ちゃんの所持品をチェックしてみた。
元いた世界の学校の制服、学校の体育ジャージ、神様にもらった武道着と靴、アンダーシャツ、リストバンド。
壊れた腕時計に、使えない携帯電話。
リュックの中に見たことのないお金の入ったお財布となにかの定期券、学用品(ノート・教科書・ペンケース)、そしてなぜか、溶けかけた飴玉が二つ(約一年前の朝ごはん…)。
ざっとそんなもんだった。
………ちなみに、孫くんの前では殆どジャージ姿だったんだって。
孫くんは見てくれに疎いし、昔からどれが可愛くてどれが可愛くないかの境目がわかんなかったけどさ。
ジャージなちゃんに惚れた孫くんを、何気に尊敬するわよ、あたし。
今までは修行修行で服なんかにいちいちこだわっていられなかったんでしょうけど、素材が素材なだけに勿体無いと思うし、何より今、『悟空のために可愛くなりたい』なんて。可愛いじゃないの。
その願い、あたしが叶えてあげるわv
一人っ子のあたしは、まだ出会って間もないこの子が、妹のように可愛くて。
多分あの孫くんをオトしたこの子の柔らかい雰囲気に、あたしもハマっちゃったんだと思うわ。
第五章:レッスン
「い、いいんですかブルマさん? そんなにぽんぽん買っちゃって………」
「いいのいいの! あ、それとあれと、あっちのも出してくれる?」
「かしこまりました、お嬢様」
ブルマはを連れ、さらにはウーロンとプーアルを荷物持ち要因として伴って、西の都最大のショッピングモールへとやってきた。
さすがはお金持ちのお嬢様というべきか。
値札も何もかえりみずに「アレもコレもソレも」と気に入ったものを店員に注文する。その慣れた様子に、はただただ「すご〜い」と見入っていたのだが、そこはやっぱり庶民の彼女。
そんなに考えずに買ってしまってもいいのだろうか、と少々萎縮してブルマに問いかけてみれば、そんなの聞く耳も持たずにやっぱり次々と用を申し付けるブルマに、店員は満面の営業スマイルを貼り付けている。
「相変わらずだね〜、ブルマさんの買い物」
ふう、とひとつ息を吐き、プーアルが困ったように眉根を下げ。
「ったく、限度を知らねぇんだよな、ブルマは。荷物持ちんなるオレたちのことなんかゼンゼン考えちゃくんねーしさ」
ウーロンもため息混じりにそう言って、眉をひそめた。
あれやこれやと店員を使いまわすブルマを遠巻きに見て、はこんな小さい小動物(?)じゃあ、ろくに荷物も持てないだろうと思いながら。
「わたしも手伝うね、荷物持ち。こう見えても腕力にはかなり自信あるんだ」
まったくそうは見えないが、この中で一番力持ちであるが、細っこい身体でしかも細っこい腕で、グッと拳なんか握りしめてウーロンとプーアルに笑いかる。
荷物持ちならまかせとけぃ、と胸を張ろうとした矢先に、店員と交渉していたブルマがの腕を強く引いた。
「ちゃんちょっとカモ〜ン!!!」
「え?」
よろけながらもブルマのすぐ隣りに立ち、またなんかやっちゃったんだろうか、と内心ビビりながら上目遣いに見上げた視線の先で、ブルマはちょっと考え込むようにそんなを頭のてっぺんからつま先まで見回して。
「よし、コレとコレとコレ! はいさっさと着替える!!」
「は?」
「『は?』じゃなくて。ホラ、試着室行きなさい!」
買いあさった服の中からホイホイと手渡され、自分の手におさまったそれを見てきょとんと首をかしげるの背中を、ブルマは試着室に向かって押し出す。
ひたすら疑問符なを半ば強引にそこに閉じ込めると。
「服はこんなところね。プーアル、ウーロン! さっさとコレ持って。ちゃん、お店の外で待ってるから早く着替えてきなさいよ!」
手ぶらでさっさと店を出て行くブルマのあとを、荷物を二人で半分ずつ分けたウーロンとプーアルが微妙な表情でついていき、これでもかというほどニコニコ笑顔で「ありがとうございました〜」という店員。
わけがわからずぽつねんと試着室に取り残されたはといえば。
どうやらブルマは自分に服を買ってくれたらしいということを遅ればせながら理解し(遅い)、それから何よりもしブルマたちとはぐれたりしたら大変だと、急いで渡された服にパパパと着替え、今まで着ていた服をたたんで胸に抱いた。背中がスースーするのと、足が出すぎてるのが気になるが、とにかくさっさとブルマたちと合流しないと、筋金入りの方向音痴ゆえに帰れなくなる!
バッと勢いよく試着室の扉を開け、出てきたに向かって例の営業スマイルをむけた店員の動きが、一瞬止まった。
「? な、なんかヘンですか……?」
店員の惚けた表情に。
もしや前後ろが逆だった!? ……いや、鏡でチェックしてもそうは思えない。
ハッ!! そ、そうか、もしかして前後逆に着るのがこの世界の今時のファッションなのかもしれないっ! ここは不思議ワールド。わたしの常識で考えちゃいけない世界だ!!!
と、また少々ずれたところで服を見下ろしうろたえだしたを見て、我に返った店員が焦って取り繕った笑みをその顔に浮かべた。
「い、いいえ、よくお似合いですよ。ありがとうございました」
気を取り直したように笑顔に戻った店員の様子に、は(ああ、やっぱりコレでいいのか…)と幾分か安心して息を吐き、にっこりとその営業スマイルに笑顔を返し。
「お世話になりました」
ペコり、と頭を下げてタタタ、とブルマたちの待つ外に走っていくの後姿を見た店員が、「ひゅ〜♪」とひとつ口笛を吹いた。
「スイマセン、お待たせです!………あれ? プーアルさんは?」
がブルマの元に走っていくと、空飛ぶ猫の姿が見当たらず、代わりに車輪つきの大きなキャリーケースの中に先ほどブルマがぽんぽん買った荷物がおさまっていた。
「あら早かったわね、ちゃん」
振り返ったブルマがの姿を見とめ、満足げに笑った。
膝上のふわっと広がるフレアスカートに、キャミとトップスの重ね着。
露出度はけっこう高めなのにも関わらず、その細い躰の線ゆえか、はたまたその内面からくる雰囲気のせいか、セクシーというよりもむしろ可愛らしさが先にたち。
さらにはその淡く柔らかい色彩が、の雰囲気にマッチしていて。
「――――――フフフ♪ ほらどうウーロン? 見違えたでしょ?」
「………いい。マジいいよブルマッ! おまえ天才だな! なぁプーアル?」
「う、うん。ほんと、ずっと可愛くなったね!」
ブルマの言葉にウーロンが鼻の下を伸ばし、そして。
プーアルと呼ばれたキャリーケースが、喋った。
―――――――――キャリーケースが………喋った!?!?!?
「ええええ!!! 何これ何これ何これ!? 喋ったよね今! なんでなんで!?!?」
「い、いたたたたた!」
「コラコラちゃん叩かない。それプーアルなのよ」
「…………へ? い、いやでも、プーアルさんは猫ちゃんで………」
「変化できるんだよ、オレも、プーアルも」
「へんげ??」
―――――――――ここにまたひとつ、にとっての驚愕の事実、というかありえないことが現実と化した。
その後も続く二人と二匹のショッピングに、確実に荷物は増えていった。
そしてこちらはカメハウス。
買い物を楽しむ女性陣その他とは打って変わり、こちらはややお疲れモード漂う雰囲気である。
「どうだ? わかったか悟空」
教鞭をとっていたヤムチャが恋愛のいろは、すなわち『お子様の作り方』の講義を一通り悟空に伝授し、理解したかどうかを確認していた。
「う〜んと………」
聞かれた悟空は腕を組み、眉根を寄せて空を見上げる。
「まずとちゅーしたときにオラの舌を入れるだろ? それからえぇと、さわりっこするんだよな? なんだっけ、う〜ん」
「スキンシップだろ、悟空」
クリリンがため息交じりに助け舟を出し、その答えパッと明るく笑う悟空。
「そうだそうだ、すきんしっぷだ! それやったら、オラのピーをのピーにピーすんだ! どうだ? これで子供ができるんだよな!?」
放送禁止用語をハッキリバッチリ自信満々に声にのせる悟空に、思わず赤面するカメの弟子たちと、なにかを想像してにやぁ、と顔を綻ばせるエロい武道の神様。
なんとかかんとか、どうやらやり方だけは理解してくれたようだ。
その事実にホッとしたのもつかの間。
「そっか、よし! じゃあオラ、今からちょっとんとこ行って試してみるぞ!」
ちょっと待て。
「いや待て悟空! 早まるな!!」
「今から行ってその行為に及んだら、おまえ確実にちゃんに嫌われるぞ!!!」
「いや行ってくるんじゃ悟空! わしも一緒に行くぞ!!!」
「「煽ってどうするんですか武天老師さま!!!!!」」
意気揚々と立ち上がり、とんでもない事を言い出した悟空をヤムチャが前から押しとどめ、クリリンが後ろから引き止め、しかしエロ爺は顔を輝かせて悟空に許可を下し、そんな師匠を怒鳴りつける弟子二人である。
「なんでに嫌われるんだ? だってあいつ、子供欲しいって言ってただろ?」
いや、正確には欲しいか欲しくないかとブルマに問われ、そう問われれば欲しいと言ったわけだが。
無邪気にきょと〜ん、と聞いてくる悟空に、なんといったらいいか。
恥知らずな性格は昔も今も変わらない。
「よく思い出せよ、悟空。この話をちゃんに振ったとき、彼女どうだったよ?」
「…………真っ赤んなってたなぁ」
ため息交じりのクリリンの言に、「悟空のスカタン!!!」といって露出しているところすべてを真っ赤に染め上げたの様子を思い出す。
「そうなんだよ悟空。ソレは確かに愛を深める行為だけど、同時に恥ずかしいことなんだよ。やるのは夜寝る前、二人っきりでベッドに入ってからが望ましいもんなんだ」
「なんで? なんで恥ずかしいんだ?」
なおも疑問符な悟空に、ではないが「それ以上突っ込まないでくれ」、と辟易してしまっていると。
「悟空よ。ひとつ聞くが、おまえはちゃんの裸を見たことがあるかの?」
「!!! ね、ねぇけど……///」
亀仙人の問いに、意外にも真っ赤になりたじろぐ悟空。
意を得たり、と亀仙人がほくそ笑んだ。
「子供を作る行為はのう、どっちも裸になるんじゃよ。悟空はそんなの恥ずかしくないじゃろうが、ちゃんはそれが恥ずかしいんじゃよ。だからあんなに真っ赤になったんじゃ。それなのにおぬし、今からちゃんのところに行ってできるのか? まぁ、わしは目の保養になるで構わんが、その場合ちゃんはその場にいる全員の前でハダ――――――」
「見せねぇよ!!! はオラんだ! 他のやつらには見せねえし、指一本だって触れさせねぇぞ!」
悟空、亀仙人に皆まで言わせず、独占欲を爆発させた。
真っ赤に染まる頬っぺたに、いつもは穏やかな光を宿す双眸がギラリと凄みを帯びる。
やっぱりコイツ、ちゃん絡みだと黒くなる、とそのお怒りモードの表情をたじたじと眺めていたヤムチャ、クリリンであるが、元はといえば、たとえ真に意味が理解できていなかったとはいえ、悟空自身が「今から試す」なんて言ったのがきっかけだ。
悪ノリしすぎで含みのある言い方ではあるが、実直にその意を言ってみせた亀仙人にさほど非はない…と思われるから、コレはあれだ。逆ギレってヤツだ。
そうは思うが、ブラック入った悟空にそんなことを言える勇気もなく。
「ま、まあ落ちつけよ悟空。とにかくそういうわけなんだよ。ちなみにムリヤリやろうとしたり、初めての場合は寝込みを襲ったりするのもタブーだぞ。ちゃんと相手にOKをもらう必要があるんだ」
とりあえず教義事項を次の段階に進めたヤムチャに、悟空は先ほどとは打って変わってしゅんとうなだれた。
「OKもらうって、、、そんなのムリに決まってっぞ。あいつすんげえ恥ずかしがり屋だろ? ハダカんなってくれなんて言えねぇよ」
限りなく鈍いとはいえ、悟空も一応男だ。
柔らかくて温かい体温を感じさせるに直接触れてみたいと何度か思ったことはあるが、服の上から抱きしめただけで真っ赤になる彼女にそれ以上望んじゃいけない気がしていた。
直に触れられないのに、その上ハダカになれなんて。
うろたえ涙目になるの姿が簡単にイメージできてしまい、そんなの不可能だ、と肩を落とす悟空。
やり方は分かったのに、どう行動をおこしていいかが分かっていないらしい悟空に、世話の焼けるヤツだと思いながらもヤムチャは話を進めた。
「―――――バカだな悟空。そんなストレートに言ったら、ちゃんじゃなくたって不可能だよ」
顔を上げた悟空の視線の先、ヤムチャが怪しく笑う。
「いいか? いきなり裸になってくれなんて言われて脱ぐ女はまずいない。だから、さっき教えた第一、第二段階があるんだよ」
第一段階 = ディープキス。
第二段階 = スキンシップ。
既に刷り込み済みのその段階を思い描き、悟空が真剣に頷く。
何気に亀仙人とクリリンも、別の意味で真剣にヤムチャの講義に耳を傾けていたりする。
「ちゃんの場合、キスとスキンシップの前に許可をもらうのが妥当だな…」
未経験らしい彼女。言葉もなくいきなり攻められたら逃げる可能性がかなり大きい。
だからまず、これからそういうことをしましょうvv、と合意を得る必要性がある。
「でも、ハダカんなれなん」
「そうじゃない。その際言う言葉は、『抱いていいか?』もしくは『おまえが欲しい』だ!!!」
「「なるほど………」」
そう呟くのは、オマケであるはずの亀仙人とクリリンだ。
『子供を作ろう』という言い方もあるのでは、とも思ったのだが、ヤムチャの言葉のほうがインパクトがでかい。
当の悟空はといえば、わかってるんだかないんだか、「抱いていいか?」「おめぇが欲しい」と口内で復唱していたりする。
「いくら鈍くても、おまえと違ってちゃんはこの行為に対する知識はあるから、その言葉の意図するところがわかるはずだ。そこでまずOKをもらい、それから第一段階、第二段階と進める。そこまでがうまくいけば、自然、抵抗はなくなる。抵抗がなくなった時点で、第三段階突入だ」
「ちょっと待ってくれ」
相も変わらず真摯な瞳で聞いていた悟空が、熱く語るヤムチャに待ったをかけた。
悟空の質問を促すべく、ヤムチャは言葉を切って悟空を見る。
「あのさ、進め方はわかったけどさ。どうやってキスとすきんしっぷがうまくいったかどうか判断すんだ?」
「それは………やってみりゃわかる。とにかく、抵抗なく服を脱がすことができれば成功だ!」
さすがのヤムチャも、どう判断するかを口に出すのは気恥ずかしかったらしい。
少々腑に落ちないながらもそれ以上追求しない悟空に、三人はため息をついた。
「………ま、いっか。子供の作り方はなんとなくわかった。あとはと話して、合意ってヤツをしてもらえばいいんだな? それが一番難しそうだけどなぁ……」
う〜ん、と空を仰ぎながら呟く悟空に、しかし、ヤムチャ・クリリン・亀仙人の三人は、ラブラブな二人のことだから悟空がそう言えばは合意するだろうと予測をたて。
(((まったく羨ましいヤツ………!!!)))
と心の中で悪態をついた。
そんなこんなで約一週間。
悟空の頭には『恋愛』の基礎知識に加え『結婚』に対する知識が男性陣たち(特にヤムチャ)によって叩きこまれ。
のほうは張り切るブルマによって着々と式とその後の生活の準備が進められ。
その間お互い想う、しばらく顔を合わせていない想い人の姿。
「逢いてぇな」「逢いたいな」
悟空はカメハウスの外。
はブルマの家のベランダで。
澄んだ空気の中、高い空に無数に煌く星を見上げながらポツリと呟いたのは、ほぼ同時。
もう少しの辛抱だ、と自分に言い聞かせたのも、ほぼ同時。
ブルマさんがお金持ちでよかったね、さん。。。
悟空さん、いい加減にしてください。(え?)てか、いい加減にするのは管理人ですね。
し、失礼いたしました〜〜〜!

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