悟空とがそれぞれの試練(?)に入ったそのころ。
天界では微妙な顔をする二人の者が。
言わずと知れた、神とミスター・ポポである。
「ミスター・ポポよ………。おまえ、孫にいったいどこまで、あー、『恋愛』とやらについて教えたのだ?」
「ミスター・ポポ、教えたの、基本だけ。下界の恋人同士、よく口をくっつけるから、そこまで。それ以上、ミスター・ポポ、どう教えていいか、わからない」
「なるほど………………」





第三章:ステップアップ






の乗った飛行機が見えなくなってから、悟空は仲間たちとともにカメハウスに戻った。

あいつ、高いとこ苦手なんだよな。ひとりで飛行機乗っけてでぇじょうぶだったかなぁ……。
と、の高所恐怖症を案じる悟空だが、そんな悟空にはおかまいなしで、なぜかクローゼットを全開にしてうきうきとスーツを選ぶ亀仙人。



「武天老師さま、なにやってるんですか?」


不審に思ったクリリンが問いかけると、亀仙人はニヤ〜、と口元を緩ませる。

「いやなに、悟空に子供の作り方を教えなくてはならんじゃろ? だからおぬしらも早く出かける用意をせい」



「「「「「出かける…って、どこへ?」」」」」



悟空、天津飯、餃子は純粋にどこへ行くんだろうと疑問を持ち、クリリンとヤムチャは(まさかなぁ…)と一抹の不安を胸に抱きつつもとりあえず亀仙人に質問を投げかける。




「テメェ……まさかソッチ系の店に行くつもりじゃねぇだろうな………?」



割って入った低く怒りを含んだ金髪ランチの声に、ギクリ、と固まる亀仙人。




「いやあのランチちゃん! 子供の作り方といえば、その道のプロに教わるのが一番じゃろうて……」
「ざけんなテメェ!!!!! 他のやつらはともかく、天津飯だけは行かせねぇぞ!!!」



怒り狂ってマシンガンを構えるランチの怒鳴り声に、「ソッチ系」の意味を悟った天津飯が真っ赤になり、やっぱり、とクリリンとヤムチャが深くため息をつき、悟空と餃子はいまだに意味がわからずきょとんとする。



今にも火を噴くマシンガンを目の前に、亀仙人が焦り。



「わかった! 天津飯は連れて行かんから!!!」





そういう問題じゃないだろう………。





「ダメですよ武天老師さま。それじゃブルマさんに殺されますよ!」
「何を言うクリリン! 一番手っ取り早い方法じゃろが!!」
「確かに手っ取り早いっちゃそうだけど…。やっぱり拙いですよ武天老師さま。ちゃん怒っちゃいますよ」
「バレねば別に問題なかろう、バレねば!!!」





なんとか押し留めようとするクリリンとヤムチャに、地団太を踏んで反抗する亀仙人。
年寄りになると子供に戻るとよく聞くが、まさにそう思わせる駄々のこねようだ。




そんな大騒ぎを尻目に、真っ赤になっていた天津飯がバッと立ち上がった。



「お、オレには向かん話になりそうだから、席を外すぞ。三週間後、西の都で会おう!」
「あ、天さん! 天さんが行くならボクも行く!」
「あ、待て天津飯! オレも連れてけぇ!!!」





玄関を飛び出す天津飯と、それに続く餃子と。
高速武空術で空の彼方へ飛んでいく彼らを、同じく外に飛び出したランチがカプセルの飛行機を素早く出現させて更に追う。







うまく逃げやがったな、ちくしょう!!!







残されたヤムチャとクリリンの心の叫びは、彼らには届くことはなく。



なんだかよくわからないが、騒いでいる亀仙人とその弟子、そして逃げ出した元鶴仙人の弟子、そしてランチを不思議そうに見やった当の悟空はといえば。



「あのさぁ…。オラ子供の作り方わかんねぇし、知りたいとは思うけどよ。が本気でキレたらヤベえんだ。まぁ、あいつ普段はあんま怒んねぇけど」



ぽりぽりと頬っぺたをかきながら悟空が言ったそのセリフに、一同昨日の武道会を思い出した。
悟空の死にそうな姿にぶちきれたのあの威圧的で背筋の冷たくなるような雰囲気。まさに一触即発だったあのときのは、確かに普段のではなかった。
可愛く言えば、毛を逆立てて尻尾を太くした猫。さわればまちがいなく怪我を負う。
恐ろしく言えば、世界を滅ぼしに来た妖艶な悪魔。力が暴発すれば地球滅亡など容易いだろう。




「あそこまで怒ることは、まあ、ねぇとは思うけどさ」




ハハハ、と笑った悟空に、その場の三人は笑顔を返せない。
亀仙人の提案を受け入れ、それがもしにバレたら。










あの時と同等、あるいはそれ以上。
怒ることまちがいなし。
イコール、死、あるのみ。










「………やっぱり、やめておこうかの」


パタンとクローゼットを閉めた亀仙人を、ホッとしたように見守るクリリンとヤムチャであった…。















「じゃあ、とりあえず、順を追って説明するから、よぉく聞けよ、悟空」
「ああ、わかった」


とは言っても、知識はあるがいまだ彼女いない暦を年の数でいくクリリン。
たとえ男といえど、口に出してそれを伝えるのはさすがに理性の抵抗を感じ、顔が赤くなる。



「まぁ、その、なんだ。恋っていうのはだな、え〜と………///」


言葉につまるクリリンに、悟空はにっと笑い。


「恋ってのは知ってるぞ。ドキドキして、苦しくって、胸が熱くなって、そいつのことばっか考えちゃうんだ。会えば嬉しいのに不安になったり、会えないとすげぇ会いたくなったり。そういう『すき』を、恋っていうんだろ?」


さらりと言ってみせる悟空の笑顔が、少々憎たらしいクリリンである。
逆にヤムチャと亀仙人は、「お〜、わかってるじゃないか」と拍手なんか送っていたりする。



「じゃあ次だ! 愛はわかるか、愛は!!」
「あい? ……あいってなんだ??」


首を傾けきょとんと聞き返す悟空に、今度は自分の知識が上回っているな、と軽い優越感に浸りながら、クリリンはグッと拳を握りしめ。


「愛っていうのはだな、恋よりももっと強い『すき』って気持ちだ。基本的に恋と同じなんだけど、恋の場合はまぁ、自分を好きになってもらいたいとか、自分の気持ちを伝えたいとか、主体が『自分』なわけだな。それが愛になると、その相手を大切にしたいとか、相手の幸せを願いたいとか、主体が『相手』になるんだよ。そういうのを『愛してる』っていうんだ」


クリリンの講釈に、「お〜」とまたもや感嘆の声を上げ、拍手を送るヤムチャと亀仙人。


「………そうか。じゃあ、オラはを『愛してる』んだな」


―――――――――多分理解したための発言だろうが、恥ずかしげもなく言ってのける悟空に軽くため息の漏れる面々である。



「よし、じゃあここまではわかったな?」

クリリンの確認の言に、こっくりと頷く悟空。

「じゃあ、ここからが本題だ。……てゆうか、ここからはオレも未知の世界なわけだから、できればヤムチャさんとタッチしたいんだけど………///」



上目遣いで自信なさそうにヤムチャに助けを求めるクリリンに、仕方ねぇな、と講師交代し、今度はヤムチャが悟空の前に座った。


「で、本題になるわけだがよ…。自分の気持ちを伝える手段として、まず、言葉だな。『すきだ』とか『愛してる』とか。でもな、言葉では伝えきれない想いもあるわけだ。よく言うだろ?『言葉にできないくらい好き』ってさ。そういう時に出てくるのが、『行為』だ。好きだー!!!って気持ちを伝える行為、わかるか悟空?」

「う〜ん……………ぎゅ〜、って抱きしめるとか?」

「もちろんそれもある。でもまだあるだろ? おまえがオレたちの前でやっちまったヤツが」

「あっ! キスか?」




腕組みして考え込んだ悟空が、思いついたようにぱっと顔を輝かせて答える。
無邪気に答える悟空に、なるほどそこはわかってるようだな、とひとつ頷くヤムチャ。



「そうだ。抱きしめたりキスしたりするのは、気持ちを伝えると同時に愛を深める行為でもある。もちろん、子供を作ることもだ。でもな、オレたちの前で見せ付けてくれたおまえのキスは、お子様のちゅーなんだよ」

「おこさまのちゅー?」


ことりと首を傾ける悟空と、いよいよ突っ込んできたヤムチャに、ごくりと固唾をのんで身を乗り出すクリリンと亀仙人。



「好きに種類があるように、キスにも種類があるわけだ。おまえがちゃんにしてるのは軽いキス。挨拶とかにも使えるキスだ。そして…もうひとつ。愛してる相手にのみ贈るキスがある」

「ふ〜ん…。それ、どうやんだ?」



ぱちくりと瞬かせる悟空の瞳を覗き込み、怪しく笑うヤムチャ。




「それはだな………ちゅーしたときに相手の口の中に自分の舌を割り入れて、相手の舌を絡めて吸うんだ! これぞディープ・キス!! 大人のキスだ!!!」





ドドーン!!! 
と、バックに怒涛の荒波を背負いこみ、力強く拳を握りしめて暴露ったヤムチャ。





「よくぞ言うた! 大したもんじゃ!!!」
「ヤムチャさん最高っすよ!!」




亀仙人とクリリンの拍手喝采が飛び、褒められたヤムチャは(こんなことで褒められてもなぁ)と微妙な気分になりながらもそれに手をあげてとりあえずかっこつけてニヒルな笑いを浮かべたが。



「へぇ……。じゃ、ちゅーしたときにの口ん中にオラの舌入れればいいんだな? それで子供ができるんか?」


――――――――――――――――――違うから。



単純にそっちに思考の行ってしまった悟空に、かっこつけていたヤムチャはもちろん、クリリンと亀仙人もずっこける。
こんなマジボケかます18歳が本当にいることすら信じがたいが、事実は事実である。







「………悟空、これは第一段階だ」
「第一段階?」



軽く眩暈を覚えながら気を取り直し、ヤムチャが悟空に向き直る。
対する悟空はわけがわからないといった顔をしていて。

想像以上に無知だった悟空に、いよいよ雄蕊と雌蕊の話をしなくてはならないのか、と脱力する面々。
きょとんと無邪気な悟空の顔を見やり、それぞれが深くため息をつく。
やっぱり亀仙人が最初に出した提案で、プロのお姉さまに教えてもらったほうがいいのかもしれない、とも思うが、その際まとわりつくの逆鱗が恐ろしい。
ブルマの気迫に負けたからといって、大変な役を押し付けられてしまったと今更ながら思ったが、後悔先に立たず、である。





「………なんだよ?」


恨めしげな視線を受け、悟空が不思議そうな声を出したが。




「いや、なんでもない。………話を戻すが、とりあえずキスは第一段階。子供を作るには、更に第二、第三段階を踏む必要がある」


「そんなにか?? てぇへんなんだなぁ…」



腕を組んでう〜んと唸る悟空に、大変なのはそれをおまえに教えなければならないオレたちだよ、と。
声には出さなかったが思っていることは三人とも同じことで。















天津飯と餃子のヤツ、あとで覚えてろよ…………。















しきりに首をひねる悟空を前にして。
早々に逃げ出したお二方に、不穏な念を送るクリリン、ヤムチャ、亀仙人だったという………。





















ハハハ…どうしようもないお惚け悟空さん。そして、どうしようもない管理人。
しかもさん登場しないし……/// とりあえず、悟空sideってことで(^^;