悟空とがそれぞれカメハウスとカプセルコーポレーションとに別れ別れになってから10日ほど。
「そういえば………」
宵の口、ブルマがリビングで連載恋愛ドラマを頬杖をついて見ながら思いついたように呟いた。
ブルマの視線の先には、その声に気付き、料理の本(←勉強するようにとブルマに押し付けられた)から顔を上げたのきょとんとした顔がある。
「どうしたんですか?」
ことりと首をかしげ、ブルマの次の言葉を促す。
ちゃんと孫くんて、デートしたことってあるの?」
「―――――――――改めて聞かれると、ない、かも」
片想い中はとにかく死に物狂いで修行してたし、気持ちを伝えたのは天下一武道会の真っ最中で。
両想いだと認識して舞い上がったところで、お付き合いの過程もなしに「結婚しような」だったから。
「幸せだけど………やっぱ普通じゃないかなぁ」
つい最近だけどずいぶん時がたったような気がするそのときを思い出し、クスクス笑いながら話すを見て、なにかを思いついたように。
「ねぇちゃん。結婚前に、孫くんとデート、してみない?」
怪しく笑いながらのブルマのその言葉に、は目を丸くした。






第六章:Telephon Line





こちらはカメハウス。
砂浜では悟空が就寝前の基礎トレに励んでいる。(←もはや習慣)
ピッコロもとりあえず退散させて、世の中平和になったのに、よくやるよなぁ、と家の中からその様子を窺っているクリリン、ヤムチャ、亀仙人。
そんな折。


ピロリロリン♪ ピロリロリン♪


なんとも老人の住む家には似つかわしくない可愛らしい呼び出し音が鳴り響いた。
発信源は、TEL。



「はい、カメハウスですけど」


一番近くにいたクリリンが受話器をとる。
―――――――――返答、なし。


「もしもし?」


そう言ってもやっぱり返答のない電話に、クリリンは悪戯かと思い、軽く眉をしかめて受話器を置こうとしたとき。



『――――――――――――――――――く、クリリン、さん、ですか………っ?』


やたらと緊張しているような、硬く細い声が流れてきた。
聞き覚えのあるその高く澄んだ声に、クリリンは受話器を握り直し。


「………ちゃん?」
『…はいっ、です! あ〜よかった、普通の電話だ〜。こっちの世界の電話使うの初めてで、ちょっと緊張しちゃいました』


安心したように、流暢になるその話し方。
しかし、クリリンにとって今疑問に思うのは。


「『こっちの世界』? って、どういうことだ?」

『あ、言ってなかったっけ? わたし、異世界人なもんで。もう、こっちに来てから驚きの連続なんですよ』


事情を把握してないクリリンが聞き返すと、何の気負いも感じさせずさらりと答えが返ってきた。
そういえば天下一武道会が終わったときに、神様が間違って悟空を異世界に送って、そこからを連れ帰ったとかなんとか言ってたな、と思い出す。



『まぁ、それはひとまず置いといて。……えと、あの………悟空さん、いますか?』



再び緊張したかのように硬くなるの声。
当然、が用のあるのは悟空だとわかってはいたが。
外でのんき(?)に背筋なんかやっちゃっている悟空に、思わず恨めしげな視線を投げかけてしまうクリリン。





ちくしょう、ラブコールってやつじゃねぇか………。





『あ、あれ? もしかして、いなかったりする?』


返事が返ってこないのを不審に思ったのか、が不安げな声で聞いてきて、クリリンはあわてて悟空から視線を外した。


「あ、ああ、いるよ。ちょっと待ってて」


そう言うと、クリリンはその場に受話器を置いて、窓の外に向かって感情の赴くままに大怒鳴りだ。



「悟空! このやろっ!! 電話だ電話っ!!! ちゃんから電話だぞ!!! ちくしょーっ! オレだって…オレだってなぁ!!!」


「なにマジかよっ!? …もしかして、初電話じゃないか? いいねぇ、初々しくて」


悔しがるクリリンに、なぜかにやにやと嬉しそうなヤムチャ。そして。





「もしもし、ちゃんかの? わしじゃ、亀仙人じゃ」

「「武天老師さまっ!!!!!」」

『え? え? あれ??』





悟空が目を丸くしてカメハウスに入ってくるよりも早く、亀仙人が保留になっている電話を素早く取り上げて話し出し、気付いたクリリンとヤムチャが受話器を取り上げようと慌て。

受話器の向こうでは、そんな大騒ぎが始まるカメハウスの様に、ひたすら?マークであろうのうろたえた声が流れてきた。















「なんか……大騒ぎが始まっちゃってるんですけど…」

カプセルコーポレーションでは、が困ったような視線をブルマに送っていた。

普通のデートをさせてあげようと思いつき、思いついたら即実行よ! と。
悟空とデートの約束をさせようと半ば強制的にに電話をさせたのだが。



「まったくしょうもないやつらねぇ…」

ため息交じりのブルマの言葉に苦笑して、いったん切ったほうがいいかなぁ、とが思った矢先。





『もしもし、か?』


相変わらず騒がしい受話器の向こう。
耳に届いた柔らかくて深い、大好きな声――――――10日ぶりに聞く、悟空の声。

なんだろう…? 電話越しに聞く悟空の声が、なんていうか。
すごく優しくて、すごく柔らかくて……妙に、色香を感じてしまっていたり。




かあ!!!
や、ヤバいっ、緊張してきた上に、顔どころか耳まで熱いっ!!!





?』


再度名を呼ぶ悟空の声に、は冷や汗ですべる手で受話器を強く握った。



「は、ははははいっ! え、えと、あのっ。げ、元気、ですかっ!?」



いっぱいいっぱいで、切羽詰っていたとはいえ。
………我ながら、なんてべたっちい挨拶してるんだろう、と、言ってしまってから軽く落ち込んでしまったの耳に、悟空の優しい声が響く。



『はは。あぁ、オラ元気だぞ。は? 元気だったか?』




今までと変わらない、穏やかな気配。
そばにいなくても感じてしまうその暖かさに、自然の顔にも柔らかい笑顔が戻った。




「…うん、元気。―――――――――でもね」





声を聞いたら、やっぱり。





「悟空に、逢いたいな」『に、逢いてぇな』





恥ずかしいとか思う前にするりと飛び出した本音の言葉が重なってしまって、思わず赤面して、それから嬉しくて幸せな気持ちが溢れてくる。





と。





『うわっ! なにすんだよジッちゃん!!! 久しぶりにの声聞けたってのに!!!』
『うるさいわいっ! 受話器を貸せぃ悟空!!! なにノロケてんじゃ!!!』
『まぁまぁ武天老師さま、いいじゃないですか。10日ぶりなんだし』
『そうですよ、師匠なんですからもっと広い心を持ちましょうよ』



そんな喧騒とともに入ってくるなんだかドカンバキンと激しいノイズに、顔をしかめて耳に押し付けていた受話器を少し離すに代わり、ブルマがその受話器を取りあげ。


「ちょっとあんたたち。特にそこのカメじいさん。おふざけはそのへんになさい。ちゃんは孫くんに話があるの。さっさと孫くんに代わらないと……どうなるかしらねぇ」



満面の笑みに、怒気を孕んだブルーの瞳。
そばで見ているはもちろん、その声を聞いただけのカメハウスの皆々様も、身の危険を感じ。


ものも言わずに悟空に受話器を渡し、クリリンとヤムチャは『武天老師さまのせいで怒られちゃったじゃないですか』と小声で悪態をつき、当の亀仙人は『ブルマちゃんは恐ろしいのう』と呟いていたりする。






はい、とにっこり笑ったブルマから受話器を返され、引きつった笑顔でお礼を言いながらそれを握る


『ふぅ。悪ぃな。ジッちゃんに電話取られちゃってさぁ。……で、オラに話って、なんだ?』


相変わらずストレートに聞いてくる悟空の問いに、再び誘発される緊張の波。


どうしよう。どう言えばいい!?
だって今までデートなんかしたことないし、それどころか男の子に電話なんてかけたこともないのだ。
今更ながら、ちょっとだけでも恋愛経験ってやつをしておけばよかったかも、なんて、切羽詰った脳みそをかっ飛ばしてみたりもしたけれど。


となりからの無言の圧力(ブルマの視線)に到底逆らうことなどできるはずもなく。
ドクドクと心臓が耳元で鳴っているんじゃないかと思うほどのひどい動機を感じながらも、はググッと覚悟を決めた。





「あの、あの、ね悟空っ!」
『うん?』
「えと、あの………デート、しませんかっ!?




顔は真っ赤、伝えた言葉は必死も必死。
力いっぱいの問いかけに、は自分で「よく言った! えらいぞわたしっ!」と心の中で自分を褒めた。



『でぇと?』
「う、うん。デート」



悟空から反芻されて、姿なんか見えないのにコクコクと頷くに、思わずブルマは笑ってしまった。

スマートで可愛らしい誘い方ではないけれど、直球でいっぱいいっぱいのその様子が、なんだか微笑ましい。
擦れていないその態度に、ブルマは「よくできました」と思わずの頭を撫でた。のだが。





『なぁ、でぇとってなんだ??』



「――――――――――――――――――――――――――――――………」







あんなに。
あんなに必死に、死ぬほど照れまくって。
迷いに迷って、やっと決心して、決死の覚悟で勇気を振り絞ったのはなんだったのか。



がっくりと肩を落とし、言葉もなく潤んだ目で何かを訴えてくるに、ブルマはどうしたのかと聞けば。





「ブルマさん…悟空、デート、知らないって。『デートってなんだ?』って言われました〜〜〜!!!」

「…………あきれた」


気が抜けて思わず泣きべそになったの涙声の言葉に、ブルマは呆然と呟いたあと、ギラリ、とその綺麗な瞳の色を怒りに染めた。















悟空は焦っていた。
知らない言葉をから言われて、その意味を聞いてみただけなのに、帰ってきたのはしばしの沈黙と、それからうろたえたの涙声。


耳から受話器を離し、クリリン、ヤムチャ、亀仙人に困ったような視線を送り。


「なんかオラ、泣かせちゃったみたいなんだけどさ…。ヘンなこと言ったか?」


本気で困りきっている悟空の様子。
まったく仕方がないやつだとため息をついたと同時に受話器から聞こえてきたのは、ブルマの怒声と、の焦ったような声だった。



『ちょっと孫くん!!! アンタよくもちゃん泣かせたわねっ! あたしこの前言ったわよね、今度ちゃん泣かせたら承知しないって!!!』
『や、ブルマさんっ!!! 悟空は悪くないんですよっ!!! わたしが悟空の知らない言葉でお誘いしたのがいけなかったんです!!! ごめんね悟空〜〜〜!!!』
『人が良すぎるわよちゃん! だいたい、18にもなってデートって言葉を知らないなんてっ!! そもそもそれがおかしいのよっ!!!』
『でもでも! それが悟空さんなんですよ……』




ため息交じりのの最後の言葉に、ブルマをはじめその場の全員が言葉を失った。




まったくだ、と。
なんて説得力のある言葉だろう。






『あのね孫くん、ちゃんに会いたい?』

ひとつ息をついて自分を落ち着かせ、ブルマが受話器越しに悟空に問いかける。

「あたりめぇだろ。 今すぐにだって会いに行きてぇよ」

ほっぽり投げていた受話器を再度耳に当て、決まってるじゃねぇか、と即答する悟空に、ブルマはとりあえず満足した様子で。


『だったら、明日家に迎えにいらっしゃい。一日だけ、ちゃん貸してあげるわよ』

「ほんとか?」


ぱっと顔を綻ばせる悟空に、どうやらマジでとデートするようだと察知して羨む視線を送るクリリンと亀仙人、それからニヤつくヤムチャ。



『それと、そこにヤムチャいるわよね? ちょっと、代わってくれない?』

ブルマの言葉に悟空はヤムチャに視線を走らせ。

「ヤムチャ、ブルマが代われってさ」


顔を向けられたヤムチャは、先ほど浮かべていた笑みを引っ込め、顔を引きつらせた。




長年付き合っている仲だ。
10日も日が経っているにもかかわらず、悟空にデートの意味さえ理解させていなかったことにブルマがいたくご立腹であろうことは簡単に予想ができてしまい。


臨戦状態よりも緊張した面持ちで悟空から受話器を受け取るヤムチャに、先ほど悟空に向けた羨望のまなざしとは打って変わって、同情と哀れみをこめた視線を送る亀仙人とクリリン。


「もしも――――――」
『ヤムチャ!!! あんたねぇーーーー!!!!!』















怒れるブルマに縮み上がるお三方をきょとんとした顔で見た元凶の悟空はといえば。















「明日はに会えるんか〜」





と、ひとりほのぼのと笑っていた………。




















え〜と、、、
単に悟空と電話してみたかっただけです。
ごめんなさいませー!!!(逃走)