恐怖の飛行機移動を耐え抜き、連れてこられたカプセルコーポレーション。
の世界の「家」とはちょっと違うけれども、それでもそのデカさと広さに圧巻さえ覚えてしまう。
なるほど、ブルマの「大金持ちのお嬢様」発言に、ウソの欠片もなかったことを改めて認識し。
加えて超絶美人、セクシーナイスバディ、さらにはちょっと強引で人の話を聞かないところもあるが素敵な性格をしているブルマが、なんだかとっても羨ましい。
わたしもブルマさんくらいキレイだったらな〜、と、は密かにため息を落とした。






第四章:意識と自覚





「あらぁ、ブルマちゃんv お帰りなさ〜い」

ブルマ、ウーロン、プーアルに続き、「ほえ〜」だの「うひゃ〜」だのと感嘆の声を無意識に落としながら、が御殿といっても過言ではないブルマ宅に足を踏み入れると、そんなおっとりした声が出迎えた。


「ああ、母さん。ただいま。……ちゃん、あたしの母さんよ」

ブルマにそう紹介され、きょろきょろと興味津々で辺りを見回していたが、視線をその人物に向ける。


………かあさん?? って、お母様でございますか………?
さすがにブルマさんのお母様だけに、とってもキレイな方だけど。





それより何より―――――――――――若!!!!!





どう見ても20代後半くらいにしか見えない母上様に、は挨拶も忘れてポカ〜ン、とおまぬけ極まりない顔をしてしまった。


「ブルマちゃんのお友達? ……んまぁ、可愛い子ねぇvv お名前、なんていうの?」

「………ぁえ!? あ、ああ、ご、ごめんなさいっ! あんまり若いからビックリしちゃって。あ、わたし、っていいます。初めまして」


ハッと我に返り、あわててぺこりと頭を下げるをニコニコしながら見るブルマの母。


「はい、初めまして。ブルマのママで〜すvv ねぇちゃん、この前おいしいケーキ屋さん見つけたの。これから一緒に行ってみない?」

「え?え?」

「ダメよ母さん!!! あたしたちこれから結婚式の準備しなきゃならないんだから! 勝手にちゃん連れてかないでよ!!!」


の腕をつかんで引っ張っていこうとした母にブルマが噛み付き、もう一方の腕を引っ張り返す。


「結婚式? やだブルマちゃん、やっとヤムチャちゃんと結婚する気になったの〜? 浮気性だとかなんだとかって言ってたけど、結局そこに落ち着くのね〜。でもあなたたちの結婚式にちゃんは関係ないじゃない。ね〜、ちゃん?」


だからケーキ屋さんに行きましょうvとなおも引っ張られ、どうしたものかと困ってしまう。
こんなときになんだが、何気においしいケーキにはそそられるものが………。
不謹慎にもそんな思考が脳裏をよぎり、スイーツの誘惑に思わず引っ張られるままに足が動いてしまいそうになったのだが。


「違うわよっ! あたしじゃなくてちゃんの結婚式なのよ!!!」

「わっ!」


グイッと今度は逆に引っ張られ、さすがに体勢が崩れるが、そこはバランス感覚が並外れて素晴らしいのこと。すぐさま体勢を整える。


「んまあ! な〜に、ブルマちゃん、ちゃんにヤムチャちゃんとられちゃったの〜? しょうがない子ねぇ。まあ、ちゃん可愛いから仕方ないか」


笑顔もおっとりした口調も顔色も変えず、何を勘違いしたのかそっちに思考を持っていくブルマの母に、「わたしよりぶっ飛んでるかも…」なんて失礼極まりない心の声は、アナタに言われちゃお終いだろう、のもの。


そんな母に、当然といえば当然、ブルマがプッツンと切れ。


「ああもうっ、違うったら!! ちゃんは孫くんのお嫁さんになるのよっ! まったく母さんと話してると疲れるわ!!! 忙しいんだからさっさとちゃん放してよ!!!」



強くを引っ張ったブルマと、ブルマの言葉にぱっと手を放す母上。
急に抵抗がなくなり、勢い余ったブルマが床にすっ転び、はスタッときれいに着地する。



「あらやだ。ママったら勘違いしちゃって。ちゃんは悟空ちゃんのお嫁さんなのね。ママ、悟空ちゃんのファンなのよ。可愛いわよねぇ」

「はいっ!!! 悟空は可愛くてかっこよくて素敵ですよね〜」



フフフ、と笑うブルマのお母さんに、もにっこりほんわり笑ってノロケだす。
すっ転んでるブルマはきれいに無視だ。


素直で柔らかい雰囲気も、気取らず飾らず感情のままにとる行動も、それはそれでの魅力のひとつでもあるわけだが。


バッと起き上がったブルマは、当然のごとく明らかに怒髪天を突いており。
無言のままむんずとの腕をつかみ。




「あ、あのブルマさん、大丈夫ですか?」


今更のように我に返ったが問いかけるが、それにも答えず、ブルマはそのまま母親に背を向けて、ずるずるとを連行して自分の部屋に向かう。


「やぁねぇブルマちゃんったら。何をそんなに怒ってるのよ?」


やっぱりにっこりおっとり話しかける母をぎろり、とにらみ。


「よぉく考えるといいわ………」


フン、と鼻を鳴らして、再び歩き出すブルマに、は小さくおびえながら引きずられるままになっていた…。















「まったく時間が惜しいってのに、とんでもない人に捕まっちゃったわよ………」

自室に着くなり、はぁ、とため息とともに吐き出すブルマの言葉に、はますます小さくなって。

「ごめんなさい、ブルマさん…………」


潤んだ瞳で上目遣いに自分を見上げてくるの、今にも泣き出しそうな表情。
確かに自分をほったらかしにして母親と意気投合しているのに腹を立てていたブルマだが、その顔を見ていると、なんだか自分がすごく悪いことをしているような気がしてしまう。


「ブルマさん、許してあげたら………?」

「そうだよ。ちゃん謝ってるじゃねーか」


プーアルとウーロンに立て続けに言われ、まったく、とブルマはひとつ息を吐く。
可愛い顔で泣きそうに謝るだけで、すべてを味方につけられる威力。そして、被害者にもかかわらず「自分が悪かったのか?」と思わせてしまうその潤んだ瞳。
もちろん無自覚ながそんなことを計算しているはずもなく、素直に心から謝罪していることはわかるのだが。

悪気がないだけに、余計に始末が悪い。



「もういいわよ。………ほんと、美人って得よねぇ」


ため息混じりにこぼされた後半の一言に、きょとんとは首をかしげる。


この状況下において、美人のブルマがどう得をしたのだろう??? とひたすら疑問に思い見上げてくるの瞳に、ほんとにわかってない子ね、とブルマが苦笑した。



ちゃん、ちゃんと自覚しておいたほうがいいわよ?」
「は? 何を??」
「つまりねぇ………自分が美人ってことをね」
「――――――――――――はい?」





『自分』が美人?
『自分』って…………わたし???












「あはははははは!!!!!」






いきなりふき出し笑い出したに、ブルマはもちろん、ウーロン、プーアルも唖然とした。
三人のぽかんと呆気にとられた顔さえも、今のの笑いの種になってしまい、笑いすぎて苦しくて涙が滲んでくる。


「お、お腹、痛い! アハハ、ヤダも〜ブルマさんっ! 笑かさないでくださいよ〜」


人差し指で涙を拭っているを見てから、ブルマはウーロンとプーアルに視線を向ける。




「あたし、なんかおかしなこと言ったかしら?」
「い、いえ」
「言ってねーよな」


クックッとこみあがってくる笑いをなんとか堪えながら、は不思議そうに首をかしげている三人に視線をやり。


「だ、だって。わたしが『美人』? あり得ないっ! ブルマさんとかランチさんとかチチさんに比べたらもー! みんな羨ましいくらい美女軍団で、わたしなんか足元にも及ばないよ〜」


顔取っかえられるもんなら取っかえて〜、なんてひとしきり笑い飛ばしたあと、急にしゅ〜ん、とうなだれて。



「………わたしもなぁ、ブルマさんくらいの超美人だったらな〜。しかもブルマさん、すごいナイスバディだしお金持ちだし。羨ましいですよ………あっ! ご、ごめんなさいっ!ヤダなもう、ダメダメ思考で」



たはは、と苦笑しながら。
羨んだって仕方ない。ルックスだってスタイルだって、大好きな両親から受け継いだのだ。それに、お金持ちじゃなくたって、充分幸せだったはずなのに。


「そうだよ! 人間だもん、コンプレックスあって当然っ! でも、それで後ろ向きになっちゃダメなんだ! コレがわたしなんだから、常に前向きにいかなくっちゃ!」





――――――――――――この娘は。





浮き沈みの激しいその様子を、呆気に取られて傍観してしまうブルマ・ウーロン・プーアルの三人。ひとり漫才を見ているような気分だ。


はたから見れば、茶色がかったサラサラの黒髪だって、知的に整った柳眉だって、表情豊かな黒目がちの瞳だって、高くはないけど筋の通った鼻だって、艶やかな唇だって、どう見てもほかに引けをとらないくらいの美少女なのに、明らかに自覚していないと思われるその言動。



「でもね、悟空はあんまり容姿は重要視してないみたいだし。まあ、だからこそ周りは美人な女の子ばっかりにもかかわらずわたしを選んでくれたわけだし/// だから、このままでいいとは思う、、、んですが! やっぱり悟空のために可愛くなれるもんならなりたいです……」





なんだか情けなく眉を下げ、頬を染めてそう呟いたを見て、自分を『美人』だと自覚はできないようだが、『可愛くなりたい』と意識はしているようだ、と幾分安心するブルマ。



それになにより、自分を『美人』とか『ナイスバディ』とか思ったままをそのまま言ってくれるは、やっぱり可愛い。確かに自分は美人だとわかってるが、人に言われるのはやはり気持ちのいいものだ。



恥ずかしそうにうつむくの両肩を、ブルマはグッとつかんだ。


素材は最高。
あとは、どう磨くかだ。





「ブルマさん?」


不思議そうに顔を上げたの瞳をしっかりとらえ、に〜っこりと笑う。


「あたしにま〜かせて! 孫くんがメロッメロになるくらいゼッタイ可愛くしてあげるわ!」

「???」



え? というように見返してくるに、パチンとウインクし。
まぁ、もともと悟空はにめろめろな様子だが、それ以上にしてみせるわ!と、ブルマはあでやかに微笑んだ。





















無自覚美人は夢の王道♪次元を超えると美しくなるのです!(←苦しい言い訳)
そして、ブルマさんのヒロイン改造計画実行準備OK!(は?)はてさて、どうなりますことやら。
しかしLOVEがない今章でございました(><;