔はそのままに、ふんわりと笑みを浮かべながらのの言葉に、悟空は思わず手を伸ばし、熱を帯びた彼女の頬にそっと触れる。
「はは、うん。オラも嬉しいぞ。がオラのこと好きになってくれて、一緒にいてくれるんがすげえ嬉しい。……ずっと、オラのそばにいてくれるよな?」
悪戯っぽくきらめく悟空の漆黒の瞳をまっすぐ見返すの瞳に柔らかい光が宿る。
「もちろん。ずっと一緒にいるよ。だから……悟空も、ずっとそばにいてね」
「ああ。邪魔だって言ったって、絶対離れねぇからな。覚悟しろよ?」
クスクスと笑い合い、それからもう一度視線を絡ませて。
はにかんだように笑うの唇に、悟空は軽く自分の唇を重ねた。
朝、目を開けると、となりに誰よりも、それこそ自分の命よりも大切な人がいる。
その穏やかな寝顔を眺めるのが一日の始まりなんて、なんて幸せなんだろう。
これが『新婚生活』というものなんだ///
なんてのほほんと幸せを感じていたのもつかの間。
「ー、メシ獲ってきたぞ!」
朝の基礎トレを終えた悟空がどこかに行ったと思ったら、そんなことをのたまい笑いながら戻ってきた悟空の手にあったものに、は目の前が暗くなった。
「?」
「―――――――――ッハ! あ、ああ、うん、そうね。ありがとう悟空。でも、、、どうやって食べるの?コレ」
怪訝そうな悟空の呼びかけに我に返り、とりあえず『食材』をもってきてくれた悟空にお礼を言ったのだが。
彼の持っているものは、なんだかの知っている『大蛇』という生き物に酷似していて…っていうか、そのもので。
つくづく、お山での生活をなめていた自分に気づく。
田舎育ちゆえ蛇なんかいくらでも見慣れているし、別に怖くもなんともないが、「食する」となると、やっぱりそれなりに勇気がいるものだ。
「どうやってって、丸焼きだろ?」
「――――――姿焼きは、さすがにちょっと…。ええい!こんなことでへこたれてる場合か!?自分で決めたんだ、悟空とこっちの世界で暮らしてくって!背に腹は代えられないし、ここは腹をくくってやってしまうしかないっ!!!ちょっと貸して!!!」
後ろ向きになりそうな思考をムリヤリ前に向かせ、は悟空の持っていた大蛇を逞しくもがっつり掴み、唖然とする悟空をその場に残してキッチンに消えていく。
そうよ、形が蛇だから気持ち悪いんだから、蛇だとわからないように形を変えてしまえばいいんだ!
そんなことを思いながら包丁を握るの目に、ある意味覚悟の色が見て取れたという………。
「うっめー!丸焼きよりずっと旨ぇや!、おめぇ天才か!?」
「それはど〜も」
悪戦苦闘とは、こういった時に使う言葉なんだろう。
とにかくがむしゃらに『食材』と割り切ってその形を変え、煮たり焼いたりしてできたその料理。
確かに味は、悪くない。
そりゃもう、勇気と覚悟とを駆使して頑張って作った料理を、最愛の人が「美味しい」と言って残さず食べてくれるのは、それはそれでひっじょーに嬉しいのだが。
………多分、こういうのが毎日続くんだろうな、と思うと、ちょっと……へこんでしまうである。
まぁでも、「郷に入りては郷に従え」って言うし、そのうち慣れるだろう、と楽観的に考えられる自分の頭。
昔は単純であまり深く考えない自分がすごくアホに思えたこともあったが、今になって、「ああ、繊細でなくてよかった」なんて思ってしまうあたり、も大概オオモノだ。
それに、食事は本気で苦戦したが、それ以外はいたって平穏で。
天気の良い日に手を繋いでお散歩に出かけたり、ちょっとお山に入って山菜を見つけたり、昼下がりに穏やかに談笑したりと、そんな生活はすごく幸せだ。
夜だって、悟空はちゃんと自分を抱きかかえて眠ってくれる。
未だにいわゆる「子作り」の行為は一度も経験してないが、軽いキスと悟空の温もりだけでは満足していた。
もともと悟空はそのやり方をわかってなかったし、カメハウスで勉強したっていったって、果たしてどこまで理解したかもわからない。それに、結婚生活が始まってからまだ十日過ぎたばかり。一緒に歩んでいく人生はまだまだこれからだ。いずれはそういうこともあるだろうけど、さほど焦る問題でもない。
とりあえず今、悟空はわたしのとなりにいて、「好きだ」って笑ってくれる。
柔らかく抱きしめてくれる。優しくて甘いキスをくれる。
―――――――――それだけで、は充分すぎるくらい幸せだった。
そんな生活に大満足なとは裏腹に。
悟空はかなり追い詰められていた………。
確かにと一緒に生活を始めてから二、三日は、悟空も彼女同様、その新婚生活に満足していた。
高く澄んだ声で「大好き」と言ってもらえること、抱き寄せれば少しの抵抗もなく腕におさまってくれる愛しい温もり、そして、甘くて柔らかい、唇の感触。
朝、目を覚まして一番最初にの瞳に映るのが自分だという、誰にともなく感じる優越感と幸せ。
が愛しくて、が大切で。
それなのに。
自分の腕の中で安心しきって眠っているの穏やかな寝顔に、落ち着かなくなったのはいつ頃からだったのか。
その温もりに安らぐはずなのに、いつの頃からかどうにも得体の知れない欲求が頭をもたげてきている。
の笑顔を一生守っていこうと思っている自分のほかに、彼女をめちゃくちゃにしてやりたいと思っているもう一人の自分がいるという、その事実。
わかってるんだ。
あの時、そう、に深いキスをしたときのあの感じ。
あの感じが、ずっと胸につまってるんだ。
ここのところ、眠っているを抱きかかえていると、とてもじゃないが落ち着いて眠れない。いっそ襲ってしまおうかというところまで追い詰められているものの、の信頼を裏切るような真似は死んでもできないし、なにより「ちゃんとちゃんにOKをもらわなくちゃダメだ」と再三ヤムチャに言われた教えにより、必死に理性を保っている今現在。
だったらさっさとOKをもらえばいいのだが、持ちかける話題が話題なだけに、極度の恥ずかしがり屋のがうろたえる様が簡単に想像できてしまい、今まで言い出せなかったのだ。
けれど。
このままではいつ我慢の限界が来てもおかしくないところまで来てしまっている。
限界突破で襲ってしまってからでは遅い。
「確実に嫌われ」てしまう!(ヤムチャ説)
もう、早急に、合意していただかないと!
悶々とする中、悟空はがっつりと決意を固めた。
「はぁ〜、お風呂気持ちよかった〜」
いつものようにごしごしとタオルで髪の毛を拭きながら、が風呂場から戻ってくる。
そのまま、夕飯のときに使った食器類を洗うため、キッチンに直行するのもいつものこと。
カチャカチャと食器の触れ合う音と、洗い流す水道の音に混じって、の鼻歌が聞こえてくる。
いつもはそれを微笑ましく見ている悟空だが、今日はそれが終わるのを切羽詰ったような表情で待っていた。
食器を洗い終わると、「寝よっか」とがほわっと笑って言うんだ。
そん時、だ。
ドクドクとうるさい心臓の音に、掌にはジンワリと冷や汗なんかが浮いてくる。
言い出さなくては、ともう一度胸の中でそのセリフを復唱する。
すなわち――――――――「抱いていいか?」
「――――――……くう? 悟空ってば。どうしたの?」
「―――――――――っわあ!!!」
「!?!?」
いっぱいいっぱいで、いつの間にか食器を洗い終えたがそばに来ていることに気づかなかった。
ボケッとしていた自分の顔を覗きこむ可愛い顔は、今頭がいっぱいになっている相手で。
過剰反応して思わず声を上げてしまった悟空に、ビクリと肩を震わせて目を丸くする。
「あ、っと。わ、わりぃ!なんでもな………くはねぇんだけど!!!」
よくはわからないが、どうも様子のおかしい悟空に、は心底心配そうな顔をして。
「……どしたの悟空?なんか、ここのところずっと元気ないよね?具合悪い?それとも悩み事?わたし、何もできないかもしれないけど、話くらいは聞けるよ?あ、話したくなければいいんだけどっ」
言いたくなければ言わなくてもいいの、と慌てたようにエヘヘ、と笑うに、気づかれてたのか……と。
気づいていながら、心配しながら、言い出すのを待っていてくれた彼女に、熱くなる、胸。
「………うん、。あの、さ」
「ん?」
先を促す、の神妙な顔。
多分、なにか深刻な悩みでもあるとでも思っているのだろう。
確かに深刻は深刻だし、ことは一秒を争う…というのはまあオーバーだけど、とにかく早急に解決したいというのが本音であることはまちがいない。
よし、言うぞ!!!
グッと拳を握りしめ、決断を下す悟空。
「あ、あのさ! だ、だ、だ、だだだだい、だい、だい、だい」
「だい?」
いったいなにを言っているんだろう?とがことりと首を傾ける。
だいだい言ってるけど、何かがでかくでもなったのだろうか?
ぶっ飛んだの思考なんかは今の悟空にわかるはずもなく、目の前の微妙な顔をした彼女の肩をグイッとつかみ、つかまれたは軽く顔をしかめた。
「ちょ、痛いよ悟空。ほんと、どうしちゃったの?」
「だ、だからその! だ、抱いて、いいか!?!?」
「―――――――――…………はい?」
いっぱいいっぱい切羽詰って言った後、悟空にしては珍しく、恐る恐るというように伝えた相手を窺い見てみれば。
当のは、きょとん、とそんな悟空を見返して。
抱いていいか……って。
悟空ってば改めてどうしちゃったんだろ、いつだって抱っこしてくれてるのに。
少々怪訝に思ったものの、なんだか追い詰められたような悟空の瞳を見返し、は安心させるようににっこりとその真っ赤になっている顔に笑みを返し。
「いいよ」
―――――――――って、そんな簡単に、「いいよ」って。
もっとうろたえるとばかり思っていたのに、いともあっさりとにっこり頷くを、悟空もまたきょとんと見返して。
「…………………………………いいのか?」
「うん、いいよ」
ほわっと笑うに、安堵したように息を吐いてから、悟空はをその胸に抱き寄せる。
いつものように、背中に回ってくる細い腕と、ぴったりくっつく胸から伝わってくる、柔らかい鼓動。
「、大好きだ」
「………ほんとに、どうしたの?今日の悟空、なんか、変」
大好きって言われるのはうれしいけど、この時間にこの体勢でいつも言うのは、「おやすみ」のはずなんだけどな、と思いながら見上げる悟空の瞳が、驚くほど甘くきらめいていて、軽く息を呑んだの唇を悟空の唇が塞ぐ。
我慢してた。
こんな心理状態で深いキスなんかしたら、なけなしの理性も吹き飛んでしまうから。
やっと許されて、がOKしてくれて、だから………。
「――――――――――――ん、ふ、んんっ!」
驚いたのは、。
いつもの抱っこと同じだと思ってた。
なのに、いきなり入ってきた悟空の舌の感触。
初デート以来忘れていた、この不思議な感覚に、事の重大さをようやく理解したが遅ればせながら焦りだす。
「抱いていいか?」って、も、もしかして―――――――――ウソ!!!
はたと気づいたそのことに、必死に悟空の胸を押し戻してみるけれど、当然悟空が離れてくれるはずもなく。
久々に背中に走るゾクゾクに、熱を持ったように熱くなる体と、芯が蕩けてしまうように、働かなくなる頭。
どうしよう。どうしよう!どうしよう!!!
焦る気持ちとは裏腹に、硬直していた身体からは一気に力が抜けていく。
全体重を預けてきたの身体を抱きとめ、そっと唇を離した悟空は、息の上がったの顔を覗きこむ。
真っ赤に染まったその顔と、熱に浮かされたような潤んだ瞳。
甘い香りに、とろんと甘いその表情。
高揚する胸が、のその表情に更に煽られる。
戸惑い揺れる瞳が、上気した頬が、濡れて艶かしく光る唇が。
もう――――――――――――――――とめられない。
悟空は力の入らないを抱き上げ、寝室へと向かう。
一方、抱き上げられたはボ〜ッとする頭で為されるがままになっていたのだが、背中に感じたシーツの感触と自分の上にドアップになる悟空の端正なお顔にはっと我に返り。
「ちょ、ちょっと、ちょっと待って悟空!えと、えぇとわたしちょっと勘違いを………やっ!」
羞恥にまともに悟空の顔を見れなくて顔を背けながら必死に言い訳をしようとしたの耳を、悟空の唇が柔らかく挟み、初めての感覚に背中があわ立つ。
「わりぃ。もう、とまらねぇ」
「あ、あのそのっ!で、でもね悟―――――――――んんっ」
なおも言い募るの唇に自分のを重ねれば、口内に消えていく澄んだ声。
そのまま深く口付けられ、舌を絡めとられてしまえば、何も考えられなくなってしまう。
残されるのは、強烈な快感と、どうしていいかわからない深い混乱。
「………………」
優しく名前を呼ばれ目を開ける。
目の前にある悟空の顔が、少しバツが悪そうに微笑んで、知らず流れ出していた涙を指で掬ってくれた。
「怖い、よ……」
零れ出る、本音。
何もかも初めてで、悟空が与えてくれる感覚と、それからものすごく不安な気持ちで早鐘を打つ鼓動。
夫婦なんだから、いつかは来ると思っていたこの事態。
でも、実際そうなってみれば、たとえ心底愛する人が相手だって、怖いものは怖い。
思わず顔を覆ったの耳元に、悟空は唇を寄せた。
「オラも、怖いぞ」
意外な言葉に、は悟空の顔を見上げた。
そこにあったのは、不安そうに笑っているだいすきな人の顔。
「オラがオラじゃなくなりそうで、ちょっと不安なんだ。でも――――――」
言葉を切った悟空が、投げ出されていたの手に自分の指を絡めて握る。
「のこと、愛してんだ。だから、おめぇが欲しい」
悟空の真剣なまなざし。
恥ずかしくて不安なのに、その真摯で甘い瞳から目をそらせなくて。
いつも余裕のある穏やかな気配が、切羽詰っていっぱいいっぱいになって、不安げに揺れているのがわかる。
初めて見る悟空の弱みに、頭に響く悟空の言葉に、身体の力が抜けていく。
そんな視線に晒されて、そんな言葉をかけられてしまったら――――――やっぱり悟空にはかなわない。
「……うん。わたしも、悟空のこと愛してる………」
自分の言葉に、笑顔が戻った。
そう、悟空を愛してる。だから、結婚したんだ。
悟空を愛してるから、こっちの世界で悟空と歩いていくって決めたんだ。
なのに今更、なにを怖気づいているんだろう。
ちょっと、かなり恥ずかしかったけれど、は悟空の首に手を回し、初めて自分から悟空にキスをした。
「わたし、初めてで、なんか変かもしれないけど…笑わないでね///」
「オラも初めてだから、なんとなくしかわかんねえけど……辛かったら言ってくれよな」
お互いにそう言い合って、ちょっと笑い合う。
それからお互いの瞳にお互いを映しあって、熱く甘い視線が絡まりあったあと。
そっと、唇を重ねた。
そして次の日の朝。
何もかもが変わったような、でも基本的に何も変わっていないような、そんな気分で。
腕の中でいまだに眠っているを優しく抱きしめながら。
「前よりずっと、愛してる。、おめぇが、大切だ」
聞こえていないだろうけれど言わずにいらなくて、前髪を書き上げて額に軽く唇を寄せれば、知ってかしらずかほわっと緩むの頬っぺた。
眠っているのをいいことに、頬に瞼に唇に、悟空は何度も何度もにキスを送った。
そんなわけで、結婚後10日過ぎてやっと初夜。
ひょえぇえ〜、は、恥ずいっす…///
ああもうそろそろ、息子誕生させてしまおうかな…

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