仲間たちのエキサイトしまくるからかいと、地位を譲ると迫ってくる神。
その双方を天下一武道会場に残し、を連れてそこから筋斗雲で逃げ出して。
逃げ切ったと思っていたのに。

これから始まると二人っきりの生活に舞い上がっていたのがそんなに悪いことなのか。
腕の中で穏やかに眠るその愛しい寝顔を、これからは毎日眺めていられるんだと、かなり幸せな気持ちをかみしめていたのが、罪だったのか。

悟空の開放感と幸せな気分は、たった半日でもろくも崩れ去った………。





第一章:拉致!




油断していた。
まさか、追ってくるとは夢にも思わなかった。
だからこそ、周りに気なんか配らず思いっきりいちゃついていたのだ。


ガバッと起き上がり、二人していわゆる「気をつけ!」の体勢でかたまり、家の入り口を唖然として見入る。
そんないっぱいいっぱいな視線を受けた当人は、面白そうな、そして勝ち誇ったような笑みを浮かべて。



「あらw そんなに意外だったかしら?」


クスリ、と笑う美女・ブルマの言葉に、まず悟空が我に返り。


「ブ、ブルマ…なんでおめぇが、ここに………」

「やぁね、孫くん。何年あんたと付き合ってると思ってんの? 孫くんの行くところなんて、カメハウスと神殿意外じゃココしかないじゃないの」

フフン、と鼻で笑うブルマの、得意そうな笑顔。

「………てゆうか、い、いつから見てらっしゃったのでしょ〜か………?」


続いて、恐る恐る、なぜか妙に丁寧な口調で問いかけてきたに、今度はニヤリ、と裏のありまくる笑顔を向け。


「フフフフフ♪ 知りたい?」

びびくんっ!!!
その笑顔に肩を震わせ、切羽詰った潤んだ瞳で自分を見てくるの、真っ赤な顔がなんとも言えず可愛らしくて、どうにも弄りたくなってしまう。


「い、いえ…。やっぱ、けっこうで―――――――――」
「意地悪な言い方してごめんねちゃん。もちろん、最初っからしっかり見させてもらったわよ。そうねぇ…具体的には『悟空、大好き』あたりからだったかしら」





………………………………全部、見られてた。





これからどんなからかいの言葉の嵐が吹きすさぶことか―――――。
それを想像して、真っ赤な顔がとたんに青ざめていく二人の様を見やったブルマは、やっぱり面白そうに笑ってはいたものの意外にもそれ以上は何も言わず、家に入ってきてくるりとその中を見渡した。



「……ちっとも変わらないわね、この家。あたしと孫くんが会ったあのときのまま」


懐かしそうなブルマの声。
違うのは、四星球の飾ってあったところに、今は何もない。ただ、それだけ。



「――――――――――――だけど」



動けない悟空に視線を戻したブルマの顔は、ひどく不満げで。


「こんなな〜んにもない家に、大事なちゃんを嫁がせられないわよ。ね?」

「い、いや……『ね?』って言われてもなぁ……」


困ったように頭に手をやる悟空を一瞥してから、ブルマはに視線を移す。


「ね、ちゃん。ここには本っ当にな〜んにもないのよ? 水道も電気もガスもないのよ? こんなところに、孫くんと二人で本気で暮らすつもり??」

「あ、え、えと。わたしは、悟空と二人ならどんなところでも………///」


それに緑豊かなこの場所はかなり落ち着くし、などと言いながら、真っ青だった顔を今度は赤らめるにつられ、悟空もまた彼女の言葉とその表情に顔が熱くなるのを感じたが。




「お風呂もないのよ?」
「それはイヤ」


ブルマの言葉に、即答の


そりゃ、どんなところでも、たとえ地獄だろうとなんだろうと、悟空と一緒ならどこにだって住む気満々だし、悟空が一緒ならどこだって幸せになれる自信はある。でも

お風呂は毎日入りたい。
どんなに小さくてもいい。元いた世界でいうようないわゆる『ユニットバス』でもいい。最悪ドカンだってOKだ。たとえ手足を伸ばせなくたって、文句なんか言わない。

一日の最後に風呂に入るのは、子供のころからの習慣だ。
それだけは、譲れないっ!



「ね、悟空。お風呂は付けよ? 電気なくても水道なくてもガスなくてもいいからっ! お風呂だけはなくちゃやだ!」


そういや、死ぬ一歩手前の厳しい修行の後だって、は毎日風呂に入ってたな、と。
なんだか少しずれたところで必死に自分を見上げてくるその顔を見ながら悟空がそんなことを思っていると、ブルマがにっこりと笑みを浮かべた。



「心配無用よ。孫くんのことだから多分そんなとこだろうと思って、イイ物持ってきたのよ」


そう言っておもむろに取り出したのは、五センチくらいの細長いカプセルで。


「何のカプセルだと思う?」

「??? なんですか、それ?」


にぃ〜、と笑っているブルマに、本気できょとんと聞き返す



何の…って言われても。
元いた世界では見たことのない、そのカプセル。
でも、カプセルっていったら、その中に何かを入れて保管する容器、もしくは、薬だろう。
見た感じ、ブルマの持っているブツはとても飲めるような代物ではないため、その中に何かが入っているってのはわかるけれど、『お風呂』の問題が重要かつ最優先の今現在、何故にそんな小さなカプセルで、『心配無用』になってしまうのか。


しきりに首をひねるに、悟空は得意そうに胸を張る。


「あれはホイポイカプセルっていって、上のボタンを押して投げると、いろんなものが出てくんだ」

「いろんなもの??」


やっぱりわからない顔をしたに、ブルまがう〜ん、と唸って。


ちゃんの世界じゃ、カプセルってないのね? こっちの世界じゃ生活必需品なんだけど。……まぁ、百聞は一見にしかずってね。ちょっと外に出てくれる?」


ブルマに促され、とりあえずそれに素直に従って外に出る。

柔らかい朝日が降り注ぎ、清々しい空気の流れに、自然笑顔になるだったのだが。


「あの辺がいいかしらね……。じゃ、行くわよ!」


割と拓けた悟空の家のとなりの広いスペースに向かって、ブルマがカチッとカプセルの上部を押し、それをポイッと投げたとたん。




ぼんっ!!!!!




「ふぎゃ!?!?」



わかっていたブルマと悟空はバッチリ手で耳に栓をしていたが、はそのものすごい音にびくんとヘンな悲鳴を上げ、同時に上がったこれまたものすごい煙に目を瞑る。


それから、おそるおそるそっと開けてみた彼女の瞳が映したものは。





「――――――――――――――――――………うそ………」





一軒の家が、何もなかったその場所に出現していた。


あんな小さなカプセルの中に、こんな、それはもうとなりの悟空の家の三倍はあろうかというほどのでかい家が入っていた(というのだろうか)なんて。
物理的にも論理的にもまったく信じがたい事実に、はもう、唖然とするほかない。これはもう、「カルチャー・ショックvv」で済まされるような問題ではないだろう。
なんてミラクルな世界っ!



ひたすら呆然とその家を凝視するを見るブルマは、そりゃもう面白そうに肩を震わせて笑っている。


「アハハ♪ 驚いた?」
「すごい、驚きですよ…。いや、驚いたってゆうか、信じらんない………」


鳩が豆鉄砲を食らったような顔っていうのは、きっとこういう表情を表す言葉なんだろう、なんて思いながら、ブルマは笑い。


「どう? この家ならお風呂はもちろん、電気だって水道だって付いてるわよ。あたしからの結婚祝いww」


そう言ったブルマに、我に返ったはでも、困ったような顔をした。

「あ、でも…」

「なに? なんか不服??」

「そんなわけないじゃないですか。……だけど、やっぱり家ってすごく高いものじゃないですか。こんな素敵なもの、本当に貰っちゃっていいのかな………」


無一文なのに、と遠慮するに、ブルマはあっけらかんと笑って見せた。


「あらいいのよ。だってあたし、大金持ちのお嬢さんだも〜んvv それに、これってあたしの携帯用中古品だし。 ……まぁ、それは置いといて。ちょっと確認事項なんだけど、いいかしら?」


再び含み笑いをし、キランと怪しく光る瞳で悟空とを交互に見るブルマに、再度背筋を伸ばし固まる二人。


「まさかとは思うんだけど。あんたたち、昨夜やってないわよね?」


「やってない?」
「なにを?」


不思議そうな顔をして聞き返してくる二人の服装は昨日とまったく変わっていないので、多分まだだとは思うのだが。


「夫婦が夜やることっていったら、ひとつしかないでしょ?」


さらに突っ込んだブルマの言葉に、カアァッ! と赤くなったのは、である。


「ま…だ。まだ!!!です!!!!!」


グッと拳を握りしめ、それこそぶっ倒れるんじゃないかというほどいっぱいいっぱいな顔で必死になったを見て、悟空はやっぱり不思議そうな顔をする。


「まだ? なぁ、まだって、何がまだなんだ??」





わかってらっしゃらない!?!?





衝撃のその事実に、は眩暈を覚えた。
い、いやうん。別にソレがなくたって、一緒にいられればそれでいいんだけどっ!


「え、ええと、ええと〜〜〜」


見返してくるその澄んだ無邪気な瞳を、まっすぐ見返せない。
そんな、「何がまだなんだ?」って言われたって、そんなの口に出して言えっこないじゃんか!!!



依然わかってない悟空と、うろうろと視線をさまよわせどうしていいかわからない様子のを見て、ブルマはフウッとため息をつく。





筋斗雲で逃げ去った二人を、「結婚式前にそういう関係にしてなるものか!」と仲間たちが一致団結し。
全員で追いかけても仕方がないと、ブルマだけが武道会場から直接ここまで来て、残りはカメハウスに待機するに至ったわけだが。


そんな心配は無用だったか。


―――――――――というか、別な意味で心配だ。




とりあえず、二人の様子からして、問題があるのは悟空のほうだけだってことが唯一の救いかと、ブルマはムリヤリ結論を出す。






「なぁ、なにがまだなんだよ?」
「ごめん悟空さんっ! わたしには言えませんっ!!!」
「なんでだよ〜?」
「いやー! それ以上追求しないでっ!! 助けてブルマさん!!!」


悟空に詰め寄られたが、潤みきった瞳でブルマに抱きつく。
同じ女として、かわいそうに、と思いながら、ブルマはよしよしとの背中を叩き。





「ちょっと孫くん。それは男どもが折々教えてくれるわよ。それより、行くわよ!」


ブルマの言葉に、半泣きのと不服そうな悟空が同時に顔を上げた。



「「行くって、、、どこへ???」」



仲良く声をそろえた二人に怪しい笑みを浮かべ。



「カメハウスvv あ、言っとくけど、もし『いや』なんて言ったらこの家は持ち帰りますからね。そしたらお風呂は入れないわねぇ、ちゃん?」







ああブルマさん。
黒い貴女も素敵です………(泣)




声もなく言われるがまま、はブルマの指し示す飛行機に乗り込み、まさかひとり行かせるわけにはいかない悟空も、その後に従った。



「あ、ヤムチャ? 予定通り、二人を拉致ったわよ。…ええ、ちゃんはまだ純白よ。これからそっちに向かうわね」


呆然と飛行機に乗った二人のアタマに、ブルマが通信機で話す明るい声が響いていた。




「あのブルマさん?」

「なぁに?」

「カメハウスってところに行って、何するんですか?」




操縦席に座ったブルマに、が背中に冷たい汗をかきながらそっと聞くと、くるりとブルマが振り返り。





「決まってるじゃない。アンタたちの結婚式の準備をするのよ」



にっこりと笑うブルマに、悟空とは顔を見合わせ、首を傾げあった。





















そんなわけで、拉致りました。
なんだかなぁ=3